ロウきゅーぶ!短編集   作:gajun

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いつもと違うシチュエーションで少しだけ背伸び

「どうだ智花」

 いつもの……いや、いつも以上に大きくパンパンに張りつめた物を智花の眼前に突き出す。

 これを見た時の智花がどんな表情をするかが楽しみになってしまい、俺自身も相当興奮して、つい驚かすような出し方をしてしまった。

 

「すごい……いつも触り慣れてるものとはまるで別物です。とっても硬くて大きくて……私にはまだ扱い切れないかもしれませんが――だけど、すぐにでも試させて欲しいです!」

 小柄な見た目通り、普段は自分の気持ちを抑え過ぎてしまうところがあるが、やはり大好きなことに対してはとても積極的で、ひるむことなく俺に想いを告げてくれる。

 

「ご、ごめんなさい。私、気持ちが焦ってしまいました………すぐにでも昴さんとしたい気持ちが抑えられなくなってしまって……はぅ」

 

――が、どうやら自分が勢いで口走ってしまったことを恥じてしまったようだ。

 

 頬を赤らめ蚊の鳴くような声で呟いているが、それでも無意識に、その小さな手で優しく大切な物を撫でるような動きは止まっていない。

 口ではこう言ってても、やっぱり体は正直なんだな。と思わず嬉しい笑みを零しながら智花を見ているが、智花は俺の視線には気づいていない様子でそれを撫で続けている。

 

「気にしてなくていいよ。俺だって智花とするの大好きだし………だけど、こっちの準備は見ての通り万端だけど、智花の方もちゃんと準備を整えないとな」

 胸から沸き上がる感情が抑えきれず、すっと彼女へと手を伸ばす。

 

「あ……そ、そんな昴さんのお手を煩わせなくても……ひ、一人でできますよ……」

 遠慮がちに断られたが、多分今の智花なら簡単な説得ですぐに俺にも手伝わせてくれるはずと判断し言葉を続ける。

 

「それはわかってるんだけど、俺も手伝った方が早くできるだろ。俺だって今すぐにでも智花と楽しみたいんだからさ。それに二人でいっぱい楽しみたいだけなのに、万一智花の準備が不十分のまま始めて智花に痛い思いなんかさせちゃったら、責任感じちゃうし、俺ももっと丁寧にするべきだったって自分を許せなくなっちゃうよ。」

「ずるいです。そんな言い方……絶対断れませんよ」

 言葉は不満そうだが、口調はとても嬉しそうだった。

 

 再び智花に指先を伸ばしていくが、今度は止められることなく、智花のとても柔らかな部分に触れることができた。

 

「ん……昴……さん」

「無理しないで痛かったら、正直に言ってくれよ? 本当に智花を傷つけたくないんだから」

「大丈夫ですよ。昴さんには、いつもとても優しくして頂いてますから。もっと強くしてくれてもいいくらいです。」

 

 それじゃ、遠慮なく行くぞ。と、

 智花の後ろに回り込みベストポジションを取った俺はグッと力を込め―――

 

 

―――智花の背中を押した。

 

 

「やっぱいつみてもすごいよなー。ほんと体柔らかくて羨ましいよ」

「そうでしょうか? 私たちの中ではひなたが一番ですけど……それに昴さんも十分柔らかいと思います」

 普通に自分のバスケをする分には支障がない程度は維持されてるとは思うが。

 智花はそう言ってくれるけど、やはり小学生のとても柔らかな体に比べれば俺なんかガチガチだろう。

 俺も智花くらいの頃にはきっとそれくらいの柔軟性はあったと思うんだけど、やっぱ技術を求めるだけじゃなくて、その頃からストレッチもしっかりやっておくべきだったよなぁ~

 

「……あ、あの……昴さん?」

「ん?」

 俺の下にいる智花が何故か小さく震え声で俺を呼ぶ。

 

