提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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全員じゃなくて一部だけ集合!ってね。

いつもより少し長めとなりますが、ご了承ください。


8時だよ!

 

 8月も後半に入った頃。

 泊地は台風一過で一段と暑かったが、湿度が無く、カラッとした暑さでいつもより心地良い天気だった。

 そんな日の夜、鎮守府では任務も夕食も終えたあとで、ちょっとした催し物が開かれている。

 

 満点の夜空の下、提督の号令で一部の艦娘たちが中庭に集合させられた。

 しかし辺りはただただ暗く、呼び出した提督の姿もない。

 集まったみんなは何事だろうと思った。

 

 すると、

 

 ピーンポーンパーンポーン♪

 

 鎮守府全体へ報せる放送の機械音が鳴り響く。

 

『よくぞ集まってくれた……』

 

 スピーカーから聞こえてくるのは提督の声。

 しかしその声は妙に低くて重苦しい上に、言葉遣いもいつもと違う。

 

『……諸君にはこれから、裏の丘へある物を取りに行ってもらう』

 

 提督の命令に誰もが小首を傾げた。

 

『丘のどこかに俺と阿賀野が大切にしている日本人形があるはずだ。それをこれから言われるグループに分かれ、1グループずつ行って探してくるのが今回の任務だ』

 

 説明を聞き、ざわめく艦娘たち。

 提督の放送はそれで切られ、今度は桐の木の裏から阿賀野・能代・矢矧・酒匂が白い装束姿で現れた。

 しかし四人の姿は思わず目を覆いたくなるような痛々しい姿。阿賀野たちの目は血走り、両腕からは赤い液体が袖に染み、そこからポタポタと滴り、胸から背中まで鉄の杭で串刺しにされている。

 阿賀野たちがゆっくりとみんなの前までやってくると、流石の艦娘たちも固唾を飲んだ。

 

「みんなこんばんは〜♪ これから肝試しするから、今から配る任務発令書に従ってね☆」

 

 しかし阿賀野のいつも通りの明るい声にみんなは違う意味で言葉を失った。

 横では能代たちが『あちゃー』といった感じに自身の片手で顔を覆って天を仰いでいるーー

 

 せっかく頑張って雰囲気作ったのに!

 

 ーーと。

 

 阿賀野の説明によると、この肝試しは提督がイベント委員会のみんなと内々に準備を進めていたものらしく、これから配る任務発令書に日本人形が隠されている箇所が書かれているらしい。

 それを発令書に書いてある人員で取りに行き、日本人形を持ち帰ってくれば任務達成となる。

 因みに阿賀野たちの姿は陸奥と秋雲による特殊メイクと明石が用意した超リアリティなジョークグッズで、目はカラコン。

 

 そして発令書にあったグループ分けはーー

 

 1班

 長門・伊勢・ガン子

 

 2班

 加賀・瑞鶴・葛城

 

 3班

 龍驤・秋津洲・テスト

 

 4班

 利根・熊野・妙高

 

 5班

 天龍・川内・木曾

 

 6班

 暁・リベ・マックス

 

 7班

 占守・対馬・大東

 

 8班

 イムヤ・ろーちゃん・ヒトミ

 

 ーー以上の通り。

 

 各グループには水筒、懐中電灯、万能ナイフが1つずつ支給され、1班から出立。

 道中や日本人形がある付近でイベント委員会やお手伝いの艦娘たちが脅かすために準備をしている……と、阿賀野たちが説明すると各員は頷き、説明された通り1班の長門たちから任務に向かう。

 

「長門さんたちが帰ってくるまで、みんなはお喋りしたり心の準備をしておいてね☆」

「虫刺されが気になる人は虫除けスプレーをつけておいてください」

「トイレへ行くなら今のうちに」

「色んな意味で怖いからね!」

 

 阿賀野たちの声に残った一同は返事をすると、それぞれ己の順番が来るのを待つのだった。

 

 ーーーーーー

 

 一方の長門たちは、

 

「肝試しと言われても、普段から慣れ親しんだこの丘では迫力にかけるな」

「それは仕方ないわよ。それより私たちのことを考えてくれる提督に感謝しましょ」

「私は楽しみだぞ! オカルトには全くもって興味ないが、敵は全員撃ち殺す!」

 

 和気藹々(?)と進んでいる。

 

 ーーーーーー

 

 そんな長門たちを、

 

「撃ち殺しちゃダメだろ!」

「で、でも長門さんたちが一緒だから大丈夫だよ」

「どんな感じになるのかな?」

 

