ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

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この小さき花々に活力を2

「そういえば、智花は学校でお花係をやってたんだよね」

「は、はいっ……私にはあまり似合わないかとは思うんですが、家でもお母さんやお父さんも大切に育ててますし、色んなお花を見るのが好きで……」

「俺は智花と花の組み合わせはすごく似合うと思うんだけどな。名前にだって花がついてるくらいだしさ」

「えへへ……昴さんにそう言って頂けると嬉しいです……あ、そういえば昴さんから頂いた二つ名にも花って付けて頂いてましたね」

 彼女の言うように、偶然にも俺が彼女に授けた二つ名にも花の一文字がある。

 智花の大切な母親の花織さんも…気づくと彼女の周りには花がいっぱいだ。

 

「智花は自分には似合わないって言ってても、花の方が智花を囲んでしまってるみたいだね」

「はぅ……ちょっと恥ずかしいですけど……でも、どれも私にとって大切な花ですので、手放せませんね」

 冗談めかして言った言葉に、智花は幽かに頬を染めながらも嬉しそうに呟く。

 うん。やっぱり智花には花が似合うな。

 たとえ智花の近くに彼女を彩る花がなかったとしても、彼女自身が綺麗な小さな一輪の花そのものだから。

 

「ところで花の水やりって言ってたけど、まさか全部一人でやるつもりだった?」

 まだ俺自身が把握し切れてないけど、初等部だけでもかなり広い面積だし、それを一人でやるのは時間がいくらあっても足りないだろう。

 

「いえ。ちゃんとクラスごとに分担してますので、そんなに大変ではないですよ」

「それなら安心かな。でも、俺に手伝えそうなことあったら、なんでも言ってね」

「はいっ ありがとうございます。昴さんっ」

 二人で笑い合った後に、話題が途切れ沈黙が訪れる。

 俺の方はそれほど苦痛な物ではないんだけど、自分から花の話題を振っといて、それほど知識を持ってなかったのは失敗だったかもしれない。

 

「あの……昴さん……」

 不意に智花が口を開く。

 どうやらこの沈黙に耐え切れずに……という様子ではなく、何か思いついたようだが、口に出すのを躊躇している感じの呼び方だ。

 

「ん? 何か思いついたことがあるなら、遠慮せずに言っていいよ。智花のためにできることなら俺はなんだってしてあげるよ」

「いえ……そうではなくて、ですね……」

 ありゃ? 俺への頼みごとかと思ったが、ちょっと失敗。いったい何を迷ってるんだ?

 

「昴さんがいらっしゃるのに大変申し訳ないのですが、少し真帆達と相談をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 取り出した携帯を胸の前で両手に抱えながら、不安そうに俺を見ている。

 

「そんなの別に気にしないで好きに使っていいって。智花の大切な友達なんだから、俺よりみんなのことを大切にしなきゃ」

 生真面目すぎる彼女を安心させるように軽く笑い飛ばすように返した。

 

「ありがとうございますっ。それでは少しだけ失礼しますねっ――でも……昴さんのことも同じくらい、大切に想っています……よ? ……はぅ」

 しっかり俺へのフォローも忘れない優しさ。

 俺もこういう細かな気配りができるように、ちゃんと見習わないとな。

 

 携帯の操作を始めた智花は年相応の微笑み交じりの可愛らしい表情になっている。

 失礼かとは思ったけど、智花の笑顔が気になって目が離せなくなってしまった。

 少しだけ智花の表情を見させてもらおうかな?

 運が良ければ、智花の普段見ることができないような顔が見れるかもしれない。という興味が抑えられなくなってしまっていた。

 

「うん……うん……」

 小さく頷きながら優しそうな笑顔と反比例するように、かなり速い速度で携帯を操作している。

 

「ふぇ? ……………はぅ!? !!……………ん!!」

 おそらくまた真帆か紗季にからかわれてしまったのだろうか?

 一瞬驚いたような顔をしたかと思うと、急に顔を俯かせ体を小さく震わせている。そして一気に顔を上げたかと思うと、最初に見た以上に更に早い速度で携帯を操作し始めてる。

 

 連絡が一段落したのか、携帯から目を離し、ゆっくり顔を上げると俺と目があった。

 

「はぅ!?」

「ご……ごめん」

 なんでかよくわからないけど、謝ってしまった。

 いや、携帯を操作している智花の顔をマジマジと見ていてしまったのだから、謝らないといけないんだけど。

 

「もしかして、また真帆達にからかわれちゃった?」

「は、はい。少しだけ……よくお分かりになりましたね?」

「な、なんとなくね……」

「もぅ~いつも二人とも私のこと、からかってばっかりなんですよ」

 口を尖らせてはいるが、両手で持っていた携帯を大事に胸に抱きしめ、嬉しそうな表情をしている。

 

「その割には嬉しそうだったよ?」

「えへへ。からかわれるのは恥ずかしいですけど、みんな大切な友達ですから。もちろん昴さんもですっ」

 わざわざ気遣って俺を入れなくてもいいのに。

 智花が俺を入れてくれたこと自体はすごく嬉しいけど、やっぱり小学生の中に入るのは、少しだけ引け目を感じてしまうな。

 俺という余計な存在がいない彼女達五人が本来の姿のはずなのに。

 

