白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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ワールドエンド編が終わったら島編でも投稿しますかね(なお更新頻度)


黒キ運命

 ───戦う。世界を守るために。

 

「ちょっのアキト!早いわよ!!」

 

 ───戦う。アイリスと共に歩む世界のために。

 

「アキト、休まなくて大丈夫なの?」

 

 ───敵は邪魔だ。退け。消え去れ。退かないのなら殺すだけだ。

 

「アキトッ!!」

 

 

 

 

 最近のアキトはどうもおかしい。それに気づいたのはエレノアと戦ってから数日が経過した時だった。

 普段から敵は斬る、という意志を持っていたアキトだったが、これはどう見ても異常だった。

 

「アキト……少し、休んだ方が」

「大丈夫だ。俺はまだ戦える」

 

 敵に対する執着が以前と比べ物にならないほど増幅しているのだ。無闇矢鱈な殺生を好まないアキトだったが、最近は盗みを働こうとしたほしたぬきの子供を火で炙ろうとしたので、慌ててアキトを宥めたのは記憶に新しい。

 何が彼をそこまで追い詰めているのだろうか。

 

「アキト、もし私に出来ることがあったら───」

「俺一人で大丈夫だ」

 

 そう言って、アキトは私たちを遠ざける。既に限界が来ているのではないかと思うその体を闇の力による超回復とポーションで強制的に回復。次の日は昨日の疲れが嘘かと思うくらいに暴れまわるのだ。

 

「カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム」

 

 闇を抑えることの出来る魔術を使おうと、アキトには通用しなかった。魔術をあろう事か破壊し、敵を完全に排除するのだ。そして、その後に───

 

「なぜ邪魔をした」

「なぜって……!このままいったらアキトの身体が壊れるかもしれないんだよ!?昨日だって利き腕が吹き飛んだじゃない!!たまには休んで───」

「いくらアイリスからの頼みだろうと、こればかりは聞くことが出来ない」

 

 そう言って、アキトは聞く耳を持たない。そして、いつも決意を固めたような表情で言うのだ。

 

「───もっと、強くならなければならない。強くなきゃ意味がないんだ」

 

 

 

 

 

 みんなが寝静まった後に、こっそりと抜け出す。アキトには強烈な睡眠作用を起こす魔術を仕込んだ料理を大量に食べさせたので、今夜起きることは無いはずだ。これなら起きることは無いはずだが、もし目が覚めたら私共々慈愛の檻の中に閉じ込めるつもりだ。

 川辺を歩いていると、プラチナブロンドの髪の少女が裸足で川の中に立っていた。

 エレノアだ。

 誰かに祈りを捧げているのだろうか、手を合わせながら星空を見上げていた。

 どうも、話す気にはなれない。

 彼女の事情はよく知っている。自分の未来を変えるために、この時代にやってきた少女だ。本来なら、時間介入は許されていないことなのだが、私も因果律を歪めて時を十数秒ほど止めることが可能なので、彼女のことは何も言えないのだが。

 ずっと見ていると、エレノアは突然苦笑いを浮かべて困ったような微笑みをうかべた。

 

「……流石にそんなに見られると照れてしまいますよ。アイリス様」

 

 どうやら、ずっと気づいていたようだ。

 意を決して、息を吐くと、川から出て温熱魔法で足を乾かしているエレノアの元まで向かった。

 

「こんな時間に起きるなんて珍しいですね。怖い夢でも見ましたか?」

 

 柔和な雰囲気の彼女にどことない違和感を覚える。しかし、人にはオンオフというものがあるので、これが彼女の本性なのだろう。アイリスは慣れぬ彼女の態度に動揺しながら話しかける。

 

「……エレノアは」

「はい?」

「エレノアは、アキトを殺すの?」

 

 震える声で、訊ねる。すると、エレノアは一瞬思考を巡らせると、力なく笑った。

 

「いえ、私ではアキトさんには勝てません。なので、殺すというのは出来ないでしょう」

「───え?」

 

 ならなぜ、あの時彼女は敵になるかもしれないと言ったのだろうか。

 その表情が顔に出ていたのか、エレノアは答えを告げる。

 

「だけど、暴走する前にアキトさんを止めることは出来ます」

「……どうやって?」

「暴走して人格が変わる前にアキトさんから闇の一部を抽出します。そうすれば、暴走しているアキトさんも自我を取り戻すはずです」

「……その闇はどうするの?」

「───」

 

 エレノアは答えなかった。しかし、彼女がなんと言おうとしているかは分かった。分かって、しまった。

 

「……駄目よ、エレノア。それは貴女の身体を蝕む行為よ」

「……。覚悟の、上です」

「でも───」

「───未来を変えるためなんですッ!!」

 

 エレノアの剣幕にたじろぐ。

 彼女の決意は揺らぐことはないだろう。このままいってしまえば、確実にエレノアの身体は闇に侵され、消滅してしまう。

 どうすればいいのだ。私にはやれることがないのか。そう思っていた時だった。

 

「───余計なお世話だ」

 

 振り向けば、アキトが木にもたれ掛かりながら立っていた。睡眠魔法をあんなに導入したと言うのに、なぜ動けるのだろう。見れば、目の下には大きなクマが刻まれており、闇で無理矢理無力化したのだろう。結果、体力の低下が起きていた。

 

「エレノア……だったか。俺はこの闇に乗っ取られることなんてない」

「そんなこと言ったって未来では───ッ!」

「未来の俺だって途中までは制御出来ていたはずだ。今の俺みたいにな。ならば、最後まで集中力を切らさなければいい」

「あなた───ッ!」

 

 瞬間、アキトの姿が掻き消え、エレノアの首筋に黒の剣を突きつけていた。黄金に変わった瞳でエレノアの顔を睨めつけながら、アキトは云う。

 

「これ以上何か言ってみろ。俺はこの場でお前を殺す」

 

 アキトはエレノアから顔を離すと、森の奥の方へと歩み始めた。

 

「───アキトッ!?」

 

 慌ててアキトを止めるも、アキトは振り返らない。しかし、一瞬足を止めて言うのだった。

 

「───ごめん」

 

 アキトは黒の剣を手にしたまま森の奥の方へと消えていった。


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