───これは語られなかった可憐な白と寡黙な黒の物語である───
見知らぬ場所で
白猫プロジェクト、というゲームをご存知だろうか。
ガチャ率がものすごく低く、配布キャラだけでは絶対にクリア不能とまで言われたあのゲームだ。配信開始してから数ヶ月ほどでやめてしまったため、現在どうなっているかは不明なゲーム。
さて、なぜこんな話をしているかと言うと。
「白猫プロジェクトの世界に転生したくないですか?」
神々しい雰囲気を放った白い民族衣装を着た美少女が目の前にいたからである。
いきなりなんなんですか貴女。そう呟く前に、少女が口を開いた。
「私は神です」
「自称……ですか?」
「貴女は死にました。それも後ろからスタンガンで気絶されられた後、十字架に磔にされて杭を1本1本───」
「そんなひぐらしみたいな死に方したんですか!?」
「いえ?」
なんなんですかこの人。初対面の人間に失礼だとは思わなかったのだろうか。
「とういうことで白猫プロジェクトの世界に転生したくないですか?」
「どういう経緯でそうなったのかは分かりませんがお断りします」
───あんな最初しか主人公くんが活躍出来ないゲーム転生したらどうなるかわってるんですか?
「ストーリーにしか沿わないんですよね?」
「それはもちろん」
「キャラチェンジとか出来ないんですよね?」
「もちろん」
「…………転生先は?」
「主人公かアイリスですよ、おめでとうございます」
あはは……
絶 対 に 嫌 だ!!
それならバトルガールの世界に行って女の子とイチャコラしている方がいい!私女だけど!!ミサキちゃん可愛いじゃん!!
「……そういえばあなたの経歴を見ていたのですが……女子大生だったんですね、そんな体型で」
「すみませんね!こんな体型で!いたくてこんな体型でいる訳じゃありませんよ!!」
なかなか毒を吐いてくれるなぁこのボンキュボンお姉さんは!!
確かにわたしは幼児体型ですよ!!身長140cmの幼児体型ですよーだ!!
神様ならなんでも許されるのか!?そうなのか!?
「話を戻しますが否定権はないので」
笑顔でよくそんなことを言えますね。あなた悪魔ですか?
「神ですが?」
「……もういいです、どうせ転生は取り消せないみたいだし……せめて主人公転生はやめてくださいお願いします」
「はいがんばってください」
「話聞いてましたかぁ!?」
───こうして、私ことアイリスの一世一代の頑張り物語が始まったのです。
───始まったのですが……
「同情ありがとう───だが、要らん!!」
主人公に似た赤髪の青年がいきなり襲い掛かってくるというのはどういう冗談だろうか。
「地に堕ちてから物を言え!!」
こんな厨二臭いキャラだったかと、思わず頭を抑えそうになる。
ここでは仮に主人公(仮)と名付けるとして、彼が振るうその私強靭な爪が胸元に直撃する───前に、その攻撃は届くことが無かった。
赤髪の青年が縦に割れたからである。
「……!?」
そこから現れたのは黒い頭髪の青年だった。
───女子も羨むであろう白い肌、綺麗な黒髪の一部を赤く染め上げ、その間から覗く黄金の瞳は正に夜空に登る満月。
某キングダムがハーツしそうな改造服の上に必要最低限の鎧を装備し、お世辞にも筋肉があるとは思えない肉体に不釣り合いな黒と赤の巨剣を握った青年が目の前の主人公(仮)を叩き斬ったのだ。
「……ぇ?」
まるで見覚えがない。それは確かだ。それなのに、目前の青年をどこかで見たことがあるような気がしたのだ。
そう、まるでチュートリアルに操作したあの黒髪の───
「……黒、髪……くん?」
少女の口から思わずそんな声が漏れた。
そう、彼はチュートリアル時に操作した黒髪の主人公によく似た人物だったのだ。
「───すまない。アンタを傷つけるような真似をして」
黒の青年は固く閉ざされた口を音をしっかり発音するかのように開いた。
梶ボイス。ということは、この黒の青年が主人公───なのだろうか?