「こんなこと昴さんに言うのは、とても失礼なことだとは思うのですが……」

「ん?」

「今だったら、わかるんです……もしあの時、私達のバスケが終わってしまったとしても、きっとみんなと何か新しい目標に向かって頑張れてたんじゃないのかな? って」

「うん。君達五人だったら、絶対そうなってた。俺が断言するよ」

 例えバスケでなくても君達五人の絆は絶対に揺るがない。

 新たな目標ができたのなら、それに向かって五人全員がみんなを想いながら一生懸命に頑張る。きっとそんな未来があったと思う。

 

「――でも、やっぱり私はそんな未来は嫌です。大好きなバスケができないのもですが、今みたいに昴さんが隣にいて下さらない未来なんて耐えられませんっ」

「ありがとう、智花。実は俺も似たようなこと考えたことあったんだ。でも、智花がそう言ってくれるんなら、俺もすごく嬉しいよ」

 そうだよな。智花が、みんなが俺のことを受け入れてくれてるんなら、なんの引け目も感じる必要なんてないよな。

 俺は俺の意志で堂々とみんな――小学生達の中に入らせてもらっていいんだよな。

 

 よし、そうと決まれば、俺もみんなに負けないくらい、どんどんみんなの中に入って深い繋がりと絆を作り上げてみせるぞ。

 

「……! あ、あの……す、すばるさんっ」

「!? ご、ごめん!!」

 気づくと俺は両手を伸ばして、彼女の両手を包み込んでいた。

 付け加えて言うなら、今彼女の両手は携帯を胸の前で抱えている。

 小学生の胸元ギリギリまで手を伸ばしている、その姿は第三者が発見次第、即通報待ったなし。

 

「……びっくりしちゃいました……」

「本当にごめん!! 智花の話聞いてたら、智花も携帯の向こう側の真帆達のことも今まで以上に大切に想えてきちゃって、無意識に手を伸ばしてしまっていたんだ! 間違っても智花に変なことするつもりはなかったんだ、頼むからどうか信じてくれ!!」

 智花は両手で携帯をしっかりと握りしめながら呆然と立ち尽くしている。

 頼むからその携帯で三ケタの数字を押すのだけは、どうか許してほしい。

 

「へ、変な……こと……はぅ!?」

 ピンポイントで拾った単語から、何かを想像してしまったのか、不意に目線が下――胸のあたりに動くと、ビクりと一度体を震わせる。

 

「本当にそういうことをするつもりじゃなかったから、お願いだからどうか信じてください!!」

「だ、だいじょうぶ……です。す、昴さんがそういうことをする方ではないと、私が一番よく知っていますから……それに…………」

 最後の方だけ聞き取れず、しかも何故か幽かに表情が暗くなってしまっているようだったが、そこを気にする余裕がなかった。

 とりあえず、智花が俺の言葉を信用してくれたことに心から安堵する。

 

「俺の方から言うのもずるいんだけど、話を少し戻させてもらってもいいかな?」

 いつまでもお互い気まずい空気のままにするよりは、さっさと話題を転換した方がいいだろう。

 

「は、はい。なんでしょうか?」

「俺が聞いていいのかわからないし、答えられないなら、それだけ教えてくれるだけでいいけど、真帆達と何の連絡してたのかな?」

 午後から部活があるから、多分そのことだとは思うけど、それなら俺も把握しておきたい。万一プライベートのことだったら、間違っても答えさせるわけにはいかないが。

 

「あ、そうですね。昴さんにも知って頂いた方が良かったかも。真帆とひなたも飼育係の仕事があるので、それぞれで別れて先に終わった方が相手の方に行って合流しましょう。っていう相談をしてました」

「うん。さすがみんなチームワークばっちりできてるね」

「えへへ。そ、それで…その、飼育係の方が人手がいるみたいでして、申し訳ないのですが、お花係の方は私と昴さんの二人で大丈夫でしょうか? みんな勝手に決めてしまって……」

「俺はかまわないよ。もともと智花を手伝うつもりだったんだし」

 多分、真帆がヌシとの雪辱を果たすべく、強引に決めちゃったんだろうな。

 まぁ、飼育係の大変さは身をもって味わってるし、もしかしたら俺も飼育係を手伝った方がいいかもしれないけど、智花を一人にはできない。

 紗季もそう判断したってことだろうから、多分、このチーム分けがベストなんだろう。

 

 そもそも俺があのヌシの姿を見てしまうと嫌でも、あの時の事が――いやいやいやいや、ヌシが脱走しただけで特に何もなかったぞ。うん。

 本当にひなたちゃんに何事もなくて良かった。あれだけは本気でシャレにならないからな。

 まぁ、ヌシもひなたちゃんにだけは懐いてるみたいだから、大丈夫だろうけど。

 

 智花もちょっとだけナニカを思い出してしまったみたいだけど、わざわざ確認することでもないし、この話はもう終わらせてしまおう。お互いのためにっ。

 

「それじゃ、話もだいぶまとまったみたいだし、午後まで久しぶりにゆっくり過ごそっか」

「はいっ 午後からもよろしくお願いしますね。昴さんっ」

 気づくと午後の予定も埋まりつつあるな。

 まぁ、その午後までまだ時間が余ってるわけだが、

 外はいくらか止んできてはいるけど、まだ雨が降っている。

 

 せっかくだし、もっと智花といっぱい話をして、まだ俺が見たことのないような彼女の部分をたくさん知りたいな。

 ふと、あることを思いつき、智花を机の前の椅子に座らせると目の前のパソコンを起動した。

 これなら、最初に俺が持ち出した話題でもネタ切れになる心配もないだろう。


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