「そ、そろそろ手を離して頂けると……」

「あ……ご、ごめん! もしかして痛くしちゃった!?」

 慌てて彼女の小さな背中に押し付けていた両手を離す。

 俺の両手には智花の温もりがしっかりと残ってしまっているあたり、無意識に何度も彼女の背中を押してしまっていたのかもしれない。。

 感触は……うん。ただちに記憶から抹消しないと。

 

「大きいけど、とても優しくしてくれたので、ちょっとドキドキ……い、いえっ! しっかり背中を押して頂いたので、十分体も温まったと思いますっ」

「そ、それならよかった。うんっ。それじゃさっそく始めようか。今日はちょっとだけいつも違うシチュエーションになるけど、智花だったらすぐに慣れると思うよ」

 いつものミニバス用に設定した位置よりも更に高い場所にあるゴール。

 ついでにボールも最初に智花に確認してもらった通り六号玉だ。

 

 ボール自体はマネージャーになるって言い出した葵から「私にはあんまり必要ないからあげる」と言われもらったというか、一時的に借りてるだけだが。

 葵だって、自分の気持ちに正直になって、いつ再開できるかわからない男バスのマネージャーよりも女バスに打ち込んでもらいたいんだけどな。

 そう言ったところで殴られるか蹴られるかして終わるだけだろう。

 今は時期尚早なだけだろうし、もう少しの間だけ智花のためにも、ありがたく貸してもらうことにしよう。

 

「ちょっとだけ早いけど、智花もこれで大人の仲間入りだ」

「えへへ。まだ小学生ですけど、少しだけ背伸びをした気分です」

 さすがに家じゃコートの広さまでは再現できないけど、今後中学以降はボールの大きさもゴールの高さも変化しない。

 試合時間は高校まで少しずつ伸びていくけど、それは追々。

 

「中学生になったら、昴さんと同じゴールの高さで一緒にできるんですよね」

「そうだね。ボールの大きさは残念ながらちょっとだけ違うけど」

「うぅ……そこだけは本当に残念ですっ。もう少しだけ私が早く生まれることができたら、中学生の昴さんと本気の勝負ができたかもしれないのにっ」

 男バスと女バスは中学までは六号サイズだが、高校以降は男子だけは七号サイズと一回り大きな物を使用することになっている。

 

「それだと俺と会えたかもわかんないよ?」

「あはは。そうですよね……それに、私は自分が生まれた時に生まれることができて本当に良かったって思います。いっぱい辛いことや後悔したこともありますけど……それでも真帆に紗季に愛莉とひなた、みんな大切な友達です。それに、昴さんに出会うことができましたから」

みんなとの大切な思い出もっとたくさん作っていこうな。そんな想いを込めながら、自然と智花の髪を撫でると智花も嬉しそうに目を細め、撫でられることを受け入れてくれた。

 

――そこで、ようやくあることに気づいた。

 

「あれ? もしかして髪……切ってたり……する?」

 正直、かなり自信がない。撫でた時の髪の感触がいつもとちょっと違う気がする程度だ。

 そんなかなりあやふやな言葉なのに、急に智花が驚いたように目を見開いた。

 

「あ……は、はいっ!! 気づいて頂けたんですねっすごく嬉しいです!!」

「智花の髪を撫でた時にようやくだけどね。本当は今日会ってすぐに気づくべきだったんだけど、俺って鈍いからさ」

「そんなことないですよっ。昴さんが私のこと、ちゃんと見て頂いていたんだって思うとすごく嬉しいですっ」

「それなら良かったけど……よし、それじゃ、そろそろ始めよっか」

 

 今日の朝練の智花は今までにないくらい絶好調だった。

 またしても危うくガチで抜かれてしまいそうになったが、なんとか踏みとどまることができた。

 

「はふぅ……やっぱ昴さんはすごいです。一気に深いところまで入られちゃいました」

「智花だって、最近はようやく良く飛んでくれるようになったよね。智花が飛ぶところ、いつみてもすっごい綺麗だったよ」

 お互いのプレーを賞賛し合ったところで、激しく攻め合いで汗まみれになった智花にシャワーを浴びてくるように浴室へ送り出す。

 

