白猫あうあう物語   作:天野菊乃

2 / 59
改:2023/02/12


アイリス、捕まる。

 あれからかれこれ数時間ほど経過しただろうか。

 キャトラは未だにウネウネとした触手の中にいた。

 アイリスも正座しながら、身体の確認。そこで、アイリスという少女が美少女であったことを再確認した。

 肌ツヤがいいなんてものでは無い。その肌はまるで陶磁器のよう。シミひとつ見つからず、余計なシワもない。それに胸も原作だと控えめな癖にいざなってみると普通にスタイルいい。

 ただ、転生前の身体とは背丈から体付きから何もかも違うので、慣れるのには時間がかかるかもしれない。

 

「アイリスー!! アイリスー!! 」

 

 と、現実逃避はこの辺にして。

 キャトラは今日も元気なようだ。まだこの肉体になってから数時間しか経過していないのだが。いつになったら彼女は触手の養分になるのだろうか。

 無論、アイリスは助けない。転生していきなりあんなことやそんなことになるの嫌なのだ。一生純血でいると決めてから十数年と一日。今考えれば、誕生日の次の日に死んだのか、と思う。

 純血喪失を見るのは好きだが、自身喪失したいかと言われれば話は別になる。オトコハケダモノ。これが世界の真理だ。

 

「……それにしても来ないなぁ」

 

 流石堀江由衣ヴォイス。どんな声出しても可愛いのだ。

 そういえばキャトラも堀江由衣ヴォイスなんですよね。嘘だと叫んで鳥を驚かせてみたいもの。

 しかし、いつまで経っても主人公がやってこない。一体どうしたのだろう。

 

「アイリスー!! アイリスー!!」

 

 主人公とアイリスが出会った時のことを思い出す。

 あれは確かアイリスが気絶して───え? 

 

「まさかこれに捕まれと?」

 

 そこでまさかと思う。もしかしなくてもこの気味の悪いツタに捕まらなければならないのかと。そんなのは絶対に嫌だと思い、駆け出そうとしたその時、私の足を何者かが掴んだ。

 振り向き、足元を見遣れば愉快な───こっちから見れば全然愉快じゃない───ツタがあしにまきついていた。

 

「あ、これ終わった……ここはなんて言うべきなのか……むぐっ!?」

 

 口の中にツタがねじ込まれる。所謂、触手プレイもの。見るのもはばかられていたが、登場人物の女の子たちはきっとこんな気持ちだったに違いない。

 せめてキャトラだけでもと思い、キャトラがいた方を振り向けば白猫の姿は既になかった。

 ああ、意識がどんどん遠ざかる。生まれ変わったら神様の目玉を抉り出して目玉焼きにしてやりたいところだ。

 

 

 

 

 鬱蒼とした森の中を一人の少年が歩いていた。

 少年の名前はアキト。冒険者を夢見る少年である。

 立ち入り禁止区域と言われているこの場所だが、アキトはそんなことも気にせずいつもこの森に潜っては戦闘技術を上げている。

 年々、モンスターたちが凶暴化しているが、彼にとっては格好の餌。自身の力の糧となれと言わんばかりにモンスターを蹂躙していた。

 そんな彼だったが、今日は違った。

 

「……どこなんだ、ここ」

 

 折角迷わないように道を作ったというのにその道が一切見当たらないのである。

 どうやら、モンスターと戦っているうちに道から外れてしまったようだ。

 

「……。どうしたものかな」

 

 後頭部をかきながら周囲を見渡すアキト。草むらの茂みからグレイルジャガーが飛び出してくるも、流れるような動作で一閃。血飛沫がアキトに振りかかるが、もう慣れているのか嫌悪感も出さずに現れる敵を切り払っていく。

 

「……ついてないな、本当に」

 

『黒の剣』。そう呼ばれる剣を肩に担ぎながらアキトは呟く。

 

「遺跡付近まで行けば、何かわかるかな?」

 

 ヘレナという女性に無理矢理入れられた黒いメッシュの部分を弄りながら森の中を進んでいく。

 

「それにしても随分奥まで進んだな。初めてくる場所かもしれないな」

 

 鬱陶しげに呟く。どうやら本格的に迷い出したらしい。夜までに帰れない場合、最悪野宿になってしまう。野営セットは持ってきていないため、正直避けたいところではあるのだが。

 

「……少し急ぐか」

 

 目の前に現れた星たぬきを甲割りで一閃すると、そこから出てきた赤い塊を回収する。

 ルーン。モンスターを倒すことによってで入手できる。赤橙黄緑青紫の6色存在し、それぞれにルーン、ハイルーン、スタールーンが存在する。

 これは赤く丸い形なので、赤のルーンと呼ばれる。

 それを腰に付けあるポーチの中に放り込み、アキトは再び歩き始める。

 しばらく歩いていると、アキトの視界に何かが飛び込んできた。

 純白の白い毛並みに首元には青いリボン。青眼をこちらに向けて悠然と佇んでいたのは───一匹の白猫だった。

 

「……?」

 

 アキトは目をゴシゴシと擦り、再度目の前を見る。変わらずそこには白猫がいた。

 

「……なにかの幻覚か?」

 

 アキトは頭を振り、もう1度目の前を見るが白猫がいる。

 どうしてこんな森の奥に白猫がいるのだろうか。

 

「おい白猫何でここに……って言葉は通じないか」

 

