白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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最近はピッコマでバキシリーズ読んでます。
あの絵柄も慣れてくると癖になりますね。


方舟

 ネモ一行は火山島に到着する。するとノアの様子がおかしい。

 大丈夫かと心配するアイリスだったが、ノアは何でもないと答える。

 

「あの、ネモさん」

「どうした」

「ノアさん、とても疲れてる。休ませてあげた方が───」

「必要ない。使えない人間は置いていくだけだ」

「ネモさん!」

 

 アイリスは詰め寄ろうとするも、アキトがアイリスとネモの間に割って入る。

 

「アキト!」

「……この男にも考えがあるはずだ。今は従っておけ」

 

 アキトの言葉に渋々ながら了承するアイリス。息を荒くしながら膝を着くノアに回復魔法をかけつつ、歩みを進める。

 

「……」

 

 それから何分が経過しただろうか。魔獣が一切現れない道のりを歩いていた一行は拍子抜けだと思う反面、不気味だと感じた。

 長年、人が住み着かないような場所には魔獣が湧くという。ここの工場は、廃棄されてからかれこれ数年経過していた。

 グレイルジャガーとまでいかなくとも、星たぬきやキャットシャドウが出ても可笑しくない状況なのだ。

 工場の中心部までやってくるなり、ノアは目を細くして

 

「呼んでる……」

「おい、どうした」

 

 ネモの静止虚しく、ノアは工場の奥へと進んで行った。

 そこには、大きなクラゲの姿が見えた。

 

「これが、まさか……」

「方舟だ。しかし……記録映像より遥かに大きい」

「その通りです。艦長……!」

 

 刹那、発砲音。ノアに放たれたそれをネモの義手が弾いた。

 アキトは剣を抜き、3人の前に立つ。

 

「この大層な仕掛けで<方舟>を操るつもりか」

 

 ネモもまた銃を抜くと、発砲音がした方に銃口を向ける。

 しばらくして、建物の影から白衣を着た男が現れた。年齢は30代前半くらいだろう。黒縁の眼鏡を掛けた青年が古式の拳銃を手に立っていた。

 

「……ヤブ医者が。何が目的だ」

「医師とは仮の姿でして。島では<方舟>研究チームを指揮しておりました」

 

 ネモは、ためらいなく引き金を引く。しかし、銃弾はすり抜けていく。

 

「……ちっ、<幻影のルーン>か」

 

 ネモは苛立ちげに銃を機龍に捩じ込むと、男を睨んだ。

 

「───なぜ島の連中を狙った」

「帝国にべらべらしゃべられても、面倒なんですよ。スパイもいたでしょうしね」

 

 男の言葉に、ネモの左半身に変化が現れる。炎のような痣が首元中心から浮かび上がり、濃密な魔力が噴き出した。

 

「お前たち連邦はいつもそうだ。小さな犠牲は止むを得ないといいながら、弱いものを殺す……!」

「あんな無能な連中といっしょにしないでください! 我々はもっと大きなものに仕えているのですよ!」

 

 男の言葉にネモは眉を顰める。

 

「……帝国ではないな。帝国には、お前のような愚か者を真っ先に狩る獣がいる」

「我々が仕えているのは、この世界の絶対的な<法則>というべきもの。あの<方舟>であらゆるものを滅ぼせば、彼はきっと喜んでくれる───!」

「……もう黙れよ」

 

 ネモが左手を前方に出す。

 

「……アルゴノートⅡ。照準を合わせろ。この男に、制裁を下す」

「馬鹿が!ここは通信妨害が施されている!」

「馬鹿はお前だ」

 

 ネモが乗っていた機竜が変形し、ネモの義手と合体一巨大な砲身となった。

 

「主砲はこいつだ」

 

 男は、は嘲笑を浮かべる。

 ネモの濃密な魔力がアルゴノートに集中される。形となった魔力の嵐が地面をえぐり、竜巻を起こす。

 

「……こいつは……まずいッ」

 

 アキトはアイリスとノアの襟首を掴むと、ネモの背後数メートルまで跳躍。

 闇の力を解放し、守るように障壁を張る。

 

「64層の隔壁と、187のルーンによる魔法防壁。そんな豆鉄砲で!」

「主砲、発射」

「無駄、だと!?」

 

 ネモの砲撃は、施設の防壁とルーンによる障壁を貫く。

 火、水、雷。三属性を纏った魔力の砲撃は数秒で男の元に到達した。

 

「え、エピタフ───」

 

 男の姿は掻き消えた。アルゴノートのクールタイムを待たず、ネモは方舟に向けて照準を定めた。

 

「もう一撃だ。アルゴノート。あの<方舟>を破壊するぞ」

 

 アルゴノートの銃口に魔力が装填。眩い輝きを放ち始める。

 ネモが引き金に指をかけ、絞ろうとしたその時だった。

 

「駄目です」

 

 ノアが腕を大きく広げ、ネモの前に立ち塞がっていた。

 

「方舟は、殺らせません」

「退け……!」

「あれは兵器ではないんです。大昔の人が作った、すべての命を救うための<方舟>なんですよ!!」

 

 ノアの瞳が青く染まる。ネモはそんなノアの姿を見て唸った。

 

「お前は、何者だ」

 

 ネモが容赦のない殺気を放つ。殺気に当てられたノアは一瞬たじろいぐも、力のない笑みで答える。

 

「……私は<方舟>の使者。<方舟>が今の時代を知るために生み出した、分身。私も、今知ったのです……」

 

 ネモは眉間に皺を寄せて呟く。

 

「<方舟>はどうするつもりだ」

「<方舟>は、救いたいのです。人類が、世界が滅ぶ前に」

 

 ネモは小さくそうかと呟いてから方舟に歩み寄っていく。

 

「俺はこいつを撃つ。こいつは……この世には必要ない」

 

 退け。ネモがそう言い放つと、ノアは瞑目しながらふるふると首を振った。

 

「……やっぱり、こうなってしまうんですね」

 

 言いながら、ノアは方舟に近づこうとするネモの目前に水の障壁を張った。

 

「ノア……!?」

「ネモ。あなたと過ごした日々、短かったけど幸せだった」

 

 ノアの体は方舟の中に吸い込まれていった。

 

「……さよなら」

 

 ノアのその言葉は、水の音と共に消えていった。


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