城の訓練場では、毎日朝早くから兵士達が訓練を行っている。
走りこみ、剣の素振り、木刀を持っての練習試合…
外遊び出来ない間、見学だけという条件で父が良く連れて行ってくれていた。
外遊びが解禁になってからは、自ら足を運び、剣や木刀は重いので木の枝を使って勝手に真似ていた。
「誰に似たのか、こんなにおてんばになって。」
そう言って、父はニカッと笑った。
そして、ナイフ程度の小さい木刀を、わざわざ用意してきた時は、祖母に呆れられていた。
「まったく、女の子に木刀なんて…」
「大人しくしているのは性に合わんのでしょう、木刀じゃ切れないから大丈夫ですよ」
父は反省する気配はないらしい。
まったく、この豪快な父にはいつも驚かされる。まさかわざわざ木刀を用意してくれるとは…
もっとも、父も子供のうちから木刀を何本も折ったと、武勇伝のように語っていたので、この親にしてこの子あり、と言ったところか。
兵士たちに混じって素振りをしていたら、見ていられなかったらしい少々神経質な兵士が、素振りの指導をしてくれた。
3ヶ月程でほとんどの訓練についていけるようになっていた。
父が新たに用意してくれた、少し長くなった木刀を振っていた。
すると、父がとんでもない事を言い出した。
「アテナ、父さんが稽古つけてやろうか?」
ええええええーーーーーーー???
と、兵士たちがざわつく。
それもそうだ、姫君に剣術の稽古をつけるなど、聞いた事がない者達ばかりだった。
しかもまだ6歳の姫君である。
またたく間に、好奇の眼差しに囲まれた。
「まあ、初めてだしな、手加減してやるから。どうだ?」
父は本気のようだ。
「わかりました、よろしくお願いします」
そう言ってアテナは木刀を構えた。
「やーっ!」
打ち込むが木刀で払われる。
打ち込んでも打ち込んでも払われる。
向こうのほうが木刀も長いのでなかなか懐に入り込めない。
打っては弾かれ、打っては弾かれる。
もちろん、6歳の女の子が力で父親に勝てるはずがない。
結局、一度も隙を突く攻撃は出来なかった。
それでも父は、娘が剣を振る姿を気に入ったらしい。
それから毎日のように稽古をつけてくれるようになった。
1ヶ月後には、新米の兵士と練習試合をさせられるようになった。
新米といっても15〜20歳の青年を相手に、6歳の少女が敵うはずがない、と兵士達は思っていたようだが、アテナを相手に勝てる者はほとんどいなかった。
それからは、毎日誰かしらに頼まれて練習試合をした。
まるで道場破りのようであり、勝ったものは喜びを顕にし、負けたものは大いに悔しがった。
そんな練習試合も訓練になり、アテナは更に強くなり、兵士たちの士気も上がっていた。
そのうち、誰かが
「アテナ姫さまを寄せ付けないロイ王子はかなり強いのでは…」
と言ったのを皮切りに、父にも次々と兵士が挑んだ。
結果、父に勝ったのはバダックだけだった。
誰かがバダックを”パプニカ一の剣豪”と言ったのを耳にした。
そして、誰かが”まぐれだろ”と言ったのも耳にした。
訓練の様子を観察していた父は、言った。
「呪文のトレーニングもそろそろ本格的にやってもらうか。もう大丈夫だろう」
アテナはウンウンと頷きたかったが、一晩で契約しまくった無謀を告白せねばならないと気づいてバツの悪い顔になる。
だが、こっそりトレーニングしていた事はすっかりバレていたらしい。
もっとも、ある程度の能力のある賢者が指導してくれていたのだから、魔法力が上がっている事に気付かないわけがなかった。
こってり叱られたが、その後はトレーニングに熱が入っていった。