───黒の王子が白の王国から舞い戻ると闇の王はその『特異性』を明確に示した。
際限のない力の膨張は王の代替わりなど感じさせない。
まるで循環を拒むかのように。
だが、それと同時に危機感も感じていた。
───黒の王子『アキト』のことである。
スキアーズの剣を持ってきた当時はただの少年に過ぎなかった彼はみるみるその頭角を表していった。
最初は偶然かと思っていた。だが、それはある一つの事件によって覆されることになった。
───闇の王ですら管理できなかった四魔幻獣の闇を───
「……四魔幻獣の闇もこんなものか。所詮は造れられた道具。大したことないな」
倒すどころか自分の力にして見せたのだ。
『……どうにか、しなくては───』
✧
「───それまで」
「俺はまだ───」
「───構えが数mmほどぶれていますぞ」
ヴァルアスがそう言うと、仕方ないと言わんばかりにアキトは剣を鞘に収めた。
剣から溢れんばかりに放たれていた『闇の力』が鞘に収まることによってその力を潜める。
───闇蝕の剣。アキトが折れた剣と魔幻獣の核を利用して鍛え上げた剣である。
「……特使の任務に戻られてから決意が新たになりましたかな」
アキトは黒く重い雲を見上げながらヴァルアスに問いかけた。
「ヴァルアス」
「なんでしょう?」
「正しいのだろうか」
「……なにがです?」
その言葉にアキトは視線をヴァルアスに向けながら言葉を続ける。
「最も濃い黒の民が王となって国を導く───」
「───この国において、王とは闇なる力の根源でありますれば。その意思に従うは、古来よりの習いでございます」
「それが
その様子を見兼ねたヴァルアスはアキトに詰め寄ると襟首を掴む。
「滅多なことをお考えになられてはなりません。闇が包み込むのは存在そのもの。善も悪も全て」
「……」
「闇とは決して晴れてはならぬものなのです。場のある限り、広がり続けていくもの」
ヴァルアスの目がキッと細くなる。
「───それがこの世に生まれてよりの真理で御座います」
「……それに疑問を抱いたものはいないのか」
アキトはヴァルアスの腕を強引に振り払うと襟を直す。
「……と言いますと?」
はて、と言わんばかりに首を傾げるヴァルアス。
「光と闇の在り方が今のままで正しいと誰が言い切ることが出来るのか」
「……陛下もまたそれをお考えになられているのかも知れません」
ヴァルアスの言葉にアキトは本気で言っているのか?と言わんばかりに目を細める。
「王が言っていることはまやかしじゃないのか?全てが黒く染まれば世界中に安寧が齎されるなんて───有り得るはずない」
「……そこから先は、あなたが王になって考え、導いていくことになってから考えることです。憶測で未来を批判するのは私の仕事ではないので」
アキトは普段の表情に戻す。
「……わかっているさ、そんなこと」
「なら今は己を更に鍛えねばなりませんな。貴方様の世が来ましたら───自分の信じる道のために私をお使いくださいませ」
「ありがとう、ヴァルアス」
そう言うと、アキトは闇蝕の剣を抜いた。
その行動にヴァルアスも再び剣を構える。
「さあ、礼を言うのにはまだ早いですぞ。早く剣の腕を私より超えて頂きませんと」
「時期に抜いてやるさ……」
そう言うとアキトとヴァルアスは地面を蹴り、剣をぶつけあった。
───その数日後。
───ヴァルアスは弟子達に別れを告げ、戦地へと旅立って言った。
───その数日の内に弟子の一人はヴァルアスの腕を超えたという。
✧
バールを討ってから数日が経過した。
誰もが予想した通り、白の王国は闇の激しい侵攻に晒されていた。
「───小娘ェ!!」
回数を重ねる毎に闇の王は膨張を遂げていく。
滅ぼされるは白か黒か。
次が最後の決戦になることを誰もが予感していた。
白の民は白の国の勝利を疑わない。
なぜなら《始祖のルーンの加護》が自分たちにはあるからと。
自分たちには白の王───アイリスがいるから、と。
「……あうあう……勘弁してくださいよ。この前まで私女子大生ですよ?なにさせるんですか……」
アイリスは転生してから初めて立つ戦場に怯えながら呟く。
アイリスの後ろには誰もいない。
「……できる、できる、君ならできる」
某テレビのCMでお馴染みの台詞を呟きながら剣を抜刀する。
「───この一戦で終わらせる!」
そうしないとアイリスのストレスがともかく危ない。
「……これが終わったら、ゆっくりお茶でも飲みましょうかね」
そんなことを考えながら、空が重たくなったかと、錯覚するほど埋め尽くす魔物と、闇を───
「打ち払え!」
───魔力の砲撃で一閃した。
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