オーバーロード 〜幻想郷を愛する妖怪の賢者〜   作:村ショウ

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すみません。久しぶりの投稿です。


第七話 闘技場③

 ー闘技場 ジルクニフ sideー

 

 そこには青空が広がり、女冒険者達がギガントバジリスクを倒したことにより、闘技場を覆うほどの歓声が響き渡り盛り上がっていた。

 

 

「爺、どう見る?勝てるか?」

 

 そんな中、闘技場の貴賓席に座る男は横に控える老人に話しかけるが、盛り上がる観客とは反対に険しい顔をしている。

 

「まず、私の見立てから言いますとタレントでは、第6位階まで使えるように見る。タレント無しで考えても、あの威力なら第6位階まで使えても可笑しくないと判断できるでしょうな。

 弟子も総じてレベルが高いですな。藍という者に関しては、第6位階まで使えても可笑しくない技量だ。出来れば、あの者達と魔法について語り合いたいですな。一対一であれば勝負は分かりませんがあの弟子と冒険者仲間も強い。私と私の弟子と帝国四騎士が掛かっても厳しいでしょうな。」

 

 皇帝の護衛としてきていた帝国四騎士本人達を目の前にして、厳しい状況を伝える。

 

 横に控える老人が帝国四騎士に対して、そんな事を言えるのはそれ以上の実力があるからに他ならない。

 だが、逆に帝国四騎士はそれだけの実力を持つ老人 フールーダ・パラダインですら、本人を含めても勝ち目が薄いと判断している事に屈辱ではなく、驚きすら感じていていた。

 

「それにしてもあの魔法・・・」

 

「そうか。ではフールーダ、直接交渉といこうか。」

 

 熱弁しそうなフールーダを若干引き気味になりつつも言葉を遮り、ジルクニフは敵の戦力を鑑みて次の手を打つ。

 

 少々、危険ではあるが直接交渉なら直接相手の人となりや人格を確認できる事に加え、何らかの要求や条件をつけられた時に、皇帝本人が行くことによりある程度の要求なら直ぐに応えることができる事から最良の手だとジルクニフは考えていた。

 

 まずもって、戦力的に互角かそれ以上の相手という厳しい現状、下手を打つと大変なことになるのはジルクニフには容易に想像がついたからだ。

 

 その準備として、ギガントバジリスクを倒した冒険者達の控え室に使者を送る。

 

 もちろん、その使者も冒険者を見下さない者を送るように配慮をして。皇帝に権力が一極集中している帝国だから出来ることであり、王国ではそうは簡単に使者を送れないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ー八雲 紫 視点ー

 

 控え室に向かうと皇帝からの使者が来ていた

 

 皇帝陛下から呼びたしだと…。ギガントバジリスクを出したのは故意じゃないよな。タレントとがどんなものかわからない以上、皇帝がトラウマ探るタレント持ちの可能性も微レ存。人のトラウマ抉るとか皇帝、最低だな。

 

 いや、待てよ。皇帝から認められて宮廷に呼びだされている可能性がある。一応、活躍すれば取り立てられる事は最初から想定はしていたが、早すぎる。

 アダマンタイト級になれば、皇帝からの依頼も来る様にはなるだろうくらいは予想していたが。いや、ギガントバジリスクがアダマンタイト級だっけ?

 

 早すぎることに変わりはない。なにかの罠かもしれない。

 

 たが、いかないか訳にもいかない。

 

「藍、行くわよ。」

 

 控え室を出て、使者について行く。

 

 

 

 

 

 

 

 ー闘技場 貴賓席ー

 

 

 八雲 紫は皇帝の元まで歩き、跪く。

 

「冒険者チーム 『幻想郷』ここに」

 

「そう畏まった口調でなくても良い。公式な場ではないのだからな。」

 

 

「そうさせて頂くわ。では、今回お呼び頂いた理由を聞いても宜しいかしら?」

 

 ジルクニフは八雲 紫の切り替えの速さに驚くが、些細な問題ではない。

 

「帝国の魔法省に入って欲しい。」

 

 相手の出方や目的や力量を測るために、軽くジャブを入れる。

 

「魔法省に入った場合のメリットをお教え頂けます?」

 

 当然、聞くべきだが相手からメリットを聞くことは下策だろう。

 そう考え、八雲 紫に対する警戒をジルクニフは一つ下げた。

 

「相応の役職と報酬でどうだろうか?」

 

「そうですわね。魔法省に入るということはフールーダ・パラダイン氏の下につくという事でしょうか?

