ドラゴンクエストアリア ―忘却の聖少女―   作:朝名霧

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第三十九話 バミラン潜入 『◆』

 少しだけ、ルイは目線を落とした。

 何か考えているようでも、その顔にほとんど変化は見られない。

 そしてすぐに顔を上げて目線を再び合わせると、ルイははっきりと『女王』に向けて己が答えを出した。

 

 ルイ「……覚悟があるかないのかと言われると、今の私では正直答えを出す事はできません。……でも、不思議とそこに『怖さ』はないのです」

 ミスティア「――どうしてですか?」

 ルイ「……とても簡単な話ですわ。私の前には『アリア』がいてくれるから、です」

 

 面と向かって答えたルイの顔は、とても晴々としていた。

 本当に心からアリアを信頼していなければ表現できない、その顔や声。それこそが、迷いの無い『ルイの覚悟』だった。

 

 ミスティア「信頼しきっているのですね。あの方を」

 ルイ「私をここまで変えてくれたのは、アリアですから……。あの人なくして、今の私はここにいません。だからこそ、アリアが前に居続けてくれる限り、私は安心してついていく事ができるのです」

 ミスティア「……成る程。要は、ルイは私に無いものを既に沢山手に入れていたという事ですね。少々悔しくもありますが」

 ルイ「そ、それはどうかは分かりませんが……」

 

 悪戯っぽい笑みでチクリと皮肉を言ってくるミスティアに、さしものルイもただ苦笑いで返すしかなかったが、どちらにも悪意などはなかった。ただ純粋に友として、先を行かれた気分にどこか寂しさも感じてしまったのだろう。

 

 ミスティア「分かりました――アナタの『覚悟』。女王として、そしてルイの『友』としてしかと受け止めました」

 

 威厳が込められたミスティアの答えには裏も表もなかった。そして、ルイに歩み寄るとそのまま強く抱きしめたのだった。

 

 ミスティア「どうか無事で帰って来るのですよ……」

 ルイ「……当然ですわ。私はこんな所で果てる訳にはいきませんもの……!」

 

 最期に抱擁を交わしたルイは、玉座の間を後にする。

 そして去りゆく友の姿を、ミスティアはただじっと見つめるのだった。

 

 

  

 東から太陽が昇り始めてまだ間もないリュッセルの早朝。

 いよいよ『黄金のティアラ』を奪還すべく動き出したアリア達は、リュッセル東の正門前に集まっていた。

 早く出発したくて仕方ないのか、アリアはそわそわしながら準備体操を中途半端にしたりやめたりを繰り返して気分を紛らわせていた。

 自分達だけで動く冒険や作戦ならまだしも、他の者達と、しかも軍の幹部を交えて行うのはこれが初めて。シオンやルイとて心落ち着かないのは仕方のない事でもある。

 

 ルイ「……来たようですわ」

 

 その一言にアリアもルイの視線の先に目をやると、市街地の奥から数にして若干十数名程の隊を引き連れたダグラスの姿があった。何れも威風堂々とした歩きで、物怖じすら感じさせない風貌にはアリアも圧倒される。

 

 ダグラス「君達が先に来ていたか。遅刻しないかと少々ハラハラしていたよ。……特に『君』はね」

 アリア「『アリア』です! ていうか、馬鹿にしないで下さい! 私だって大事な戦いがあるなら、今日ぐらいしゃきっとします!」

 シオン「その言い方だと普段はだらしないみたいに聞こえるよ……。ところで、街中を堂々と歩いてきたみたいですけど、他の目は気にしなくてもいいのですか? 万が一にでも誰かが監視していたら……」

 ダグラス「その心配は必要ない。この隊は今『レムオル』が掛けられている状態だからな。効果はほんの二、三分程度だが、解除の呪文を持つ余程の曲者でない限り、君達以外に認識される事はない」

 ルイ「その周到さは流石と言うべきですわね。とりあえず滑り出しは順調にいけそうですが……」

 ダグラス「さて……どうかね。全ては君達の働きにかかっているからな。さあ、無駄口もここまでにして早速出発しよう。私等は少し離れた後方から着いて行く。――それと、『コレ』を受け取りたまえ」

 

 芯と覇気が宿った声でアリアにまで歩み寄ると、手渡したのは鈍く黒光りした小柄な『石』だった。

 

 ダグラス「それは『通魔石』と言って、声が届かない場所でもその石を介して会話を可能にする魔法石の一種だ。有事の際にはその石に軽く魔力を込める感覚で、そのまま頭から直接語り掛けるのだ」

 アリア「……分かりました。使わせていただきます」

 ダグラス「では行こうか。盗賊団鎮圧兼、バミラン奪還作戦――『開始』だ」

 

 遂にバミランの街へ向けてアリア達は歩き出した。

 ダンジョン攻略とはまた違った緊張感を背に、少し顔を強張らせながらも、確実に一歩一歩前へと進める。

 

 シオン「ここから先、極力無用な戦闘は避けたいね。『聖水』を振りまいておこう」

 

 袋から取り出したシオンは、小瓶に入った透明な液体の水を自分や二人の身体に振りかけて、魔を払う空間を作り出す。

 その後東に進んでから、早二時間程経った頃だった。

 川のせせらぎの音が三人の右手から遠く聞こえて来ると、誰もが頭によぎったのは『ミランダの言葉』だった。

 彼女曰く「村のそばに流れている小さな川は、村の下水道と繋がっている」との事。となれば、村に大分近づいて来ているこの川の音は、彼女が言っていた川にほぼ間違いはなかった。

 アリアは袋に入れていた『通魔石』を取り出すとそのまま軽く握りしめて、頭の中から直接語り掛けるように念じる。

 

