提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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可愛い訪問者たち

 

 艦隊は本日の艦隊業務を無事に終え、鎮守府には穏やかな休息の時がやってきている。

 

「ん〜、今日はこんなとこか〜」

 

 執務室も提督がやっと今日の書類の山を踏破したことで、やっと本当の意味で業務が終わった。

 

「お疲れ様、提督」

「お〜、やはぎんもお疲れ〜」

 

 提督が矢矧に労いの言葉を返すと、矢矧はニッコリと笑顔を返す。

 今の時間は二一〇〇を過ぎており、能代と酒匂は明日は早朝から遠征に出向くので先に上がった次第。

 そんな中、奥様の阿賀野はというと、

 

「すぅ……すぅ……」

 

 ソファーでスヤスヤとお休み中である。

 

「もぉ、阿賀野姉ぇったら、また寝ちゃって……」

 

 姉を見てぼやく矢矧だが、阿賀野は今日出撃任務を多くこなしたのでそれ以上は何も言わないことにした。矢矧としては休むなら他で休んでほしいが故のぼやきなのだ。

 

「幸せそうに寝てるよなぁ……マジで可愛い」

「はいはい、お嫁さん自慢はいいから、阿賀野姉ぇを起こして戸締まりするわよ」

「えぇ〜、もう少しあの寝顔を見たいぞ〜。よだれとか出て最高に愛いではないか」

「何キャラなのよ、それ……」

 

 矢矧は妙な口調の提督にそう言って苦笑いし、軽く提督の頭をペシッと叩くと、提督は「やん、痛いっ」とふざける。

 

「オネエ系とか止めてよ……提督には似合わないわよ」

「んだよ〜、つれねぇなぁ」

「何? 私も一緒に『きゃーごめーん☆』とか言った方が良かった?」

「え、何それ引くわ」

 

 その答えに矢矧はスパーンとハリセンを見舞い、提督は「はぴょんっ」と謎の悲鳴をあげた。

 そして矢矧に「さっさと阿賀野姉ぇを起こして撤収!」と命令されると、提督は「はいぃ!」と返事をして、阿賀野を起こし、矢矧と戸締まりをして執務室をあとにするのであった。

 

 ーーーーーー

 

 矢矧と執務室の前で別れた夫婦は、恋人のように手を繋ぎ、仲良く夫婦の部屋へと歩いていく。

 

「ふぁ〜……眠〜い……」

「風呂は済ませてるんだし、部屋に戻ったら寝たらいいんじゃねぇか?」

 

 提督の言葉に阿賀野は「そうしたいけど、慎太郎さんがお風呂行くから、帰ってくるまで待ってる〜」と擦り寄ってきたので、提督は「ならもう少し我慢だな」と返して阿賀野の頭を撫でた。

 今日は提督だけ風呂に入ればいいので、提督はシャワーでサッと済ませようと思った。そうすれば早く妻と一緒に過ごせるからだ。

 

 そうして夫婦が部屋の側まで行くと、

 

「ん、誰かいるな」

「ホントだ〜、どうしたのかな?」

 

 部屋の前に複数の艦娘を発見した。

 夫婦に気がついた者たちは、パタパタと夫婦の元へ駆け寄ってくる。

 その者たちとは、

 

「し、司令官、阿賀野さん……」

「い、一緒に寝てもいいですか?」

「こ、怖い映画観ちゃって……」

 

 暁、初霜、三日月の三名だった。

 三日月の言葉に阿賀野が「怖い映画?」と訊き返すと、

 

「あ、あのね、テレビでやってて偶然観ちゃったの!」

 

 暁が代わりに答えた。すると他の二人も自分も同じと言う風にコクコクと頷く。

 

「怖い映画だと思ったなら観るの止めたら良かったじゃねぇか」

「で、でも……」

「みんな観てる中で、自分だけ観ないわけにもいかなくて……そのぉ……」

 

 初霜、三日月がモジモジと持参してきたぬいぐるみや枕をギューッと抱きしめて言葉を返すと、提督は「それは災難だったな」と苦笑いして二人の頭を優しく撫でた。

 その横で阿賀野が「まぁ、とにかくお部屋に入ろ?」とみんなを部屋へ入るように促すと、三人は揃って眩い笑顔を浮かべて夫婦の部屋へと入るのであった。

 

