水の滴り落ちる音で意識が戻った。体の至る所に感じる激痛に身を捩りながら目をゆっくりと開ける。
「……っ」
捕縛され、投獄された時に転がったのだろう。衣服や髪が泥に塗れ、僅かに血が滲んでいた。
泥を払い、檻に手をかけると先程起きた出来事を思い出す。
「……どうしてあの時」
───光の王を守ったのか。
白との親睦を深めに来たのだから当然とも言えた。
だが、自分が知らない内に白を討つ運命をアデルが請け負っていたとしたら。
連行させることが、黒の王国にとってよかったのか。
「……あの時、俺は───何を選んだんだ?」
泥で汚れた掌を見つめていたその時───
「っ!?」
上から光が溢れ出す。光の中からは一つの影。
体を捻ろうにも、体が激痛のせいか上手く動かせない。
避けることが出来ないまま、上から落ちてくる人間に衝突した。
「……っ?」
目の前が暗い。目を潰されたのかと思うが違う。視力はしっかりとある。ならなぜ───
「……」
自分の頭の部分に手を伸ばす。
「……?」
自分の顔には無い感触が手に広がる。
永遠と触っていたいようなそんな感触。
その正体を確かめるために手を動かす。
───ふにょん。ふにょん。
未知なる柔らかさ、そしてハリのある弾力。
首を傾げ、何度もその正体を確かめるために手を動かす。
「───ひ、ひゃぁあ!!」
耳元で大音量の悲鳴が上がり、後頭部が激しく地面に叩きつけられた。倒れていたにも関わらず、体を殴り飛ばすその力には感服する。
何度もバウンドを繰り返し、檻に激突してから重力に従って地面に落下する。
「……ったた」
新たな衝撃で思考が回復したので、上半身をノロノロと起こす。
目の前に、ペタりと座り込んだ女性。
白の王国特有の巫女服に簡素だが頑丈そうな鎧、剣帯からは黄金の剣。どうしたことか、曰く言い難い怒気の篭った目で睨みつけてくる。顔は真っ赤に染まり、両腕は胸の前で交差されて───
「……ッ!?」
掴んだものの正体を察する。それと同時に、今現在陥っている危機的状況に遅れて気づく。戦いによって鍛え上げられた危機回避施行などさっぱり忘れ去り、壁際まで後ずさる。
「な、なぜ貴女がここに……?」
「……」
アイリスは無言で檻の前に手を翳す。
一瞬、右手が輝いたかと思うと牢獄が夢の中の出来事のように音もなく開いていく。
「は、話はここを出てからします!」
アイリスはここから出るために前進すると───
「あうっ!?」
鉄格子に頭をぶつけ、
「───本当になんで、思ったんだろうか」
溜息をつきながらその場で蹲るアイリスに、ため息を吐きながら近づくアキトであった。