アイリスが奥の方へと消えていったから十数秒。その場から一切動こうとしないカイルの姿を見て不審に思ったアキトは思わずカイルに訊ねた。
「……来ないのか、ようやく念願の飛行島を見つけたんだぞ?」
近づこうとして、カイルは「来るな!」とただ一喝する。
「悪いなアキト、ここでお別れだ……」
カイルがこちらに姿を見せた時、アキトは思わず絶句した。
「……お前、それは一体───」
カイルの身体の半分ほどを蝕む闇。それのせいでうまく動けないのか。それとも何かと戦っているのか。カイルは脂汗を顔に浮かべ、息を荒くしながらそこに立っていた。
「あのドラゴンは仮の姿に過ぎず、この闇こそが本体だったということさ。そして───次の闇の主は俺だ」
アキトは顔を顰めるとアイリスを呼び戻そうとする。彼女ならば、きっと闇とカイルを切り離せる───。
「やめろ、彼女を呼び戻したところでこれはもうどうにもならない……それに闇が訴えかけてくるんだ。アイリスを殺せ……ってな」
「……っ!」
「どうやらあの子はこいつにとって重要な鍵を握っているらしい」
カイルは壁にもたれかかり、ずるずると地面に座り込む。
「もう一度俺がアイリスを見たら……俺は俺でいなくなるだろう」
アキトはたまらず歯噛みをし、近くの壁を殴った。その拍子で皮膚が破れ、血が溢れる。
「そんなことすんなって。念願の飛行島まであと一歩まで辿り着いたんだ。それだけで十分だよ」
「……畜生、またこれか」
───また救えないのか、俺は。悲痛な声でそう呟くと、カイルは困ったような顔をしてから、何かを思い出したかのように「そうだ」と声を漏らす。
「……お前にこれを渡す」
失念に暮れるアキトの足元にボードのようなものを放る。
「ルーンドライバーって言うものだ……だからそんな顔すんなよ。死ぬってわけじゃないんだしよ……この闇を抑え込んだから───お前らのところに行くから」
カイルは笑いながらアキトをみやった。
「……約束、してくれ。また会えるって」
「ああ。だから振り返るなよ? 俺をお前の足枷にしないでくれ」
「……ありがとう」
「お前らが止まらない限り、俺も進み続ける。だから、止まるんじゃねえぞ。止まったら、許さないからな……!!」
涙を殺す。もう二度と会えないかもしれない。だけど、カイルがそう言うのだ。ならば、その言葉を信じて、進み続けるしかない。アキトはルーンドライバーを拾い上げてから、ゆっくりと駆け始めた。