2週間が過ぎた。
誕生祝いパーティーの日がやってきた。
ドレス然とした服装をさせられて、パーティー会場のベッドに横たえられた。
「これより、我がパプニカに生まれし姫君の誕生祝いパーティーを始めさせて頂きます。」
始まりの言葉が、大臣らしい壮年の男性の口から発せられた。
パプニカ?パプニカって言った?
ってことは、ここはダイの大冒険の世界なのか?時間軸は?
ダイの大冒険はかなり読み込んでいたので、”パプニカ”のキーワードで思い浮かぶのはそれしかなかった。
まるで二次創作のようだ、と呆れつつ、呪文の一つでも唱えられるようになるのかと、少し期待が交じる。
各国の要人達もパーティーに参加していた。
その中でも特に目をひいたのは、幼稚園児位と思われる2人組の女の子達だった。
「かわいいねー」
「うん、かわいいねー」
「フローラもこんなにちっちゃかったのかなぁ?ねぇ、ソアラちゃん」
「フローラちゃんもちっちゃかったよ〜」
子供たちはきゃあきゃあと話しているが、赤ん坊の頭の中は忙しかった。
ん?フローラ?ソアラ?
!!!!!
その2人がまだこんなに小さいとなると…
これから生きる世界は…平和どころじゃないじゃん!
でも、ダイの大冒険にはアテナなんてキャラクター出てきてないし…死ぬの?それとも行方をくらます?
レオナは生まれるんだよね?
私のこの人生は一体どういう人生にすれば良いんだ?
狼狽えていると、男性の声が聞こえてきた。
「これ、ソアラ、フローラ姫も。あまり大きな声を出すとアテナ姫が泣いてしまうぞ?」
「あっおとうさま〜」
あれがアルキードの王か。…もしかしてまだ王子?考えていても答えは出ないが、子供たちは言い訳を始める。
「だってかわいいんだもの〜」
「ソアラもお世話した〜い」
「お前たちとの話は後でな。私はアテナ姫のお母様と話がしたい」
アルキード王(王子?)がつかつかと母に近づく。
「まぁ、なんて他人行儀な言い方をするのです、お兄様?」
「子供にはお前の名は分かるまい、サラ」
「ああ、そういうことですのね。」
え???お兄様?じゃあ、ソアラ姫と私は従姉妹にあたるのか?
現状を把握すればする程、整理しきれずに混乱した。
考えるのをやめた時、ふと窓から月明かりが見えるのに気が付いた。
「あっ、おつきさま!ちーちゃんを守ってくれてるのかなぁ?」
ふと千夏の言葉を思い出した。
だが同時に、とんでもない事に気付いた。
私は千夏の声をもう覚えていない…
あまりの忘却の早さに呆然とした。
気づくと涙を流していた。その涙は止まる事を知らない。
誰もが会話に夢中で、主役の筈の、産まれたばかりの姫には見向きもしなかった。
月を眺めながら呆然と涙を流していた赤ん坊に気付いたのは、子供たちだった。
「ね〜、赤ちゃん泣いてる〜」
「赤ちゃんて、”おぎゃー”って泣くんじゃないの〜?」
ハッと大人たちは振り返る。
赤ん坊は、ただ涙を流していた。声もたてず。
その不自然さに、誰もが混乱した。
側に控えていた女官が沈黙を破った。
「アテナ姫さまはお疲れでしょうか…サラ姫さまも休まれては」
「そ、そうね、そうさせてもらうわ。」
「私めも側に控えさせて頂きますから」
「ええ、お願いするわ、ダマラ」
困惑しながら、母は娘を抱きかかえた。
「アテナ、おっぱい?おむつ?」
母は常に話しかけながら部屋に下がったが、私は1時間以上涙を流し続けた。
心の中で、何かに救いを求める以外、なす術は無かった。
繰り返し、繰り返し唱えた。
”主よ、あわれみ給え”
そうしていつしか、深い眠りに落ちた…