提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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大晦日の鎮守府

 

 日付けは12月31日、大晦日。

 時間は丁度〇七〇〇。

 此度、艦隊の任務は昼からでその間に艦娘たちは大掃除をする予定。普段から妖精たちが掃除をしてくれているお陰で各施設や寮はキレイにされているが、艦娘たちが過ごしている寮の各部屋内まではプライバシーのこともあって掃除されていないので、この日に徹底して掃除をするのだ。もっとも、普段からちゃんと整理整頓をしていれば昼までお休みみたいなものである。

 

 ー執務室ー

 

「阿賀野姉ぇ、執務室に私物持ってき過ぎ。必要ない物は部屋に持って帰ってよ」

「えぇ、あるとお昼寝する時にいいから置いてるのに〜」

 

 当然、執務室でも提督と阿賀野型姉妹がこれを期に執務室内の大掃除をしているが、殆どは提督と阿賀野が持ち込んだ物を執務室に置くか否かの話だった。

 因みに今能代が阿賀野に説明を求めているのは、シャチを模したモチモチクッションである。

 

「せめて執務室じゃなくて、仮眠室に置いてよ」

「えぇ〜、このクッションを触ってるだけでも、私は癒やされてるのに〜!」

「なら百歩譲って普通のクッションにして」

「ぶ〜ぶ〜」

「阿賀野姉ぇ?」

 

 能代からのドス黒いオーラに阿賀野はピシッと敬礼し、「分かりました!」と返すしかなかった。

 

 一方、矢矧と酒匂は提督と一緒に提督が使っている執務机の上を整理していた。

 

「提督……阿賀野姉ぇとの写真飾り過ぎじゃない?」

「みんなとの集合写真を除くとぉ、に〜、し〜、ろ〜、や〜、と〜……13枚あるね〜」

「だってどれもずっと見ていたい表情なんだもん」

 

 提督の子どものような反論に矢矧は苦笑いを浮かべ、酒匂は「ふぇ〜」と感嘆の声をもらす。

 机の上には結構な数の写真立てが飾られていて、集合写真を除く全てが阿賀野の写真である。一応、矢矧たち阿賀野型姉妹と写っている写真もあるが、あとはアイスを食べて「ん〜♪」とご満悦の写真や提督とキスをしてるスイーツ満点な写真ばかりだ。

 

「結婚式での写真と集合写真は飾ってあってもいいけれど、他のは必要ないと思うのよね」

「本当なら阿賀野の写真は全部飾りたい……」

 

 そう返した途端に矢矧からは「ダメ」と却下される。提督はこのまま抵抗しても矢矧は引かないと思い、渋々写真立てを使っていない引出しに片し、日替わりで飾ることにするのだった。

 

 その後も夫婦は能代たちからこれもいらない、あれもいらないと厳しく整理整頓をさせられたそうな。

 

 ー駆逐艦寮ー

 

 所変わり、ここでも大掃除の真っ最中。

 しかし陽炎型姉妹の陽炎型4号室は駆逐艦以外にも多くの艦娘たちが訪れている。何故なら秋雲が自分の描いた作品を在庫処分として部屋で即売会をしており、周りとは違った賑わいを見せているからだ。

 そんな中でも暁型姉妹の部屋はある艦娘のせいで、大掃除が進まずにいた。

 

「響姉、これはいるの?」

 

 それは大体が響のせいである。

 普段はしっかり者の響だが、実のところ整理整頓が大の苦手であり、あのロリお艦の異名を持つ雷ですらてんてこまいしているのだ。

 因みに今はボロボロになったタオルケットを雷が響に捨てるかどうか聞いている最中。

 

「まだ使えるし、捨てたくないな」

「でも寝る時は新しいの使ってるじゃない」

「これはお昼寝用だ」

「最近はこたつでお昼寝してるじゃない」

「……夏のお昼寝用だ」

「夏は暑いから眠れないって言うじゃない」

「…………部屋でたまにしてるし」

 

 雷の言葉にああ言えばこう言う響。雷は埒があかないので「捨てるわ」とゴミ袋へと入れようとする。

 

「こんな一方的な判決は卑怯だ! 異議申立てする!」

 

 響はそう言って立ち上がるが、

 

「使ってないのは私も見てるし、捨てていいと思うわ」

「大切なら、普段から使ってあげない響お姉ちゃんが悪いのです」

 

 裁判員の暁と電に正論を言われてしまう。

 

「二人からの意見を採用し、異議は却下します」

「ま、待ってほしい!」

 

 必死な響に雷は「まだ何かあるの?」と視線を向けると、響は正座して口を開いた。

 

「鼻☆塩☆塩」

 

 その言葉に全員が頭の上にはてなマークを浮かべる。何せ真面目な顔をして謎の言葉を発したのだから当然だ。

 

「あ、間違えた。話をしよう」

 

 どうやら素で間違えた様子。響がちゃんと言い直すと、姉妹たちはドッと笑い転げた。

 

