白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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主人公メイン。


罪の継承

 気づけば暗闇にいた。

 光が指すことの無い暗闇だ。

 

 ここはどこだ。俺はなぜ、ここにいる。

 

 答えるものはいない。そう思われた。

 

『───ようやくこうして話が出来るな。闇の王子』

 

 顔を上げると、そこに居たのはアキトの身を遥かに超える異形のバケモノであった。何本もある手を持ち、巨大な目をギラつかせながら、アキトを見下ろしていたのだった。

 アキトはそのバケモノの正体を知っていた。

 

「……ヴェータス・マヌス!」

『然り。我は四魔幻獣が一角、ヴェータス・マヌスである』

 

 金属のような鱗を上下に動かしながら、ヴェータス・マヌスはアキトを見下ろす。

 

「……恨み言でも言いに来たか?よくも俺を殺しやがって、お前を呪い殺してやる───とか」

 

 アキトはふらつく頭を片手で抑えながら呟く。

 目の前の異形はアキトたちが数分前、倒した魔物であった。戦う最中は意識を持っていることなんて知らなかったが、きちんと喋れる機能はついていたらしい。

 だとしたら、目の前のバケモノは───ヴェータス・マヌスは、アキトのことを恨んでいるに違いない。疲弊する前のアキトですら苦戦していたというのに、魔力が底をついているアキトではまず勝つことが出来ないだろう。

 しかし、身構えたアキトに向かってヴェータス・マヌスが言い放った言葉は予想外の言葉だった。

 

『───いや、闇の王子。貴様には感謝している。我をあの忌まわしき枷から解き放ってくれたのだからな』

 

 予想もしてなかった言葉。アキトは目を丸くした。

 そう言えば、四魔幻獣たちには決まって何者かに動きを阻害されているという共通点があった。それが目の前のヴェータス・マヌスのいう枷、というものなのだろう。

 

「……四魔幻獣の一角に感謝されるなんてな。天地がひっくり返っくりかえるんじゃないか?」

『随分と面白い冗談を言う。我の知る貴様は、無口だったが?』

「はっ、冗談くらい嗜まなきゃこんな状況呑み込めるか───それで、要件はなんだよ。駄弁をしに来た訳じゃないだろ」

『その通りだ』

 

 ヴェータス・マヌスは9本の腕を巧みに動かすとアキトに急接近する。

 

『そんなに身構えるな。我は貴様に力を授けに来たのだ』

「力を───?笑わせるな。お前たちのその力は世界を破滅へと導くだけだろ!」

 

 気づけば声を荒らげていた。

 アキトはこの世界とアイリスを愛している。そのためだったら悪魔にだって魂を売る覚悟がある。確かに、ヴェータス・マヌスの力が手に入れば世界を救うことだって可能だろう。

 

 ───しかし。それは制御できればの話だ。

 

 闇の王はこの力を制御できなかったという。なら、闇の王より闇の力が劣るアキトがこの力を制御できるはずがない。

 

 そして、最悪の場合───

 

『何か勘違いしているようだが───』

「───?」

『我らがあの男の力にならなかったのは理由があってこそだ。奴は世界を安寧の闇に包み込むことだけを常に考え、他のことは考えもしなかった。だから我らは奴を拒んだのだ』

「そんな話、信じられるわけ───」

 

 瞬間、ヴェータス・マヌスはアキトの身体を掴み上げた。巨大な隻眼がアキトを睨む。

 

『よく聞け闇の王子。貴様が我らを受け入れないのは勝手だ。そうなった場合、誰が我らの力を使うと思う?』

「……なに?」

『光の王だ。奴はお前のためなら自分の体が崩壊するのなんて気にしないだろう。そうなった場合、世界の均衡が崩れ、破滅への道を辿る』

 

 ヴェータス・マヌスの言葉に血が出んばかりに手を握る。

 

「……それじゃあ、どうしたらいいって言うんだよ!?」

『貴様が我らを受け入れる他ない。安心しろ。お前の糧になれば、我らの人格は自然消滅して、闇は自然とお前に馴染む』

「……だが、過ぎた力は暴走の危険性が───!」

『なに腑抜けたことを言っている!光の王と世界を守るためだったら暴走なんて抑えてみせろ!!』

 

 ヴェータス・マヌスの言葉にアキトは僅かながら目を見開いた。

 数秒の沈黙が開く。アキトは息をゆっくり吸うとヴェータス・マヌスの瞳を見つめた。

 

「……力はどうやって受け取ればいい」

『その気になったか』

「答えろ」

『簡単だ。拳と拳を合わせればいい。そうすれば力の継承は終了だ』

「……それだけか?」

『ああ。それだけでお前の闇は遥かに増幅される』

 

 アキトは数秒唸った後、右手をヴェータス・マヌスの前に突きだした。

 ヴェータス・マヌスは瞳孔を細めると一本の腕をアキトの拳にくっつけた。

 

『これで我の役目は終了だ。残りの四魔幻も時期に目覚める。その時はまた、闇を継承しろ。そして、「我こそが最強の後継者」だと名乗りを上げろ』

「……ああ。やってやるさ」

 

 大量の闇がアキトの中に流れ込んでくると同時に、アキトは再び意識を失った。




5周年イベント始まりますね。私は王子様が当たれば今回のガチャはいいかなと思ってます。配布だとガチャを回さなくて済みます。
そう言えば白猫プロジェクトのプロローグにて主人公のグラフィックが三周年闇の王子に変わったそうな。三周年闇の王子持ってる方はグラフィックチェンジみたいな機能入れてもいいと思うんですけどね。まあないでしょうけど。

長尾景虎さんが可愛いですね。さすが奈々さん。




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