提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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着任艦も揃ったので……

 

 鎮守府に新たな仲間たちが加わって数日の時が過ぎ、5月を迎えた。

 艦隊では新たに陽炎の改二や浦風の丁改とそれぞれの改造も施されたことで活気づいている。

 そして今、世の中はゴールデンウィーク。その中でも本日も任務に殉じた艦隊は、夕暮れの空の下を食堂へと足を運ぶ。

 その中には新しく着任した者たちもいて、最初は馴染めるか心配だったガンビーや浜波も少しずつだが交友の輪を広げ、笑顔が多くなってきている。

 

 そして今日はこれから食堂で彼女たちの着任式を兼ねたパーティを催すのだ。

 イベント委員会のメンバーを中心に朝から少しずつ準備をし、間宮たちを中心にこのパーティのための料理も準備万端。

 

「んじゃ、新しく着任したみんなに……乾杯!」

『カンパーイ!』

 

 提督の音頭により着任式パーティが幕を開けた。

 

 ーー

 

「ん〜♪ 日本のお酒美味し〜い!」

「アドミラルのおすすめしてくれたやつは飲みやすい……はふっ」

「うん……これは確かに美味しい! 日本に来てこんなに美味しい酒が飲めるなんて最高だよ!」

 

 イントレピッド、ガンビー、タシュケントのお酒が飲める面子は提督おすすめの"加賀美人"や"東洋美人"に舌鼓を打ち、早速飲兵衛艦たちと意気投合。

 

 一方こちらでは、

 

「うわぁ! 何これ何これ! 美味しい!」

「こ、これは肉じゃがだよ……そ、それでこっちがキンメダイの煮付けと、伊勢海老のフライだって……」

「日本って本当にお料理が美味しいのね! イギリスのみんなに今度教えてあげよ〜!」

 

 ジャーヴィスと浜波が仲良く間宮たちの料理に笑顔という花を満開にさせている。

 

「なぁなぁ、この伊勢海老フライすっげぇ食いごたえあんのな!」

「分かったから衣をポロポロ落とさないの!」

 

 そして日振型姉妹も楽しそうに、そして美味しそうに各料理に顔をほころばせていた。

 

 ーー

 

 新しく着任した者たちがそれぞれ談笑しながらいる様子を、提督は少し離れたところで阿賀野と眺めている。

 

「あれなら問題なく馴染めそうだな」

「そうだね♪ 浜波ちゃんとかはちょっと心配だったけど、あの様子なら大丈夫よね♪」

 

 夫婦共にそんな話をしながらいると、

 

「青葉の愛する司令官♡ 写真いいですか?♡ 寧ろ断られても撮っちゃいます♡」

「提督よ、この武蔵への酌を忘れてはいないか?♡」

「提督〜、私のことも構ってよ〜……むっちゃん(陸奥)泣いちゃうぞ〜?♡」

「提督さん提督さん♡ 鹿島が何かお料理持って来てあげましょうか?♡」

「提督さん、由良とも一緒に過ごしましょうよ〜♡ 奥さんとはいつも一緒に過ごせるでしょ〜?♡」

 

 ガチ勢がわぁっと詰め寄ってきた。

 

「写真撮るならかっこよく頼むぞ!」

「勿論です♡ というか、司令官はもう既にかっこいいです!♡」

 

「武蔵も今日は存分に飲めよ!」

「当然だ♡ でも酒ではなく、私はお前に酔うぞ♡」

 

「ほれ、陸奥は笑ってる方が断然べっぴんさんだぞ?」

「ふふふ、嬉しいわぁ♡ もっと褒めて褒めて♡」

 

「鹿島〜、おにぎり持ってきてくんね?」

「は〜い♡ 今持ってきますね〜♡」

 

「はい、由良! お手!」

「わんわん♡ って私だけ構い方おかしくない!?」

 

 ひとりひとりの言葉にちゃんと答える提督にガチ勢もLOVE勢も笑顔の大輪の花を咲かせ、提督との交流を楽しむ。

 一方で夫をみんなに奪われ、みんなの勢いに遅れを取った阿賀野は苦笑いをこぼしながら夫の様子を眺めていた。

 そこに矢矧が「阿賀野姉ぇ、大丈夫?」と声をかけると、阿賀野は「うん、平気よ?」と言葉を返す。

 

「無理してない?」

「怒っても司令のお腹つねったりとか、つま先を踏んづけちゃダメだよ?」

 

