ドラゴンクエストアリア ―忘却の聖少女―   作:朝名霧

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第六話 勝利を掴み取れ

 

 まずは先陣を切ってアリアが飛び出す。

 誰よりも先に攻撃できる『疾風突き』で先制の一撃を与える。が、いまいち効果は薄かったようだ。

 

 レックス「そんな攻撃、キカナイ!」

 

 豪快に薙ぎ払ったレックスの攻撃はアリアだけでなく、後方で支援しているシオンにも威力が伝わる。

 アリアは本来の剣士と違い盾を装備していない分、機動力は上がるがその反面防御力はかなり落ちる。そのため一発一発が重く、かつ場所を選ばないような力任せの一撃にはかなり弱かった。

 直撃こそないものの、少しずつダメージが蓄積されていくアリア。

 だがレックスの更なる猛追は続く。よろけた所へすかさず斧を叩きこむとアリアはガードを余儀なくされる。

 レックスの攻撃はアリアの肉体に届くことはなく、我ながらなんとか耐えたとアリアは内心思っていた。

 

 レックス「甘いッ。――もう『一発』ダ!」

 

 なんとレックスの繰り出した攻撃はただの斬撃ではなく、二度相手を斬りつける『隼斬り』だったのだ。

 アリアの担任教師でもあったミラルドの得意技でもあっただけに、見慣れこそはしていただろうが、まさか自分が直接受けるなど夢にも思わなかっただろう。

 完全に予想だにしなかった技をまともに喰らったアリアは、ホールの壁にまで叩き付けられてしまう。あまりのスピードに衝撃を受けた壁が破壊され、パラパラと崩れ落ちる石ころと砂ぼこりがレックスのパワーを物語る。

 

 シオン「今のは不味いよ……! アリア大丈夫!?」

 アリア「イタタ……なんとか、ね。でもホイミじゃちょっと限界あるかな……」

 レックス「お前達、なかなかやる。今の一撃、よく耐えた。でも、そのままじゃいずれ体力も魔力もなくなって負ける。ヘタしたら、死ぬ。どうする、続けるか?」

 アリア「……私が……死ぬ?」

 

 ――逃れられない死。それ以上もそれ以下もなかった。

 今のアリアにとっては、最も心を抉る言葉だったのだろうか。

 これが命を賭した戦いである事は二人とも分かっていた。ましてや学園長の言った通り、この程度の課題すらこなせないのであれば命がいくあっても足りないと。

 ライオウを撃退した時のような不思議な力も、湧き上がってこないまま。

 完全に自力であのレックスを倒さなければいけない現実に、アリアは一瞬ではあれど『降参』の二文字が脳裏をよぎってしまった。

 

 レックス「そのカラダじゃもう無理だ。諦めてかえ――」

 

 しかし、だった。彼女はあくまで『不屈』だった。

 レックスは最後まで言い放てなかったのだ。

 現に年端もいかぬ、たかが少女の不屈なる瞳に、飲まれてしまっている。

 アリアはまだ諦めていない。レックスの斧を握る手の力が未だ抜けない。

 この塔から数多の戦士を送り出してきたレックスの瞳が、勝負はこれからだと告げていた。

 

 アリア「ねえシオン。まだやれるよね……?」

 シオン「僕はほとんどダメージを受けていない。アリアさえ無事なら、何も心配いらないよ」

 アリア「……オッケー。なら『もう一度』よ!」

 

 信じられない。あれだけの絶望的状況から立ち直った、とレックスは驚愕せざるを得なかった。

 これまでレックスは、今のような絶望的状況から逃げ帰る生徒達を何度見て来たか分からない。

 別に勝てないと思った戦闘から逃げる事は別におかしい話ではない。むしろ勇敢と無謀をはき違える愚か者よりは何倍も優秀だ。

 ……だけども、あの二人。特にアリアからは、まだやれるという明確な意志が存在していた。決してヤケになったり自暴自棄に陥った訳ではなく、だ。

 

 レックス「面白い。まだ何か出来るというのならその力、見せてミロ!」

 

 両者とも完全に居直り、アリアは再度突撃を図ろうとする。

 しかし、『待った』と制止をかけたのはシオンだった。

 

 シオン「アイツにパワーとパワーの勝負で挑んだってまた無駄な駆け引きになるだけ。かと言って中途半端な迎撃じゃ焼け石に水。だったら――『ピオリム』を使って、下手に受け身に回るよりも……!」

 

 ――アリアとシオンの素早さが上がった!――

 

 アリア「そうね、ナイスよシオン! なら私も……『コレ』で!」

 

 剣と斧がぶつかり合う反動を利用し、一度大きく間合いを取ったアリアは全身から魔力を漲らせると、握りしめた『はがねの剣』が淡く白い光を纏いながら、鋭い雷気を帯び始める。

