提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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独自設定、独自解釈が含まれます。


広報サンプル

 

 5月の中頃、鎮守府は今、先日より発令された特別任務を遂行し、兵站物資の奪還に全力で取り組んでいる。中でも米好きの者たちや大食い三人衆は血眼になって任務にあたっており、みんなして食べ物の恨みの怖さを実感していたりする。

 此度、襲われたのは各泊地にある中央鎮守府の補給倉庫ということで死活問題ではあるが、政府がこういう時のために貯めていた食料を大本営へ送り、大本営が各中央鎮守府へそれを送り、これにより各中央鎮守府はいつも通りに各鎮守府へ物資を送ることが出来ているため大きな混乱はない。しかも同盟国からも続々と物資が届けられている状況だ。

 ただ、どうして食料を必要としない深海棲艦が食料を奪ったのか、どうして補給倉庫の場所が分かったのかという疑問が浮上した。

 これを鬼山元帥が率いる特別捜査班が調べた結果、大本営に勤務している数人の職員が敵へこちらの情報を漏洩したことが分かり、更なる漏洩は防げたがその者たちの罰は決して軽くはない。

 

 そんな大事件はあったが、五月(さつき)晴れに恵まれた昼下がりを迎えた今日も、鎮守府は艦娘たちの賑やかな笑い声があふれており、不知火が改二へ改造されたことで活気付いている。

 

「へぇ〜、これが広報用資料なんだ〜」

 

 それは明石の酒保も同じで、今は時間が合った者たちが酒保に来ていて、丁度大本営から届いた広報資料のサンプルを見ているところ。

 この場にいるのは夕雲、浜波、藤波、早霜の夕雲型姉妹に加え、ガンビーとサラトガの海外勢もいる。

 

 今回、届いたサンプルは艦娘たちのポスターと写真集、そしてフィギュア(1/16サイズ)。

 ポスターは吹雪、叢雲、漣、電、五月雨が綺麗な海の上でカメラに背を向けた状態で空を見ているところで、写真集には大本営の広報部が撮った各地の観艦式の模様や演習風景がまとめられている。

 そしてフィギュアはモデルとなった大和、ビスマルク、アイオワの立ち絵広報写真と同じ。因みにビスマルクは最終形態の"drei"を採用されている。

 

「そうよ〜。これが街の本屋さんとかおもちゃ屋さんに数量限定で売られるの。こうすることで艦娘を身近に感じてもらおうって狙いがあるのよ」

 

 明石がみんなへ説明すると、みんなはサンプルを眺めながら『へぇ〜』と声をあげる。

 

「ポスターもだけど、写真集もスゴイね……」

「えぇ……あ、この写真、アドミラルと矢矧よ!」

 

 写真集の中身を見ていたガンビーとサラトガ。そしてサラトガの言葉にみんなは『どれどれ!?』と集まる。

 そこには提督と矢矧が真剣に何かを話し合っている写真が掲載されており、撮影はこの前のゴールデンウイークと写真の脇に日付と所属が記されていた。

 

「真剣なお顔の司令官なんてレアね……」

「てっきりハリセンで叩かれてるところかと思った〜」

 

 早霜、藤波と写真の提督たちを見てつぶやくと、みんなして『もしあっても、流石にそういうのは載せられないでしょ』とツッコミを入れる。

 

「でもこんなに真剣に何を話してるところなのかしら?」

「観艦式の流れでも確認してるんじゃないかな?」

 

 サラトガの疑問にガンビーはもっともらしいことを言うが、

 

「それは無いわね〜」と夕雲

「司令らしくない、と思う……」と浜波

「右に同じ〜」と藤波

「司令官なら既に流れは把握しているはずだもの」と早霜

 

 みんながみんなそうじゃないと言う。

 サラトガもガンビーも『どうして?』と訊ねると、普段口数の少ない浜波が一歩前に出た。

 

「し、司令は頭が良くて要領もいいんだ……きゅ、急な変更にもすぐに対応出来るよう、二重も三重もパターンを考えてあると思う」

 

「そ、それにこの写真の端……電ちゃんが写ってるし、陸だし、交流会の時の写真だと思う。交流会なら流れなんて無いに等しいから、そういうのじゃないと思うんだよね」

 

 浜波の説明にサラトガとガンビーは揃って納得したが、それ以上に普段口数が少ない浜波が多弁に語ることに内心度肝を抜かれ、FBIのプロファイラーみたいだと思った。

 