 食堂では選ばれなかった艦娘たちが間宮たちのスイーツを食べながら、食堂に設置された大スクリーンで様子を見守っていた。

 各班に持たせた懐中電灯にカメラを仕掛け、それがスクリーンに映し出される仕掛け。しかも隠密機能に特化した飛鷹の航空隊が上空からも撮影しており、夕張がカメラの切り替えを絶妙に操作している。

 

 ーーーーーー

 

 所戻り長門たちはというと、道中は何もなく、既に日本人形を確保したところ。

 因みにガン子が持っていた拳銃(マカロフ)は長門がちゃんと没収した。

 

「日本人形……なのか?」

「ぬいぐるみよね、どう見ても」

「……可愛い♡」

 

 長門と伊勢が小首を傾げる中、ガン子だけはその愛らしいラッコのぬいぐるみを見て、すかさずギューッと抱きかかえて頬をほころばせる。

 

 カチッ

 

 しかしガン子が抱きしめた途端、ラッコのぬいぐるみから何やら機械的な音がした。

 すると、

 

『よくぞ日本人形を手に入れた』

 

 中に内蔵されている提督の音声テープが再生される。

 

『しかしこれをあと5分以内に持ち帰らないと、君たちの任務は失敗とみなす。繰り返すーー』

 

 それを聞き、長門たちは血の気が引いた。

 何故ならここから中庭までは走っても5分で着くか微妙な位置だったから。

 

「お、おい、急ぐぞ! 遊びとは言え、我々が任務を失敗すれば他の者たちへ……ロシア艦としての示しがつかん!」

「で、でも私たちの脚で間に合うの!?」

「言い争っている暇はないぞ! ガングート、伊勢、私に続け!」

 

 こうして長門たちは懸命に、己の脚が千切れんばかりに走った。

 

 ーーーーーー

 

 ドドドドドッ!

 

 長門たちが必死になって走ってくる姿を見て、中庭で待つ者たちは驚いた。

 そんなに怖かったのか……と。

 しかし長門たちの感想を聞く前に加賀たちはスタートさせられ、真相は聞けず終いだった。

 

「た、タイムは!? 間に合ったのか!?」

 

 加賀たちとすれ違うで阿賀野たちの元に戻った長門の第一声。

 しかし阿賀野は笑いを堪え、能代たちは苦笑いしていた。

 

「え、な、何? もしかしてダメだったの?」

「体感ではアルダリオ〇・イグナチェフ(ソ連の陸上選手)並みの速さだったはずだ!」

 

 すると伊勢、ガン子の言葉に一歩前に出た矢矧からーー

 

「そもそもタイムなんて無いのよ。お疲れ様」

 

 ーーなんとも恐ろしい言葉が発せられた。

 そう、これは提督たちが考えたトラップで、長門たちはまんまとその術中にハマってしまったのだ。

 しかし長門たちは怒りよりもこんな子ども騙しに引っ掛かった自分たちに思わず大笑いし、清々しい気持ちで肝試しを終えるのだった。

 

 因みにその様子を見ていた食堂でもみんな大笑いしていたそうな。

 

 ーーーーーー

 

「か、加賀しゃん、こわ、怖くないにょ?」

「そ、そうですよ! 長門しゃんたちだって、あんなに怖がってましたし!」

「怖かったにしても脅し方の問題でしょう。冷静に対処すれば良いだけのことです」

 

 加賀たちはおっかなびっくり進んでいる。

 加賀を先頭に置き、瑞鶴と葛城は加賀の背中に隠れ、加賀は相変わらず涼しい顔でズンズンと進んで行く。

 

「あ、ちょ、ちょっと待って!」

 

 すると葛城が叫んだ。

 二人して葛城へ目をやると、葛城はあわわとしながら進行方向から少し外れた場所を見つめたている。

 加賀たちもその方向へ目をやると、木の枝から丸い物体が吊るされていた。

 

「ひっ!! 生首!?」

「あぁ、これが人形ね」

 

 怯える瑞鶴を無視して加賀が懐中電灯でそれを照らす。

 すると加賀が言った通り、人形が吊るされていた。

 しかしこれも日本人形ではなく、フグのぬいぐるみだった。

 

「なぁんだ、フグか〜」

「フォルムだけだと生首に見えちゃいました……」

 

 やっとホッとする瑞鶴と葛城。

 加賀はそんな後輩二人をまだまだ精進が足りませんね……と母性あふれる笑みで見、そのぬいぐるみを確保。

 するとその奥に何やら人影を見つけた。

 