 

「さすがに疲れたし、少し水分補給を……」

 台所に向かう途中で「すみませーん」とやや遠慮がちだが、明らかに助けを求めている感じがする智花の声が聞こえた。

 

――事前にはっきりと言っておく、そんなつもりはなかったんだ。

 ただ助けを求めている智花の声が聞こえたから。という理由で俺は一切何も気に掛けることもなく、思わず声が聞こえてきたドアを開けてしまったんだ。

 

 ドアを開けてしまった瞬間俺は凍りついた。

 

 目の前には俺の予想通り助けを求めている感じの智花がいた――ただしバスタオル一枚しか身に着けていない状態で。

 

「ふぇ? ……すばるさん? ……きゃあぁぁぁぁぁ!?」

 智花の悲鳴にハッと我に返る。

 そして、少しでも自分の体が俺に見えない様に慌ててしゃがみ込もうとする智花を認識した。

 

――待つんだ智花。その格好で俺の目の前でしゃがむのは本気でヤバい!!

 

「ごめん! 智花!! 本当にごめん!!」

 慌てて後ろを向き、すぐに脱衣場から退出しドアを勢いよく締める。

 ドアの向こう側からは智花の恥ずかしそうな呻き声が聞こえ、より一層罪悪感に苛まれる。

 それでも俺の頭の中には直前の映像が――智花の少しだけ赤みを帯びた細く白い肩や鎖骨回り。普段から見慣れているはずの膝元やふくらはぎ全てが色っぽく見えてしまっていた。

 いや、ダメだ。こんな映像はすぐに脳内からDeleteだ。完全消去だ。

 きつく目を閉じ激しく頭を震わせ、衝撃で記憶を彼方へ消し去る――消し飛ばした……はず。

 

「と、智花?」

 恐る恐る声を掛けてみるが、なかなか返事が返ってこない。

 とうとう完全に嫌われてしまったかと思い始めた時に、ようやく聞きたいけど、聞くことに対して罪悪感を感じてしまう声が俺の耳に届いた。

 

「す、昴さん……は、はしたない姿を見せてしまいまして……失礼しました……」

「いや、謝るのは俺の方だって。許してもらえるとは思わないけど、本当にごめんな。すぐに忘れるようにするから」

「そ、そうして頂けると助かります……そ、それで……その、お願いしたいことがありまして……」

「俺に償えることだったら何でも言ってくれ」

 今のこの状況だ。例えどんなことだろうと、智花のお願いだったら二つ返事で即答してしまう自信があった。

 それくらいのことを仕出かしてしまった自覚くらいある。

 

「実は石鹸が無くなってしまってまして、お風呂場にある物をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「へ? それくらいだった別に構わないよ」

「すみません、シャワーまでお借りしてるのに図々しく……」

「そんなこと気にしなくていいよ。家にある物なら何でも遠慮なく使っていいから」

 ありがとうございます。それではお借りしますね。という智花の言葉に続き、ドアの向こうのさらに奥のドアが開く音が聞こえ、慌ててその場から立ち去る。

 

 

 庭に戻り腰を下ろしたところで、ようやくさっきまでの自分が台所に行く途中だったことを思い出したが、今更戻る気にもなれなかった。

 

――やらかしちまった。

 

 せっかく智花が髪を切ったことに気づけて、珍しく喜ばせてあげることができたと思ったのに、

 それを帳消しどころが台無しにするミスをしてしまうなんて……

 智花は代わりに家の石鹸を使わせて欲しいなんて言ってくれたけど、到底そんなじゃ釣り合うわけもないことくらいわかる。

 彼女が戻ってきたら、許してもらえないのはわかるけど、せめて誠心誠意謝らせてもらおう。

 

 

「す、昴さん……お待たせしました」

 正直今の自分の時間間隔などあてにならないことくらいわかっている。

 それほど時間は経ってないとは思うけど、ただ茫然と死刑宣告を待つ気分で智花の到着を待っていたが、どうやらその時が来たようだ。

 

