とある村に腰を落ち着けてから、3日に1度はモンスターの群衆と戦っていた。
実際に命をかけて戦う生活を続けているうちに、剣の腕も魔法力も、急激に上がっていった。
大抵は、配置されている兵達も共に戦っていたが、それでも毎回苦戦を強いられていた。
とても良く晴れた日の昼過ぎの事。その日も、村をモンスターが襲った。
空から現れたモンスターの軍勢に、人々は逃げ惑った。
この日に限って、兵士は、誰1人駆け付けなかった。
(呼びに行っていたら間に合わない…!)
アテナはとにかく村人を避難させ、追ってくるモンスターたちの進路を塞いだ。
「とう!」
「ベギラマ!」
建物を崩さないように気を付けながら剣を振るい、呪文を放つが、なかなか追い払う事が出来ない。
人々を逃がし、彼らを追いかけるようにしながら戦い続けた。
リーダー格らしきモンスターを倒した時、民衆たちに襲いかかっていたモンスターたちは散り散りに去って行った。皆が腰を落ち着けたところに、青い髪の少年と黒髪の若い女性が歩いてきた。
「落ち着いているようですね」
「ええ、大きな怪我をした人はいないようですが…」
と言って立ち止まった2人の目が、こちらを見る。
「あなた!大丈夫ですか!?」
(え?私?)
アテナは、夢中になって戦っていて、自分が傷だらけになっていた事に気付いていなかった。
「ベホマ」
駆け寄ってきた若い女性が回復呪文をかけてくれた。
「ありがとう、大丈夫です」
と言うと、回りを観察していた少年が声をかけてきた。
「武器を持っている人を他に見かけませんが…まさか、あなた1人でモンスターを追い払ったのですか?」
「え?武器を持っている人がいない?」
じっとこちらを見る2人に、ため息とともに答える。
「戦える人たちは皆、兵として取り立てられているので、女子供ばかりなんですよ。その兵たちは、この町にも駐在しているんですけど、なんでか助けに来なかったので仕方なく…」
というと、少年は呆れた様に呟く。
「確かに他に戦えそうな人はいませんけど…」
そこへ、豪快そうな青年と偏屈そうな老人がやって来た。
「おーい、アバン、レイラ、いたいた」
「ロカ、マトリフ、兵隊さんたちの詰め所の様子はどうでしたか?」
「どうもこうもねえよ、みんな呪文で眠らされてやんの」
「俺たちが叩き起こしてやったから、後は何とかなるだろうさ」
「そうですか、こちらは大した怪我人はいませんでした、彼女以外」
4人がこちらを見つめる。
「え、おまえ、家族は?」
と豪快そうな青年が問う。
「…」
返事が出来ないでいると、青い髪の少年が困惑した顔で問う。
「まさか、あなた、1人ですか?」
黙っていると、少年はハッと気付いたように話し始めた
「あ、あなたの事ばかり質問するなんて、し、失礼でしたね。私の名前はアバン。各地のモンスターと闘いながら旅をしています。こちらがレイラ、あちらがロカとマトリフです」
「あ、私はアテナです」
名前を紹介されたので、アテナも名前を答える。
「アテナ、ですか。お姫様と同じ名前ですね。この国にはアテナさんが大勢いるようですね。いま見て回ってきた中でも、何人かいましたよ」
「そうですね、アテナは大勢います。私もその1人です」
みなし子(?)に話しかけてしまった4人は困った顔をするが、ロカがふと気付く。
「おまえ、剣なんて使えるのか?」
「そうそう、武器を持っていたのも、大きな傷を負っていたのも、彼女だけなんです」
「そうか」
ロカは一息ため息をつくと、アテナの顔をまじまじと見ながら言った。
「おまえ、どこかで会わなかったか?」
「え?」
「どこだっけな〜、どこかで見た顔なんだが…思い出せない…」
ロカはアテナを睨むように見つめていたが、やはり思い出せなかったのか、諦めたようだった。
しかし、次の瞬間には何かひらめいたようで、名案とばかりに言った。
「おまえ、稽古つけてやろうか?」
皆、え…という顔でロカを見やるが、ロカは気に入ったらしい。
「こいつ、連れて行ったら役にたつんじゃねえか?」
「はあ?こんな小さな女の子を、魔王との戦いに連れて行こうって言うの?信じられない」
レイラが呆れた様につっこむ。
「でも、このままここに置いて行ったら、こいつ死ぬんじゃないか?1人で戦ってたんだろう?」
ロカの言葉に、レイラは一瞬戸惑うも、確かに1人では分が悪い・・・と考えていると
「確かに、置いて行って死なれちゃ夢見が悪いよなぁ。魔法も使えそうだし、連れて行ってみるか。俺もしごいてやるよ」
マトリフもノリ気の様子を見せる。
「マトリフまで!」
悲鳴に近い、レイラの叫びがあがる。
そして、大きなため息をついて、アバンが言う。
「2人とも、彼女の事が気に入ってしまったみたいですね」
こちらへ向き直って問う。
「アテナ、どうしますか?私たちについて来たら、魔王と戦う羽目になりそうなんですが…」
”魔王と戦う”
昔なら、ただ面白そうだと思っただろう。
だが、魔王が現れて実際に戦うと、旅の面白さだけでは語れない痛みを感じる。
ひいおばあさまも、先生も、モンスターに殺された。
どこかに尻込みする気持ちもあったが、それでも戦わなければ城から抜け出してきた意味がない。
敵を取るために、城を抜け出してきたのだから。
「わかりました。連れて行って下さい」
こうして、勇者アバンの元に集った仲間たちと戦う事になった。