ドラゴンクエストアリア ―忘却の聖少女―   作:朝名霧

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第十五話 これこそ王女の本領発揮

 翌朝を迎えた。

 アリアとシオン、それにルイも新たに加えた三人は大通りの前に立ち並び、これからの大まかな方針を決めていた。

 

 シオン「まずは昨日も言った通り、港町エルマータに行って、船でエトスン大陸に向かおう。その後商業都市リュッセルに向かってミストラル王国が現状の最終目的地となる。……て感じでいいのかな、ルイ王女?」

 ルイ「そうですわね。外に関する情報ならあの大陸が一番有力な場所ですし、アリアに関する手掛かりも何か掴めるかも知れませんわ。……それと、シオンさんも私の事は呼び捨てでも構いませんのよ?」

 シオン「……そうだね、これからは一緒に旅をする仲間だ。じゃあ僕の事も呼び捨てでって言う事でどうかな?」

 

 お互いに納得し合った表情を見て、アリアも肩の荷が降りたといった所だった。

 

 アリア「そういえば定期船っていくらお金がかかるの?」

 ルイ「ええっと確か……一人あたり3、400ゴールドくらいだったかと思いますわ。もしかして手持ちが足りませんの?」

 シオン「えっとどうだっけ。ダーマを出てからお金がいくらあるか全然見てなかったね。……僕としたことが」

 アリア「エマリー学園長から旅立つ時にもらったお金はまだあるんじゃないの?」

 シオン「そりゃまあ、あるけども……」

 

 エマリー学園長から「門出を祝して」と1000ゴールドを貰っていたのは、大きな助け舟となった。これだけあれば、道具を必要最低限ならば買うのにも困らないし何より宿にありつけるのは非常に大きい。

 これにアリアとシオンの手持ちを合わせて合計で1340ゴールドだった。銭袋に入った黄金色の財宝を見つめてアリアは終始うっとり。

 しかしルイは、アリアとは真逆の苦い顔つきだった。

 それもそうだろう。このままでは船代でほとんど使い切ってしまうからに他ない。

 

 アリア「ねえねえシオン、せっかくだし何か武器防具見にいこうよ!」

 シオン「……まあ見るだけならいいけど」

 

 がっくりしても知らないよと、言いかけたのをシオンはあえて飲み込んだ。

 ここは一つ、外の世界をあまり知らないアリアの為にも社会勉強の一環として現実を見せてやるのも一興だと、シオンは思ったからに違いない。

 

 アリア「うそ……『鉄の鎧』が1200ゴールド? え、こっちの『破邪の剣』に至っては4400ぅ!?」

 シオン「まあこうなるよね」

 

 武具屋の主人からしたら、突然名もなき少女が鼻息荒くして突っ走ってきた少女を見てなんたるやと思っただろう。終いにはがくっと膝をついたり、店主ではなく相方に対してこの値段はなんだと怒鳴り散らしたりと、最早一人芝居の境地である。

 

 シオン「僕たちの何気なく装備してるこれだって、本来はかなり高価なものなんだよ。武術大会の優勝賞品の『鋼の剣』だって、もちろんいい値段がするよ」

 アリア「そんなぁー……。折角新しい剣が買えると思ったのにぃー……」

 

 買うつもりだったのか。と言いかけた他二名だった。

 

 ルイ「まあまあ、武器に関してはこれから新しい街にいくんですし、それから考えればいいのですわ! 今私は5600ゴールドありますけれど、どうしてもとアリアが仰るのでしたら、お城の方からお金を引き出しても……」

 シオン「いや、それはアリアが自堕落になっていくだけだからお気持ちだけで!」

 

 未練がましく武器を見つめるアリアをシオンはとりあえず引っ張っていった。この場にいたらいつまでたっても先に進まないだろう。

 

 ルイ「と、とりあえず街から出たほうが良さそうですわね……」

 シオン「エルマータはここから東に進んだ場所だったね。ささ、行こう行こう!」

 

 その後、街中にとてつもなく少女のデカい声が響いたとか響かなかったとかで、一日の噂を持ち切ったグランダリオンであった。

 

 シオン「それにしても、街の人達も王女の旅立ちだって言うのに、誰も見送る人がいなかったね」

 ルイ「お父様にお願いしておいたのです。私が旅立つ事はどうか身内だけの内密にしてほしいと」

 シオン「それでも誰かしら勢い余って、声援の一つでも送るものなんじゃないのかい?」

 ルイ「今まで外に出る事などほとんどありませんでしたもの。外に出たとしてもお城の裏から直接ルーラで飛び立ってましたから、民衆の目に留まる事はほとんどなかったんですのよ」

 アリア「そうだったの……。でも、ルイは本当にそれでいいの?」

 ルイ「いいのですわ。その方が正直気楽ですし、何よりアリア達がいるから寂しくはありませんの」

 アリア「……そっか! じゃあルイ、改めてよろしくねっ!」

 ルイ「ええ……! こちらこそですわ!」

 

 街を出てからは三人は終始和やかな雰囲気で、新たに加わったルイが一人いるだけでこうも賑やかになるのかとアリアは感心していた。

 ルイもルイで初めての旅に疲れの色が見えるかと思えば、そんな事はなかった。

 歩き始めて1時間以上は経つが今の所疲れている様子は特にない。

 これならばと、普段用心深いシオンにも期待を膨らませた。

 そんな時に『奴ら』は早速現れた。

 

