転生!アテナの大冒険   作:塚原玖美

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【3】満月の夜のパーティー

2週間が過ぎた。

誕生祝いパーティーの日がやってきた。

 

ドレス然とした服装をさせられて、パーティー会場のベッドに横たえられた。

 

「これより、我がパプニカに生まれし姫君の誕生祝いパーティーを始めさせて頂きます。」

 

始まりの言葉が、大臣らしい壮年の男性の口から発せられた。

 

パプニカ?パプニカって言った?

ってことは、ここはダイの大冒険の世界なのか?時間軸は?

ダイの大冒険はかなり読み込んでいたので、”パプニカ”のキーワードで思い浮かぶのはそれしかなかった。

まるで二次創作のようだ、と呆れつつ、呪文の一つでも唱えられるようになるのかと、少し期待が交じる。

 

各国の要人達もパーティーに参加していた。

その中でも特に目をひいたのは、幼稚園児位と思われる2人組の女の子達だった。

 

「かわいいねー」

「うん、かわいいねー」

 

「フローラもこんなにちっちゃかったのかなぁ?ねぇ、ソアラちゃん」

「フローラちゃんもちっちゃかったよ〜」

 

子供たちはきゃあきゃあと話しているが、赤ん坊の頭の中は忙しかった。

 

ん?フローラ?ソアラ?

!!!!!

その2人がまだこんなに小さいとなると…

これから生きる世界は…平和どころじゃないじゃん!

でも、ダイの大冒険にはアテナなんてキャラクター出てきてないし…死ぬの?それとも行方をくらます?

レオナは生まれるんだよね?

私のこの人生は一体どういう人生にすれば良いんだ?

 

狼狽えていると、男性の声が聞こえてきた。

 

「これ、ソアラ、フローラ姫も。あまり大きな声を出すとアテナ姫が泣いてしまうぞ?」

「あっおとうさま〜」

 

あれがアルキードの王か。…もしかしてまだ王子?考えていても答えは出ないが、子供たちは言い訳を始める。

 

「だってかわいいんだもの〜」

「ソアラもお世話した〜い」

「お前たちとの話は後でな。私はアテナ姫のお母様と話がしたい」

 

アルキード王(王子?)がつかつかと母に近づく。

 

「まぁ、なんて他人行儀な言い方をするのです、お兄様?」

「子供にはお前の名は分かるまい、サラ」

「ああ、そういうことですのね。」

 

え???お兄様?じゃあ、ソアラ姫と私は従姉妹にあたるのか?

現状を把握すればする程、整理しきれずに混乱した。

 

考えるのをやめた時、ふと窓から月明かりが見えるのに気が付いた。

 

「あっ、おつきさま!ちーちゃんを守ってくれてるのかなぁ?」

 

ふと千夏の言葉を思い出した。

だが同時に、とんでもない事に気付いた。

 

私は千夏の声をもう覚えていない…

 

あまりの忘却の早さに呆然とした。

気づくと涙を流していた。その涙は止まる事を知らない。

 

誰もが会話に夢中で、主役の筈の、産まれたばかりの姫には見向きもしなかった。

月を眺めながら呆然と涙を流していた赤ん坊に気付いたのは、子供たちだった。

 

「ね〜、赤ちゃん泣いてる〜」

「赤ちゃんて、”おぎゃー”って泣くんじゃないの〜?」

 

ハッと大人たちは振り返る。

 

赤ん坊は、ただ涙を流していた。声もたてず。

その不自然さに、誰もが混乱した。

 

側に控えていた女官が沈黙を破った。

 

「アテナ姫さまはお疲れでしょうか…サラ姫さまも休まれては」

「そ、そうね、そうさせてもらうわ。」

「私めも側に控えさせて頂きますから」

「ええ、お願いするわ、ダマラ」

 

困惑しながら、母は娘を抱きかかえた。

 

「アテナ、おっぱい?おむつ?」

 

母は常に話しかけながら部屋に下がったが、私は1時間以上涙を流し続けた。

心の中で、何かに救いを求める以外、なす術は無かった。

 

繰り返し、繰り返し唱えた。

”主よ、あわれみ給え”

 

そうしていつしか、深い眠りに落ちた…

 


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