ドラゴンクエストアリア ―忘却の聖少女―   作:朝名霧

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第三十七話 妙案

 アリアも丁度戻って来た所で、一堂に会したタイミングで改めて自己紹介をする事にした。カイトの母親であるミランダはシオンが調合した薬を飲んでから以後、元気な姿を完全に取り戻し、今度は未だ度重なる疲労で眠っているカイトをベッドに寝かせる事にしたのだった。

 ルイは流石にこれ以上畏まられても居辛くなるのを予想してか、王家の出自である事は隠したが、アリア達と同じヴェストガル大陸からやって来た事を明かす。

 

 アリア「いやーでも、まさかここまでの大冒険になるとは思ってなかったよ。この街でカイト君に出会って、ホントに色んな事経験したなあ……」

 ミランダ「あなた方には本当に感謝してもし切れません。私で何か役に立てる事があるならば、一生をかけて誠心誠意尽くす事をお約束しますわ」

 ルイ「そんな……。私達はいわば目の前で倒れている人を助けようとしただけの、人としてごく普通の事をしたまでですのに……」

 シオン「ミランダさんの気が収まらないというのも分かるけどね……。では、一つお聞きしたいのですが、ミランダさんかかっていた病気は恐らく酷く環境の悪い場所で生活していた為にかかってしまった病気かと思われるんですが、何か心当たりはあるのですか?」

 ミランダ「私が病にかかった心当たりですか……」

 

 ベッドの横にあった椅子に座っていたミランダは顔を俯きながらも、恐る恐るといった口調で語り出す。

 

 ミランダ「元々私達はこのリュッセルで過ごしていたのではなく、ここより東に進んだ地にある『バミラン』という比較的小さな村から半年ほど前にやって来たのですが……」

 

 それから彼女は村が今どれだけ治安が悪く過酷な目に合っているか。生活すらもままならなく村を抜け出したいと思う村人が後を絶たないか等、全て包み隠さずにアリア達に打ち明けた。

 盗賊団の事を他の者に妄りに告げ口した場合、村人の命は保証しないなどど脅されてはいたが流石にこの家までには盗賊団の手は差し迫っていなかった事に安堵したのかそれも同様に三人に明かす。

 

 アリア「ひどい……! 自分達の都合の為にお金を巻き上げるだけじゃなくて、奴隷みたいな扱いを毎日しているなんて……!」

 ルイ「うまく逃げおおせる事はできたにしても、劣悪な環境に蝕まれた身体まではなんともなりませんでしたのね……」

 シオン「村一帯の命運が本当にその『盗賊団』の手中にあるとするなら、中々の規模を持った連中なんだろうね……。ミストラルの軍が手を出しづらいのも、村そのものが人質になっていると考えたら、思い切った行動に踏み切れないのも分かる」

 ルイ「軍が駄目ならば、腕の立つ冒険者を雇えばいいのではありませんの?」

 シオン「……どうだかね。盗賊団だってその辺くらいまでは考えてると思うよ。となれば、少なくともリュッセルに登録されている冒険者はほぼ連中に顔を割られてると踏むべきだろうね」

 アリア「じゃあ私服で村に入って潜入捜査!」

 シオン「うーん地道にやるとしたらそれくらいしかないんだろうけど、どちらにせよ身バレした時のリスクが怖いし、何より連中の幹部やボスをピンポイントで倒せるだけの強さや手際を持っている人がいるのかどうか……」

 

 三人が考えを張り巡らせてもどれも有効打になる決め手が思い浮かばない。結局どの作戦を立てるにしても、最終的には村人を盾に取られる前に少人数で素早くボスを叩く実力の持ち主でなければ成立しないからだ。

 

 シオン「それに潜入するって言っても、見知らぬ人が突然来たら街の入口で結局手下か門番がチェックするだろうし結局思うようには行動できないだろうね……」

 ミランダ「――いえ、それに関しては案外そうでもありません」

 