 

 レックス「なんだ、そのヒカリは……」

 アリア「私の秘技の一つ、聖と雷の刃『稲妻雷光斬』よ。悪いけど、これで一気にカタをつけさせてもらうわ!」

 レックス「面白いッ! ならオレの炎に耐えられるカ!」

 

 息を大きく吸い込んだレックスは、なんと口から『激しい炎』を吐き出した。

 草木など軽く燃やし尽くしてしまいそうな襲い来る強烈な熱波に、シオンは流石に防御に回ってしまう。

 だが、もう一人の少女は違った。

 

 レックス「なんだとッ! キサマ、オレの炎を正面から受けて、何故!」

 アリア「カタをつけるって言ったでしょ。私は、こんな所で――ッ!」

 

 竜の炎にでさえたじろがない恐るべき少女、いや『聖剣士』は自身の持つ力を振り絞って、全ての試練に打ち勝たんとする。

 渾身の力を込めてアリアが振り下ろした稲妻の刃。慌ててレックスが防御姿勢を取るが、ピオリムによって俊敏さが増した故か、あと寸分かというタイミングで間に合わせられなかった。

 そしてその一撃は正に『会心の一撃』となる。

 連なるようにして直撃したバトルレックスの悲鳴と咆哮が、相当のダメージを負わせられた事の証明だった。

 試練の塔の守護者は遂に片膝を突き、戦闘不能になる。

 

 ――バトルレックスを、やっつけた!――

 

 アリア「や、やったぁ……!」

 シオン「本当に勝っちゃったよ……」

 

 自分達の勝利を噛み締めると、お互いボロボロの身体を見つめ合いながらハイタッチを交わした。

 

 レックス「……よくやった。お前達、強い。ここ、アケル」

 

 全てを尽くして戦った二人に対し、レックスは台座への道を譲る事で賛辞を示す。

 アリアは台座に上る前に、レックスに対してとてもにこやかな笑みで「ありがとう」と、言った。レックスは何も言い返さなかったが、満足に浸った同様の笑みを見せるだけでアリアは十分だっただろう。

 台座に近づくとよりダーマの紋章が鮮明に映るが、それ以外にも気になるものがあった。

 その下には誰かの名前らしき文字がびっしりと掘られていたのだ。

 始めは何の事かと思ったが、すぐに答えが二人には出た。

 

 シオン「今までここに来て、試練の塔を攻略した以前の生徒の名前が書かれてるんだね。何百人いるんだろう……。ほら、よく見ると今のダーマ学園にいる先生たちの名前もあるよ」

 

 自分よりも遥か先に名前を連ねたものが、この名前の数だけいる。

 それは即ち、今の時点では自分らの実力を凌駕する人間が少なくともこの名前の数だけ存在する事実。改めて世の中の広さと、自分がどれだけ矮小だったかを痛感せずにはいられなかっただろうか。

 ――そんな時に、突然謎の光が紋章から放たれる。

 その光は生きているかのように帯状に動き出し、やがてアリアとシオンの右手に紋様を描き始めた。

 

 アリア「この紋章ってダーマにあるのと同じ……」

 シオン「……そうか。これこそが、ダーマに認められた『証』なんだね」

 

 光は役目を終えたように消えると、二人の右手にはエマリー学園長と全く同じ『ダーマの紋章』が刻まれていた。

 それは二人が冒険者として解き放たれた瞬間でもあった。

 先に喜びを噛み締めたのは、もちろんアリアだった。

 

 アリア「……やったぁー! これで私も、世界に旅立てるんだあーっ!」

 

 余程テンションが上がり切っていたのか、一目散にホールを砂塵を巻き上げて全力疾走し、あっという間に姿を消したアリア。

 部屋には終始呆気に取られたシオンとレックスが残るのみだったが、まだあれだけ体力があったのかとこの時ばかりは敵味方関係なく思ったに違いない。

 

 レックス「元気なヤツだ。さあ、お前も行け、少年よ」

 シオン「え、ええ。でもアリアなんか何も言わずじまいでいなくなっちゃって、ホントに申し訳ないったらありゃしないっていうか、ええと……」

 

 先の戦闘で負った傷すらも忘れてしまうくらい、シオンはいつになくしどろもどろだった。

 だけどもレックスは一笑に付すだけ。

 

 レックス「戦いに始まり、戦いに終わる。それが戦士の定め。もう、ここに用はない。久しぶりに楽しめて、よかった。――さあ、行け」

 

 二足の竜は、自らの大斧で彼の行くべき道を照らしだした。

 すると一瞬だけシオンは考える。

 考えた後、全力を以って戦った相手に深く頭を下げると、潔く立ち去ったのだった。

 


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