お昼時が過ぎ、またそれぞれ任務や訓練に向かう艦娘たちの声が響く鎮守府。
そんな中、鎮守府本館の会議室では『園芸委員会』が定例会議を開いていた。
「では、こうして集まれることに提督へ感謝をしつつ、園芸委員会の定例会議を始めます。皆さん、起立!」
園芸委員長である高雄の号令に会員はピシッと起立してから『お願いします』と言って再び着席する。
会議室はホワイトボードが前に置かれていて、それを見れるように長テーブルが4列ある(1列に6名ずつ座れる)シンプルな内装。
どうして提督に感謝をするのかというと、提督がちゃんと毎回全員が出席出来るように勤務日程を工夫してくれているからだ。
高雄型重巡洋艦一番艦『高雄』は鎮守府に初めて着任した重巡で、今のところ提督が重巡の中で唯一ケッコンカッコカリをしている艦娘だ。重巡洋艦姉妹の長女ということで面倒見も良く、提督や艦隊のみんなから頼りにされている。
「始めますって言ってもこれといった議題はないんだけどね」
「花壇も今のところは平穏だからね」
高雄の言葉に副委員長である妙高は柔らかい笑みを浮かべて言う。
妙高型重巡洋艦一番艦『妙高』は高雄が艦娘の中で一番信頼をおく心の友。高雄と同じく面倒見が良い反面、怒らせるととてもおっかない。提督からは『重巡の妙さん』と呼ばれており、高雄からはあだ名で提督に呼ばれているのを羨ましがられているんだとか。
「害虫駆除も雑草取りもこの前しちゃったしね〜」
「クチナシの剪定も終えてしまいましたしね」
そう声を出すのは正規空母『蒼龍』と祥鳳型軽空母一番艦『祥鳳』。
蒼龍は鎮守府が誇る二航戦の一人。しかし陸に上がればのほほんとしているまったり系。提督との仲は良好で、たまに相方飛龍と提督夫婦でショッピングに行くこともある。
祥鳳は物腰の柔らかいザ・大和撫子。しかし酒豪であり、毎晩の晩酌は必ずしている。提督のことは尊敬していて、ライクの意味で大好き。
「アサガオもキキョウもヒマワリも順調に育ってるしね♪」
「そういえば、ヒマワリはもう少しで満開になりますわね♪」
紅茶を飲みつつ、そう談笑するのは正規空母『アクィラ』と最上型航空巡洋艦二番艦『三隈』。
アクィラは艦隊唯一のイタリア空母で心優しきお姉さん。提督からは『アキラちゃん』と呼ばれているが、アクィラ本人はそう呼ばれることを気に入っている。
三隈はお上品だがちょっと天然の入った不思議ちゃん。しかしそのキャラが人を魅力するようで駆逐艦の子たちは勿論、他のみんなからも慕われ、提督からはよく『恐ろしい子』と言われているそうな。
「司令官様は喜んでくださるかしら?」
「きっと喜んでくれるわよ♪」
「そうよ。提督さんはああ見えて花が好きなんだから」
神風型駆逐艦三番艦『春風』の言葉に、同じくその一番艦『神風』と陽炎型駆逐艦七番艦『初風』がそう返すと、側にいる睦月型駆逐艦七番艦『文月』とその十番艦『三日月』もそうそうと頷いてみせる。
春風もまたザ・大和撫子の大人びた艦娘。
神風はいつもハキハキしていて頑張り屋なムードメーカー。
初風はクールだが、提督から貰ったネコのぬいぐるみと毎晩一緒に寝ている一面も。
文月は提督を心から慕う艦娘。最近改二になって大人っぽくなったが、まだまだ提督には甘えてしまう甘えん坊。
三日月も提督に甘えるのが好きな艦娘だが、みんなの前では少し遠慮してしまう控えめな子。でも撫でられると即落ちする。
「提督が喜んでくれるのが一番嬉しいよね♪」
「はい、提督に少しでも恩返し出来たって思える瞬間です♪」
「咲いたら、頭撫で撫でしてくれる……かも♪」
