転生!アテナの大冒険   作:塚原玖美

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【23】平和な一時に上がる産声

マトリフの洞窟を去ったアテナは、ネイル村に向かっていた。

パプニカの城下町で土産物を色々買った後、まずはルーラでロモスまで飛んだ。

魔の森の道はわからないので、トベルーラで南へ向かった。

 

森のすぐ側に村が1つあったので、降り立ってみた。

すると、十代半ばかと思われる、1人の少年に声をかけられた。

 

「なんだお前ら、空なんて飛んで来やがって。…一応人間みたいだな」

 

少年は少々怯えているようだった。

 

「…レイラという人を探しているのだけど」

 

アテナがそう言うと、少年は驚いたように言った。

 

「まさか、殺しに来たんじゃないだろうな?」

「女2人しか居ないのに、そんなわけないでしょ!お子さんが生まれると聞いているから、お祝いを持ってきたの!」

「証拠あるのかよ!?」

 

少年とアテナの声は、小さな村に響き渡っていた。

ロカがすっ飛んできた。

 

「アテナ!アテナじゃないか!」

「ロカ!お土産持ってきたよ!」

「そうか、どれどれ…なんだ、赤ん坊の服まで入ってるじゃねえか、ありがてぇ」

 

盛り上がるロカとアテナを見て、少年が声を荒げてロカに問う。

 

「戦士さま、知り合いかよ?」

「まあな」

 

ロカはニカッと笑って答える。

 

「アテナ、女官連れてどうしたよ?まあ良いや、レイラにも会っていくだろう?」

「もちろん!」

「こっちだ。荷物、持つよ」

「ありがとう」

 

案内された先には、真新しい家があった。

 

「レイラ、アテナが来てくれたぜ」

「アテナ?まぁまぁ、いらっしゃい。今回はお供の方もご一緒ね。よく来てくれたわね。ゆっくりしていってちょうだいな」

 

随分お腹の大きくなったレイラが、笑顔で出迎えてくれた。

 

「おなか、大きくなったねぇ」

「そうなのよ。けっこうよく動くわよ。触ってみる?」

「いいの?触ってみたい!」

 

お言葉に甘えて触ってみる。

うにっ、ポコッと動くのがわかる。

 

「赤ちゃんも元気そうだね!」

 

ロカもレイラも、そしてお腹の赤ん坊も元気そうなのをみて、アテナは一安心する。

ダイニングに案内され、お茶とお菓子を振る舞われる。

 

「そうそうレイラ、アテナが土産を持ってきてくれたぜ」

「お土産?アテナ、ありがとう。開けてみて良い?」

 

アテナが頷くと、レイラは土産を見て大喜びしていた。

 

「あら、音が鳴るおもちゃに、服まで!それに、日持ちしそうな食べ物も入ってるわ!」

「しばらく困らないぜ。どうやって調達したんだよ?」

「ああ、ある程度の資金は父から貰ってるから…」

 

ロカとレイラは顔を見合わせる。

 

「それ、パプニカ王家の資金じゃねえか!使っちまって大丈夫なのかよ?」

「そうよ、私たちへの差し入れなんかに使っちゃって大丈夫?」

 

夫婦揃って慌てふためいている様子は滑稽である。(失礼)

 

「大丈夫、その資金は私の生活費から工面してるから。資金は持たせるから、ちょっと外遊して来いって、父のお達しなの」

 

マトリフに話したのと同じ説明をここでもした。

レイラは驚いたような顔をしつつも、良ければしばらくここにいても良いとまで言ってくれた。

お言葉に甘えて、しばらく身を寄せる事にした。

 

その代わり、薪割りから料理、掃除まで、出来ることは何でも手伝った。

進んで手伝うアテナを放って置くわけにも行かないダマラも、家の中の事を中心に手伝った。

そうして2ヶ月程経ったある日の午後、レイラが突然座り込んだ。

 

