大本営から発令された大規模作戦はあと数日間で今海域から撤退する。
しかし当鎮守府は勿論、泊地全体では連日、変わらずの殲滅作戦を遂行しており、徹底的に敵を叩き、その数を確実に減少させている。
残存勢力の数もかなり激減してきたのは喜ばしいことであるが、相手は底が知れない。よって今が一番気を緩めてはいけない時である。
そんな中、当艦隊は殲滅作戦の総仕上げとして連合艦隊が出撃。阿賀野、能代もそれぞれ支援艦隊旗艦として連合艦隊と共に出撃していった。
ただ、敵の数が激減していたので、道中は勿論、最深部でも鬼や姫といった強固体の存在は確認出来ず、艦隊は早々に最深部にて現れた敵の残存勢力を撃滅し、鎮守府へ戻ることにした。
「まさかこんなにも敵の数が減少するとはな……オリョールやカレー洋でもこれ程楽になってほしいところだ」
帰る途中、連合艦隊旗艦を務めた武蔵がそんなことをぼやく。
「それは無理よ。この海域は敵がもう手放したと見ていいけれど、ああいうところは簡単には手放さないはず」
「そうですね……だからこそ、毎回敵の補給艦を叩かなくてはいけませんから」
大和、翔鶴と武蔵の言葉に対して、言葉を述べると武蔵は「だよな」と軽く肩をすくめた。
「敵がなんだろうと、どれだけいようと、私たちが諦めなければいいのよ。その証拠にこの海域からは深海棲艦を追い出せたんだもの!」
「五航戦のツインテ娘にしてはいいことを言いやがりますね。その意志は評価してあげましょう」
せっかくいいことを瑞鶴が言っても、加賀からの妙な言い回しに瑞鶴は思わずムッと加賀を睨む。
すかさず翔鶴が「まぁまぁ、瑞鶴」とフォローし、赤城が「加賀さん、お口が悪いですよ」とたしなめたので、大事にはならなかった。ただ加賀も瑞鶴もこれは二人にとっての不器用なコミュニケーションの一つなので、放置しておいても特には問題なかったりする。
「まぁ、取り敢えず早く戻ってゆっくりしようよ〜」
「そうですね、北上さん♪ 全員無傷ですし、シャワー浴びて補給してまったりしましょ♪」
第二艦隊旗艦を務めた北上の言葉に大井がそう言うと、阿武隈や島風、雪風も二人のやり取りを『相変わらずブレない人たちだなぁ』と揃って笑顔で眺めた。
「こんなに重武装で来なくても大丈夫だったね〜」
「そうですね……空襲すらなかったですし」
第二艦隊に道中安定のために入った瑞鳳と秋月だったが、ほぼやることがなかった。
瑞鳳としては改二になって初めての出撃だったため、敵がいなくて喜んでいいのか、活躍出来なくて悲しんでいいのか複雑な様子だ。
「瑞鳳の言う通りだな……これならこの武蔵ではなく、長門に譲ってやれば良かったかもしれぬ。そうすれば、私は今頃提督と茶の一つでも楽しんでいられたのだが」
瑞鳳たちの話を聞いて、武蔵はそんな言葉をこぼす。これには加賀も「その手があったか」と心の中で思った。
しかし会話を聞いていた阿賀野が「それはどうかな〜?」と含み笑いして横槍を入れてきたので、LOVE勢やガチ勢は揃って小首を傾げる。
「今、
能代が苦笑いでそう説明すると、武蔵も加賀も、他のLOVE勢ですら、みんなして『あ〜』となんとも言えない表情を浮かべた。
何しろ、その護衛任務に就いている者たちはその名の通り
ーーーーーー
所変わり、鎮守府の執務室では、
「司令官、お茶飲む〜?」
「そろそろ休憩した方がいいよ〜」
文月と清霜がソファーで仕事をする提督の両肩から、小動物のようにひょこっと頭を出して休憩を進言している。
時計を見ると一五〇〇を過ぎ、先程艦隊からも帰投する報告を聞いた……なので二人はそう言っているのだ。
