白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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見知らぬ島での行動 part01

 幸いなことに致命傷となる傷はなかったため、簡単な回復魔法でエレサールの体の治療を行うことが出来た。その際に、自分たちが別の島からやってきたこと、アキトは口は悪いが───今のところそう人間にしか見えないが───悪人では無いことを伝えた。

 治療が終わると、エレサールはゆっくりと立ち上がり、木陰で微睡むアキトの方へと近づいた。

 

「……すまない。本当に人違いだったとは」

「誰にだって間違いはあるさ」

 

 言いながら立ち上がろうとした時に、アキトの頭上に何かが降ってきた。

 白い毛並み、青いリボン。そして、宝石のような輝きを放つ青い瞳。キャトラだった。

 

「いやー、ほんと、危なかったわね!にしてもここはエルフの島だったとは!!」

「……私から言わせれば、人の言葉を操る君の方が珍しく見えるけれど」

 

 エレサールが頬をかきながら人語を操るキャトラを見下ろす。

 言われてみれば、人の言葉を理解し、尚且つ人語を操る猫の方が珍しく見えてしまうのは仕方の無いことだろう。

 実は、白の王は白猫に変化して隠密行動をすることが出来るのだが───アイリスにその知識がないため、あくまで余談である。

 そのまま地面に着地し、そそくさとアイリスの背後へ回るキャトラ。常日頃からまともな扱いをされないために行ったせめてもの反抗だったのだろう。キャトラはアイリスの背後に回れば攻撃されないと考え、アキトからの反撃を防いだ。

 

「もう、キャトラったら!すみません……」

 

 その時だった。アイリスの真横を一瞬の風が駆け抜けた。

 幸いなことにミニスカートではなかったため、下着が見えることは無かったが、普段隠れている健康的な脚が外気に晒された。

 突然のことに目を白黒とさせるも、エレサールは何か気まずそうな表情でそっぽを向いていた。

 

「……あう」

 

 下着が見えなかったことの安堵と、滅多に見せることの無い生脚を見られた羞恥心から複雑な感情を抱く。これでもし完全に捲れ上がったとしたら───考えたくはない。

 顔を赤くしながら何かが駆け抜けて行った方を振り向くと、前脚を捕まれた状態でアキトに睨めつけられるキャトラの姿があった。

 アイリスは小さくため息を吐きながらこの事態をどう収めるか思考を回転させるのであった。

 

 

 エレサールに連れられ、建物中に入ると、金髪のエルフの女性が書類整理をしていた。

 扉の開く音で気がついたのだろう、微笑を浮かべてエレサールの方を見やる。

 

「お帰りなさい、エレサール。すごい顔で出ていったから何事かと思ったわ。危険指定生物でもいた?」

「それよりももっと危険なのがいたよ」

「あら、それは見てみたいわね」

 

 そこでようやくアイリスたちの存在に気づいたのだろう、エルフの女性は視線を移動してから首を傾げた。

 

「あら、珍しいわね。ウチのギルド支部へ冒険家さんだなんて」

「……ギルド支部?」

 

 先程の戦闘以降、ずっと押し黙っていたアキトが小さく呟いた。

 

「え、ギルド支部を知らないなんて───まさか、野良の冒険家、じゃないわよね。あなたたち、どうしてこんな田舎の島に?」

「あ、えっと私たちは───」

 

 原作通りなら、ここで大いなるルーンを探し、この島にたどり着いたことを説明していた。しかし、もう既に原作とは乖離してしまっているこの状態で、このことを伝えていいのだろうか。そう考えていると、アキトはアイリスの前に立ち、そして答えた。

 

「大いなるルーンを探しに。そうしたらこの島に辿り着いた。ただそれだけだ」

「ははっ、また大きな獲物を狙いましたね。冒険家ギルドの存在も知らずに大いなるルーンとは」

 

 エレサールの言葉にアキトが黒の剣の柄に手を伸ばすも、それより先にエルフの女性が抑えた。

 

「こーら、言い過ぎよエレサール。あなたたち、ごめんなさいね。私の名前はラーレッタ」

 

 エルフの女性改め、ラーレッタは何も知らないアキトのために懇切丁寧に説明した。

 

「冒険家ギルドというのは、その名の通り冒険家を支援するために作られた協会なの。よほど小さな島でない限り、世界各地に支部があって正式なライセンスを持つ冒険家ならいつでもサポートを受けられるのよ。どうかしら。あなたたち、正式にギルドヘ登録してみる?」

「そんなもの興味無───」

「でも、エレサールの言う通り、今のままじゃちょーっと心もとないわね」

「……なに?」

 

 アキトの瞳が僅かに細められる。

 

「私が出すクエストにクリアできたらライセンスを発行してあげる。どうかしら?」

「上等だ」

「アキト!!」

 

 上手く肩車乗せられてしまったことに気づいていないのだろう。アキトは憮然とした表情で腕を組んだまま、ラーレッタを睨め付けていた。

 ラーレッタはデスクの上に紙を広げると、懇切丁寧に説明し始める。

 

「上から順番に簡単なクエスト。下に行けば行くほど難易度が上がっていくわ。本来、クエストをいくつか行った上でライセンスを発行するのだけれど───高難易度のクエストならば一つだけで大丈夫よ。それで、どうする?私としては上から簡単なのを数個選ぶのをおすすめするけど」

「これだ」

 

 そう言ってアキトが選んだのは一番上ではなく、一番下にあるクエスト。

 ラーレッタの表情が強ばったのをアイリスは見逃さなかった。

 

「『フォレストクイーンの果実』の採取。このクエストにさせてもらおうか」

「で、でもこのクエストは立ち入り制限区域内のクエストで腕利きの冒険者が───」

「立ち入り制限区域が、なんだって?」

「ッ!」

 

 到底主人公のそれとは思えない悪辣な笑みを浮かべるアキトを見て、アイリスは眉間を抑えながら小さく唸った。どうやら、騙されたフリをして最初から何かを企んでいたらしい。

 

「『ミノタウロス五頭の討伐』『モンスターの変異種の調査』───これらも並行して行おう。それでライセンス発行料、試験料をチャラにしてもらう。いいだろう?」

「そ、そんなの」

「ならギルド本部に言うだけだ。イスタルカ島には未登録の冒険者見習いに危険な任務を依頼するエルフがいると。ペナルティを食らうのはお前だろ?」

 

 悪役然とした表情をして、アキトは凄絶な笑みを浮かべた。




何なんだよこの主人公は。

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