 フールーダ・パラダイン氏以外に優秀な(・・・)魔法詠唱者(マジックキャスター)がいらっしゃるなら入る理由はありますが、私はフールーダ・パラダイン氏と同程度の魔法詠唱者(マジックキャスター)ではあると思うのですが、同程度で上下関係はどうかと思いません?

 フールーダ・パラダイン氏とは魔法について語り合いができ、より魔導の深淵を目指せるとは思いますわ。ですが、それ以外の私の弟子以下の魔法詠唱者(マジックキャスター)と一緒ではあまり意味を感じませんわね。

 それに魔法省だと魔法が使えない仲間が入れませんわ。」

 

「では、対モンスター対策大臣なんてどうだろうか?」

 

「そうですわねぇ…。知り合いに亜人や他の種族(・・・・)がいるので、モンスター対策省のメンバーの制定権とモンスターの定義の制定権いただけるのであれば悪くないですわね。」

 

「では、その内容でポストを用意するので今日はこれくらいにして、後日、調整するとしよう。」

 

 若干、ジルクニフは押されたがフールーダと同じタイプだと思い、警戒を解いて話を後日にした。

 

「えぇ、宜しくお願いしますわ。では、少しフールーダ・パラダイン氏とお話しても構わないでしょうか?」

 

「構わない。魔法詠唱者(マジックキャスター)同士、話したいこともあるだろう。」

 

「感謝しますわ。」

 

 フールーダ・パラダインの元に向かう…。その途中で紫は騎士に目がいく。

 

 

「あら、あなたその顔…」

 

 チッ

 

 レイナースは舌打ちをして、顔を逸らす。

 レイナースは自分の顔に同情する者や忌避する者をたくさん見てきた。

 それ故に只、同情する者について怒りすら覚える。目の前の魔法詠唱者(マジックキャスター)もその手の輩で、しかも凄まじい美貌の持ち主だという事に苛立ちを覚えていた。

 帝国最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)が言うには強いようだが、これで実力が無ければ何かしら行動を起こしていただろうとレイナースは考えていた。

 

「あ、違うわよ。只の同情じゃないわ。」

 

 レイナースは思考を読まれたような返しに息を飲んだ。そして目の前の魔法詠唱者(マジックキャスター)短杖(ワンド)を胸元から取り出しこちらに向ける。

 

「はい、これで貴方に掛けられた呪いは全て解けた筈ですわ。」

 

 

「えっ!?」

 

 レイナースは自分の顔を触って確かめる。そこには膿は少しも残らず無くなっていた。

 

「治っている…そんな…こと……」

 

 思わず膝をついてしまう。そしてレイナースの肌に涙が流れる。

 

「顔は女の命ですから、こんな呪いは許せませんわ。それに、これから一緒に仕事をする仲間ですし、これくらい当然ですわ。」

 

 膝をついて涙を流しているレイナースを見て、ジルクニフは驚いていた。レイナースの事ではなく八雲 紫が行った行動と言動にだ。

 偶然なのかも知れないが僅かな間にレイナースの呪いに気づき、事情を知らないはずなのに察する洞察力、そしてそれを利用し仲間意識を植え付けて引きずり込むような行動に。

 

 八雲 紫はさらに歩を進める。

 

「フールーダ・パラダイン殿とは常々、魔法談義をしたい思っていましたの。お近づきの印にこちらをどうぞ。」

 

「これは…。鑑定しても宜しいですかな?」

 

 見たことも無い代物に驚きつつも、抜け目なく鑑定の許可をとるフールーダ。

 

「えぇ、勿論ですわ。」

 

道具鑑定(アプレイザル・マジックアイテム)

 

 そして、手に持つアイテムにフールーダは魔法を使い調べる。

 

「若返りの薬…?」

 

 訝しそうにアイテムを見詰めながら、呟く。

 

「えぇ、そうよ。私の研究の成果の一つという所かしら」

 

(BBa…年が分からなくなったな。いや、そこではないな。)

 