「こんばんは、皆さん」

 

 それは扶桑と山城。二人共お揃いの白い浴衣姿でにこやかに立っていたが、加賀は驚かせる気0なのかしらと小首を傾げる。

 

「ふ、扶桑さんたちは私たちを驚かせる役ですか?」

「こ、怖いことしないでください!」

 

 一方、怯える瑞鶴と葛城は捨てられた子犬のような眼差しで扶桑たちへお願いした。

 加賀はなんであなたたちはそんなに怯えているの……と、心の中でため息を吐いたがーー

 

「加賀さん、提督が狙われています」

「今提督を助けられるのはあんただけよ。提督が食べられる前に早く」

 

 ーーその言葉で加賀は愛する提督が襲われる恐怖と、提督を襲う不届き者への怒りに自身の腹の奥底から震えが来る。

 加賀は眼光鋭く体を翻すと、瞬く間にその場から姿を消した。

 そんな加賀の豹変に瑞鶴と葛城は、

 

「ちょ、加賀さん!?」

「置いてかないでくださ〜い!」

 

 その場で腰を抜かし、怖いところに置いていかれことを嘆く。

 結局、二人は扶桑と山城におんぶされて戻ったが、それを見る食堂の面々は二人の可愛さにほっこりしていた。実の姉である翔鶴・雲龍・天城は鼻から何やら赤い物をこぼれしていたという。

 

 ーーーーーー

 

 続いて出立したのは龍驤たちの3班。

 鬼の形相で戻ってきた加賀と腰を抜かして戻ってきた瑞鶴や葛城の姿を見、秋津洲とテストはかなり警戒している様子だ。

 

「んな心配せんでも怖ないて……そんな気ぃ張ってる方が余計怖なるで?」

 

 しかし頼もしい小さな姐御龍驤のお陰で二人は平常心を保ち、なんとか日本人形をゲットした。

 

「日本人形やのぅてクジラのぬいぐるみやん」

「日本人形って言った方が怖いからかも?」

「でもこうして見つかりましたし、あとは戻るだけですね!」

 

 すると何やら茂みの奥から馬鹿騒ぎが聞こえてくる。

 龍驤がその場所を懐中電灯で照らすと、

 

「お姉……驚かせる役をほっぽり出して何してるの?」

「ポ〜〜〜ラ〜〜〜?」

 

 イベント委員会の千代田とザラが同じ委員会の千歳とポーラを控えめに言って般若のような怖い顔で怒っていた。

 二人は龍驤たちが来るまで暇だったので、酒を飲んで待つことにし、その結果役目を忘れて酒盛りしていたようだ。

 

「ひゃ〜、ホラーよりも怖いよ、あれ!」

「あのお二人が怒ると怖いですからね」

「肝試し関係無くなっとるやん!」

 

 こうして龍驤たちはなんとも恐ろしい光景を見、足早に中庭へ帰っていくのだった。

 

 ーーーーーー

 

 次は利根たちの4班。

 途中でイヨや白露型姉妹総出でお馴染みのこんにゃく攻撃を受けつつ、サメのぬいぐるみを確保。

 あとは戻るだけだったのが、

 

「待て、何か仕掛けがあるかもしれぬ。ここは様子見じゃ」

「ですわね。提督の発案ですし、これで終わるなんてことはありませんわ!」

 

 利根と熊野の二人は先のみんなの反応で変に用心深くなってしまい、辺りをキョロキョロと見回すことに。

 しかしこれを読んでいた提督は敢えて何も仕掛けておらず、それを察していた妙高は二人の行動に笑いを堪えるのが大変だったという。

 勿論、食堂でもそんな利根と熊野の行動はみんなに大ウケだった。

 

 ーーーーーー

 

 続く5班は天龍たち。

 天龍たちは最初こそ余裕綽々だったが、

 

「なんでオレたちだけ本気なんだぁぁぁっ!」と天龍

「とにかく逃げるんだよぉぉぉっ!」と川内

「うわぁぁぁん、お姉ちゃぁぁぁん! だ〜ず〜げ〜で〜っ!」と木曾

 

 イルカのぬいぐるみをゲットしてからはめちゃくちゃ逃げ惑っていた。

 何故なら、

 

 槍をぶん回すジェ〇ソンマスクを被った龍田

 日本刀を片手に般若面を被った神通

 包丁逆手持ちでおぞましいマスクを被った北上

 