「智花っ!! 本当にごめん!! 謝った程度じゃ智花の気が済まないことくらいわかってるんだけど、こうでもしないともう俺が罪悪感で潰れそうなんだ!!」

「そっそんな!? す、昴さんお顔を上げてください! 今回のことは私の責任ですし。昴さんは何も悪くないですよ!」

「だからと言って智花を傷つけてしまったことは変わらないだろ」

 例え不幸な偶然とはいえ、年ごろの少女を辱めてしまったのだ、しかもよりによって自分の心を救ってくれた恩人でもある大切な人をだ。

 

「私は全然傷ついてないですよ……その……恥ずかしかったですけど、昴さんすぐに目を逸らして下さいましたし、本当に私の事を女の子として大切にして下さっているんだなってわかってすごく嬉しかったですっ」

「だ、だけど……」

「わ、私がいいって言ってるんですから大丈夫です……そ、それにあまり気にされてしまうのも恥ずかしいです……」

 必死に食い下がろうとしてしまったが、これ以上は返って智花が負い目を感じてしまいそうになっていることに気づく。

 不本意ではあるが、今回ばかりは俺が折れて、智花の深い慈愛の心に感謝をするのが一番お互いに気まずい空気を残さない最善の選択なのだろう。

 

――でも、絶対にいつかこの埋め合わせをしなくてはと心に誓うことも忘れない。

 

「わかったよ。それじゃ智花の優しさに甘えさせてもらうよ」

「はいっ。えへへ」

 俺がそういうと智花はようやく元気な返事と笑顔を見せてくれた。

 

 

 ようやく今回の事態が収束したところで、俺もシャワーを浴びて一緒に俺の部屋にいるんだが、智花はしきりに自分の匂いを嗅いでいた。

 

「……やっぱいつもと違うから気になっちゃう?」

「ふぇ!? いえ、そういうわけでは……」

 自分が何度も確かめる様に匂いを嗅いでいたことに気づいていなかったかのように慌てて顔を上げている。

 

「でも、俺と同じ匂いって嫌じゃないか?」

「そ、そんなことないですよ。私、昴さんの匂い大好きですから!! ……って、はぅ!? 私なに変なこと言っちゃってるんだろ!?」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり俺は普段の智花の匂いの方が好きかな?」

 ……いかん、智花に釣られて俺もなんか変なことを言ってしまった気がする。

 

「そうだ。提案なんだけどさ。良かったら智花の私物を少しこの家にも置いてみない?」

 気まずい空気が流れる前に誤魔化すようにシャワーを浴びていた際に考えていた話題を出してみる。

 いつも着替えから、今回の事の発端となった消耗品まで毎日鞄に詰めて家に通いに来ているんだったら、少しでもこっちで預からせてもらった方が智花の負担だって軽くなるのに、なんで今まで気づかなかったんだ。

 

「そんなっ。悪いですよ」

「別に智花一人分くらいなら大したことないって。それにここに置かせてもらった方が智花だって何かと便利だろうし、それに……今回の件だって……ごめん」

「で……では、少しだけ置かせて頂いてもいいでしょうか?」

 さすがに今回の件は智花にも刺激的過ぎたようで遠慮がちながらも、俺の提案に賛成してくれた。

 そして、徐々に家に智花の私物が置かれるようになったわけだが……

 

「ここは智花ちゃんの専用スペースだから、昴くんは開けちゃダメよ」

 ……母よ。なぜ息子のタンスの一角に智花の衣類スペースを作った。

 

 今後絶対に俺が踏み込んではいけない危険地帯が増えてしまったような気がする。

 

 

 その後、午後から二人で学校の体育館に向かうなり

『智花、髪切ったんだね。それに智花から長谷川さんの匂いがする』

 と他の四人からの追求を必死にはぐらかそうした俺と智花がいるのはまた別の話。

 




湊智花の誕生日ということで、一つ新しく書き上げることを目標に無事完了。

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