白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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遅ばせながら、あけましておめでとうございます。


紅き瞳の蒼海少女

 ギルドの依頼でアキトたち一行はとある島に訪れていた。

 目的はこの島に隠された『古代のルーン』である。

 

「見て!ようやく辿り着いたわ!!」

「キャトラが道草食わなければもう少し早く着いたんだけどね……」

 

 目の前の台座には、光り輝く結晶が埋め込まれていた。これが、目的である『古代のルーン』で間違いないだろう。アイリスはルーンに手を伸ばす───

 

「伏せろ」

 

 アキトがバスターブレードを放ちながら回転斬り。すると、隠れていた魔物たちが一瞬にして塵芥になる。そんな中、霧散する魔物に紛れて、何者かが石版からルーンを奪った。

 

「アイリス!魔物がルーンを!!」

「違うわ!あれは……人!!」

「待てッ!!」

 

 アキトが背負っていたもう一振の剣を抜き、斬撃を放つも手馴れた動きで避けりてしまう。舌打ちをつきながら、周囲を睨め回した。

 

「今はここを突破するしかないか……!」

 

 黒と黒の剣を擦り合わせ、火花を散らす。アキトが一瞬左右の腕に力を込めると、アキトの容姿が変わる。全体的に赤を占めていた髪色は墨を流し込んだ様な漆黒へ。蒼碧だった両眼は黄金に変わる。瞬間、99.9秒のカウントダウンが始まり、アキトは緊張の糸を張った。

 

「そのままいろ!」

 

 腰のマントを翻しながら、アキトは剣に魔力を込めると、地面に足を踏み締めながら左の剣を振るった。闇を纏った斬撃が放たれる。さらに右の剣を振るい、闇の斬撃を放つ。

 ツヴァイダークブレード。剣に闇を乗せて形ある斬撃を周囲に放つ剣技。

 しかし、なぜだろう。倒したという手応えがない。

 

「……こいつら」

 

 切った部位が恐ろしい速度で再生する。嫌な予感がして、アキトは闇の出力をさらに上げた。駆け抜けるような激痛がアキトの体を駆け抜ける。

 暴走する闇の魔力を拳に乗せながら地面に叩きつけ、巨大な魔方陣を展開。ブラックホールのように引き付けられた魔獣たちはアキトによって生み出された闇に呑み込まれ、消滅していく。

 冷たい闇が思考を呑み込み始める。ドス黒い感情がアキトの思考を支配し始める。

 

 ───コロセ、光ノ王ヲ───

 

「アキト!無理はやめて!!」

「……!」

 

 感情に完全に呑みこまれる前に、アキトは闇を解除。

 漆黒に染っていた髪が元の赤髪に戻り、瞳も蒼碧に戻る。息を吐きながら、口から血を吐く。左目が血飛沫き、視界が赤くなる。暴走した魔力を数秒かけて抑え込み、アキトは剣を杖がわりにして立ち上がる。

 

「……ちっ、こいつら……まだ湧いてきやがる」

 

 しかし、魔獣は延々と現れ続ける。ちょっとな希望すら抱かせてくれない。

 

「アキト!?」

 

 駄目だ。視界が揺れる。足でまといになっている自分に思わず歯を食いしばる。そんな時だった。

 

「───邪魔なのです」

 

 蒼の鉄槌が魔獣を蹂躙した。

 サファイアブルーの髪を靡かせ、不思議な形をした鎚を持った少女がアキトたちに視線を向けると、口元を綻ばせて笑う。

 

「こんにちは、私はノアといいます」

「あ、あう?よ、よろしくノアさん?」

 

 突然のことに思考が追いつかないアイリス。そんなアイリスを気にせず、ノアは血反吐を吐くアキトの元まで近づくと、担ぎあげた。

 

「ゆらゆらとここを脱出するのです」

「ちょっと!魔物に囲まれてるのよ!?」

「問題ないのです」

 

 ノアは海月の形をした何かを魔物に向けて放り投げると、突然それが起爆。周囲を眩く照らした。

 

「……助けてくれるんですか?」

 

 訝しげに訊ねるアイリス。そんなアイリスにノアは笑って答えた。

 

「───助けになれば、それはとても素敵なのですよ」

 

 ノアたちは洞窟の外を目指して駆け出した。

 

 

 

 ⿴

 

 

 

 魔物たちを撒いたアイリスたちは潜水艦の中にいた。闇を使った反動で深手を負ったアキトを治癒しながら、アイリスはポツリと呟いた。

 

「……この世界にもあったのね」

「なにが?」

「ううん、なんでもない」

 

 まさか、転生する前の世界にも潜水艦があって、文明的には僅かに劣るこの世界にこんな文明的なものがあったなんて口が裂けても言えない。言ったところであんた何言ってるの?と言われるのがオチだろう。

 ノアがキャトラに潜水艦のことを話ていると、ドアが突然開いた。

 アイリスが扉の方を振り向くと、赤い軍服を身に纏った青年が立っていた。

 

「ノア。なぜ部外者をこのアルゴノートに入れた」

「困っている時は、お互い様なのですよ。そうでしょう?」

 

 凄まじい殺気に黙っていたアキトは青年に向けて殺気を放った。殺気と殺気のぶつかり合いに、重い空気が流れる。

 

「……何者だ、お前」

「ただの冒険家だ。そういうあんたは」

「俺は侵略者だ」

「悪者か」

「実はいい人なのです」

 

 ノアがそう言うと、良い奴なのねというキャトラ。

 

「駆けつけ一杯、海水でもどうだ。幸いここは海の中だ、嫌という程ある」

 

 ネモがそう言うと、悪い奴なのねと叫ぶキャトラ。アキトはキャトラの首根っこを掴むと、一言黙れと睨みを効かせる。

 

「お前たち、なぜあの廃墟にいた」

「ルーンの回収。それがギルドの依頼だ」

「……ルーンが狙いの冒険家か。溺れて死ね」

「ネモ」

 

 ノアがそう言うと、ネモはため息をついて軍服を翻した。

 

「くれぐれも邪魔はしてくれるなよ」

「お前もな」

「その減らず口は何とかならんのか」

「お前がそれを言うか侵略者」

「表へ出ろ。殺してやる」

「いいだろう。丁度体力も戻ってきたところだ。手足を切断して海に捨ててやる」

 

 一触即発。今にもぶつかりそうなアキトとネモだった。




闇の王との邂逅を果たしてからというものの、自分の力を扱えなくなってしまったアキト。長時間戦うことが出来ず、闇も大きく制限がかけられてしまった。

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