提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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若干のアンチ・ヘイトがあります。


おやつタイム

 

 執務室の壁掛け時計が一五〇〇を過ぎた頃。鎮守府では多くの者たちがおやつタイムと言う名の休憩を取る。

 

 休憩時間は各自で好きな時に最大30分取ることが許されており(任務内容、訓練内容によることもあるが)、大半の者はこの頃に休憩を取るのだ。

 因みに艦娘は休暇を好きな時に取れて、最大二連休。風邪の場合は完治するまで取れる。

勤務日程には常に提督と能代の計算によって欠員が出ても大丈夫なようになっている上、この日は働きたいと自ら手を挙げる者もいるのでこの休暇システムが通用するのだ。

 

 これは提督の持論だが、休暇を固定してしまうと人はその休暇が来るのを待つようになり、仕事へ対してストレス……つまり苦痛を覚えてしまう。

または逆でまだ働きたいのに休暇の固定によって休まざるを得なくさせ、それがストレスに繋がり仕事の効率を下げてしまうことに……ということで提督はこのような職場環境にしているのだ。

 なので鎮守府ではインドアで有名な初雪や秋雲、球磨、多摩なんかも自分のペースで仕事が出来るので不満を訴えたことはない。

 ただ仮に自分の意思や任務で8日間以上連勤した者がいた場合、その時は本人の意思に関係なく次の日が休暇となるのでオーバーワーク対策も抜かり無い。

 

 提督自体の休暇に至っては無いと言ってもいいが、ちゃんと大本営に申請をして大本営から許可が降りれば貰える。しかし任務が少ない日や執務仕事が早く終われば、ほぼほぼ自由に残りの時間を過ごせるので全く休めない訳ではない。

 

「提督さ〜ん、ぎゅ〜ってして〜♡」

「よしきた〜♪」

 

 なのでこんなに鎮守府ライフを満喫しているのだ。

 金剛がティータイムに誘いに来たりもするが、今日は今のところ来てないのでラブラブ中。

 

「はぁ……」

 

 同じ空間にいる矢矧の生暖かい視線をよそに……。

 

 矢矧はこの馬鹿夫婦(特に提督)に厳しいが、休憩中や仕事を終わらせたあとであれば、イチャイチャしてても特に何も言わない。ただ目の前でしていた場合はため息が多め。

 

 本日の仕事を遠征組と演習組の帰投を待つのみになった提督は阿賀野とソファーで触れ合いながら、のんびりと過ごしていた。

 

「ん〜、提督さんとぎゅ〜ってするの好き〜♡」

「そうか〜♪ 俺も阿賀野を抱きしめるの好きだぞ〜♪」

「提督さんは柔らかくて絶妙な抱きしめ具合なのよね〜♡」

「そかそか〜♪」

「痩せてた頃はあれはあれで良かったけど、今も今で最高〜♡」

「褒めても何も出ないぞ〜?♪」

「阿賀野への愛はたくさん出るでしょ〜?♡」

 

 阿賀野がそう言うと提督は「いくらでも出るぞ〜!」と言って阿賀野の頭を撫でたり、頬擦りしたり、頬にキスをしたりとうんと可愛がる。

 対する阿賀野は「きゃ〜♡」と嬉しい悲鳴をあげつつ、提督にされるがまま。

 

 そんな夫婦を、

 

(報告を聞かなきゃいけないからこの場にいるけど、毎度のことながら自分の場違い感がパネェ……)

 

 矢矧はハイライトさんを出張させて、ブラックコーヒーをすするのであった。

 

 すると執務室のドアがトトトントントンと落ち着きなく、それでいて元気よくノックされる。

 

「あいよ〜」

 

 提督が阿賀野を可愛がりながら返事をすると、開いたドアから複数の艦娘が入室してきた。

 

「失礼します、しれぇ♪」

 

 先陣をきって挨拶したのは陽炎型駆逐艦八番艦『雪風』。

艦隊きってのラッキーガールで、ガルルル君(アイスキャンディー)を連続19回当てた強運の持ち主で他にも数々の幸運エピソードを持つ。艦隊のみんなからは妹や娘みたいに可愛がられている。

 

「司令、お菓子ちょ〜だい♪」

「あたしにも〜♪」

「俺にもくれ〜♪」

 

 雪風の後ろからそう声を出すのは、陽炎型駆逐艦十番艦『時津風』と十八番艦『舞風』に十六番艦『嵐』。

 

 時津風はいつも明るく、普段から外を走り回る犬っぽい子。ボールを投げるとそれを追いかけて取って戻ってくる。

 

 舞風もいつも明るくダンスが好きな元気っ子。提督にダンスの指導をされてる時の笑顔が一番眩しい。

 

 嵐は話し方がボーイッシュな反面、暗闇や(カミナリ)、ホラー系が苦手なギャップのある子。どうしても怖くて眠れない時は他の姉妹の布団に侵入するとか。

 

「ちょっと、いきなり走らないでよ!」

「廊下を走るのはダメって言ってるでしょう!?」

「いきなり走ってっちゃうから驚いたよ〜」

 

