あぅ……疲れました。何なんですかアキトくん。
彼は私に剣術という名の拷問を叩き込んでくれました。先手必勝急所は確実に狙え。クソ野郎ですか貴方は。
「
そんな中私はある技を獲得しました。剣に生命の光を収束させ、放ち叩き切る。その名は───
「───
堀江由衣VOICEで
「……時間がかかりすぎだ」
アキトくんにはそう言われてしまいましたが、これはすごい一撃になると思うんです。チャージに1分ほどかかりますけど。
今日はアキトくんの剣技を見学という形で見ています。私は剣道をしていたので型とかしっかりしていないと落ち着かないのですが、アキトくんは型を取らない俗に言う自由型というやつですね。
構えを取らず隙だらけのように見えますが、彼の野生にも似た動体視力のお陰で攻撃してもすぐ防がれるかカウンターです。一言で言い表すなら虎。
あ。アキトくんがバスターソードを放った。実験になったコボルトさんたちお疲れ様です。ルーンは貴重なレベルアップアイテムなので大事にしていますがアキトくんカンストしてるんですよねぇ……。
「わかったか」
「わかりません」
あんな出鱈目な戦い方を出来るのはアキトくん一人のみかと。本能のままに振るう剣に迷いなんてありませんからね。
「……はあ、教えるのって大変なんだな」
アキトくんの黒いメッシュが風で揺れる。そういえばそれって地毛なんですかね。
「アキト」
「なんだ」
「その黒いのって……地毛?」
「黒いの……ああ」
アキトくんは何かを思い出したかのようなポンと手を打つと自らの持つ剣を見始めた。
「───そうだな。あれは数ヶ月前」
アキトは今日も海辺で鍛錬を積んでいた。巨大な岩を動かし、砂浜を全速力で走り、その後に基礎トレをする。最後に剣の鍛錬に入るのだ。
そんな時間を邪魔する女性が一人。
「ねえ、アキト?」
「……よく飽きないな」
ヘレナ……とか言っただろうか。妙に少年に纏わり付く女性だった。年齢は18という。アキトは碧眼をヘレナに向けながら鬱陶し気に追い払おうとする。
「別にいいでしょう?それになんで人を避けるのかしら」
「俺は遺跡の中で倒れていたんだ。村のみんなも気味悪がっているに決まってるよ」
アキトは目覚めた時、記憶が一切なかった。分かっていたのは自分の名前のみ。ふらつく体を支えながら遺跡の中を歩いているとアキトは2本の剣を見つけたのだ。
それが何なのかはアキトには理解出来なかったが、引き寄せられるように剣に近づいた。
だがそれが駄目だった。剣を握った瞬間、誰かの記憶が流れてきたたのだ。
───黒い鎧を見に纏い、翼を広げ空を駆け抜ける。
───光の速さで幾つもの軍勢を薙ぎ払っていくその姿はまるで鬼神のよう。
───守れなかった少女が崩壊と共に、堕ちていくその姿を見つめる己自身。
これらの事はアキト自身、全く身に覚えがない。だがその顔は自分と同じで。
「……誰なんだろうね。あれ」
「なにかしら?」
「…………。なんでもないよ。それで今日はなんの用だよ」
アキトはバロンと名乗る獅子の青年から渡された翼を模した剣をくるくると手の上で回しながら言う。
ウィングソードと言うらしい。なんでもこの島で1番速い鳥を核に使ったスピードに特化した剣なんだとか。
だが、アキトの力についていけないらしく、5分も使っていれば折れてしまう云わば欠陥品。作った本人は「そんなにヤワな剣ではないのだが……」とのこと。
壊した金はいつも「試作品を試してるんだから。今度はもっと強い剣を作ってくれよ」と言い、アキトは払うことは絶対にしない。
「ふふふ、実はね」
ヘレナは籠の中から壺のようなものを取り出す。
「これをアキトのアタマに塗りたくろうと思って!」
「……何するつもりだ」
「大丈夫!髪の一部分を黒くするだけだから……!」
アキトは頭の中で再び謎の記憶が過ぎる。
……アデル、という名の飄々とした青年が頭の中で駆け抜けた。
「……やめてくれ。アイツと一緒にされるのは……癪に障る」
「あら?アイツって?」
「……俺の嫌いな奴のことだよ」
「嫌いな人なんているのね……あなた」
目的さえ違えたけれど、彼は共に闇の王を目指した同士だった。
彼の最後は記憶の中のアキトに似た青年に斬られ、消滅したのだが。
「前髪だけ!前髪だけでいいから!」
「だからアイツと一緒になるのは嫌なんだって」
「アイツって誰よ」
「……教えない」
所詮、記憶の中の人物なのだから。
「関係ないじゃないですか」
「ヘレナに睡眠薬を盛られて無理矢理黒いメッシュを入れられた。一度入れると落ちないらしいから仕方なくこのまま」
アキトくんの新たな事実を知った瞬間だった。