「あはは、相変わらず浜っち(浜波)は司令のことになると口数が増えるね〜♪」

「私よりも浜波姉さんの方が司令官をより見ていますからね……ふふふ」

 

 藤波、早霜からそんなことを言われた浜波は「はぅっ!?」と、我に返って真っ赤な顔で俯いた。

 その反応は恋する乙女そのもので、これにはサラトガもガンビーも興味津々で目を輝かせる。何しろ恋バナは乙女の糖分みたいなものだからだ。

 

「浜波、アドミラルが好きなの? LOVEなの?」

「いつ恋に落ちたの?」

 

 こうなるとサラトガとガンビーは浜波に詰め寄る。

 

「あ、あたしはし、しし、司令のことは好きだけど、いいい、異性として好きだとかそういうのじゃなくて……!」

 

 浜波は必死に言い訳を考えるが、

 

「嘘はいくない」と藤波

「恥ずかしがる必要はないと思うわ」と早霜

「この際隠さずに言っちゃいなさい」と夕雲

「好きという気持ちは隠しちゃダメよ!」と明石

 

 姉妹たちや明石から援護もなく、浜波は観念したかのように弱々しく頷いた。

 

「は、初めて会った時に頭を撫でてもらって……その時の笑顔が素敵で……その時の手の温もりが忘れられなくて……その笑顔が頭から離れなくて……司令に会えると胸が苦しくて、でも全然嫌じゃなくて……だから……」

 

 その時から好きになってたんだと思うーー浜波がそう告白すると、

 

「わぁ、素敵なお話!」とサラトガ

「とってもとっても素敵だよ!」とガンビー

 

 二人からまばゆい視線を浴びる。

 

「…………というか、みんな知ってたんだ、ね……」

「ふふふ、妹の機微にお姉ちゃんは敏感なのよ♪」

「あれだけ司令の話ばっか訊いてきてよく言うわ♪」

「司令官をいつも目で追っていれば、分かります」

 

 浜波の言葉に夕雲たちが笑顔で返すと、浜波は「そっか……」とはにかんだ。そんな様子を明石はうんうんと微笑ましく見ている。

 すると明石は「じゃあ仲間が増えた記念に!」と言って、

 

「青葉さんが提供してくれた『提督これくしょん』をプレゼントするわ!」

 

 LOVE勢ならば誰もが必ず1冊は持っているバイブルを与えた。

 

「い、いいの?」

「勿論よ! 一緒に提督夫婦を見守りましょう!」

「うん、大切にするよ!」

 

 互いに握手し、なんとも美しい光景がサラトガたちの前に広がると、みんなは浜波へ拍手を送る。ただ藤波だけは『拍手していい場面なの?』と内心では小首を傾げていたが、空気の読める子なので今はこの場の空気を読んで何も言わないことにした。

 すると酒保のドアベルがカランカランと鳴り響き、

 

「うぃ〜っす、来たぞ〜」

「こんにちは」

 

 提督と矢矧が来店。浜波は急いで()()を持っていた手提げ袋に入れる。

 明石はすぐに提督たちの側まで行き、「お待ちしてました、提督、矢矧ちゃん!」と声をかけると、他の面々も提督の側へ近寄っていく。

 

「こんにちは、提督、矢矧さん。それからお疲れ様です」

 

 夕雲が二人へ挨拶すると、提督も矢矧も笑顔を返す。

 一方で浜波は「こ、こんにちは♡」と弾んだ声で、早霜は「こんにちは」とそれぞれ声をかけていた。

 対して、

 

「やほ〜、司令〜♪ なんか奢って♪」

 

 藤波はいつも通り。サラトガとガンビーはそんな藤波を見て苦笑いするが、

 

「お〜し、おいちゃんなんでも買っちゃうぞ〜!」

 

 提督もやはりいつも通り。

 駆逐艦のみんなはもう慣れたので欲しいものを探しに棚へと向かう。

 

「なんだよ、サラもガンビーも選べよ」

「え、サラたちもいいんですか?」

「寧ろここでお前たちにだけ奢らない俺じゃねぇぞ?」

 

 提督はそう言うと「選んでこい」と二人の背中を叩いた。なので二人は提督に『Thank you』と笑顔で告げ、商品棚へと向かって行った。

 

