三の種族が生きる、三の世界があった。
其は、蒼い海が澄み渡った地上界に住みし人間族。
この世界を分かつは、護られし四の源。
――大いなる地が根付きし『ヴェストガル』――
――優雅なる風と豊かな水育む『エトスン』――
――血すらも凍てつく氷と雪に覆われし『ノアニエル』――
――荒れ狂う炎と砂が舞いし『スルアース』――
其は、地の底に深くまどろむ魔界に住む魔族。
この世界を分かつは、七の本能。
――傲慢が蔓延りし『プライディア』――
――怠惰に沈み切った『スロウシア』――
――色欲が司りし『ラスティア』――
――嫉妬で塗り固められし『エンヴィア』――
――憤怒が逆巻きし『ラーシア』――
――強欲が求められし『グリーディア』――
――暴食を命じられし『グラトニア』――
其は、遥か空の彼方に浮かぶ天界に住む天竜族。
この世界、決して分かつ事なき一の理。
――悠久の彼方に浮かびし『アルデリット』――
三の世界は、『天』のとある意思の下に創られたとされ、それぞれが互いの道を歩むとして当初は期待を馳せていた。
だが、所詮は根に秘められた想いが違う種族。そんな『天』の理想は長く続く筈もなかった。
光無き世界、『魔界』の民が渦巻く怨念は底知れず、それによって巻き起こった遥か昔から続く天竜族と魔族の争いは留まる事を知らず、狭間に位置する『地上界』と人間族をも巻き込みながらも争いは続いていく。
そんな不条理な運命を背負った地上界で生きる、自らの出生と過去を知らない一人の少女『アリア』から、物語の歯車は唐突に回り出す。
彼女もまたその戦禍に巻き込まれている一人に過ぎなく、騎士生として通う魔法騎士学園ダーマから始まった一つの戦いは、心も体も実り切らない少女ながらにして巻き込ませる事になってしまった。
しかし、これこそが彼女にとって全てのきっかけとなり、いつしか世界の果てへと辿りつかせる事になるとはこの世の誰もが思っていなかった。
アリアの原点は、物心つく前に亡くしてしまった『母からの遺言』だった。
過去を忘れた少女の根底にある、一つだけ残滓として残った一片の言葉。
『いつか自分と向き合う時が来たら、世界をその目で見てほしい』と、その一言だけを母はアリアの胸に深く刻み付けていた。
アリアが母の言葉だけを頼りに旅をし、仲間と出会い、戦いを経た末に見つけるモノは何なのか。
そして全てを知った時、世界の命運とどう向き合うのか。
忘却の彼方に消え去ったアリアの記憶を求める旅が、静かに幕を開ける。