 そしてそんな四人から遅れて早歩きでやったのは陽炎型駆逐艦九番艦『天津風』に加え、十五番艦『野分』と十七番艦『萩風』だ。

 

 天津風は真面目で周りに気配りが出来る子。少し人見知りするところもあるが、今はもう十分艦隊に馴染んでいる。

 

 野分も真面目で実直な子。提督と那珂を心から尊敬し慕っているせいか、たまに凄い行動を取る時もある。

 

 最後に萩風……萩風は一言で言えば健康マニア。健康に良いことはとりあえず試してみるがモットーだが、それがなかなか続かない子。ダイエット事情にも詳しいので他の艦娘から相談されることもしばしば。

 

 陽炎型シスターズの登場に提督夫婦はイチャイチャするのをやめ、笑顔でお菓子を戸棚から出してくる。

 矢矧はその光景を苦笑いして見つめるが、夫婦がイチャつくところを見ているよりは控えめに言って数千倍マシなので何も言わない。

 

 おやつ時になると、執務室にはこのように多くの駆逐艦たちがやってくる(たまに他の艦種の子も)。食堂や酒保に行けばスイーツやお菓子は手に入るが、提督からは無料で好きなだけ貰えるのでそれがお目当て+提督とお話がしたいからこうしてやってくるのだ。

 

 提督曰く、

 

『親心というか可愛いは正義だし、話をしにきてくれるのが嬉しいから、ついつい甘やかしちまうんだ』

 

 そうな……。

 

「ほ〜ら、好きなだけ食べろ〜♪」

「でもお夕飯が入らなくなるほど食べちゃダメよ〜?♪」

 

 夫婦の言葉に雪風たちは『は〜い♪』と元気に返事をしてから、お菓子の入ったバスケットに手を伸ばす。

 

「す、すみません、司令。姉さんたちや舞風たちが……」

 

 野分がそう言って提督に頭を下げると、天津風と萩風も揃って頭を下げた。

 

「謝んじゃねぇっていつも言ってんだろ? 謝る暇があんなら、お前らも雪風たちみたいに笑顔で菓子食え、菓子。普段頑張ってるお前らが普通の人らと同じように過ごしてるとこを見るのが、俺は大好きなんだからよ♪」

 

 提督はそう笑い飛ばし、野分たちの頭をポンポンとそれぞれ撫でる。すると野分たちは揃って『えへへ』とはにかんだ。

 

「天津風たちって司令に撫でられたいからいつも謝ってるのかな〜?」

「謝らなくても司令は撫でてくれるのにな〜? 変な奴ら」

 

 時津風と嵐が野分たちを見てそうこぼすと、三人からジロリと睨まれて途端に目を逸らす。

 

「まぁ三人共、素直に甘えられる性格してないもんね〜♪」

 

 しかし三人の圧力に臆さない舞風がそう言い放つと、的確な言葉に三人は何も言い返せず、それぞれそっぽを向いて誤魔化すのだった。

 それから矢矧が雪風たちの分のラムネを冷蔵庫から持ってくると、みんなはお礼を言い、矢矧も加えてソファーで団欒することに。

 

 ーーーーーー

 

「でねでね〜、(ラッシー)ったらその映画でゾンビが出る度に『ぴぎゃぁぁぁっ!』って悲鳴あげてたんだよ〜♪」

「う、うるせぇな! 怖いんだからしゃあないだろう!?」

 

 舞風の暴露に嵐は顔を真っ赤にさせて言い返し、恥ずかしさのあまり自分の右隣に座る矢矧の背中に顔を隠してしまう。

 矢矧は困り笑顔を浮かべながらも、そんな嵐の背中を優しく撫でる。

 

「あの悲鳴って嵐のだったんだ〜。あたしはてっきり萩風かと思ってた〜」

「わ、私は悲鳴なんてあげてませんよ……」

萩風(ハギー)は最初のゾンビシーンで気絶してたもんね♪」

 

 時津風の言葉に舞風がまたも身内のことを暴露すると萩風は恥ずかしそうにしながらも、笑顔でそれを流した。

 そんなワイワイキャッキャと楽しんでいるみんなの話を聞きながら、提督と阿賀野はまるで本当に自分たちの娘の話を聞くかのように穏やかな笑みを浮かべている。

 

 すると提督の右隣に座っていた(阿賀野は左隣が定位置)雪風が「あっ」と声をあげた。みんなその声に反応して雪風を見ると、

 

「しれぇ! お星様の形をしたポイの実を発見しました!」

 

 嬉しそうにそれを見せた。

 

 ポイの実とはここの鎮守府限定のお菓子で今は無き食品企業のお菓子を提督監修で間宮たちがリメイクした物。

 深海棲艦が出現したことにより倒産した企業は多く、それは食品企業だけでなく幅広い企業に及んでおり、そうなった理由の大半は単に自業自得である。

 

 日本が自国を守るために軍を持ち、深海棲艦と戦っているのにもかかわらず、

 

『日本がまた侵略戦争を始めた』

『我々をまた苦しめようとしている』

『過ちを繰り返すな』

『そんな者たちにうちの製品は売らない』

 