「いや、でもやはぎんが……」
「今の書類の山はあと少しなんだから、それが終わってからよ」
しかし提督は矢矧に言われ、書類チェックを休めない。
大規模作戦中は戦闘に集中出来るが、いざそれが終わりになると、今度は書類作成やら戦術的反省、自陣の状況把握と今後の方針思案、今作戦で敵に関して新しく得たこと……などなど、まとめるべきことや上に報告したり、提出書類が山のようにあるのだ。
よって流石の酒匂も提督を擁護出来ない。
しかし、
「矢矧さん、お気持ちは分かりますが、提督が可哀想です」
「そうだよ……提督、お昼休みのあとはずっと働いてるんだよ?」
五月雨、子日の両名からの言葉に矢矧は思わずたじろぐ。何せ二人して提督を本気で心配していて、今にも泣き出しそうな顔をしているからだ。
「矢矧さん、お願い! 提督を休ませてあげて!」
「お願いします」
ダメ押しとばかりに舞風、霰も頭を下げてお願いすると、矢矧はとうとう折れ、「じゃあ、少し休憩にしましょ」と了承した。
そう、あの矢矧ですら軽く説得出来てしまうこの部隊こそが、阿賀野や艦隊が認める最強駆逐隊なのである。
この六名の他にも、神風、睦月、弥生、菊月、三日月、磯波、朧、潮、暁、電、山風、大潮、雪風、野分、高波、秋月、照月と最強駆逐隊に名を連ねる者は多い。
どこをどうして最強と言わしめているのかというと、この者たちを前にすると誰も強く出れなくなるからだ。
その一例として、
「ティータイムと聞いて、やってきたデース!♡」
どこからともなく休憩時間を察してやってきた、この金剛への対応を見てもらいたい。
「お〜、金剛〜。相変わらず勘がすげぇな」
「フッフッフ〜、テイトクのことならすぐに分かっちゃいマス!♡」
もう慣れてしまった感のある提督に金剛はバチコーンとウィンクしてみせる。これは金剛の特殊能力みたいなもので、提督がお茶休憩になると金剛の勘がティコリンと何かを察し、こうしてタイミングよく訪れることが出来るのだ(訓練中や演習、出撃時は察しても行けないので我慢しているんだとか)。
金剛としては阿賀野がいない今は矢矧、酒匂がいるとしても絶好のチャンスなのだが、
「わぁ、金剛さんだ〜! 金剛さん! 抱っこして〜!」
戦艦大好きっ子の清霜に早くもマークされる。
「お、オ〜、キヨッシモーもいたんデスネ〜……オーケー、カモーン」
こうなると金剛は優しいが故に清霜を抱っこしてしまうのだ。仮にここで拒んだり、清霜のことをあと回しにするようなことがあれば、提督の娘ポジである子を蔑ろにしたとしてあくまで金剛の良心が痛んでしまうのである。
「キヨッシモーは軽いデスネ〜」
「これから大きくなるもん! そしたら戦艦になるんだから!」
「ワォ、可愛い後輩が出来るのが楽しみデス♪」
でもなんだかんだ面倒見の良い金剛なので、自然と笑顔の花が咲き、ほんわかムードで休憩時間が幕を開けるのだった。
ーーーーーー
「それではテイトク、ワタシはマイルームへ戻るけど、何かあったらすぐに呼んでくだサイネ〜!♡」
そう言って執務室をあとにする金剛へ、提督は「おう、またな」と笑顔で声をかける。
結局ティータイムの間中、金剛と提督の間には清霜がいたので普段懸念してしまう金剛による過度なスキンシップはなされなかった。
「それじゃあ、早速仕事をーー」
再開しましょう……と矢矧が言おうとした矢先、提督の無線機が艦隊からの通信をキャッチする。
「こちら提督、興野。どうぞ」