 能代、酒匂と声をかけると、阿賀野は「しないよ」と妹たちへ手をひらひらと振って見せる。

 流石に夫へキスしようとしたり、お持ち帰りしようとすればその者に鉄拳制裁をするつもりだが、これくらいならば毎度のことなので阿賀野は気にしないようにしているのだ。

 

「じゃあ、とりあえず食べましょうか」

 

 矢矧がそう言うと阿賀野は「賛成〜☆」と手をあげ、能代も酒匂も頷いて姉妹は仲良く料理を楽しむのであった。ただ、必ず提督が視界に入るところで……。

 

 ーーーーーー

 

 恒例行事の『鎮守府へ行こう! 新人の主張』、『食堂の中心で提督に愛を叫ぶ』が終わると着任式パーティは中間地点に差し掛かる。

 そしてここからはみんなが楽しみにしている有志発表だ。

 

『はい、皆さ〜ん! こ〜んば〜んは〜!』

 

 司会者としてマイクで呼びかける大淀の声に、艦隊のみんなが『こ〜んば〜んは〜!!』と元気にお返事をする。

 今回は妙にヒーローショーに出てくるお姉さんみたいな乗りだが、これはこれでみんなも乗り乗りだ。

 

『今回の最初の有志発表は〜、誰か分かる人はいるかな〜? 分かるお友達は手をあげてくれると嬉しいなぁ♪』

 

 すると駆逐艦の者たちは勿論、乗りの分かる者たちも一斉に手をあげた。

 その中で大淀は『じゃあ、あきつ丸さ〜ん♪』と指名すると、あきつ丸はスッと起立する。

 

「一番手はこのあきつ丸とまるゆ殿であります!」

 

 まさかの自分から答えちゃうパターン。しかしこうした乗りもここではお馴染みの一幕。みんなはあきつ丸の言葉に『おぉ〜!』と声をあげ、設置されたお立ち台へ上がる二人へ拍手を送った。

 

 あきつ丸とまるゆがみんなに対して一礼すると、大淀からマイクを譲り受ける。

 

『自分たちはこれから「歩兵の本領」を歌わせて頂くのであります! 今の我々はこのように海軍所属ではありますが、陸軍出身ということでこの歌にした次第であります!』

『え、えっと……歌詞の大和男子(おのこ)とかはスルーしてもらえると嬉しい、です』

 

 まるゆのお願いにみんなして『了解〜♪』と返すと、まるゆはホッと胸を撫で下ろす。

 そしてあきつ丸の目配せにより、脇に待機していた妖精音楽隊が演奏を開始した。

 

万朶(ばんだ)の桜か襟の色〜♪ 花は吉野に嵐吹く〜♪ 大和男子(おのこ)と生まれなば〜♪ 散兵綫(さんぺいせん)の花と散れ〜♪』

 

尺餘(しゃくよ)(つつ)は武器ならず〜♪ 寸餘(すんよ)(つるぎ)何かせん〜♪ 知らずやここに二千年〜♪ 鍛え鍛えし大和魂(やまとだま)〜♪』

 

 あきつ丸、まるゆと順番に歌う。

 その間、あきつ丸と仲の良い嵐や野分、速吸や神威が手を振り、まるゆに至っては潜水艦勢が声援を送っていた。

 そして最後の十番だけは二人で一緒に歌い上げる。

 

 最後に二人がみんなへ陸軍式の敬礼をすると、食堂からは割れんばかりの拍手と歓声が上がった。

 

『はい、あきつ丸さん、まるゆちゃん! どうもありがと〜! じゃあ次は誰が発表してくれるのかな〜?』

 

 大淀が今度はそう呼びかけると、瑞鶴が元気よく「は〜い!」と手をあげる。そして瑞鶴の隣にいた姉の翔鶴も一緒に立ち上がると、食堂の中央を突き進んでお立ち台へと上がった。

 朧と秋雲が二人の前にスタンドマイクを設置すると、

 

『今度は私が「海軍小唄」を歌うわ!』

『私は掛け声をやります』

 

 出し物を発表すると、みんなから『やれやれー!』、『陸軍の歌に負けんなー!』と応援された。

 因みに『海軍小唄』とは多くの歌手にリメイクされて歌われる『ズンドコ節』だ。

 軍歌のひとつといわれることもあるが、実際のところは戦地に赴く男たちの本音を歌った流行歌のようなものであり、炭鉱や漁港で歌われていたリズムを元に門司出身の学生が作曲したものとされていて、1945年頃に流行った曲である。

