ドラゴンクエストアリア ―忘却の聖少女―   作:朝名霧

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第二十二話 煌めく指輪 『◆』

 モンスターと真っ向から対峙したアリアは、敵に切り込む少し手前の所で、強く立ち止まる。

 

 シオン「アリア! ――分かってるとは思うけども!」

 アリア「大丈夫、魔力はほとんど使わないよ……っと!」

 

 立ち止まるという表現は少しばかり違った。彼女はそうしたのではなく、大きく『踏み込んだ』のだ。

 大胆に踏み込んだステップは勢い余って、身体だけは慣性に従って前に出ようとする。

 しかし、その勢いを殺す事なく身体をぐるりと捻らせ回転させる事で、やがて一つの強い遠心力となった。

 本来槍などのリーチが長い武器で行使する筈の『薙ぎ払い』は全ての敵を斬り裂き、最も効率的にダメージを与える手段となった。

 

 ルイ「攻撃範囲の広いブーメランを使ってる訳でもありませんのに、あんな最小限の魔力で一度に全ての敵を……流石ですわ」

 

 全体に攻撃できたとは言っても、まだそのモンスターも生き残っている。攻撃の反動で大きく隙を晒したアリアを見逃す訳もない。

 機敏なメタルハンターが、剣の他に併せ持つ弓矢を引き絞ってアリアを狙い撃つ。一瞬の間に放たれた矢はアリアの胸を貫こうとするが、届く事はなかった。

 後方から同様に飛び出した矢が、寸分の狂いもなくお互いにぶつかり合いしっかりと相殺されていたのだ。誰が放ったかは今や言うまでもない。

 そして、持ち前の素早さで間髪入れず第二撃を繰り出したシオンは、群れて固まっていたしびれくらげとデスキャンサーの急所を的確に突いて仕留める。

 攻勢の手を緩めないアリアも、そのままメタルハンターに突撃。力任せに振るった一撃は鋼鉄のボディをも容易く斬り裂いて破壊した。

 

 ルイ「これで終わらせますわ……『メラミ』!」

 

 最後に残った体力の高いくさった死体も、単体に特化させた炎呪文の前には消し炭と化した。

 

 ――魔物の群れを、やっつけた!――

 

 シオン「ほとんどが初見の敵だったけど、何とかうまくやれたね」

 ルイ「できれば呪文を使わずに終わらせたかったですけれども……。私も物理面をもっと鍛えなくてはなりませんわね」

 

 一戦だけで見ればほとんど使っていない魔力でも、長丁場の探索になればなるだけ、そのたった一回の積み重ねが後半に大きく影響する。

 常に余力を残した立ち回りを求められるのも、冒険する上では必要不可欠なのだ。

 

 アリア「いつ何処で強いモンスターに出くわすか分からないもんね。私も飛ばし過ぎないようにしないと」

 

 モンスターの気配もひとまず収まると、立ち止まる数分の時間すらも惜しまれる一行はすぐにその場を後にする。

 

 シオン「しかし、この感じだととても地上に出られそうな場所は見つけられないかな……。地上を探し過ぎて道に迷ったら、それこそ本末転倒だしね」

 アリア「洞窟の中でどこか落ち着けそうな場所を見つけたら、そこで休んだ方がいいのかな? 私は大丈夫だけど、ルイはそれでもいいの?」

 ルイ「……正直に言いますと、やはり今まで城の中での生活だったので、不安はやっぱりありますわ。一応野営に関する本もある程度は読み漁ったので、知識だけならあるのですが……」

 

 長旅をする以上は、野営の一つや二つなどは当たり前である。

 ましてや目的地までの距離が明確にならないのであれば、なおさら無理などできずに余裕を持って探索を切り上げるのが普通なのだが、こればかりは自らの手で経験しないと、本で得た知識だけでは到底安心できるとは言えないだろう。ルイもそれを察知していたからこその不安だった。

 

 シオン「幸いというか、ここなら水はいくらでも確保できる。もちろんそれを見越した準備だってしてあるから、安全な場所さえ見つけられればその辺はあまり心配しなくてもいいかな」

 ルイ「ありがとうございます……。本当に助かりますの」

 

 まずは方向を見失わない事を最優先にしつつ、野営地の確保に努めなければならない三人はできるだけ視野を広く持ちながらも川の流れに沿って進んでいく。

 ――そんな時に、アリアはある何かを見つけた。

 

 アリア「ねえねえ、よく見たらすぐ横に奥に続いてそうな道があるよ?」

 シオン「……本当だ。暗くて分かりにくかったから見つけられなかったのかな」

 

 他の分岐路の入口と比べると人が一人分入れそうな幅しかなかったが、たしかに奥へと繋がってはいた。

 

 ルイ「どうしますの?」

 シオン「一応調べてみようか。あまり目的地から逸れる様だったら引き返そう」

 

 一同はお互いに頷きあい、奥へと進む。

 

