誠にもうしわけありません。
森の入り口前までやってきたアイリスはその不気味な雰囲気に思わず肩を震わせる。
反して、アイリスの真横に立つアキトは黒の剣を担ぎながら、森を睨みつけていた。
まるで、自分の実力が何処まで通用するのか、確かめたいと言わんばかりに。
「アイリス」
ふと呼びかけれて、アイリスは面持ちを上げた。アキトはこちらを一切見ず、ただ森の方を見つめていたが、その声には何処か申し訳なさが感じられた。
「俺は問題ないが、アイリス、お前は植物系統のモンスターにトラウマがあるだろう。エルフの女にはアイリスが村に戻った場合、別のクエストを受けれるよう頼んである」
「え?」
「無理についてこなくても大丈夫だ」
恐らく、頼んだのではなく脅したのだとは思うが、どうやらアキトは一人でこの森に挑むつもりらしい。
アイリスはなんだ、そんなことかと小さく笑うと、アキトの横に立つようにして、剣を手にした。
「大丈夫、あなたと一緒なら、きっとどこまでもいけると思うから」
「……」
微笑を浮かべながらそう言うアイリスに、アキトは一瞬、呆気に取られたような表情を浮かべた。年相応の、どこにでもいる少年のような表情。咳払いをしたからいつものポーカーフェイスに戻った。
「なら俺の足を引っ張るなよ。最短で、最速で終わらせる」
「ええ、任せて」
「───ところで、あの時の力は、まだ使えるのか?」
あの時の力?と言われて思い出す。
アストラ島にいた時の湧き上がるようなあの力のことだろう。
しかし悲しいかな、今のアイリスにはその力の一端すらもないに等しい。
魔力量こそ魔術師であるため多いが、あの力を使うことは叶わなかった。始祖のルーンを集めていくうちに、もしかしたら使えるようになるのかもしれないが、今は体内にある魔力を用いた光の斬撃を繰り出すくらいしかできないだろう*1。
「今の私に、あの時と同じ力が使えるかと言われると……難しいと思う。だけど、再現なら可能かもしれない」
「再現?」
「ええ、一縷の可能性にかけてしまうことにはなるけれど」
「……」
その言葉にアキトはため息を吐いてから軽くアイリスの頭を小突いた。
「あ、あう?!わ、私またなんか変なことやりましたか!?」
「普段やってないことを土壇場で出来るようになるわけないだろ。常識的に考えて」
「む、そういうアキトはあの時の力を引き出せるの?」
そう言うアイリスにアキトは顎に手を当てながら言った。
「今は無理だな」
「今はって、まるで条件が揃えば使えるみたいな言い方ね」
「事実、条件さえ揃えば使える。時間付きだがな」
アキトの言葉に思わず目を剥くアイリス。時間付きではあるが、あの時のような鬼神の如き強さを引き出せる。彼はそう言っているのだ。
前世のことを思い出し、ゲームバランスが崩壊しないかと危惧するが、そこは安心していいだろう。
なにせ、この世界はやたらとハードモードなのだ。これくらいのパワーバランスの崩壊はあってないようなものだろう。
「時間が惜しい。早く行くぞ」
そんなアイリスを冷めた目で見つめながらアキトは黒の剣を担ぐようにして持ち、森の入口へと足を踏み入れる。
「あ、待ってよ。アキト」
その後ろを、アイリスは着いて歩くのであった。