 

 それから瑞鶴の合図で妖精音楽隊が演奏を始めると、姉妹は揃って『ズイ₍₍(ง˘ω˘)ว⁾⁾ズイ』と小踊りする。

 

『汽車の窓から手を握り♪』

『ズイ♪』

『送ってくれた人よりも♪』

『ズイ♪』

『ホームの陰で泣いていた♪』

『ズイ♪』

『可愛いあの子が忘られぬ♪』

『ズイズイズイ、ズイズイ♪』

 

 いざ歌い始まると、その『ズイズイ』押しにみんな思わず笑う……しかしリズムも取りやすいため、駆逐艦たちや海防艦の中には楽しそうに翔鶴の真似をする者もいた。

 そして翔鶴や瑞鶴は気付いていないが何かと五航戦に厳しい加賀でさえも翔鶴の掛け声を真似、柔らかい笑顔で口ずさんでいたところを赤城や蒼龍、飛龍がバッチリと動画に撮っていたそうな(後、加賀にバレて三人は加賀から半日間口を利いてもらえなかったが、それは別のお話)。

 

『提督夫婦がイチャついて♪』

『ズイ♪』

『艦隊みんなが砂糖吐く♪』

『ズイ♪』

『ガチ勢負けじと割込むも♪』

『ズイ♪』

『阿修羅の阿賀野に歯が立たず♪』

『ズイズイズイ、ズイズイ♪』

 

 最後は見事な替え歌を披露して終わった瑞鶴とブレぬ掛け声を披露した翔鶴。

 食堂には二人に対して拍手や歓声が送られる中、

 

「最後のはどういった歌詞だ〜!」

「変な替え歌しないで〜!」

「五航戦のツイテ娘はやはり頭に来ますね……」

 

 ガチ勢たちからは野次られた。

 

『何よ〜! 私の考えた歌詞に文句あるわけ〜!? 歌詞の通りのくせに〜!』

 

 しかしバッチリとその耳に届いていた瑞鶴が反論すると、ガチ勢は共に『阿賀野には負けてな〜い!』と言い返した。

 すると周りからーー

 

「でも、誰も阿賀野さんに勝てないよね?」

「げんこつされて退散してたよね?」

「寧ろ阿修羅化した阿賀野さん見たらみんな逃げてるよね?」

 

 ーーと、様々な異論が来たのでガチ勢は共にぐぬぬと唸り、瑞鶴はズイ顔(ドヤ顔)するのであった。

 そのやり取りに新しく着任した者たちはオロオロ、おどおどしたが、食堂の雰囲気はほのぼのとしていたので『あ、これがここの日常なんだ……』と悟ったらしい。

 

 そんなこんなで翔鶴たちが落ち台から降りると、

 

『ふははは! 次はこの私だ!』

 

 ガングートことガン子ちゃんがまるで悪の親玉の如く登場する。

 みんなの歓声にガン子ちゃんはウンウンと頷き、マイクを持つ(小指を立てて)。

 すると妖精音楽隊がロシアの歌謡曲『Катюша(カチューシャ)』。

 因みにカチューシャはよくロシア民謡だと言われるが、作曲者等がはっきりと分かっているので単にロシア歌曲やロシア歌謡と言う方が適切らしい。

 

Расцветали яблони и груши(咲き誇る林檎と梨の花)〜♪』

 

 ガン子が歌い出すとタシュケントが『ypaaaaaaaaa!!』と大声で叫び、響もどこか懐かしそうにその歌へ耳を傾ける。

 すると、

 

『〜Выходила на берег Катюша(若いカチューシャは歩み行く)〜♪ На высокий берег на крутой(霧のかかる険しく高い河岸に)〜♪』

 

「Hа высокий берег на крутой〜♪」

 

 タシュケントもお立ち台に上がって飛び入り参加。

 ガン子と仲良く肩を組んで歌い、時折「ypaaaa!!」と掛け声を出す。

 みんな最初こそは驚いたものの、乗りのいいタシュケントに声援を送った。

 

 その後も食堂では夜遅くまで着任式パーティが続き、新しく着任した者たちは早くも艦隊の空気に慣れ、イキイキとした笑顔を浮かべていた。

 提督もそんなみんなを見ながら、父性あふれる笑みを浮かべるのであったーー。




ということで今回は着任式パーティ回にしました!
ズンドコ節の替え歌はご了承ください^_^;

読んで頂き本当にありがとうございました!

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