提督の話題で盛り上がる綾波型駆逐艦十番艦『潮』と初春型駆逐艦四番艦『初霜』に夕雲型駆逐艦六番艦『高波』。
潮は心優しき控えめな艦娘。改二となった今では自分を大切に育ててくれた提督のために何かをするのが大好き。
初霜も改二まで育ててくれた提督を慕う正義感あふれる艦娘。
高波は提督のお陰でみんなと話せるようになった艦娘。提督に構ってもらうのが大好き。
「きっといつも以上に撫でてくれるわよ〜♪」
駆逐艦の子たちに龍田がそう言うと、みんな嬉しそうに顔をほころばせる。
園芸委員会は花を植え、それを育てることで提督へ日頃の感謝を伝えることを念頭に結成された委員会。ここに集まるのは提督のことを心から慕い、そしてそんな提督と阿賀野の幸せを見守る提督夫婦応援団なのだ。
「そういえば、中庭の
提督の話題の中、妙高がふと思いついたことを口にする。
桐木は鎮守府の中庭のど真ん中に植えられており、6メートル近く成長しているのでお昼寝好きの艦娘たちや木陰で風流に過ごすのが好きな艦娘たちに親しまれている木なのだ。
そんな妙高の言葉にすかさず高雄が「その話なんだけど……」と口を開いた。
「実はまだ提督に確認してないのよ。伸び過ぎてバランスが悪いところは切ってもいいと思うんだけど、あの木は特別な木だから」
高雄がそう説明すると、このメンバーの中では着任して一番日が浅いアクィラが「あの木はどう特別なの?」と訊ねる。
「あの木は提督が着任したお祝いとして提督のお母様から贈られて、植えた木なの。提督や私たちの想いや志しがいつまでもそこに根付くように……って」
そう高雄が説明するとアクィラは「まぁ、素敵♪」と手を叩いた。
「提督の母方のお父様……つまり提督のお祖父様がお母様がお嫁に行く際に桐木を贈ったそうで、それで提督にも贈られたそうよ」
高雄の言葉にアクィラはうんうんと頷いて、目を輝かせる。
すると今度は蒼龍が口を開いた。
「因みに、提督のお祖父様は海軍だったんだよ。しかも第二次世界大戦中は高雄の乗組員の一人だったらしいの」
そう言って蒼龍が「ね?」と高雄に笑顔で同意を求めると、高雄は嬉しいような恥ずかしいような、何とも言えない笑顔で頷く。
「それでこの艦隊で初の重巡洋艦が高雄さんなのですから、運命を感じてしまいますわ♪」
普段凛々しい高雄の滅多に見れない表情を見て、三隈がにこやかに言うと、高雄はカァーっと自身の顔が熱くなるのを感じてモジモジと俯いてしまった。
みんなはそんな高雄のことを生暖かく眺めていると、会議室のドアがノックされた。
高雄がこの調子なので代わりに妙高が「どうぞ」と声をかけると、開いたドアから提督が「お〜す」と言いながらひょっこりと現れる。
「あら〜、噂をすればなんとやらね〜」
「あん? 俺の噂なんかしてたのか?」
神風がクスクスと笑いながら言うので、提督は小首を傾げながらみんなの元へ歩み寄ってきた。
「噂というよりは運命のお話ですわ♪」
「司令官が高雄さんと赤い糸で結ばれてるってお話してたの〜♪」
三隈、文月がそんなことを言うと、高雄はすかさず「ちょっと!?」と口を挟んだ。
「まぁ、俺も高雄には特別な感情があるっちゃあるな……爺ちゃんが高雄乗ってたってのもあるし、頼りにしてるからな〜」
そんな中、提督がサラッと高雄のことを言うと、高雄は耳まで真っ赤にして提督の口を手で塞いでしまった。
「て、提督〜……ここに来たということは私たちに何かご用事があったんじゃないかしら〜?」
「もがふご……」
「高雄さん、それでは提督が理由を話せないですよ……」
二人のやり取りに祥鳳がそうツッコミを入れると、高雄はハッとして素早く手を離す。