「王を守れ!」
白髪の顔の整った男が少女の目の前に立つ。王という人物が誰なのかは分からないが、鎧甲冑を着た兵士たちが少女を囲うように守備動作に入ったため、少女自身がその『王』であったことを理解する。
「───蛮族め……貴様らは人ではない!!」
「……」
男が黒の青年を睨む。
さすがにこれは頂けない。少女は立ち上がって男を止めようとする。
「ま、待ってくだ───」
「ファイオス!その男を捕らえよ!!」
私の隣に立っていた老人が男改めファイオスに命じた。
「黒のやり口はよくわかった……!僅かでも心を許した───俺が馬鹿だった!!」
黒の青年にその剣先を向ける。
「そっちがその気なら───地上ごと消し去ってくれる!!」
ファイオスの後ろから更にたくさんの兵士が現れ、黒の青年を囲む。
───いけない!このままでは彼が───!!
「……」
こんな状況で黒の青年が何かを呟く。
「……なにを言っている?」
「───言いたいことはそれだけか?」
金色の瞳をファイオスさんに向ける。
その瞳に映し出される感情は───虚無。憤怒も絶望も失望も……何も含まれていない。
思わず背筋に寒気が走った。
───どうして、あんな表情が出来るのだろう。
少女は彼が気になった。
「言いたいことはそれだけか。アンタらだって俺たち黒の関係の無い民を散々虐殺してくれるだろ」
「嘘を附け!我らがそんなことをするはずが───」
「……嘘かどうかはアンタが考えろよ。だがな、これだけは言っておくぞ」
黒の青年は一度言葉を区切るとその言葉を発した。
「───人間の心には光があれば闇もある。それは黒も白も関係なく住み着いている。それは勿論、ファイオス殿。アンタにもだ」
「ほざけ!!」
ファイオスさんが黒の青年に切り掛る。黒の青年は剣を一瞬構え───すぐに下ろした。
「……ぐっ!?」
黒の青年が苦悶の声を漏らし、地面に蹲る。
ファイオスさんはゴミを見るような目で黒の青年を見た後、彼を蹴り飛ばす。
「───連れいけ!!」
「「「「「はっ!!」」」」」
黒の青年はファイオスさんの後ろから現れた兵士たちに担がれ、何処かへと消えていった。
───さて。ここで問題が起こった。
一人取り残された広々とした大聖堂のような部屋で、少女は思わず頭を抱えた。
───私は、アイリスさんに転生したんですよね?
身体を震わせながら自身の手元を見下ろす。
全く見覚えのない黄金の篭手。全く見覚えのない衣装。全く見覚えのない宝剣。
そして、全く知らない壮大な展開
「こ ん な 壮 大 な 物 語 知 ら な い ん で す け ど!?」
小さく呟いてしまうのは仕方ないだろう。
「面目ありません。あの者の真意、気付くべきでした」
さっきの老人が少女に話しかけてくる。残念ながら見覚えはまるでない。
しかし、何かを頼るような目に、少女は何としても答えなければ、と考えてしまった。
「ファイオスが駆け付けなければどうなっていたことやら……」
そんなことは無い。例え、ファイオスが駆け付けなくても、黒の青年が少女を助けてくれていただろう。
「狡猾な相手です。バールを倒した一瞬の隙を狙ってくるとは……」
知らないワードが連続で出てくるあまり、頭痛がした。
「……聞いていますか?」
「聞いていますよ?」
ここはきちんと返しておこう。痛む頭を抑えながら何とか答える。
「おいたわしや……そこまで疲弊しながらあの者の相手を……」
「は、はあ……?」
「表には警護の騎士がいます、ゆっくりとおやすみなさいますよう」
あなたのせいで疲弊しているんですけどね、とは口が裂けても言えなかった。
───とりあえずここがどこだか分からないので探検……でもしましょうか!!
───後に私はこの行為を大きく後悔することになるのだが、この時はまだ何も知らなかったのである……
「あうあうー!どこですかここー!!!!!!!」
───まだ知らないのである。大事なことなので二回言った。
アニメ版ゼロクロニクル絶対許さないあまのです(数年経過した今でも割とキレてる)
ここから下は読んでいない人はネタバレ注意。
と言ってもあとがきから読む変わり者なんて私くらいなんじゃないでしょうか。
今回の転生はゼロクロニクルアイリス。
いきなりアデルに襲いかかられるサイッコーのヒロイン。あとチョロい。
アイリスがアデルにいきなり襲いかかられたことにより、アイリスの意識がどっかいったのでこんなことになった。南無。
一つ気になったのですが、なんで私が書くアイリスさまはいつも変なタイミング、変な場所に転生させられるんですかね。
本作アイリスさまと主人公くんは半ばオリジナルと化しているので気にしたら負けです。