 アリア「く、暗いねー。ちょっと灯りが無いと辛いかも……」

 ルイ「私の『レミーラ』でしたら、このくらいの場所なら灯せますけども……」

 

 いくら簡易的な呪文でも魔力は確実に消費する。まして本道から外れているこの道は、ただの空振りで終わる可能性も考えると二つ返事でシオンが了解するのもはばかられてしまう。

 

 シオン「でも仕方ないか……。万が一落とし穴があったり、この暗闇でモンスターから奇襲を受けたらそれこそ一大事だ。……ルイ、お願い」

 ルイ「分かりましたわ。……『レミーラ』!」

 

 真っ暗な闇に、温かい橙色の魔力を伴った灯りが染み渡る。

 よく見るとすぐ途中で行き止まりになっていたのだが、最も奥には何やら『箱らしきもの』が置かれていたのだ。

 

 ルイ「あれは……、もしかして宝箱ですの?」

 

 所々錆びていたり、埃も完全に被ってしまっていたが、間違いなくルイが言った『それ』に違いなかった。

 

 アリア「うそー本当!? ダーマで勉強した時は正直迷信って思ってたけど、本当にあるんだー!」

 

 急いで開けようと、アリアは欲望に目が眩んだ状態で宝箱を開けようとする。

 ――が、その手はすんでの所でぴたりと止まった。

 

 シオン「……今回はひとくいばこじゃないと思うよ。安心して開けて」

 アリア「よ、よかったぁー……」

 

 二人は何の話をしているのかとルイは素っ頓狂な顔をする。その間にもアリアは宝箱を開けてしまった。

 そして、中に入っていたのは。

 

 シオン「なんだいそれ。……『指輪』?」

 

 それは一羽の鳥を象って装飾された、銀色に輝く指輪だった。

 見た目こそ至ってシンプルなものの、錆び付いていた箱とは裏腹にこの指輪だけはまるで世界から切り離されたように、輝きを一切失わせずにいる。

 

 ルイ「もしかしてそれは、『疾風のリング』ではありませんの?」

 アリア「なんか聞いたことあるような……身に着けると身体が軽くなるんだっけ?」

 ルイ「直接的な効果という意味で言えば、そうなりますわね。その指輪に込められた魔力で肉体にかかる負担を軽減させて、より素早さを高める作用がありますのよ」

 アリア「やったー本物のお宝だよー!」

 シオン「……って事は、この場たとアリアが装備するのが総力面では一番いいのかな?」

 アリア「そうなのかなー。どれどれ……」

 

 煌めく疾風のリングをアリアはまじまじと見つめて、指にはめ込むかどうかしばらくの間迷っていた。

 結局、最後までそれをはめる事はなかった。

 そして、そのまま立ち上がるとシオンに軽々しく手渡してしまう。

 

 シオン「……僕が装備しろって言うのかい?」

 アリア「この場で今一番倒れちゃったら困るのはシオンだからね。私が万が一倒れても、シオンやルイだったら助けを呼べに行けるかもしれないけど、シオンがやられちゃったらどうしようもなくなっちゃうからね。……だからシオンが装備して!」

 

 言われるがままになってしまったシオンは、強引に押し付けられるままに仕方なく受け取る。

 シオンもシオンで本当に装備していいものか一瞬こそ迷いはした。が、そこは彼の切り替えの早さだった。

 

 ルイ「やはりその合理的な所はシオンならではですのね。私もシオンが装備して正解だと思いますわ」

 シオン「そ、そうかい? まあそこまで二人が言うんなら……」

 

 狼狽えるシオンがやけに珍しかったのか、二人は顔を見合わせてせせら笑ってしまう。

 やがて紅潮したままに外に出てしまったシオンを慌てて追うように、三人は宝箱のあった部屋を後にした。

 




 キャラクターデータ
 
 アリア(♀)
 性格:いのちしらず
 職業:剣士
 特性:攻撃力10%UP
 武器:はがねのつるぎ +33
 防具:はがねのよろい +21
 装飾:天竜のペンダント
 Lv:13
 HP:107
 MP:48
 攻撃力:78(+7)
 守備力:46
 ちから:45
 すばやさ:29
 みのまもり:25
 かしこさ:20
 うんのよさ:14
 
 シオン(♂)
 性格:ぬけめがない
 職業:アーチャー
 特性:素早さ20%UP
 武器:ショートボウ +25
 防具:みかわしの服 +28
 装飾:疾風のリング すばやさ+15
 Lv:14
 HP:87
 MP:63
 攻撃力:52
 守備力:46
 ちから:27
 すばやさ:45(+24)
 みのまもり:18
 かしこさ:27
 うんのよさ:20
 
 ルイ(♀)
 性格:がんばりや
 職業:賢者
 特性:消費MP3/4減少
 武器:チェーンクロス
 防具:悟りの衣
 装飾:なし
 Lv:8
 HP:48
 MP:59
 攻撃力:41
 守備力:47
 ちから:16
 すばやさ:26
 みのまもり:14
 かしこさ:58
 うんのよさ:35

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