 アリア『――ダグラスさん、聞こえますか?』

 ダグラス『――ああ。特に問題はない、交信を続けてくれ』

 アリア『例の川が見えました。このまま川沿いに進めば例の下水道が見えると思いますので、作戦通り私達が先行しますね』

 ダグラス『――了解した。後は君達の判断で私に指示を送るんだ。くれぐれも早まった真似だけはしないようにな』

 アリア『――はい!』

 

 振り返ったアリアは二人に目だけで合図すると、互いに頷きあい侵入を始める。

 

 アリア「街の門も見えて来たね……。あの入口に立っている『二体のモンスター』がもしかして門番なの?」

 シオン「あれは『トロル』かな。割と上位種に当たるモンスターが門番を務めてるなんてね。『盗賊だから戦闘が苦手』なんて先入観は捨てた方がよさそうだ……」

 

 どれだけ慎重に進んだとしても、歩く音や茂みの音を完全にかき消す事はできない。気配を悟られないように、川の音で誤魔化しつつも慎重にバミランへと近づいていく。

 そして川を上りながら街がほぼ真横に差し掛かった頃、目的のルートらしき場所を見つける事に成功した。

 

 アリア「濁った水が街の方向から流れて来てるね。……ここが例の入口に繋がってるのかな?」

 シオン「淀んだ水の色からして、間違いなく下水だね」

 

 川から横に曲がり、今度は街を正面に見据えながら進んでいく。

 やがて三人の目に飛び込んで来たのは、大人一人がやっと通り抜けられそうな程の大きさしかない『水が流れている土管』だった。

 

 ルイ「こ、ここを通るんですの? うぅ……、また服が濡れてしまいますわ……」

 シオン「ここまで来たからには、何かの縁だと思って割り切るしかないね……。こんな汚れた場所を通ってたら、弱ったミランダさんが病気になるのも無理ないか……」

 

 光が一切差し込まない闇のトンネルを、ルイの『レミーラ』でなんとか照らしつつ通り抜ける三人。途中、ドブネズミが数匹頬を掠めるように横切り、元々暗い場所を得意としないルイはそれだけで小さな悲鳴を上げてしまう。途中にも所々腕の大きさ程の配管があり、この場所は街の人々が使う水が一つに集まったメインの排水路である事も次第に分かって来た。

 

 アリア「見て、向こうが明るいよ! 終わりなんじゃないかな!」

 

 その言葉通りに、今度は縦一直線に伸びた空洞らしき場所にたどり着いた。そして地面と壁を一通り見渡したシオンは、ある一つの解答を導き出す。

 

 シオン「どうやらこの場所は元は『井戸』だったみたいだね。足元を見ても水は全く湧いてないから、大分前に井戸としての機能を果たせなくなって、やむなく排水路と連結させたって感じかな……」

 ルイ「という事は、この上がもうバミランの街ですのね……」

 シオン「街の外をモンスターが見張ってたように、きっと中もモンスターが徘徊してると思う。僕が最初に周りの様子を見るから、その後二人も登って来てほしい」

 アリア「分かった。……今度は慎重にね、シオン!」

 シオン「はいはいっと。二度も同じミスは繰り返しませんよ――っと!」

 

 上から垂れてくるロープに捕まると、器用かつ軽快に登って行き、あっという間に井戸のてっぺんまで登り切ると、もぐらのように頭だけをひょっこりと出して慎重に周りを見渡しながら、安全だと判断したシオンは街の地面に足をつける。

 幸運にも街の片隅に備え付けられていたこの古井戸は街にある建物の陰に存在していて、今回のような潜入から始まる作戦には打ってつけのポイントだった。

 しかしあくまで前回の経験も踏まえて油断をする事はせず、周囲に最大限の注意を配りながらも二人にも上って来るように合図をする。

 最初にルイ、最後にアリアも上り切ると、遂に三人が街の内部に足を踏み入れた。

 

 アリア『――街の内部に入りました。このまま作戦通りに、まずは周囲の様子を確認しながら『黄金のティアラ』の場所も探りますね』

 ダグラス『――分かった。私達は入口に立つあのトロルがぎりぎり見える位置で待機している。また何か動きがあったら教えてくれ』

 

 交信を終えたアリアはダグラスも待機している事を二人に伝えると、いよいよ本格的に動き出す。




 キャラクターデータ
 
 アリア(♀)
 性格:いのちしらず
 職業:剣士
 特性:攻撃力10%UP
 武器:はがねのつるぎ +33
 防具:はがねのよろい +21
 装飾:天竜のペンダント
 Lv:16
 HP:128
 MP:63
 攻撃力:97(+9)
 守備力:59
 ちから:64
 すばやさ:39
 みのまもり:38
 かしこさ:29
 うんのよさ:25
 
 シオン(♂)
 性格:ぬけめがない
 職業:アーチャー
 特性:素早さ20%UP
 武器:狩人の弓   +38
 防具:みかわしの服 +28
 装飾:疾風のリング すばやさ+15
 Lv:17
 HP:100
 MP:76
 攻撃力:78
 守備力:56
 ちから:40
 すばやさ:67(+28)
 みのまもり:28
 かしこさ:39
 うんのよさ:30
 
 ルイ(♀)
 性格:がんばりや
 職業:賢者
 特性:消費MP3/4減少
 武器:チェーンクロス +25
 防具:悟りの衣    +33
 装飾:なし
 Lv:15
 HP:80
 MP:109
 攻撃力:57
 守備力:61
 ちから:32
 すばやさ:47
 みのまもり:28
 かしこさ:104
 うんのよさ:66

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