8月の暑さがどんどんと増してきたこの頃。
鎮守府では相変わらず任務に訓練と弛まない努力を積み重ねている。
今月のいつかなのかはまだ定かではないが、例によって夏の大規模作戦が近々大本営より発表されるという噂もあるため、提督は遠征で資材集めに重点を置き、出撃任務でも比較的低コストに抑えた編成で艦隊を運用していた。
そんな中、艦娘たちは今年も千羽鶴を折り、広島と長崎へ寄贈。
一昔前までは平和式典でワーギャーと騒いで平和を訴えるという名目で大切な式典をぶち壊していた団体もいたが、そんな迷惑な団体も今の世の中ではーー
『そんなに平和を訴えるならお前らが最前線に行け』
『本当に平和を尊ぶなら静かにしろ』
『お前たちがそれだけ騒いでいられる今が平和そのものだろう』
『最前線にも行かず安全なところで喚き散らすだけの簡単なお仕事』
『国防軍が無くなったらあなたたちが我々を守ってくれるという訳ですか? そうじゃないですよね?』
ーーと、ド正論を真っ向から言われて黙るしか方法がない。
それでも一部マスメディアは言論の自由によって今もなお、"日本は過去への謝罪を行い、世界に誠意を示すべき"などと豪語している。
しかしそれも巷では『これまで捏造・偏向報道してきたマスメディアがどの面下げて言ってるんだ』と言われ、多くの者たちから支持されていない。
来週には終戦記念日を迎えているとあって、巷では大東亜戦争をテーマにした特集や特番が広く報道されている。
しかし幸いなのは一方的な見方や自虐史観を綴っているのが一部で、その他多くは悪い点・良い点を平等に扱っていることだ。
軍は何がダメだったのか……
軍はどんなことをしたのか……
軍は戦争した結果何を残したのか……
戦争で学んだことは何か……
改めて考えてみる開戦回避の行動は……
ただ"日本が悪かった"で終わるのではなく、上記のように読み手や聞き手に考えさせる報道をしていた。
こうした傾向になったのも全てとは言わないが、国防軍と艦娘たちが日夜国のため国民のためにと己の命を懸けていることが大きいだろう。
因みに今の国防軍を政府が設立させようとした際、政府と軍の要人たちは国内の左巻きの要人たちを深海棲艦と艦娘たちの最前線(最前線といっても被弾しない場所)へ連れて行った(強制的に)。
そこで左巻きたちへは防具のみを着せ、手には拡声器と酒瓶を持たせた。要は話し合って止められるなら止めてみろと……実戦でやってもらおうとしたのだ。
しかしそこで動けた者はおらず、いつもの話し合いにならなかった。
この一連の動きは全てネット放映され、これによって左巻きたちも沈黙して国防軍の設立に反対出来なかったのだ。
ーーーーーー
そんな中、興野提督率いる艦娘たちは午前中まで任務をこなし、午後は提督から特別に全艦待機命令がくだされた。
しかしこれはただの待機命令ではない。
春夏秋冬どんな日も国のため国民のためにと働く艦娘たち。
そんな彼女らを労おうと提督が前からイベント委員会と相談し、本館地下にある集会ホールである催し物を開いた。
その名もーー
『スタジオヒブリ上映会』
ーーもっと簡単に言えば映画鑑賞である。
スタジオヒブリとは提督が語呂がいいからというだけでつけた名前であるが、前々からこの日のために青葉等を中心に何本もの映画を制作していた(提督は総監督)。
しかも映画公開までは関係者全員に箝口令を敷く徹底振り。
みんなそれを守っていたこともあり、大淀から上映リストが発表されると嬉しさや恥ずかしさや照れ、驚きや笑いが巻き起こり、ホールの雰囲気は既に最高と言える。
それに加え、ホール脇には間宮と伊良湖は勿論、瑞穂・秋津洲・神威・鳳翔と言った面々が軽食を提供しているので、そこら辺の映画館よりも豪華だ。
先ず初めに上映されるのはーー
『崖の上のサド』
ーー佐渡が主演のドタバタコメディである。
映画の内容は至ってシンプル。
魚の世界のお姫様のサドがまゆる(まるゆ)という美男子に一目惚れし、父ポセイドゥーン(日向)と母テテス(山城)の言うことを無視してまるゆを掻っ攫ってくるという物語だ。
因みにこの作品の他にはーー
となりのツシマ
福江の宅急便
えとろふ姫
借り暮らしのマツワッティ
ーーの4本が上映される。
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映画の本編が始まるとホールはみんなの笑い声でいっぱいになり、中には床をペシペシと叩いて笑う艦娘もいた。
何しろ魚の国だというのにディナーに
「あっははは、魚の国残酷過ぎだろ!」
「スタジオヒブリっての名前はちょっと恥ずかしいけど、面白い♪」
「流石にこれは……不意打ち過ぎる……くふふ」
大笑いする大東と楽しむ日振にお腹を抱えて笑う対馬。その隣では占守もしむしゅしゅっと笑い、国後に至っては座布団を抱きしめて笑いを堪えている。
