モンスターの襲撃に遭ったのは、その日の夕方。
アバンが第一声を発する。
「魔王は居ないようですね。アテナの特訓に利用させてもらいましょう。
アテナは剣だけで戦って下さい。まずはゴーレムを、続いてガーゴイルを攻めて下さい。
残りの余計なモンスター達は、ロカ、レイラ、マトリフの3人で片付けて下さい。」
「「「了解」」」
まずはゴーレムに向かっていくが、ゴーレムの体は固くてなかなか切れない。
「余計な力を抜いて、難しい技を使おうとしない事。」
アバンのアドバイスを元に、じっくりとやりあう。
ひたすら攻撃し尽くした所で面倒くさくなり(これは前世からの考え方のクセ)、力任せに剣を振り下ろした。
「ウオオオオ!!」
ゴーレムが倒れた。
「飲み込みが早いですねぇ。見事です」
そう言ってアバンが回復呪文をかけてくれた。
「さて、次はガーゴイル…と言いたいところですが、3人が倒してしまったようですね」
「結構余裕あったからなぁ」
ロカが会話に割って入る。
「力の技、これを大地斬と名付けたのですが、コツは掴めたようですね。今日はもう遅いので、続きは明日にしましょう。明日は海に行きますよ」
そう言ってアバンはサッサと街の方へ向かっていく。
4人が慌ててついて行く。
「アバンは存外せっかちだよなぁ」
マトリフがぼやく。
翌朝は本当に海に来た。
「さて、今度は、この波を斬ってもらいます」
(海波斬か…)
兵士に混じっての特訓で、スピードには自信があった。
「ハッ」
一瞬で波を切り裂いた。
「スピードはロカとの試合でも充分でしたからね。海波斬はすぐに出来ると思っていました」
アバンも何でもない事のように言ってのける。
だが、細かい説明は忘れない。
「この海波斬を使えば、炎のブレスなども斬る事が出来ますよ」
しかし、アバンの笑顔はすぐに消えた。
「私の必殺技の完成には何が足りないんでしょうか…」
そう言って、大きなため息をつく。
「力とスピード…後はなんだろうなぁ?」
ロカもため息をつく。
「答えが出ると良いのですがね。さて、山の方に行って訓練の仕上げをしましょうか?」
アバンの提案に3人が頷く。
滝のある岩場にやって来た5人。
「こっちは魔法力の訓練を勝手にやってるぜ」
マトリフはそう言ってレイラを連れて行ってしまった。
岩場の岩をひたすら斬る訓練、滝の流れをひたすら斬る訓練、アバンとロカと3人でひたすら続けた結果、3人揃ってクタクタになった。
一休みしているとモンスターの軍団に襲われた。
モンスターの群れの向こうにはマントを被った魔族が1人。
「魔王!!」
アバンの叫びとともに身構える。
アバンとアテナの魔法力は残っているが、体力は大分消耗している。
待ったなしで襲い掛かってくるモンスターたちを相手にしながらでは回復まで手が回らず、苦戦していた。
そこへ、1人の武闘家が乱入して来た。
軽々とモンスターを倒していく。
マトリフとレイラが異変に気付いて戻ってきた頃には、おおかたのモンスターは倒されていた。
「フフフ、手の内は出揃ったようだな。明後日の夜、カールの西のマリスの森の窪地で待っているぞ。」
そう言って”魔王”ハドラーは去って行った。
さっそうと現れた武闘家に、アバンが声を掛けようとすると、すかさずマトリフが声をあげる。
「よお、大将じゃねーか」
「お知り合いですか?」
「ああ、こいつ、ロモスで有名な武闘家のブロキーナだよ。街で噂にも聞いただろ?」
「ええっ?この爺さん…いや、この人が有名なブロキーナ老師かよ?」
「そういうこった。若けぇ頃、時々一緒に暴れまわってたのさ」
「今はすっかり年寄りじゃよ、ふくらはぎチクチク病に冒されておってな、ゴホゴホッ」
(やっぱり咳をするのか…)
アバンの必死の説得に、武闘家の”老師”ブロキーナは渋々と言った様子を見せながらも、仲間になると約束してくれた。
ブロキーナは世界でも有数の有名な武闘家で、年老いている割には体力は衰えていないようであった。
仲間が6人になり、大パーティーになったところでいよいよ総力戦…かと思ったところで、アバンが提案した作戦は”凍れる時間の秘法”による”封印”であった。