「あっという間でした。時が流れるのは……」
思えば、この世界にやってきたのも二年前。時が流れるのはあっという間であった。結局、元の世界に戻る方法は見つからず、今もアイリス様の体を依代として時代をまたごうとしていた。
「おばあちゃんとか私の友達、元気かな……」
星空を見上げれば、甦る親しかった人達の顔。何もかもが懐かしく思えてくる。もう、戻れないのだろうか。
「……ここにいたのか、アイリス」
そんなことを考えていた刹那、私の後ろに
「アキト」
「こんな所にいたら風邪ひくぞ。早く宿に戻った方が───」
「星、綺麗だよ」
「……確かに、な」
ここの世界は私がいた頃の地球とは星座が違う。完全なる異世界だけれど、星の美しさはどこに行っても同じだった。星に見とれていると、アキトくんが私を徐ろに抱き寄せてきた。突然のことに狼狽する私に、アキトくんは小さく呟いた。
「……ごめん。しばらく、このままで居させてくれ」
「……いい、けど」
「ありがとう」
アキトくんらしからぬ言葉に動揺しつつも、アキトくんの背中に手を回す。アキトくんは黙ったまま私を抱き寄せたままでいた。
何秒、何分か経った頃だろうか。アキトくんはその口をゆっくりと開いた。
「……俺は、この戦いが終わったら、もうお前とは関わらないようにしようと思うんだ」
「……アキト?」
「俺たちは確かに強くなった。かつての力を取り戻し、過去に交わした記憶を思い出し……」
私の場合は、『見せられた』の方が適切である。
「俺は……遠い昔、君との約束を破ってしまった……」
アキトくんはその事を結構気にしてしまっているようだ。
「……『闇の王』と『
溜息をつきながら、アキトくんの両頬を手で包み込むと、そのアキトくんの口を私の口で塞いだ。
「むぐっ……」
「……あのね、アキト。私、怒るよ?」
「ァ、アイリス?」
アキトくんの金色の瞳を見つめながら、小さく笑いかける。
「私はね、アキト。そんな過去とか力とか気にしない。約束なんて、遠い昔の話」
独断で世界を壊滅まで追いやった
「それにね、アキト。世界の均衡を守るためなら、お互い離れていちゃいけないと思うの」
「でも……光と闇は───」
「交わっちゃいけない?そんなことは無いわ」
空を見上げる。
「光は闇があるからこそ輝ける。あの星のように───光だけが強くても駄目」
「……アイ、リス」
「そのためには『闇の王』を倒して、アキトが王にならないと。最高最善の闇の王に。違う?」
アキトくんは私の言葉に一瞬、目を丸くすると力なく笑った。
「お前には助けられてばっかりだな……アイリス」
「ふふん、その通りです。しかも、もしアキトくんが私の目の前から消えるというのであれば地獄の果てまで追いかけてやりますよ」
「……変わらないな、お前は」
私とアキトくんは共に笑うと、その影がまた重なった。