 ジルクニフはある考えにいたってしまった。

 レイナースの呪い解除を含めて、フールーダへの布石だと。

 奴はフールーダが魔法の事になると我を忘れることを見抜いている。いや、奴自身もそうなのかもしれんが。(そうだと扱いやすくて良いのだがな。)

 フールーダの見た目が歳をとっていることから、若返りの薬の持っていないという事とレイナースの呪い解除をしていない事からフールーダには解除できないことを導き出し、有用性をフールーダに示しているのだろう。

 

 そして、俺に帝国全軍に匹敵するフールーダと帝国四騎士の中でも最大の攻撃力をもつレイナースを落とせる事を目の前で見せつける事で、帝国陥落すら容易な事だと言っているも同意。

 確かに、奴の仲間とレイナースで帝国四騎士と騎士達を相手にし、その間に帝都をフールーダと奴が合わせて攻めるという構図なら帝国全軍でも勝てないだろう。

 

 そして、ジルクニフは八雲 紫という女が一瞬で、レイナースの忠誠が無い事とフールーダが魔法の知識で落とせる事を見破った凄まじい洞察力を持ち主である事を理解した。

 

 

 

 そして、ジルクニフは嫌いな女ランキング2位を更新した。

 

 ー紫 視点ー

 

 いや、美少女騎士に顔にかける呪いはアウトだと思う。つい、課金アイテムを使ってしまった。感情が何となく理解出来てしまうので、打算的な考えがなかった訳じゃないが、モンスター対策大臣となれば騎士との役回りが被ることも有り得るから今のうちに恩を売って置くのも悪くは無い。

 感情を読むに、かなりの恩を着せれたはずだ。金髪美少女の顔色なんて伺った事ないから当たってるか分からないけど。

 ちなみに、帝国最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)に渡した若返りの薬は、NPCにクエストで金貨を稼がせる時に有用でたくさん入手させていた物だ。

 そのクエストは素材を集めて若返りの薬を作り、依頼人に渡すというシンプルなクエストで、金額が良く、難易度も高くない。だが、めちゃくちゃ時間が掛かるという物である。その代わり報酬が良いのだから文句はない。そこで、シンプルなクエストなのでNPCに任せて周回させて金貨集めていたのだが、今のはその余り、つまり換金する前の若返りの薬をフールーダに渡した訳だ。薬がちゃんと効果がある事は鑑定したら感覚的に分かった。これならかなり喜ばれるだろう。

 

 帝国騎士と最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)にはパイプを作れたが皇帝にはまだ作れていない。皇帝と言うだけあって中々腹の中を探らしてくれない。ただ、雰囲気である程度の感情程度はわかる。最初は皇帝はこちらを見くびっていた様子だったが、美少女騎士と帝国最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)の心を掴んだ時に動揺が見られた。つまり、かなり相手にとって不味い状況になっているという事で、腹が探れなくても今の所はこちらが有利に話を進められているという事になる。その分、かなり警戒されたが。

 軽く見られるよりは良いが、警戒されていると色々やりにくいから幾つか帝国への対策が必要かもしれない。

 モモンガさんや他のプレイヤーを探すには役職自体は動きやすくはあるが。

 

 というか、皇帝陛下がこっちを見ている。何だが嫌われている感じがするが、皇帝陛下も若返りの薬欲しかったのか? まぁ、この世界には存在しなさそうだからレアな感じは出した方が言いし、作れる数に制限があるといって今度渡そうかな。

 

「皇帝陛下もいりますか? 皇帝陛下は若々しいので使うと若返り過ぎると思いまして。必要でしたら材料集めに時間が掛かりますが言っていただけたら、お作りしますが。」

 

 皇帝陛下、俺様系イケメンぽいので若いとか褒めれば案外チョロかったりしないかな。(願望)

 いや、こちらが下手に出る事で皇帝陛下に少しでも警戒を解いてもらえれば上出来だ。

 

 

 

 ついつい、僕とした事が仕事モード使ってしまった。なぜ、異世界にまできてこんな事をしているのだろう…。

 

 

 

 

 




因みに、ジルクニフの嫌いな女ランキングで2位になったかと言うと、元々に2位だった竜王国女王のドラウディロンが若作り婆という理由で嫌われてたので、加えて帝国を滅ぼしかねない可能性を秘めた八雲 紫は2位に上がるのは間違いないかなと。何考えているか分からないラナー王女程ではない筈。

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