白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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アイリス救出大作戦 その1

「アイリスが帰ってきてない?」

「そうなのよ山菜取りに行ったきり……帰ってこなくてね」

 

 ヘレナからそのような返答が返ってきてアキトは思わず眉を顰める。

 アキトはアイリスが道に迷ったのかということを一瞬考えたがすぐにその考えを捨てた。

 アイリスは自分と2度と見知らぬ所には足を踏み入れない、という約束をした。だから、迷うなんてことはないのだ。

 だとしたらもう一つの選択肢───アキトは自然と体が動いていた。

 

「どこ行くの」

 

 ヘレナがアキトの手を掴み止める。

 

「……」

「アキト。貴方が行ったところでアイリスが見つかる可能性なんてないでしょ」

「……」

 

 最悪の選択肢がアキトの頭の中をグルグルと回る。

 

「離せ」

「無理よ」

「離せって言ってるだろ」

「駄目」

「…………」

 

 アキトはゆっくりと息を吸い込むと完全に意識を殺す方向へと切り替える。

 

「……同じことは二度も言わない。離せ」

 

 アキトから発せられる濃密な殺気。

 その殺気によって酒場に来ていた客たちは次々と倒れていった。

 ヘレナとカイル以外は。

 

「どうしてそこまで熱心になるの」

「アイリスが危ないかもしれないんだ」

「だからといって彼女が危ないとは限らないわ。1%でも無事だとしたらそれを信じてみるのも手よ」

「じゃあその1%ですら無事じゃなかった場合はどうしろって言うんだよ」

 

 アキトはステーキナイフをヘレナに向ける。

 

「……ここで止まっているくらいなら、俺は言葉より先に行動する」

 

 アキトはそう言ってヘレナの前に代金を払うと『憩いの場』から立ち去った。

 

「……なあ、あんた」

 

 と、そこでカイルがヘレナに話しかけた。

 

「……アレはあんたが本心で言った言葉か?」

 

 ヘレナは沈黙していた。

 ヘレナは無言で棚から何かをカイルに渡した。

 

「……これは?」

「明日のパイよ。アイリスと2人で食べなさい……って伝えてきてくれるかしら?」

「ああ、わかったぜ」

 

 カイルはそう言うとアキトの後を追いかけた。

 

 

 アキトはバロンの鍛冶屋へと向かっていた。預けていたものを一時的に返してもらうためである。

 

「バロン」

「今日は店終いだ、帰れ帰れ」

「アンタに許可をとりに来た」

 

 バロンはアキトを追い払おうとしたが、その言葉を聞いて、追い払おうのをやめる。

 

「……詳しく聞こう」

「アイリスがいただろ」

「ああ」

「アイリスが攫われた可能性がある」

「それなら黒の剣でも変わらないはずだ」

 

 バロンはそう言ってアキトに黒の剣を渡そうとする。

 だが、アキトはそれを受け取らない。

 

「頼む。万が一ということもあるんだ」

「だから黒の剣で行けと───」

「最近モンスターの進化が異常に早いのは知ってるはずだ」

 

 アキトのその言葉を聞いて、バロンは大きな溜息を付いた。

 確かに、ここ最近ここら一帯のモンスターの凶暴化が激しくなり、進化も進んでいる。本来ならば、現れるはずのないモンスターも現れ始めているのだ。

 

「……止めても無駄なようだな」

「ああ」

「……勝手にしろ。どうせこの島でお前の剣を鍛えれるのは俺だけだ」

 

 アキトはその言葉を聞くと、黒の剣を手に取り、鍛冶屋を飛び出した。

 

「なあ、アキト」

 

───と、そこでカイルに呼び止められる。アキトは足を止めてカイルの方へと振り返った。

 

「なんだ」

「『許可』とは何のことだ?」

 

カイルの言葉にどうはぐらかそうか迷ったが、諦めてすぐに答えた。

 

「俺のこの剣はソウルを込めることによってその形を変化させることができる」

「───なっ」

 

カイルが目を丸くする。それもそのはず、その技術は文献だけにしか記されていない数万年前の技術だからだ。

 

「おまえ、その剣をどこで───」

「さあな。だが、俺は上手くソウルを扱えないんだ。一度それでこの島の生態系を狂わしたことがある」

 

アキトが自らの中に眠るソウルをうまく扱えていたのなら話は変わっていただろう。しかし、アキトは蛇口を軽く捻ったくらいでしか自分の力を引き出すことができない。

結果として起きてしまうのが力の暴走。敵を捕捉し、大地を駆け抜け、獣のような雄叫びをあげる『逸脱した狂戦士(ヘレスティック・バーサーカー)』。

 

「だからバロンのおっさんに力を使うなと言われていた」

「───だが、今回はそれを使う。そうだな?」

「悠長に構えている場合でもないだろ?」

 

アキトは「行くぞ」と一言つぶやくとカイルと共に森の中へと向かった。


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