ドラゴンクエストアリア ―忘却の聖少女―   作:朝名霧

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第三十話 登山前夜 『◆』

 シオンの患部手当とアリアの回復呪文の甲斐あって、何とか大事には至らず、今は穏やかな寝息を立てながらぐっすりと休んでいた。

 運び込んで来た当初はあまりのルイの憔悴ぶりに慌てふためくアリアに、実の所ルイの手当てよりも彼女を宥めるのに苦労したシオンだったが、なんとか双方を落ち着かせる事に成功する。

 そんな彼の甲斐あって、今では何事もなく時間は過ぎて行った。

 

 シオン「しかし、やっぱりというかアリアの勘は大したものだね。僕だったら多分気付けずにルイを見殺しにしていた所だったよ……」

 アリア「……別に確信があった訳じゃないの。帰りが遅いなと思い始めたら、そこから妙に胸騒ぎがしたというか……。とにかく無事で本当によかった……」

 シオン「街からはそんなに離れていなかったし、特に危険そうな場所でもなかった。……だからこそ、ルイも不意打ちを喰らったんじゃないかと思うけどね」

 アリア「逃げたらダメだって思っちゃったのかな……。そこまで無理しなくてもよかったのに……」

 

 二人はその後も考えられる範囲の予想をしていくが、どうしてあそこまでの痛手を被る事態になったのかが、今一つ浮かばなかった。

 

 ルイ「――メタルスライムに会ってしまったんですのよ」

 

 そんな二人の話す声につられたのか、はたまた事情を説明せねばと躍起になって無理矢理身体を起こしたのかは分からないが、そこには既に意識が覚めたルイの姿があった。

 二人からしたらまさかこんなに早くと思った意外な声の主に、ぎょっとした顔のまま、揃って振り返ってしまう。

 彼女が運び込まれてから、時間は幾ばくも経っていない。その証拠に起き上がったばかりのルイの瞼は二重になっており、半ば夢うつつのままだった。

 

 アリア「ダメだよちゃんと休んでないと……まだ傷が癒えたばかりなんだから」

 ルイ「いいえ、もう本当に大丈夫ですの。心配をおかけしましたわ……」

 

 ここまで世話になってしまったからには、詳細を説明する他なかった。

 二人に少しでも追い付きたくて、無茶な修行をしてしまった事。母の背中を求めるあまり焦ってしまった事。メタルスライムと出逢った末にモンスターとの乱戦になってしまった事。

 そのどれもを包み隠す事無く、不甲斐無い面持ちのままに告白した。

 

 シオン「今回はまた随分と無茶をしたね……。今回メタルスライムに会ったのは偶然とはいえ、確かに地下水脈を通った時もメタルハンターがいたから、その前兆があったと言えばあったんだけども、まさかルイが出くわしてしまうとは想像もつかなかったよ……」

 ルイ「面目ありませんわ……。結果的に無様な姿を晒す事になってしまいましたし……」

 アリア「……肝心のメタルスライムはやっつけられたの?」

 ルイ「え、ええ。一匹だけですけども、なんとか意地でもと思って……」

 アリア「本当にやっつけちゃったの!? ルイすごいじゃん! もしかしてかなりの経験を積めたんじゃないの? 雰囲気もさっきと比べたらなんだか、凛々しい感じもするし!」

 

 ベタベタとあちこちを触って来るアリアにやめてほしそうな顔をしていたが、何度も命の危機を救ってくれた彼女を無下に扱う訳にもいかずに、結局成すがままだった。

 

 シオン「アリア……一応まだ怪我人なんだから扱いは優しく、ね?」

 アリア「え……? ああ、ごめんね! 私ったらまたバカな事しちゃって……!」

 

 それほどにまで嬉しかった事の裏返しなのだろうが、『怪我人』という言葉にいち早く察してか、素早く身体を引き離すアリアだった。ルイとて勿論、アリアの気持ちは痛い程にまで理解できていたからこそ、悪戯っぽい感じでいくら触られてもその心には不満などは全くなかったのだ。

 

 シオン「さて、結果オーライに終わった事だし、今度こそ僕等も寝ないとね。明日からはもっと厳しい冒険が待ってるんだ」

 ルイ「そうですわね。早く寝ないと……ってアリア? ……どうして『私のベッドに潜り込んでいる』んですの?」

 アリア「だって、最近ルイが隣に来てくれないから横がスース―しちゃって寂しいんだもん」

 

 そういって強引にルイの隣に寝るアリアの顔は、実に楽しそうだった。

 こんな状態になった時のアリアはシオンでも止められない。現に、彼は既に自分のベッドで早くも就寝しており、寝息を立てる背中が『諦め』を表している。

 

