白猫あうあう物語   作:天野菊乃

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ゼロクロニクル終わったらワールドエンドかな?
あの髪長い王子様、操作難しくて苦手です。

改:2022年2月12日




 ───蒼い空を覆い尽くさんとばかりにぶつかり合う光と闇。

 

「……」

 

 ───天空都市の戦士、ファイオスはその光景をただ眺めることしか出来なかった。

 

 光が幾多の槍を生み出し、闇がそれを薙ぎ払う。

 闇は必要最低限の攻撃しか繰り出さず、状況は光の方が優勢だった。

 本来なら喜ぶべき光景だ。それだというのに、今は恐怖に震えることしか出来ない。

 

 ───なぜなら、自分たちが仕えるべき王は叛逆の牙を剥き、その王から自分たちを守っているのが闇なのだから。

 

「……!」

 

 光の激流が闇を飲み込もうとする。

 闇は身を捻り、攻撃を避けるが、先ほどよりも放つ力が弱まっているように感じる。

 

「……闇を消し去るほどの眩い光、か」

 

 力と頭脳、そして美貌まで持ち合わせた現代の光の王アイリス。あらゆる才という才を持って生まれてきた彼女だったが、彼女には致命的に足りないものがあった。

 

 ───精神が成熟してなかったのである。

 

 幾ら光の王とはいえ、嘗てはただの少女。突然、すべての民の生命を任されるとなれば、正義感の強い彼女だ。自分を追い詰めるに違いない。

 

 ───彼女は王になるには早すぎたのだ。

 

 まだ成人を過ぎていない可憐で、今にも折れてしまいそうなくらい儚い少女では、幾ら必死で国を守ろうとしても、その小さな背中ですべてを背負いきれるわけがない。

 そんなことも考えず、自分はすべてをそんな少女に託そうとしていたのか、と思わず歯噛みする。

 

「……俺じゃ、アイリスは救えない」

 

 思い返してみれば、アイリスが光に選べばれた時、その顔は喜びに充ちていただろうか。

 

 ───否だ。彼女は悲しく笑っただけだった。

 

「……おい、闇の王子───」

 

 遥か上空でアイリスと対峙する黒い青年を見つめる。

 

 初めは生意気な奴だと思った。闇は所詮は悪なのだと───決めつけていた。

 

 だが、彼は違った。

 

『───人間の心には光があれば闇もある。それは黒も白も関係無く住み着いているんだ。それは勿論、ファイオス殿。アンタにもだ』

 

 彼は闇に生まれながら、その心は正しく『光』であった。

 もしかしたら、この国にいる誰よりも眩い光を放っているかもしれない。

 ファイオスは彼に助けられた時───その可能性(ひかり)にかけたのだ。

 

「───俺の力を貸してやったんだ。光の王を……アイリスを、救って見せろ」

 

 ファイオスのその声が風に乗り、そして消えていった。

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

 光の槍がアキトに降り掛かる。旋回、なんとか避けようとするが、足に巻きついた光の鎖のせい思うように体が動かない。

 ならばとアキトは右腕と左腕を交差した。

 

「……!?」

 

 アイリスの表情が戦慄に染る。

 槍がアキトに刺さると思った直前、突如現れた巨大な腕がアキトを守ったからだ。それと同時に、アイリスの動きが目に見えて遅くなる。

 

「───今っ!」

 

 アキトが動いた。黒い翼を羽ばたかせ、紅蓮の軌跡を描きながら、アイリスに近づく。

 

「アイリス───」

 

 アキトがアイリスにその右腕を伸ばした時。アイリスの白銀の瞳が細められた。

 咄嗟に体を捻るも、判断が遅かった。身を焼くほどの激しい光がアキトに襲い掛かる。あまりの激痛に、一度距離を取る。

 

「……ッ」

 

 右腕が使い物にならなくなっていた。焼き焦げ、抉れ、腕と判断出来るのは五本の指があるお陰だろう。

 激痛に顔を顰め、絶叫したくなる衝動を抑えこみ、闇を右腕に纏わせる。

 肉が焼ける匂いと同時に、肉体を無理矢理再生する音が鳴り響く。数秒後にアキトの右腕は完全に回復したが、しばらくはあの状態になった右腕のことを忘れられそうになかった。腕を閉じたり開いたりしながら、アイリスを見やる。

 

「……そう簡単には、行かないか 」

 

 既に自由に動けるようになったアイリスを見て、内心舌打ちをする。

 アキト自らが使う重力魔法と四魔幻獣が一角、ラディウス・マグヌスの重力魔法を組み合わせて倍加、通常の人間なら一瞬で身動きが取れなくなるような離れ業をやってのけたのだが、どうやらアイリスにはあまり効果はなかったらしい。

 

「……なら!」

 

 龍にも似た翼を広げると、アキトはファイオスの剣を抜き、アイリスに近づく。同時にレギオ・グランディスの飛翔能力とグラキエス・ドゥルスの雷を使い、速度を強化する。

 アイリスはそんなアキトを見つめながら、小さく口を開く。

 