 ーーーーーー

 

 提督がシャワーを浴びに行っている間、阿賀野は浴衣に着替えてから三人に飲み物を振る舞い、雑談をしていた。

 

「へぇ……じゃあ、他のみんなは寝ちゃったんだね〜」

「はい……それで、ご迷惑かとも思ったんですけど、他に頼れるのが提督と阿賀野さんだったので……」

 

 阿賀野に初霜がそう返すと、他の二人もコクコクと頷きながら阿賀野が用意したハチミツ入りのホットミルクを飲む。

 

 三人はそれぞれ自分たちの部屋で映画を観たのだが、怖くて眠れない自分たちをよそに同室の姉妹たちは平然と眠ってしまった。

 暁に至っては姉として、レディとしてのプライドが邪魔をして妹たちの誰かの布団に入ることが出来ず、猫のぬいぐるみを持って部屋を出た。

 初霜は姉たちに気を遣って素直に甘えられず、提督を頼ってモチモチ抱き枕(無地の朱色)を持って部屋を出た。

 三日月の場合も初霜とほぼ同じ理由。なのでいつもの枕を持って部屋を出た。

 そこでみんなして鉢合わせし、三人して本館までパジャマ姿でやってきて、今に至る。

 

「全然迷惑じゃないよ〜。寧ろ頼ってくれて嬉しいよ」

 

 本当よ?ーーと阿賀野が初霜たちに返すと、三人は小さく笑顔をこぼした。

 

「そういえば、三人のパジャマ可愛いね」

「え、そうですか?」

「なんか嬉しいけど、恥ずかしいなぁ」

「わ、私は電たちとお揃いにしてるだけよ」

 

 阿賀野が三人のパジャマを褒めると、三人はそれぞれ言葉を返して頬を赤らめる。

 初霜はスムース生地の白色パジャマで、長袖長ズボン。上着はボタンで止める前開きタイプであり、左の胸元に小さくオレンジ色のハートマークの刺繍がついているのがチャームポイントだ。

 三日月のパジャマはパイル生地のグレー。初霜と同じく長袖長ズボンのパジャマであるが、こちらの上着はTシャツタイプ。全体に水玉模様のように三日月マークがあしらわている(睦月型姉妹はパジャマの色はみんな違えど、お揃いのパジャマ)。

 そして暁はスムース生地のしろくま着ぐるみパジャマ。両手はくまの手みたいになっているが、手首のところに穴があるのでそこから手が出せるようになっている。フードも取り外し出来るタイプだ。因みにお花摘みの際は腰に付いてるチャックを開けると着たまま出来る仕様。

 

「暁ちゃんのは着ぐるみパジャマで可愛いね。私のところも姉妹でもお揃いだし、気にしなくていいと思うよ」

「前にみんなしてパジャマ姿のところ見たけど、みんなのも可愛いよね」

 

 三日月、初霜と暁のパジャマを褒めると、暁は「あ、ありがと……」と顔を赤くしながら返す。

 

「電ちゃんは確か……ペンギンさんの着ぐるみパジャマよね?」

「えぇ、そうよ。それで雷がラッコで、響が()()なの」

 

 暁は阿賀野へそう返すと、阿賀野は勿論、初霜たちも揃って『イカ?』と小首を傾げた。

 

「そう、イカ。シャチとかイルカとかもあったのに、響ったらそれを見て『Xорошо!』って目を輝かせちゃって……」

 

 苦笑いをこぼし、説明する暁。みんなは『響ちゃんらしいなぁ』と笑みをこぼしたが、それ以上に暁の響ものまねが上手かったことに内心驚いたのは秘密。

 その後も適当な雑談をしていると、提督が浴衣を着て戻ってきたので、みんなして歯磨きし(ちゃんと暁たちは自分たちの分を持ってきていた)、布団を敷いてみんなして寝転んだ。

 夫婦の部屋の布団を収納するところには、今回のような時のためにキングサイズ布団が二組あるのでみんなして寝れるのである。

 右から阿賀野、三日月、初霜、暁、提督と夫婦が駆逐艦たちを挟むように寝転ぶと、三人はとても安心し、自然と笑みをこぼしていた。

 