 アキトはどうしたのものかとガシガシと髪の毛を掻く。

 その時だった。

 

「アイリスを助けて!」

 

 鈴のような声がアキトの耳に入った。アキトは目を丸くして白猫の方を見る。

 

「アイリスを助けて!!」

「……幻覚の次は幻聴か。疲れてるのかもしれんな」

 

 アキトは立ち去ろうとするが

 

「着いてきて!」

 

 白猫がアキトのポーチを飛んで奪い、そのまま何処かへと走り去ってしまう。

 アキトはしばらく固まっていたが、やがて何が起こったのかを確認すると

 

「返せこのクソネコ!!」

 

 自身のポーチを奪った白猫を追いかける。

 鬼ごっこを数分続けていく内に開けた所に出た。

 怒りに満ちた表情で周囲を見渡しながら剣を構える。

 

「……どこいった……捕まえたら今日の晩飯にしてやる……!」

 

 青い瞳を怒りの炎で燃やしながら黒の剣を構える。

 ヘレナがこの光景を見たら「どうしてこんな不良少年に……」と泣くかもしれないが、アキトは気にしない。

 そんな中だった。何かが地面に投げれらた。アキトのポーチである。

 

「よくノコノコ出てきたな、今夜の晩飯にしてやる」

「アイリスを助けて!」

「ネコの要件なんて知るかよ」

 

 アキトは剣を振り上げ、白猫の命を狩り取ろうとした。しかし、アキトの攻撃は空を切った。

 白猫が避けたのかと思うが違う、白猫が空に吸い込まれるようにしてどこかへと消えていたのだ。

 

「ギニャァァァァ!!!?」

 

 白猫が吊り上げられた。

 アキトはため息を吐きながら釣り上げられた白猫の方までゆっくりと近づく。

 

「何してんだよお前。逃げるな晩飯」

「見てないで助けてよ! え、って言うか晩飯!?」

「俺のポーチを奪ったんだ。晩飯になれ。それが嫌なら惨たらしく死ね」

「謝るから! 謝るからぁ!! 私とアイリスを助けてー!!」

「断る」

 

 アキトは剣の切っ先を白猫へ向けた。と、その時。

 

『キシャァァァ!!!』

「……うるさいな、なんだよ」

 

 アキトは声の主を見る。

 グラマラス・クイーン。植物の癖に顔がある寄生型植物モンスター。周囲の生態系を破壊するため、危険生物として指定されている。

 

「……邪魔だ。退けよ 」

『キシャァァァ!!!』

「……俺もお前の獲物なのかよ」

『キシャァァァ!!!』

「耳障りだ、失せろ」

 

 アキトは手に力をためると刀身から黄金の光が発生する。

 それを掲げると、黄金の光は天高く伸びる。

 それは叩き斬るためだけに作られた技。その名も───バスターソード。

 

「終わりだ」

 

 光の刃がグラマラス・クイーンの頭部を切断する。東部を失った身体は緑色の血を撒き散らしながら数秒間暴れ、そして力なく地面に倒れた。

 

「……植物系統のモンスターの体液は汚いな」

 

 アキトは剣に付いた緑の血を振り払い、地面へ突き刺す。

 

「おい白猫、生きてるか」

「あ、危ないじゃないのぉ!! 死ぬところだったわよ!! 私とアイリス!!」

「本当はお前なんて助けてやる義理なんてないのに助けてやったんだ。感謝しろよ」

 

 アキトは白猫を自身の顔の近くまで持ってくると、睨めつけた。

 

「それで、そのアイリスって言うのは」

「あ、あそこで気絶している娘よ!」

 

一瞬、アキトの目がアイリスに釘付けになるも、すぐに咳払いをした。

 

「……ふーん」

 

 アキトは興味無さそうに白猫を放るとアイリスと呼ばれる人物の元へ向かう。その際、「ギニャァァァァ!!!」という声が聞こえたが、アキトは無視をした。

 

「叩けば起きるか?」

 

 少女の元まで歩み寄り、生きているか確認するために頬を軽く叩こうとして、思わず手を止めた。

 陶磁のように白い肌。絹のように長い銀髪。均整のとれた身体に、整った顔立ち。どれほどの数の神に愛されたらこのような容姿を手に入れられるのだろうか。

『美しい』その三文字がよく似合う少女が草むらに横たわっていた。

 アキトは数瞬瞑目してから、少女の肩を軽く揺すった。

 

「なあ、あんた大丈夫か」

「……」

「自分の名前はわかるか?怪我はないか?」

「……あと、5分」

「おい」

「っ!」

 

 少女は目を見開いてから飛び上がるように起きると、キョロキョロと辺りを見渡す。そして自分の身体をぺたぺたと触ると、安心したようにため息を付いた。

 何しているんだこいつ、と訝しげに眉を顰めると、アキトは口を開いた。

 

「おい」

「はい?」

「アンタがアイリスで間違いないな?」

 

 アキトは少女を見ながらそう言ったのだった。




改訂:冷徹な主人公から少し冷たい印象を受ける主人公にキャラ像を変更。ただ、こいつは「みんな、いこう!」と言わないところは共通。
主人公はアキトという名前に。容姿はゼロクロニクル時の主人公をそのまま初期状態にした感じです。
赤髪に黒メッシュを入れ、黒の剣を持っている。闇能力は使えないので基本ステータスは1回目覚醒より少し強い程度。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。