「お腹…痛い」

「なに?」

「午前中から、時々痛いような気はしてたんだけど…もう痛くて立てないわ」

「なっ!?なんで早く言わねぇんだよ!?っ…シスター呼んでくる!」

 

ロカが慌ててシスターを呼びに行く。

アテナはレイラをベッドに寝かせる。ダマラは大きな鍋でお湯を沸かし始める。

 

「レイラ、大丈夫、ロカがシスター呼んで、すぐ帰ってくるから!」

 

冷たいタオルでレイラの額を拭っていると、ロカがシスターを連れて駆け込んできた。

 

「シスター、妻を、おねがいします!」

「わかりました。男性は部屋から出ていて下さい。ダマラさん、でしたわね、お湯を沸かしていただけますか?」

「そろそろ沸きますよ」

「ありがとうございます。では、アテナさんは、こちらに来て、レイラさんの腰をマッサージしてあげて下さい」

「わかりました」

 

出産の準備は急ピッチで進む。

 

そして、その夜…

 

「ふぎゃー」

 

元気な女の子が産まれた。

アテナはそっと抱き、ダマラに手伝われながら、産湯につけて服を着せる。

その間に、レイラとシスターは後産を進める。

 

落ち着いた頃、ロカが部屋に入って来た。

 

「あなた…女の子よ…」

「かわいいなぁ」

 

親子3人のふれあいの時間をたっぷり設けた後、アテナは声をかけた。

 

「食事、出来ているから、持ってくるね。食べて、ゆっくり休んでね。」

「アテナ、本当にありがとな」

「アテナたちも一緒に食べましょうよ」

「え〜?水入らずなのに悪いじゃん。今日はシスターの所に泊まるから。朝になったら来るから、洗い物は台所に置いておいてね」

 

そう言って、アテナは食事を持ってくると、あっという間に支度をして、ダマラを連れて出て行った。

 

「ありがとう、アテナ…」

 

シスターの家に行くと、シスターが迎えてくれた。

 

「あら、いらっしゃい。今日はお疲れさま。助かりましたよ」

「食事は取ってきました。今夜はそちらに泊めて頂けませんか?親子水入らずの所に居座るのも申し訳ないので…」

「どうぞ」

 

シスターは、清潔なベッドを用意してくれた。

しばらく同じベッドで眠っていたので、久しぶりの違うベッドは何となく落ち着かなかったが、それでも赤ん坊が無事に生まれた事の喜びで、心はあたたかかった。

 

翌日は村中がお祭り騒ぎだった。

生まれた女の子は”マァム”と名付けられた。

村の女達が代わる代わるマァムの世話をし、料理を運び、男たちは酒を飲んで盛り上がった。

 

「目元が僧侶さまそっくりだ」

「こりゃあ美人に育つわい」

 

お祭り騒ぎを嗅ぎつけたらしく、ブロキーナまで酒を飲みにやって来ていた。

 

「マァムとは良い名前じゃの」

「ブロキーナ!」

「老師さま!」

 

ブロキーナ老師の登場で、その場はさらに盛り上がった。

調子に乗ってアテナがマトリフを連れてきたことで、特に男たちと年寄りが大盛り上がりを見せた。

 

料理が無くなった頃、盛り上がっていた男たちはすっかり酔いつぶれていて、引きずられるように各々の家へ帰っていった。

 

祝宴が終わると、マトリフはさっさと帰って行ったが、ブロキーナはマァムをかわいがってしばらく居座ったので、アテナは暇を見つけては半ば強引に 稽古をつけてもらった。

 

レイラの出産から2か月経った頃、アテナは再び旅立つ事に決めた。

産後の肥立ちも良く、床上げの時期を過ぎ、ブロキーナによる特訓も成果を得たので、そろそろ大丈夫だと判断した。

 

ロカとレイラからは嫌と言うほどお礼を述べられ、村中の人々からは作物を無理矢理たんまり持たされた。

 

その足でパプニカ城に帰る事にした。


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