「ちゃんと歯磨きしたか、暁?」

「なんで私だけに訊くのよ……ちゃんと磨いたもん」

 

 提督の質問に若干頬を膨らませ、プンスカ(怒っているの意)気味で返す暁。

 

「いやぁ、暁はレディだからちゃんと磨けてるんだろうなって思ってな」

「そ、そういうことなら……まぁ、当然よね」

 

 提督の言葉にドヤァっと胸を張る暁であるが、他のみんなは『チョロい……』と苦笑い。でも暁本人は喜んでいるで誰も野暮なことは言わなかった。

 

「どうだ、みんな眠れそうか?」

「はい、阿賀野さんや司令官が一緒ですから♪」

「今はとても安心してます♪」

「お布団もふかふかでみんなと一緒だから平気よ♪」

 

 三日月、初霜、暁と笑顔で提督の質問に答えると、提督も阿賀野もまるで本当の自分たちの娘たちに甘えられているような、そんな気持ちで自然と温かい笑みを返す。

 すると提督はふとあることに気がついた。

 

「そういや、今いるみんなは髪が黒のロングヘアだな」

 

 そのつぶやきにみんなもハッとし、可笑しそうに笑った。

 初霜は「本当……可笑しい♪」とコロコロと笑い、三日月は「うん、可笑しい♪」とクスクスと笑い、暁は「妹が増えたみたい♪」とフフフと笑う。

 

「阿賀野も黒髪ロングだし、本当に俺と阿賀野の娘みたいだなぁ……」

「ふふっ、電ちゃんに怒られちゃいますよ、提督?」

「電はそんなことで怒らないさ。なぁ、暁?」

「えぇ、寧ろ『お姉ちゃんが増えたのです〜!』って大喜びするわよ♪」

「お前、ものまね上手だな」

 

 話題が急に切り替わり、唐突に褒められたので、暁は「へ?」と小首を傾げた。

 

「さっき響ちゃんの『ハラショー』ってのも似てたよ」

「え……そ、そうなの?」

 

 三日月の言葉に暁がそう返すと、阿賀野も初霜も笑顔で頷く。

 

「マジか。暁〜、俺にも聞かせてくれよ〜」

「えぇ〜、仕方ないわねぇ……んんっ。『Xорошо!』……これでいい?」

 

 暁がまた響のものまねをすると、提督は「おぉ、すげぇ!」と大絶賛。すると暁は「な、何がそんなに凄いのよ……」と口では言いながらも、顔はフニャフニャに緩み、喜びが爆発している。

 

「ねぇねぇ、暁ちゃん! この際だから雷ちゃんのものまねもしてみてよ! 絶対似てるから!」

「えぇ〜、阿賀野さんまで……」

 

 そう言う暁であるが、みんなからも『お願〜い』と頼まれたので、暁はまたも「じゃあ、『私をも〜っと、頼っていいのよ!』」とご期待に応えると、みんなから拍手をもらった。

 

「って、ついついやっちゃったけど、みんなはどうなの?」

 

 暁が他のみんなへ訊ねると、三日月は「私は出来ないかな〜」と困り笑顔。しかし、初霜は「私は出来るか分からないけど、やってみようか?」と訊いてきた。

 勿論、みんなして頷くと初霜は小さく息を吐いてから、

 

「『今日は何の日? 子日だよ〜!』……ど、どうかな?」

 

 かなりのハイクオリティものまねだった。

 

「おぉ、かなり似てるじゃねぇか!」

「この調子で初春ちゃんと若葉ちゃんもやっちゃおう!」

「が、頑張ります!」

 

 こうしていつの間にかものまねの話で盛り上がり、夫婦と初霜たちはいつの間にかスヤスヤと眠りに就いた。

 次の日の朝、それぞれの姉妹たちに『三人してズルい!』と抗議され、夫婦の部屋にはしばらく駆逐艦のみんながかわりばんこで一緒に寝に来ることになったとかーー。




今回はこんな感じにしました!

読んで頂き本当にありがとうございました!

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