 ――魔物の群れが現れた!――

 

 アリア「げぇ、出たあッ!」

 シオン「結構数が多いね……」

 

 バブルスライム、ベビーゴイル、ギズモ、ブラウニー、とさかヘビ。

 数体ずつ現れた面々は、見るだけでも思わず逃げたくなるような数の多さだった。

 

 シオン「今なら手こずりはしないけども、無駄に体力やら消耗するのはね……」

 

 戦い慣れた二人は逃げるか戦うか悩んでいる所に、冷静な声を出したのは意外にもルイだった。

 

 ルイ「――大丈夫ですの。私に任せてください」

 

 強気な発言と共に、なんとルイは無防備にモンスターの大群と対峙する。

 危ないとアリアが制止しようとしたその時、ルイの右手に魔力が集まっているのに気付く。シオンも同様だった。

 まさかと思った。その『まさか』だった。

 

 ルイ「――吹き飛びなさい。……『イオ』!」

 

 高圧縮された魔力の塊が、破裂するように弾け飛ぶ。

 威力と鋭さを伴った爆発は三人の前に立つモンスター全てに被弾すると、あっという間に完全に沈黙する。生き残りはいなかった。

 

 ――魔物の群れをやっつけた!――

 

 ルイ「さ、これで心配ありませんわ。先を……アリア?」

 

 ぷるぷると身体を震わせるアリアにまさか調子づいた事をとルイは勘繰るが、それはただの杞憂に終わる。

 

 アリア「すごいよルイ! あんなに大量のモンスターを一瞬で!」

 ルイ「い、いえ。魔力に余裕がありそうでしたから使ってみただけですの」

 シオン「……そうか。昨日の洗礼の儀で積まれた経験が生きてるんだね」

 

 目をキラキラと輝かせて感動するアリアは、夢見る少女さながらだった。

 誰しも己の命を賭し、立ちはだかる壁とぶつかり、そして超えられればその分に値するだけ成長する。

 それはルイとて例外ではない。ゴーレムと相対し、掴み取った勝利は確かな『経験の糧』となっていたのだ。

 

 ルイ「といっても、相変わらず連発は厳しいですけれども……。なんだか中途半端で申し訳ないですわ」

 アリア「そんな事ないよ! すごい嬉しかった!」

 

 言葉通り余程嬉しかったのか、アリアによって羽交い締めにされるルイ。

 そんな光景にすっかり慣れ切ってしまったシオンだが、不思議とアリアと同じような気持ちだった。

 彼女は最早ただの王女ではない、れっきとしたパーティの一員なのだと。

 そう強く感じずにはいられなかった。

 

  

 

 三人が港町エルマータの視界に入った頃にまず感じたのは、さり気ない潮の香りだった。

 近づけば近づくほど、見下ろした港の向こう側にある水平線がより鮮明に見え、太陽の光を反射して照らす大海原は圧巻の一言に尽きた。

 大小様々な船が港を出ては入り、入っては出てと、この街がヴェストガル大陸の玄関口と言われるだけの事はあった。

 貿易港としても機能しているであろうこの街には、ダーマはもちろんの事グランダリオンとはまた一風変わった人々が行き来する。

 

 アリア「見て見てシオンっ! この魚なんていう名前だろーねー!」

 シオン「遊びに来たんじゃないんだから……。今の時間に船は出ているのかな?」

 ルイ「朝方になってそれほど時間は経っていませんから、今なら多分大丈夫かと思いますわ」

 

 大きな船が停泊している岸辺の近くに丁度時刻表らしきものがあった。

 ルイの予想通りに間もなく出港する便があったため、やや急ぎ足で受付らしき場所へと向かう。

 

 アリア「すみませーん。三人今の便に乗りたいんですけどー!」

 受付「分かりました。三人で1500ゴールドになりますがよろしいですか?」

 

 1500という数字を聞いて、ルイ以外の二人がぎょっとする。

 当然だった。二人の額合わせても1500ゴールドには届かなかったからだ。

 しかし、目の前の現実に意気消沈するそんな不幸な二人にも『女神』という存在はいたようだ。

 

 ルイ「1500ゴールドですわね。……これで合ってますか?」

 受付「……はい、丁度ですね。ご利用ありがとうございます」

 

 なんの迷いもなく差し出したルイには、二人とも感動し涙するしかなかった。

 

 ルイ「な、なんだか二人とも気持ち悪いですわよ……。それにしても、普段の相場よりも高い気がするのは気のせいですの?」

 受付「ここ最近、海の魔物の数が増えてきておりまして……。船に置く警備兵の数も増員せざるを得なくなったために、今現在値上がりしているのです。どうかお気をつけて」

 ルイ「そうでしたの……分かりましたわ。ご忠告痛み入ります」

 

 では早速船に乗り込もうとルイが振り向いたら、二人はまだ泣いていた。

 流石にこればかりはただ苦笑いするしかなかった。

 

 シオン「なんて僕達は無力なんだぁ……!」

 アリア「お金の神様ぁールイ様ぁー!」

 ルイ「変なコト言ってないで早く行きますわよっ!」

 

 まさか一番旅慣れていないルイが二人の背中を無理矢理押すなどとは、本人にとっては夢にも思わなかっただろう。

 ルイは七面倒な気持ちをなんとか抑えつつも、ようやく船内に入った三人だった。


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