日振としては自分の名前を使われて嬉しい反面、恥ずかしい気持ちもあったが、いざ映画が始まればそんなことは気にならなくなった様子。
因みに今回のようにホールで映画鑑賞等をする際、みんなには座布団が配られるのだ。
「ドレス姿の佐渡姉って新鮮だな」
「でもブルーのドレス姿可愛いよね」
「それでも口調はいつも通りなのよね」
感心する福江と妹を褒める松輪に対し、択捉は苦笑いを浮かべる。しかし主演の佐渡に至っては松輪に可愛いと言われ、上機嫌でニッコニコだった。
ーー
その後も笑いの波がどんどんと押し寄せる。
今はちょうどサド姫がまるゆを掻っ攫ったところで、
『こちらサド。婿を捕獲した。次はどうする?』
『こちらクマ。ならば一旦森に戻ってこい』
サドは幼馴染みで姉みたいな関係のハチミツの世界のお姫様であるクマ(球磨)とトランシーバーで会話しているところ。
みんなは、
ハチの姫じゃなくてハチミツの姫かよ!
ハチミツの世界って結局ハチの世界では?
ハチミツの捕食者であるクマが姫の名前でいいのか?
色々とツッコミが追いつかない様子。
しかもクマ姫の側近が筑摩・三隈・熊野・阿武隈とクマ一色なのだから、もうこれは笑うしかない。
「くふふふ……ちょ、ちょっとこれは……反則です」
中でも鳳翔は自身のツボにバッチリとジャストミートしてしまったらしく、珍しく笑い過ぎてその場に膝を突いてぷるぷると笑い悶える。
「ほ、鳳翔さん大丈夫ですか?」
神威はそんな鳳翔に優しく声をかけ秋津洲と瑞穂が鳳翔の背中を軽く擦るも、鳳翔は「大丈夫ではないです」と笑い過ぎて涙を流して返した。
「でも相変わらず提督のネーミングセンスって面白いですね」
「ですね……ポセイドンじゃなくてポセイドゥーンって、それだけで笑っちゃいますよ」
その横では間宮と伊良湖もクスクスと笑って映画を楽しみ、提督のお笑いセンスを褒める。
提督はこういう話を作るのが得意で今回の全映画の脚本はほんの1、2時間で書き終えたとか。
そんなこんなでハチャメチャなストーリーは、最後はサドがちゃんとまるゆの両親に許しを得て結ばれるのだった。
因みにまるゆの家族構成はーー
父・多摩 母・北上
姉・大井 ペット・木曾(ペンギン)
ーー上記の通り。木曾が演じるペンギンはただ木曾が無表情で翼をパタパタさせてるだけで、それがシュールで笑いを生んでいた。
提督曰く『よくやってくれた』とのことで、木曾曰く『何をしたのか覚えてない。記憶がポッカリと抜けているようだ』と役へのこだわり(?)を語ってくれたという。
ーーーーーー
一つ目の映画が終わると、拍手よりも笑い疲れのため息が大きくこだまする。
中には鳳翔のようにまだまだ笑いの渦に飲み込まれている者もいるが、そんな楽しそうな艦娘たちを見て提督は胸を張って笑っていた。
「なっはっは! 我ながら会心の作だぜ!」
上機嫌にサイダーを飲み干す提督であるが、
「て、提督さん、阿賀野、笑い過ぎてお腹いた〜い……ふふふ」
「の、能代も腹筋が……ははっ」
「デタラメなストーリーなのに妙にいい話だったのが、また笑えるわ……くふふ」
「ぴゃ〜、このDVD欲しいっぴゃ〜!」
妻や義妹たちは未だにお腹を抱えて笑っている。
「みんなも気に入ってくれたみたいで何よりだぜ♪」
「気に入ったというか、インパクトが強過ぎますよ」
「そ、そうよ……そもそも崖の上のサドって……あはは」
「ちゃんとまるゆを掻っ攫う時に崖を登ったろ?」
提督はそう言うが、能代と矢矧から『その絵面が可笑しい(んです)!』と言われたので「えぇ〜」と声をあげた。
すると提督の元へ他の艦娘たちから『なんて物を作ったんだ!(笑)』と詰め寄られたので、提督は次の映画が始まるまで説明に追われるのだった。
しかしその説明でもツッコミ所満載で、みんなは大いに笑い、ここまで笑わせてくれる提督のエンターテイナー性を褒めた。
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『ツシマ! あなたツシマって言うのね!』
『あ、はい……ツシマですけど、お隣さんですよね? というか、重たいので退いてもらえませんか?』
続いて始まった《となりのツシマ》。
東京から田舎に引っ越してきた睦月型姉妹。
そして姉妹の中でも皐月が隣の家に住むツシマと出会い、仲良くなっていくというほのぼのストーリー。
今は学校に遅刻しそうで走っていた皐月がツシマとぶつかり、皐月がツシマに覆い被さるようにして転んでしまったシーン。
ツシマの毒舌トークに全くめげない皐月との掛け合いが笑いをこれでもかと提供してくる。
そもそも元ネタでそう言うのは妹さんだろ
ツシマ冷静過ぎ
なんであの悪戯坊主が提督なんだ!