などと言う反日、反軍勢力がいた。

 

 前までの日本人なら他人事だと思ったり、口での抗議だったり、最悪謝罪したりしていただろう……しかし軍が何をしているのか理解し、日本人という誇りを胸に立ち上がった国民は違う。

国民全体がそんな企業の製品よりも、日本のために頑張る企業の製品を買い求めたのだ。

そんな中でも愚かなことを続けた結果、その企業は業績悪化により撤退や倒産した次第である。

 

「うわぁ、実際に見たの初めて……」

「凄いわね……流石雪風姉さん」

 

 天津風や野分もそれを見て思わず感動してしまっている。

 それもそのはずでポイの実は基本六角形だが、間宮たちの遊び心から1万個に1個の割り合いで入っているラッキースターなのだ。

 

「良かったな、雪風」

 

 提督に祝福され、頭を撫でもらった雪風は「えへへ〜♪」とご満悦。すると雪風が「ではこれはご夫婦に差し上げます♪」と言って、輝く笑顔で夫婦に差し出した。

 

「え、これ珍しいものだよ? 雪風ちゃんが食べなよ」

「そうだぞ。せっかくお目にかかれたんだ、雪風が食べたらいいじゃねぇか」

 

 雪風の行動に夫婦はそう返すが、雪風は「いいえ」と言って二人に渡そうとして聞かない。

 

「だって、雪風はここに着任してから毎日しれぇや阿賀野さんに幸せを頂いてます……だから、雪風はそのお返しがしたいんです」

 

 こういうことでしか返せませんけど……と付け加えた雪風の瞳は凄く真っ直ぐで澄んでいた。そんなことを言われたら貰わない訳にはいない、と感じた夫婦は雪風から星形ポイの実を貰った。

 

「じゃあ雪風、ちょっと俺と阿賀野の間に来い」

 

 提督はそう言って阿賀野にアイコンタクトをすると、阿賀野も「おいでおいで♪」と手招きして雪風が入れるスペースを空ける。

 雪風は小首を傾げながらも、ちゃんと夫婦の言う通りに二人の間へ座った。

 

 すると「雪風〜♪」「ありがと〜♪」と言いながら、夫婦揃って雪風を両側から挟むように抱きしめた。

 夫婦からギュ〜ッと抱擁された雪風は「ひゃ〜☆」と嬉しそうな声をあげて満面の笑み。

 

 そんな三人を見て萩風が「本当の親子みたい♪」とこぼす。

 その隣で、

 

「いいな〜、雪風(ユッキー)……ね、天津風(アマツン)?」

「わ、私に振らないでくれない?」

(確かにされたいけど……)

 

 舞風から急に振られて本音を隠す天津風であった。

 

 一方、野分が「怒らないんですね」と矢矧に言うと矢矧は少し複雑そうな表情を浮かべる。

 

「馬鹿みたいなイチャイチャじゃなくて、あれは夫婦なりのみんなへの可愛がり方の一つだからね……それに雪風も幸せそうだから」

 

 するとその横から時津風が「本音は?」と訊ねるが、矢矧は「今のが本音よ」と苦笑いを浮かべて時津風の額をペチッと軽く叩くのだった。

 

(全く……しょうがない夫婦ね)

 

 矢矧はそう思いながらいると、

 

「司令〜、あたしも〜!」

「ならあたしと他のみんなにもお願〜い♪」

 

 雪風ばっかりズルい……と、時津風と舞風が手をあげた。

 特に舞風の言葉には天津風、野分、萩風といった真面目勢は驚愕したが時既に遅し。

 

「天津風ちゃ〜ん♪」

「よ〜しよしよし♪」

「ちょ、ちょっと〜!」

 

 位置的に阿賀野の近くにいた天津風が早速夫婦サンドの餌食になってしまった。

 続いて野分、萩風と夫婦サンドにあう。三人共始めこそは抵抗するが、夫婦からの優しいハグと撫で撫でに最後は陥落し、

 

「ふへへ……二人にいっぱい撫で撫でされちゃったぁ」

 

「の、のわひ(野分)ひやわへものでふ(幸せ者です)……」

 

「お二人にたくさん可愛がってもらっちゃった〜……へへ〜」

 

 このように恍惚な表情を浮かべ、ビクンビクンと幸せで身を震わせた。

 

「えへへ〜、た〜のし〜い♪」

 

「提督〜、阿賀野さ〜ん、もっと〜♪」

 

 一方、時津風と舞風はとても嬉しそうに夫婦サンドを受けるのだった。

 そんなこんなで楽しいおやつタイムを過ごして、雪風たちがキラキラしながら執務室を去ると、

 

「二人共……正座っ!」

 

 夫婦は矢矧からしこたま怒られた。

 

「あのね、可愛がるなとは言わないわ。でもどうしていつもいつもいつもいつもいつもいつもい〜っつも! 加減をしない訳!?」

 

 この調子で夫婦は演習組が執務室へ来るまで、怒られ続けたというーー。




今回はここまで♪

読んで頂き本当にありがとうございました!

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