高雄の手から解放された提督は「んぁ〜、酸素ウマ〜っ」とわざとらしいセリフを吐き、ふぅふぅと息を整える真似事をした。
それを提督の演技だと分かる者たちは苦笑いを浮かべるが、
「提督、大丈夫ですか?」
「高雄さん、いくら恥ずかしいからって力は加減しないと……」
「司令官様、お気を確かに」
真面目な潮、初霜、春風は提督の側に駆け寄って高雄に抗議的な視線を向け、文月には「めっ」と怒られてしまう始末。
「息が出来ないほど押さえつけていませんっ」
そんなみんなに高雄はそう言ってプイッとそっぽを向くと、
「提督さん、そろそろ止めないと高雄さんに嫌われるわよ?」
初風に軽く背中を叩かれた。
「それは困る! でも高雄が可愛いからついいたずらしちゃう男心なんだからねっ!」
「阿賀野さんに言いつけちゃお〜♪」
「言いつけられても平気だもん! だって可愛いのは事実なんだからねっ!」
「ていうか、なんでそんなツンデレっぽく言うの?」
冗談混じりの会話をする提督たちを見て、そっぽを向いていた高雄は思わずため息を吐いた。そして、
(しょうがない人……)
と心の中でつぶやき、小さく笑って提督を許してしまうのだった。
すると提督が「あ」と何か思い出したかのような声を出した。
「そういや俺、今かくれんぼしてるんだった。ちょっとそこの用具入れに隠れさせてもらうぞ。みんなはいつも通り過ごしててくれ」
提督の"かくれんぼ"というフレーズに文月や三日月は誰としてるのか気になる……といった視線を送るが、提督はいそいそと用具入れに隠れてしまう。
提督が誰と遊んでいるのか気にしながらも、とりあえず全員が席に座り直すとまたドアをノックする者が現れた。
今度は高雄が「どうぞ」と答えると、
「会議中にごめんなさい。提督がここに来たりしなかった?」
ハリセンを持った矢矧がとても怖い笑顔でやってきた。
「提督ったら喫煙所に行ったまま帰ってこなくて……もしかしたらみんなのところに来てるのかなって思ってね」
鎮守府の喫煙所は本館内に一つで、それも会議室の真ん前。
しかもこの時間に高雄たちがいるのを提督は把握している。
提督は艦娘とのコミュニケーションを大切にしている=ここでサボっていると判断した矢矧が提督に喝を入れに参上したのだ。
委員会の面々は『流石第一補佐艦……』と思いつつ、どう話そうかと愛想笑いをしていると、
「提督はこちらに一度顔を出したあとで、駆逐艦の子たちと遊んでくると言ってスキップしながら出て行ったわよ♪」
高雄が爽やかな笑顔で返した。
「あんのサボり魔……」
そうつぶやいた矢矧は側にあった用具入れ(提督入り)を凹まない程度にバコンッと叩くと、高雄たちに一礼してブツブツと何やら言いながらユラァっとその場をあとにするのだった。
少しして提督が用具入れから出てくると、
「扉越しにお腹を殴られて痛かったお……」
とお腹を押さえながら青ざめていた。
「というか、高雄。お前、もうちょっと違うフォローしろよ。あれ絶対に見つかったらハリセン喰らうじゃん」
「私をいじめた罰……ですわ♪」
高雄がいたずらっ子みたいなウィンクをして返すと、提督は「覚えてろよ〜っ」と言いながらその場をあとにした。
そして、
「あ……桐木の剪定どうするのか訊けば良かったわ」
と提督の背中を見送る高雄に、みんな思わず笑い声をもらすのであった。
後、高雄が提督に改めて桐木のことを訊ねに執務室へ行くと、提督の頬に真っ赤なアザがあったというーー。
今回は日常的な回にしました!
読んで頂き本当にありがとうございました!