 ルイ「でも……アリアの背中、あったかいですわ」

 

 後ろから羽交い締めにされる格好で横になっていた二人は、お互いの視線が合わないままに言葉を交わす。

 

 アリア「私もだよ。本当に間に合ってよかった……」

 

 後ろから抱きしめるアリアの力が増すと、ルイもその存在を確かめるように、優しくもしっかりと握り返す。

 互いが互いを想うばかり、どちらにもみっともない姿など見せられない。

 それでも死力を尽くさなくして、自分を乗り越える事は中々にできる物でもない。だが本当に死んでしまっては元も子もない。そんな廻りに廻った感情の螺旋に一番悩んでいたのは、他でもないルイだった。

 自分が少しでも奮起しなければという気持ちから起こってしまった今回の出来事だが、シオンの言う通り結果オーライに終われた事で最後は全て良しと繋がったのだろう。

 ふとルイが気付けばアリアもルイを抱くようにしながら眠りについていた。

 元々カイトの母親の命が迫っていたのもあり、内心かなりの重圧を抱え込んでいたアリアは今回の一件でかなり気を遣わせてしまった事を心から反省するルイだった。

 

 ルイ「心配かけてごめんなさい……。でも――この借りは必ず返しますのよ。私の、王家の名に懸けて……!」

 

 その瞳は遥か遠くを見つめ、かつてない信念と決意にルイは満ちていた。

 

 

  

 メンディルで迎えた翌朝。

 三人の中で最も早く目が覚めたのはルイだった。

 その10分後くらいにはシオンも同様に目を覚ましたが、二人がせっせと朝の準備をする中未だに夢の世界にいたのはアリアだった。

 布団をめくったり、頬を軽くぺちぺちと叩いて起こそうとするが一向に状況が変わらない。

 

 シオン「まいったねこりゃ……起きる時はすぐ起きるんだけど、こりゃ『不味い』パターンだよ……」

 ルイ「アリアが起きないんですの?」

 

 こくんと頷くシオンは困った顔をしていた。心労も祟って疲れを少々引きずってしまったのだろうが、およそ30分後にはここを出ないといけない。だがこのままでは30分はおろか、一時間経ったとしても果たして起きられるのか怪しいすらもあった。

 

 ルイ「でしたならば……私に『考え』がありますのよ?」

 

 意外にも助け船を渡したのは他でもないルイだった。 

 そして自信たっぷりなままにアリアの元に近寄ると、そのまま耳元に口をあてがい、軽くすうっと息を吸い込むと――

 

 ルイ「アリア『助けて』ぇ!」

 アリア「……えっ!? 待ってて、今助けるからねっ!」

 ルイ「……『ご覧の通り』、ですわ」

 

 ――お見事です。とシオンのささやかな拍手がルイに贈られた。

 そして当の本人はというと、「ふぇ?」と間抜けな声を出すばかり。

 名だたる聖地に挑戦しようかという前振りにしては、とてもお粗末な幕開けとなってしまったのだった。

 

 シオン「さあほら、いつまでも寝ぼけてないで早く出発するよ! カイト君のお母さんを助けるんでしょ!」

 アリア「はーい……頑張る。ここが勝負所だもんね……」

 

 いよいよ、かの霊峰ウィンディアへ挑戦する瞬間がやって来る。

 その先に何が待ち受けていたのは、三人にとってどれもが予想もつかない数々の『試練』だった。




 キャラクターデータ
 
 アリア(♀)
 性格:いのちしらず
 職業:剣士
 特性:攻撃力10%UP
 武器:はがねのつるぎ +33
 防具:はがねのよろい +21
 装飾:天竜のペンダント
 Lv:15
 HP:115
 MP:54
 攻撃力:86(+8)
 守備力:52
 ちから:53
 すばやさ:29
 みのまもり:31
 かしこさ:23
 うんのよさ:17
 
 シオン(♂)
 性格:ぬけめがない
 職業:アーチャー
 特性:素早さ20%UP
 武器:ショートボウ +25
 防具:みかわしの服 +28
 装飾:疾風のリング すばやさ+15
 Lv:16
 HP:93
 MP:69
 攻撃力:60
 守備力:50
 ちから:35
 すばやさ:55(+27)
 みのまもり:22
 かしこさ:31
 うんのよさ:24
 
 ルイ(♀)
 性格:がんばりや
 職業:賢者
 特性:消費MP3/4減少
 武器:チェーンクロス +25
 防具:悟りの衣    +33
 装飾:なし
 Lv:14
 HP:75
 MP:101
 攻撃力:50
 守備力:59
 ちから:28
 すばやさ:43
 みのまもり:26
 かしこさ:97
 うんのよさ:61

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