『おぉ、提督か♡ お前の武蔵だ♡ 艦隊は無事に鎮守府の正面海域に入った……あと少しで母港へ到着するぞ♡』
「ん、了解だ。最後まで気をつけて帰ってこい」
『ははは、愛するお前の腕の中以外で、この武蔵は沈まん♡ 帰ったら熱い抱擁を頼むぞ♡』
武蔵の堂々たる言葉に提督は思わず苦笑いし、「おう」と返したが、すぐに『提督さ〜ん! 浮気はダメだからね〜!』と妻の声がしたので、提督は背筋を伸ばして「(^q^)ハァイ」と返すのだった。
「てな訳で、俺は埠頭へ向かう。矢矧と酒匂はドックと補給室へ連絡後、埠頭へ来てくれ」
通信を終えた提督が矢矧たちへ指示を出すと、矢矧も酒匂も『了解』と返して、慣れた手付きでドックと補給室へ連絡をとる。
その間、提督は文月たちと人数分のタオル、飲み物が入ったクーラーボックスを携えて埠頭へと向かった。
ーーーーーー
「重くねぇか? タオルで良かったんだぞ?」
埠頭へ向かうため、本館の廊下を進んでいる中、提督は敢えて重い方のクーラーボックスを持ってくれた舞風と子日に声をかける。
しかし二人して『二人で運んでるから大丈夫〜♪』と言って、空いている手でピースサインを出した。
「手が疲れたらあたしたちと交代しようねぇ」
文月が舞風たちにそう声をかけると、舞風たちは揃って笑顔を返す。
一方で、
「わ、私だってお手伝いくらいーー」
出来るよぅ……と五月雨が言おうとすると、霰と清霜が即座に、
「五月雨はさっきタオルの袋を持ってて転んじゃったから……」
「司令官と手を繋いで、司令官を無事に埠頭まで誘導するのが任務なの!」
と言って、五月雨が転倒しないように配慮しつつ、それらしい理由で荷物を持たせないようにした。
「わ、分かった! 提督! この五月雨が、しっかりと提督を埠頭までお送りしま……わわっ!?」
「っとと、意気込みは分かったからよ、もう少しゆっくり誘導してくれっとありがてぇな」
早速転びそうになった五月雨を提督が優しく支え、五月雨へ優しい言葉をかける。
すると五月雨は満面の笑みで「はい!」と返し、提督に言われた通り、ゆっくりゆっくりと提督の手を引いて誘導するのだった。
ーーーーーー
提督一行が埠頭に到着すると、すぐに矢矧たちも合流。
その後すぐに艦隊が帰投し、みんなはそれを敬礼して出迎えた。
空振りのような出撃だったが、艦隊はみんな胸を張って桟橋へ上がる。そんな艦娘たちへ、提督は飲み物とタオルを一人ひとりに手渡ししながら、その労をねぎらう言葉をかけていった。
支援艦隊にいる陸奥、時雨、夕立といったガチ勢は提督の胸に……または自身の胸に収めたかったが、それは当然の如く最強駆逐隊に阻止された。ただ、武蔵と加賀は正しい状況判断をしてがっつかなかったので、提督に頬を撫でてもらったり、お帰りのハグ(軽くなので阿賀野も怒らなかった)をしてもらったりと、提督に構ってもらえたのだった。
そしてみんながドックへ向かう中、
「みんな、阿賀野がいない間、提督さんを守ってくれてありがと! ご褒美あげるね!」
阿賀野が最強駆逐隊へ護衛任務の報酬を与える。
それは、
「ありがと〜!」
「ありがとうな、文月」
「えへへ〜、どういたしましてぇ♪」
夫婦からのサンドイッチハグだ。勿論、後日にちゃんと阿賀野からみんなへ間宮、伊良湖スィーツをご馳走する予定。
こうして最強駆逐隊のみんなは順番で夫婦からのご褒美ハグをしてもらい、キラキラと輝く笑顔を浮かべながら任務成功を喜ぶのであったーー。
今回はこんな感じになりました!
天使を前にすれば、誰だって敵いませんよね!
読んで頂き本当にありがとうございました!