「───切り裂きなさい、光よ……道を切り開け」

 

 始祖のルーンを使用した詠唱が終わる。

 その瞬間、光輝く剣がアイリスの周りに出現、アキトを貫かんばかりに一斉掃射される。

 

「……!」

 

 アイリスが放つ無数の剣をファイオスの剣から発生するエネルギー波で切り裂きながら突撃する。

 今の状態のアイリスは脅威ではあるが、倒せない訳では無い。しかし、アキトの目的は倒すことでも殺すことでもない。

 守ると約束した彼女を、救うこと。ただそれだけだ。

 

「……アデル……借りるぞ!」

 

 右腕に強固な鎧が現れる。

 これこそが彼が使っていた武装の一部であり、本来の力であった。

 能力は───『力の吸収』。

 

「……くぅ!?」

 

 ここで初めてアイリスの顔が苦しそうに歪んだ。

 その一瞬を逃すアキトでは無い。弾丸のような速度でアイリスに近づく。

 

「……アイリスゥゥゥウウ!」

「……ッ!」

 

 白銀の瞳が驚愕に丸くなり、アイリスの翼が黄金の光を放つ。

 アイリスの最強の技『時間停止』。この技の前にはあらゆる生物は無力。

 勝利を確信したアイリスはその技を発動した。一瞬、眩いほどの光が放たれ、アイリスの周りを除いたすべての生き物が動きを停止する。

 

 ───そのはずだった。

 

「うぉぉおおお!!」

「!?」

 

 光の速さを越す速度で動いていたアキトに、時間停止は通用しなかった。

 

「アイリス! 俺は……君を───!!」

 

 アイリスの元に到達したアキトは口を開くも

 

「ッ!!」

 

 言葉を続ける前に、アイリスは剣を振りかぶり、アキトの左腕を切り飛ばした。

 

「……くっ!」

 

 咄嗟のことに対応が遅れる。ファイオスの剣を握ったままの左手が、重力に従って落下していく。

 それでもアキトはアイリスに近づき───優しく抱きしめた。

 

「……!」

「いいんだ……もういいんだよ」

 

 アキトはこの力をアイリスを抱きしめることに使った。

 光の力による反撃で無数のダメージを食らうが、それでも腕を緩めることは無い。

 途切れそうな意識の中、アキトはアイリスに囁いた。

 

「もう……いいんだ」

 

 アキトの左手に闇が集まり、自動再生する。先程までつけていた鎧の類はなかったが───それで良かった。今必要なのは戦うための力ではない。誰かと手を取り合うための力なのだから。

 

「……もう、君が戦うべき相手はいないんだ」

「……ほん、と……?」

「ああ。本当だ」

 

 アキトがそう言い、アイリスが僅かに力を弱めたその時だった。

 

「!?」

 

 アイリスの体が白銀に光る。アイリスはアキトを突き飛ばしてから距離を取る。

 

「に、逃げ───」

 

 アイリスの意志と反して、体が勝手に動く。次の瞬間、アイリスの体から闘気が放たれた。アキトはその黄金の瞳を細め、アイリスを睨みつけた。

 

「……アイリスに全て背負わせようとするんじゃねえよッ」

 

 始祖のルーンが輝き、アイリスの目の前に巨大な魔法陣が展開される。恐らく、これがアイリスの放てる最強の一撃。

 アキトは身体の中にいる四魔幻獣たちに呼び掛けた。

 

「……ラディウス……グラキエス……レギオ……ヴェータス……貴様らの力を……俺に!」

 

 アキトは、両腕をゆっくり体の前で交差させると、力を溜めるような仕草を見せた。

 闇色のオーラが重々しく震え、炎の如く激しく揺れ動き、厚みを増していく。

 

「はぁぁぁ!!」

 

 強烈な気合いと共に、アキトの腕が大きく開かれた。

 髪が僅かに伸び、肩口を擽るくらいまで伸び、ボロボロだった戦闘服は、新しい戦闘服に変わる。その眼窩には、黄金の光が満たされていた。

 ───人の魂を奪い、ソウルを喰らう者。闇の王。

 アキトは一時的にではあるが、それになってみせたのだ。

 全身を駆け巡る力の、あまりの強烈さに意識を持っていかれそうになる。アキトは頭を振ると、納めていた闇蝕の剣を高々と掲げる。

 

「……戦いに敗れ、消えていった闇の者たちよ。俺にソウルを……力を───すべて寄越せ」

 

 赤紫色のスパークを全身に纏わせ、剣を中心に巨大な魔法陣を展開する。

 闇と光の嵐が空の色を変える。

 青に、赤に、紫に、白に、黒に。そして、最後には星空へと変化した。

 

「……逃げて!!」

「とどけぇぇええ!!」

 

 光と闇の力が激突し───

 

 

 

 

 

 ───世界は、虹色に染まった。




『次回予告』

ゼロ

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