「鼻塩塩って……なんなよ響姉……くふふふwww」

「冷静に言い直すのもシュール過ぎるわ、響www」

「鼻に……ふふふ、お塩は……ぷふっ……痛いですよwww」

 

 みんなしてお腹を抱え、畳やテーブルをバシバシと叩く。これには流石の響も恥ずかしくなり、拗ねてしまった。

 拗ねる響に姉妹はちゃんと謝り、今回は特別にタオルケットを捨てるのは見送ると伝えると、響はやっと機嫌を直したそうな。

 

 ー重巡洋艦寮ー

 

 一方その頃、重巡洋艦寮の4号室では青葉の提督これしくょんの叩き売りがされ、LOVE勢による長蛇の列が出来ていた。

 そんな中、寮の2号室は衣笠、摩耶、最上の3人が掃除を終えてのんびりとお茶を楽しんでいる。

 

「ただいま〜」

 

 するとそこへゴミ出しへ行った加古が帰ってきた。その手には何やら封筒が握られており、それを見た衣笠たちは含み笑いを浮かべる。

 

「な、なんだよ、みんなしてその笑いは〜……」

 

 三人へそんな言葉を加古が放つと、摩耶は「べっつに〜♪」と返し、最上からは慈愛あふれる笑みで何か悟らているように頷かれてしまう始末。

 

「加古ちゃんなら仕方ないよね〜。いい写真あったんでしょ?」

 

 衣笠の言葉に加古は顔を赤くして「うっ」と狼狽える。どうやら図星のよう。

 加古はゴミ出しの帰りに真っ直ぐ部屋へは帰らず、4号室まで行って提督これくしょんを買ってきたのだ。

 

「どんなの買ってきたのか、見せてみろよ」

「ボクも見たいな」

「み、見せるだけだかんな? あげねぇかんな!?」

 

 必死に言う加古に二人は盗らない盗らないと苦笑いを浮かべた。

 前に同じ場面になった時に二人して『いらない』と言ったら、加古が『いらねぇってのはどういうこった!?』と逆ギレしたので、二人はこういう時は盗らないと伝えることにしている。これも一重に複雑な乙女心のようなものだろう。

 

 それから加古は封筒に入っている提督これくしょんをテーブルに並べた。

 第六戦隊のみんなで提督と一緒に撮ったもの、楽しげに笑っているもの、桟橋で佇む後ろ姿、中庭のベンチで居眠りしているもの……と10枚ほどのこれくしょんが揃っている。

 

「いつ見てもどうやって撮ったのか分かんねぇ写真が混じってんな〜」

「この布団から起き上がったところの写真とかね……」

 

 摩耶と最上の言葉に衣笠は「青葉ったら」と苦言をもらす。

 すると封筒にまだ何か入っているのを衣笠は見つけ、スルスルっと加古から取り、中身を確認した。

 

 そこには提督と加古が仮眠室ベッドで一緒に寝ている写真が入っていた。

 衣笠はそういえば、前に加古がお昼寝から帰ってきた時にずっと上の空でニヤニヤしてたことがあったのを思い出す。

 

(阿賀野ちゃんが居ない間に一緒にお昼寝したところを青葉が撮ったんだな〜)

 

 そう思うと衣笠はあえて見なかったことにし、みんなに気付かれないように小さく笑いながら、そっと封筒を戻すのだった。

 

 ーーーーーー

 

 時間はもう二二〇〇を過ぎ、もう今年もあと僅か。

 食堂も年末年始のこの時だけは普段の営業時間を延長し、みんなして年越しの予定だ。

 

 みんなはそれぞれ、

 

「スキップ!」

「ど、ドロ2」

「ドロ4」

「ドロ4よ!」

「ごめん、朝風姉貴。リターンだ」

「うにゃぁぁぁ!?」

 

 UNOをしたり(神風型姉妹)、

 

「誰よ、ダイヤの5止めるの!」

「私じゃないよ?」

「アタシじゃないよ」

「アタシでもないよ〜」

「漣〜」

「天霧ネキ、漣じゃないよ!」

「ご、ごめんなさい。私なの……」

「だ、大丈夫だよ、狭霧ちゃん」

「なんであたしが悪いみたいになってるのよぉぉぉ!?」

 

 トランプの7並べをしたり(綾波型姉妹)、

 

「猪鹿蝶!」

「ぬぉっ!? またか!? 貴様、イカサマしておらぬか!?」

「してないに決まってるだろ……というか、山をきったのはお前だろうが、利根」

「ぐぬぬぬぬぬ! もう一回じゃ!」

「姉さん、もう奢れるかギリギリの金額になっちゃってますよ……」

「そんなにお酒を飲ませなくていいので、その半分でいいですよ」

「姉さん!?」

「真か!? 感謝するぞ! さぁ、那智、もう一回じゃ!」

 