 ここで意外な答えを返したのは、ミランダだった。そしてそれは、思わぬ所で希望が舞い降りる。

 

 ミランダ「村のそばに流れている小さな川があるのですが、実はその川は村の下水道と繋がっているのです。何を隠そう私とカイトも、その下水道を通ってここまでやって来たのですから……」

 

 それは、万全かと思われた盗賊団の布陣にもわずかな綻びが見えた瞬間だった。そうなると、曇りがちだった三人の瞳にも自然と光が戻る。

 

 ルイ「でもまた下水道ですのね……」

 アリア「し、仕方ないよ……。盗賊団の目から逃れるだけ良しとしないと……」

 

 ともあれ、これで最初の足掛かりは掴む事ができた三人。

 後は内部の実態を探り、黄金のティアラを初めとした盗品の在処も極力早く見つけ出さなくてはいけない。

 

 シオン「じゃあ早速今度はミストラル城に行って、アジト潜入の細かい打ち合わせもしないとね」

 アリア「うん、そうだね。ミランダさん、元気になって本当によかったです。また縁があればお会いしましょう……!」

 ミランダ「も、もう行ってしまわれるのですか? 大したお礼もできずに……」

 ルイ「アリアが行くと言ったら、私達の役目も終わりましたのよ。どうかこれからもお身体を大事になさってくださいませ」

 ミランダ「本当に何から何まで有り難うございます。アリアさん達の事は、一生忘れません。機会がありましたら大したおもてなしはできませんが、どうか是非……またいらしてください」

 アリア「はい、また必ず来ます。約束します!」

 

 長居する余裕もなかった三人は、少々忙しなくも未だ深い眠りにつくカイトを横目にミランダの家から立ち去る。『また逢う』というほんの小さな契りを交わして。

 そして、街からルーラでアリア達が飛び去ると、その後ろ姿が見えなくなるまでミランダは微笑んだ顔のまま見続けているのだった。

 

 

 

 ミスティアの下へ戻った三人は、彼女の驚いた顔にアリアが少し誇らしく思いながらも早速アジトへ突入する為の作戦を練り始める。例によってミスティアの右腕とも呼べるダグラスも同席する事になる。

 軍に関しては予めシオンが予想した通り、盗賊の連中がバミランの人々を人質として悪用する事は容易に予測がつく事から、街へ突入するのはあくまで最終手段という形を取っていた。冒険者を介した陽動作戦もこれまたリュッセルにあった冒険者リストが何者かによって盗まれていたが、その『何者か』はこの期に及んで誰もが言うまでもなかった。

 

 ダグラス「奴らの情報に関してはこんな所だな。今の所は人数を最小にまで抑えた潜入で直接頭を叩くのが最良という判断になっている」

 ルイ「迂闊に手下どもに手をつけたら上が何を次にしでかすか分かりませんものね。……『やられる前にやる』の典型ですわね」

 アリア「力押しなら大得意だよ! 私に任せて!」

 シオン「……そういうのとは違うと思うな」

 

 妙にやる気に満ちたアリアはさておき、今回の戦いは今までのダンジョン攻略などとはまったく種が異なる戦いである。ただ単に敵を倒せばそれでいい、という訳にもいかない、ある意味かなり気づかいが求められる繊細な作戦だった。

 

 シオン「街に巣くっているであろう盗賊団は、相当の確率で外部からの者に敏感になっていると思われます。幸いミランダさんから下水道から街へ侵入する事ができる情報を得る事ができて、バミラン内部に入る事そのものは簡単でしょう。……でも問題は街に入った『後』です」

 ミスティア「街のあちこちにも見張りはいると思った方がよろしいでしょうからね。それに関しての打開案は浮かんでいるのですか?」

 シオン「――はい」

 

 誤魔化しや見栄などではない、確かな心でシオンは強くミスティアを見つめた。

 ――そして次に放った言葉は、

 

 シオン「簡単な事です。僕達が、『モンスター』になればいいんですよ――」


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