白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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時系列がだいぶ飛びます。


新たな輝き

「フハハハハハ!!いい!実にいい!!これが魔幻獣の力か!!」

 

突然現れた謎の男───ロイド・イングラムにアイリスたちは緩んだ空気を一気に引き締めた。

 

「この力は……<闇>の……」

 

あってはならないはずの力。

ただの人間が手にしてはならない力。

 

───それを目の前の青年はいとも簡単に扱ってみせたのだ。

 

アイリスの頬に汗が垂れる。隣にいたエマは斧を杖代わりにしながら立ち上がり、ロイドに向かって叫ぶ。

 

「おじさん、どうして!?」

「いい加減、くだらん問答には飽きたよ、エマ……おっと!」

 

闇の一部を解放して、ロイドに急接近していたアキトは《レディセンス・リベリオン》を放つ。しかし、闇の斬撃がロイドに届く前に、障壁によって阻まれた。

喧しく笑うロイドに思わず舌打ちをつき、後方は跳躍。アキトは剣の切っ先をロイドに向けながらエマの方を見やった。

 

「アキトさん……すみません……」

「戦う意思があるなら構えろ。目の前の此奴は───敵だ」

 

すると、ロイドは額を抑えて笑い始める。

あまりの気味の悪さに、一層警戒心を高めるアキトとアイリスたち。ロイドはひとしきり笑い終えると、その狂気に歪んだ笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

 

「そう怒らないでほしい。君たちとは、仲良くやってきたじゃないか?善良な考古学者として君たちに情報を与えたこともあったし───時には、こうして自ら赴き、君たちを振り回してもやった。あるいは友情を、共感を、仲間意識を私に感じたのではないかな?私も楽しかったよ。嘘じゃない、本当さ。君たちを欺いてる瞬間、私は生きていることを感じられた!」

 

ロイドの姿が次々に変わっていく。

考古学者、美女、そして研究家───最後にまたロイドの姿に戻る。

アキトは蒼の瞳を細め、眉間に皺を寄せた。

 

「戯言はよせ。そんなこと、微塵も思っていないだろ」

「……流石は闇の王子。よく分かっていらっしゃる……その通りだとも。全部嘘だ。そこの闇の王子の言う通り、実はなにも感じていない。今、この瞬間も、私の心は穏やかだ」

 

ロイドは口元を三日月状に歪ませると、アキト達を見据える。

 

「いい加減、飽きてきたよ。自分にも、この世界にも……」

「到底穏やかなやつが言うようなセリフとは思えないけどな」

 

瞬間、アキトの姿が消えた。地上に広げられた魔法陣がロイドの足を捕え、動きを鈍くさせる。

 

「───ぬ」

 

赤黒い光となり、魔法陣の中を駆け巡り、ロイドの体を切り裂いていく。

《黒の刻》。今のアキトが使える最強の技だ。

 

「これで……!」

 

黒の剣を振りかぶった時だった。アキトの真横にロイドが現れ、アキトを地面に蹴り飛ばした。

速度を殺すことができず地面に直撃したアキトは頭から夥しい量の血を流した。

 

「……最強と言われた闇の王子もここまでか」

「まずい!!防壁展開!!」

 

ルーファスの持つ武器が光の壁を展開し、ロイドの放つ光線を遮る。

 

だが───

 

「くっ……限界か……?」

 

光の壁にヒビが入っていく。未だ地面に這い蹲っているアキトはその光線を睨みつける。

 

───これでも、届かないのか?

 

そう願った時、アキトの身体に少しだが、力が戻ったような気がした。

アキトは足に力を込めながらゆっくり立ち上がる───

 

「させないっ!!<カリダ・ルークス・プーラン・ルーチェンム>!!」

 

しかし、その声と共に光線は掻き消え、疲労していたアイリスたちに回復の魔法が掛けられた。アキト一人を除いて。

 

「光線を……掻き消した、だと?」

 

アキトは力を取り戻したアイリスたちを横目に、ロイドとアキトの間に立つ人物を睨んだ。

声からして、女。しかもアイリスとさほど歳は変わらないはずだ。精々、十代中間あたりの年齢だろう。

だが、アキトが驚いたのはそこではなかった。

 

「今のはアイリスの呪文と同じ───」

 

少女は自身に光を集めながら、歌うように詠唱し始める。

 

「───七つの力がうちの一つ、<運命>の歯車よ───

 

───我はその巡りに異を唱える───」

 

その時、アキトはあることに気づいた。

 

「周囲のソウルが……彼女の元に集まってる……?」

 

自然のソウル、死人たちのソウル、そしてアキトの闇のソウルまでが少女の元に集まっていたのだ。アキトは闇の後継者としての状態を解除し、どっと押し寄せてくる疲労による転倒を剣を杖代わりにして防いだ。

 

「───歯車は仮初めの姿───その巡りを逆巻かせ、あるべき真実を示せ。

───七つの力がうちの一つ、<流動>の導きよ───

我はその流れに異を唱える───新たな道を開き、運命を覆せ───」

 

その時、空間が大きく歪んだ。

あまりの力の膨大さに絶句するアイリスたち。一瞬、あたりが眩く輝いたかと思うと、アイリス一行はその姿を消していた。

少女はその場に残ったアキトに目を向けると覚悟を決めたように睨みつけた。

 

「……ごめんなさい。私は、あなたの敵になる道を選びました」

 

少女は目深まで被っていたフードを外すとその顔を晒した。

ブロンドの髪を青色のリボンで括った美少女である。少女は空間から剣を取り出すと、ロイドに剣の切っ先を向けた。

 

「……ロイド・イングラム。この世界を、終わらせたりはしない」

 

あまりにも眩い輝きに、アキトは思わず目を瞑った。


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