 そして提督はやっと酒保へやってきた本題に入る。

 そもそも、どうして提督と矢矧が酒保に来たのか……それは例のサンプルを確認しにやってきたからだ。

 

「これが今回のサンプルですよ!」

 

 明石はそう言って提督と矢矧へ夕雲たちに見せていたようにサンプルをテーブルの上に並べる。

 

「ほぉ、よく出来てるじゃねぇか。大本営の広報さんの本気が見えるな〜」

「そうね。このポスターも雰囲気が出てて『自分も提督になりたい』って思う人が増えるかもしれないわ」

 

 ポスターを見、感想を述べる二人。

 すると一番にチョコチップクッキーの缶を持って戻ってきたサラトガが「ねぇ、アドミラル……」と声をかけた。

 

「どうした?」

「えっとね……この写真集のここ。アドミラルと矢矧が写ってるの」

 

 サラトガがそこを指差すと、提督と矢矧は『あ、ホントだ』と声を揃える。

 

「提督、この時矢矧さんと何を話していたんですか?」

「こんな真面目な司令、超レアだもん。気になる!」

「私も気になります」

 

 それぞれ買って欲しいものを持って戻ってきた夕雲、藤波、早霜がそう言うと、遅れてやってきた浜波とガンビーも『気になる』と言うような目で二人に訴えた。

 すると矢矧が、

 

「この時、電に色んな人がお菓子をプレゼントしてて、変な人が現れたりしないか提督と見張ってたの」

 

 すんなりと当時のことを話した。するとみんなは揃って『なるほど〜!』と納得。

 しかし、

 

(本当は提督と係員の人の鼻毛が出てたことで指摘するか、見なかったことにするか話し合ってたなんて言えない)

 

 真実はなんとも間の抜けたものだった。

 

 ーー

 

 それから提督はみんなにそれぞれ奢り、明石から今度はフィギュアについて説明を受けていた。因みに他の面々も暇潰しに買ってもらったお菓子を食べつつ、その話を聞いている。

 

「ーーということで、今回は満を持して大本営も海外勢の艦娘フィギュアを作ったようです」

「なるほどな。まぁどれも精巧に出来るし、これなら同盟国の方へ送っても文句は言わねぇだろ」

 

 提督の言葉に藤波や浜波は『どういうこと?』と小首を傾げた。

 

「ビスマルクさんとアイオワさんのフィギュアは相手国に許可を得て作った物なの。それで向こうにもこれと同じ物を送って、改めて売り出していいか許可を貰うの……その結果、これが出来たって訳」

 

 明石がそう説明すると、藤波も浜波も揃って納得したように頷く。

 するとサラトガが徐ろにアイオワのフィギュアを手に取り、

 

「わぁ、下着まで正確に作られてるわ! これなら誰も文句言わないわよ!」

 

 フィギュアを下から除き込んでそんなことを言った。その言葉に提督は「そ、そうか」と頷くものの、なんとも言えない絵面に内心驚いている。何しろ美女がフィギュアのスカートを覗いているのだから、提督の反応も仕方ないだろう。

 しかし、

 

「あ、ホントだ!」とガンビー

「あら、確かにそうですね」と夕雲

「ビスマルクさんのもちゃんと作られてるよ」と藤波

「大和さんのも……」と浜波

「皆さん黒なんですね」と早霜

 

 みんなしてフィギュアのスカートを覗き込んだ。

 

「お、おい、女の子がフィギュアのそういうところマジマジと見んなよ……」

「いやぁ、仕方ないんじゃないですかね?」

 

 注意する提督に明石がそう言うと、

 

「女性ばっかりだし、下着くらい平気で話題になるわよ」

 

 矢矧の言葉で提督は「あ〜」となんとなく納得した。

 

「理由は分かったが、そういうところは見たくない」

「阿賀野姉ぇのなら見るくせに……」

 

 矢矧のツッコミに提督は思わず「妻の下着を見ても犯罪じゃないもん!」と言い返すが、問答無用でハリセンでしばかれたのは当然であった。

 その後、提督はフィギュアのモデルとなった本人たちにフィギュアを見せ、三人も夕雲たちのように下着まで確認したのでなんともやるせない気持ちになったのだとかーー。




今回はこんな感じにしました!
艦娘が自分たちのフィギュアを見たら案外こんな反応するのかな?って思ったのでネタにしてみました!

読んで頂き本当にありがとうございました!

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