などなど、この作品もツッコミ所が満載だった。
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『助けてくれたことには感謝する。しかし助けてほしいと言った覚えはない』
『くぅ〜! 君かわうぃね〜☆』
次の作品は『福江の宅急便』。
タイトル通り、宅急便のアルバイトをする福江がテンションの高い鬼怒と出会い、奔走する爽快コメディ。
このシーンは宅急便のアルバイトをしている福江が、複雑な道でお届け先を見つけられずにいたところを現地に住むハイテンションな鬼怒に場所を教えてもらったところ。
その後、鬼怒が福江の通う学校に臨時講師としてやっきて臨時で担任になる。
主に鬼怒の思いつきや言動に福江がてんやわんやさせられるという流れで、鬼怒の並外れた芸人魂とそれに翻弄される福江のリアクションが笑いを呼び、しかも臨時講師という任務を終えて鬼怒と別れる時の福江との感動シーンにみんな涙した。
しかしその次の日に鬼怒は福江が住む家の近所のアパートに引っ越してきたことで、笑劇のラストを飾った。
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『黙れ小娘! お前に提督が救えるか!?』
『あなたこそ黙れ年増! そもそも司令はあなたのストーカー行為に毎晩涙で枕を濡らしているのよ!』
続く作品は《えとろふ姫》。
原作崩壊が著しく、内容は提督が謎の女性X(足柄)にストーカーされ、それをえとろふ探偵事務所の姫と言われる択捉が助けるというサスペンスコメディ。
因みにこのシーンの直後、女性Xが択捉の毒舌攻めにあって泣き崩れて提督を諦めるラストシーンに繋がるのだが、
あの名作がここまでになるのか
セリフは立派……しかしストーカーである
少女に論破されてるよ
シュールな笑いが艦娘たちを襲い、やはりこれもツッコミ所満載だった。
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『ちょっとマツワッティ、貸した消しゴム返してよ』
『あれ? くれたんじゃなかったの?』
『貸してって言われたから貸しただけだよ!?』
『えへへ、ごめんね♪』
最後の演目は《借り暮らしのマツワッティ》。
これはもう原作崩壊の枠を飛び超え、全く別の代物と化している。
なので原作を知る艦娘たちは『どうしてこうなった!?』と笑い、原作を知らない艦娘たちはただただ笑い転げている状態だ。
今はマツワッティ(松輪)が幼馴染みのシムシュノワール(占守)と掛け合い(基本マツワッティのボケ通し)をしているところ。
この作品のあらすじは外国のとある街に住むマツワッティと幼馴染みのシムシュノワールのほのぼのストーリー。マツワッティはおっちょこちょいの天然さんなので、シムシュノワールはいつもそれに引っ張り回されている。
普段は大人しい松輪が見せる愛くるしさやかましてくる大ボケにホールは笑いの津波が押し寄せ、それは終わるまで続いた。
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こうして提督が発案したスタジオヒブリ作品の上映会は大成功に終わったが、
「あ〜、腹痛ぇ〜」
「腹筋崩壊とかのレベルじゃない」
「腹筋がつるかと思った」
「次から原作をちゃんと観れない」
「表情筋が痛い……」
などなど多くの嬉しい感想(?)が届いたので、提督は心の中で"また作ろう"と意欲を燃やしたというーー。
パロディ回になりましたが、ジ〇リとヒブリの響きが似ていたのでパ〜と思いついたまま書きました!
ジ〇リファンの読者様にはごめんなさいです。
ともあれ読んで頂き本当にありがとうございました!