 お酒の奢りを賭けて花札をしたり(那智と利根。お目付け役は妙高と筑摩)、

 

「チェックメイトだ」

「待って待って! もう一回!」

「アクィラ、何度やり直させる気だ……」

「だ、だってぇ〜!」

「クイーンを早々に取られ、ポーンもほぼ全滅。更にはナイトとビショップも取られちゃってて、アークさんはほぼ無傷……」

「潔く負けを認めた方がよろしいかと……」

「だ、そうだが?」

「…………負けました」

「それならば、次は私と頼む」

「お手柔らかに、グラーフ」

 

 チェスをしている者たち(アーク・アクィラ・グラーフ・サラトガ・コマンダン・テスト)、

 

「やった〜! 双子が産まれたですって!」

「おめでとうございます、ろーちゃん♪」

「おめでと〜♪」

「うぅ〜、またお金が飛んでいくのね〜」

「銀行家殿……か、借り入れを……」

「は〜い♪」

「子沢山でいいね〜」

「私ももう一人くらいほしいな……」

「現実でフリーターなのに子ども産むとか無いわよね」

「ま、まぁ、ゲームだからね……あはは」

 

 人生ゲームで盛り上がっている者たち(潜水艦組だが、ろーちゃん・まるゆ・ゴーヤが大富豪なのに対してイクとイヨは借金生活)、

 

 他にもテレビのお笑い番組を観る者たちやお酒を楽しむ者たちと様々に年越しを楽しんでいる様子。

 

 駆逐艦や海防艦たちの中には何人か夢の中へと羽ばたいているが、姉妹の誰かや世話好きの誰かに膝枕されて心地よさそう。

 

「まだお蕎麦があるのでまた食べたい人は言ってくださいね〜。すぐに茹でますから」

 

 間宮の声にみんなは返事をすると、雲龍・海風・山風の三巨塔は即座に受付へ向かう。三人につられるように何人かも蕎麦をまた堪能しようと受付に行く者がいた。

 因みに年越し蕎麦は大晦日の内の年を越す前に食べきればいい。

 

「テイトクゥ、みかん剥きマスカ?♡」

「お酒のお代わりは如何?♡」

 

 そんな中、提督は提督でLOVE勢にとても構われている。

 提督が座る左には阿賀野がしっかりと侍っているが、ガチ勢がしたたかに提督へ世話を焼いているのだ(因みに今は金剛と陸奥のターン)。しかもかわりばんこで且つ、絶妙なタイミングなので提督もつい甘えてしまう。

 

「提督さん……阿賀野寂しい〜」

 

 しかし阿賀野も今日は負けじと提督に甘えてくる。

 年越しなのに夫が他の女性と過ごしていれば、大抵の妻のなら嫉妬するのは当たり前だろう。

 

「阿賀野が寂しいと俺も寂しいぞ!」

 

 すると当然、提督は阿賀野の肩を抱き寄せた。こうなると阿賀野の独壇場で、ガチ勢はぐぬぬと拳を握りしめる。その一方で裏LOVE勢はずっと夫婦の様子を恍惚な表情を浮かべて見ているのだから、同席している姉妹や仲間たちは何とも言えない光景だろう。

 

「提督さん、提督さん」

 

 そんな中、阿賀野が提督の胸元をクイクイと引っ張った。提督がどうしたのだろうと阿賀野へ視線を移すと、

 

「今年もいっぱい愛してくれてありがとう♡ 来年も二人でいっぱい幸せになろうね♡」

 

 阿賀野らしい可愛い挨拶。それに加えての愛らしい笑みは提督の胸をこれでもかと砲撃し、射抜く。

 提督は小さく一息吐くと、阿賀野の目を見ながらしっかりと言葉を返す。

 

「…………今年は結婚式したり、新婚旅行行ったり、最高に幸せな年だったな。来年はどうなるか分かんねぇけど、二人で乗り越えような」

 

 提督らしい挨拶に、阿賀野はクスッと小さく笑う。それにつられて提督も小さく笑うと、夫婦は今年最後の口づけをみんなの前で交わすのだった。

 

 夫婦のキスシーンに食堂では黄色い声や冷やかし声がこだました。すると当然の如く、提督は矢矧からハリセンを喰らった……。

 

 その後もガチ勢は夫婦のキスシーンに触発され、金剛は紅茶、グラーフはコーヒー、雲龍はカツ丼(テラ盛り)……などなど、みんなして甲斐甲斐しく提督へアピール。

 提督はそれに笑顔で応えながらご馳走になりつつ、隣で笑う阿賀野と艦娘たちと一緒に除夜の鐘と共に新年を迎えるのだったーー。




ということで、今年最後の更新になります!
1月1日は一応更新予定です!
その続きは年始で色々と忙しいのでいつ更新出来るかは分かりませんが、その時までお待ちください。
ではでは読んで頂き本当にありがとうございました!
良い年末をお過ごしください☆

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