 といった特殊メイクや変装でガチガチの本気勢に追い回されていたから。

 しかも木曾に至っては姉たちに助けを求めるほど怖がっていて、北上はそんな木曾をマスクを被った上で笑い、それが木曾へ更なる恐怖を与えていた。何しろマスクのせいで笑い声が『ドゥバババ!』と聞こえていたから。

 一方で、そんな木曾を食堂のスクリーンで見る球磨・多摩・大井は『……可愛い♡』と胸キュンしていたという。

 

 ーーーーーー

 

 そしてやってきた6班。

 ここは暁やリベというちょっと心配な子たちがいるが、冷静沈着なマックスがいたので難なくクマノミのぬいぐるみを確保。

 しかしその帰りに、

 

「1枚……2枚……3枚……」

 

 薄気味悪く何かを数える鹿島に遭遇。

 これには流石にマックスも身構えたが、

 

「私の提督さんの下着これくしょんはどこぉぉぉ!?」

『変態だぁぁぁっ!』

 

 皿やら札を数えているのではなく、自身が大切にしている提督の下着これくしょんを数えていたので暁たちは違うベクトルの恐怖を感じて逃げ出した。

 因みに食堂では提督も恐怖で叫び、後に下着は香取の手によって返却されるも、阿賀野の手によって焼却処分されたという(鹿島にナニされているか分からなかったので)。

 

 ーーーーーー

 

 その次は7班でメンバーは占守たち。

 途中で口裂け女に変装した足柄に驚かされたが、何故か占守は待っている間に用意しておいたニンニクと銀の十字架(アークから借りた)を口裂け女へ得意げに見せた。

 占守本人は大真面目だったので、足柄はそんな占守に野暮なツッコミが出来ず、「うわー」と棒読みで撃退される演技をし、対馬と大東は揃って腹を抱えて笑い転げていたという。

 しかしちゃんとカメのぬいぐるみをゲットして任務を完遂した……が、対馬と大東は次の日に腹筋が筋肉痛になったとか。

 因みに食堂では国後が「それ吸血鬼に効くやつ!」と盛大にツッコミを入れており、それも相まってみんな大笑いしていた。

 

 ーーーーーー

 

 ラストは8班で潜水艦のイムヤたち。

 道中は何もなく、ライギョのぬいぐるみをゲットしたが、

 

「スピリットバ〇ン!」

 

 茂みで待機していたイヨがただのシーツを被ってどこかの闇決闘者が言い放つような言葉を叫んで脅かした。

 イムヤもろーちゃんも元ネタを知っているが故に『何故そこでバ〇ラ!?』と笑いそうになったが、

 

「いやぁぁぁぁぁっ!」

 

 ヒトミの左手が電光石火の如く火を吹き、その拳は見事イヨのボディにクリーンヒット。

 イヨはガクッと両膝を折った……が、それがいけなかったーー

 

「来ないでぇぇぇぇぇっ!」

 

 ーーイヨは前のめりに倒れたことで、ヒトミは更に襲ってきたと錯覚し、今度は右拳がイヨの顎を捉えたのだ。

 そのコンパクトながらも流れるような強打の連撃にイヨはシーツの中で『もう、姉貴を驚かすような、真似はしないよ』と、誓いながらその地へ身を預けたという。

 これをすぐ側で見ていたイムヤとろーちゃんはある意味の恐怖に震え、イヨに合掌しながら中庭へと戻った。

 因みにイヨは白露たちにドックへ搬送されたが、シーツ内の空気が奇跡的にクッションとなり、青あざが出来た程度で済んだという。

 

 ーーーーーー

 

 こうして肝試しは笑いと恐怖の内に無事(?)に閉幕し、最後は全員で中庭に集まって花火をして肝試し幕を閉じた。

 更に今回のイベントで、

 

「キソ〜、キソ〜……」とめそめそえぐえぐと子どものように泣きじゃくるキャラ崩壊した木曾

 

「クマ〜、姉ちゃんたちがいるクマ〜♡」と球磨

「にゃ〜、今日はみんなで寝るにゃ♡」と多摩

「大部屋確保したからね〜♪」と北上(元凶)

「お姉ちゃんたちが一晩中一緒にいてあげるわね♡」と大井

 

 球磨型姉妹がより姉妹愛を強めたそうな(単に怖がる木曾が可愛くて球磨たちはメロメロになっただけ)ーー。




8月も残り少ないので今回は肝試し(ちょっと違う怖さですが)をネタに書いてみました!

読んで頂き本当にありがとうございました!

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