提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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今回も説明回です。ご了承お願い致します。


うちのルール

 

「…………はぁ〜」

 

 提督が択捉にちゃんと話をした直後、矢矧は盛大なため息を吐く。

 

「え、何でため息吐かれてんの、俺?」

「自分の両サイドをよく見てみれば?」

 

 矢矧の答えに提督は両サイドを確認。

 しかし自分の両サイドには、頭を撫でられて嬉しそうにしている占守と国後の姿しかない。

 

「海防艦って可愛いよな♪」

「……ロリコン提督

 

 呆れた矢矧は提督に聞こえるか聞こえないかほどの小声でチクリと刺す。

 しかし、ちゃんと聞こえていた提督は「何でそうなんだよ!?」と猛抗議。

 

「だってロリコンじゃない! 小さい子たちにデレデレして!」

「可愛いから可愛がってるだけだろ!? それに高雄とか飛鷹とか美人にもデレデレしてるぞ!」

 

 提督の謎の抗議に矢矧は「なお悪い!」と一喝。

 そして少し間を置いて、とある質問を提督にする。

 

「……ア〇ドルマスターでの推しは?」

「高〇やよいちゃん一択」

「ほら、紛れもないロリコンじゃない」

「シ〇デレラガールズでは佐〇間まゆちゃんだぞ!?」

「そのキャラ以外のメインユニットの構成は?」

「橘あ〇すちゃん、佐城雪〇ちゃん、市原仁〇ちゃん、遊佐こ〇えちゃん」

「ガッツリアウトよ! ていうか、何でフルネームでスラスラ言える訳!? それと佐〇間って子がそのユニットで浮き過ぎでしょ!?」

 

 ああだこうだと言い争う二人。

 そんな二人の姿に択捉はあたふたしてしまう。

 

「気にすることないっすよ? これが二人の日常っす」

「そそ♪ それにロリコンって言っても、セクハラとか襲ってきたりとかしないもん。するとしたら頭撫でてくれるとか手を繋ぐとか……そんな感じ♪」

 

 占守と国後の説明に択捉は「はぁ……」と何とも言えない声しか出せなかった。

 

 すると執務室のドアがコンコンコンと丁寧にノックされ、ドアが開くと、

 

「失礼します。廊下まで声がだだ漏れですよ?」

 

 能代が現れた。

 阿賀野型軽巡洋艦の二番艦『能代』は矢矧の姉で、この鎮守府では第二補佐艦。とても面倒見が良く、みんなのお姉ちゃん的存在だ。

 

「だってやはぎんが!」

「だって提督が!」

 

 二人仲良く声を揃えて能代に訴える。そんな二人を見て、能代は苦笑いを浮かべた。

 

「はいはい、口論はそれぐらいにして……提督、択捉さんに話は終わりましたか?」

「ん……まあ」

「では当初の予定通り、寮へ案内してもいいですか?」

「……あ、ちょい待ち。択捉にイヤリング渡すの忘れてた」

 

 提督はそう言うと、択捉の側まで歩み寄ってハート型のイヤリングを手渡した。

 

「それは君がうちの鎮守府の択捉だという証明……簡単に言えば身分証みたいな物だ。中にマイクロチップが組み込まれていて、どこの鎮守府に所属しているか判明出来るようになってる」

 

 そして提督は小さな端末をポケットから出して、そのイヤリングを端末にスキャンさせてみせる。

 

 すると端末の画面に艦種、名前、所属、練度、着任日数が表示された。

 

「こんな感じ。これでスキャンすると大本営に自動で情報が送られて、それを元に近代化改修のチップが送られてくる。風呂に入る時や寝る時以外は持ち歩くようにな。無くしたらうん十万円くらい、俺の貯金が減る」

「りょ、了解です!」

「能代や占守たちみたいに耳に付けるなり、矢矧みたいに留め具を交換してネックレスのチャームにするなり好きにしてくれ。加工なら工廠に行けばすぐにしてくれると思うからよ」

「はい……あ、では左胸にブローチとして装着します♪」

 

 嬉しそうに笑顔でそう言う択捉に提督は「おう」と、微笑んで頭を一撫でした。

 そして「あとは頼むな、のしろん」と言って、机に戻り、書類の山に取り掛かった。

 

 そんな提督を見て、占守と国後は自分たちも補給室へ向かうことにし、能代も択捉を連れて艦娘たちの寮へ案内するのだった。

 

 ーーーーーー

 

 本館の玄関を出てすぐに、占守たちと別れた能代と択捉。

 能代は寮へ着くまで、鎮守府のことや寮のことを簡単に説明することにした。

 

「うちの鎮守府の艦娘保有数は給糧艦の間宮さんと伊良湖さん、そして択捉さんを合わせて、196名。鎮守府本館と寮の間にある大きな一階建ての建物が食堂でその隣が工作艦の明石さんがやってる酒保……因みにその隣のレンガで出来た大きな建物が工廠よ。食堂と酒保どっちも〇六〇〇から二二〇〇までやってるわ。ここに慣れるまでは案内書を見てね」

「分かりました」

 

「それと月に一度、鎮守府の正門前にデモ隊が来るからあまり気にしないでね」

「え、デモ隊……?」

「えぇ、ちゃんとこの日にデモしますって警察と軍とデモをする鎮守府に通達して来るから。でもうちはまだマシな方……戦果を数多く上げてる鎮守府では週一とかで来るらしいわ」

「大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。向こうは戦争反対って訴えるだけで、鎮守府内に侵入もしてこないから。仮に侵入した場合はその場で現行犯逮捕されるわ。私たちは正門付近に近寄らなければそれで大丈夫よ」

「分かりました」

 

 そんな説明をしながら歩いていると、寮であろう建物たちが見えて来た。

 

「あの密集した灰色の建物が艦娘寮よ。この手前から戦艦寮、空母寮、重巡洋艦寮、軽巡洋艦寮、駆逐艦寮、潜水艦寮、特務艦寮で……択捉さんは一番小さな特務艦寮ね。因みに航空巡洋艦の人は重巡洋艦寮で、重雷装巡洋艦の人は軽巡洋艦寮、水上機母艦の人は空母寮なの」

「やっぱり駆逐艦寮が一番大きいですね」

 

 択捉の言葉に能代は「そうね」と笑顔で返し、択捉を特務艦寮まで案内した。

 

 ーーーーーー

 

 寮の中へ入ると、掃除の行き届いた廊下や天井、白く清潔感のある内装に択捉は思わずキョロキョロとしてしまう。

 

「掃除は妖精さんたちが毎日してくれてるわ。だから見かけたらお礼を伝えたり、お菓子をあげたりしてね」

「分かりました」

「玄関入ってすぐ右手の壁に掲示板があるでしょ? そこに今月の鎮守府全体での予定と個人の任務、訓練予定が張り出されてるから、こまめにチェックしておいてね」

 

 と言っても、択捉さんのはまだ出てないんだけどね……と能代がお茶目に付け加えると、択捉は可笑しそうに笑った。

 

「説明に戻るわね。正面玄関をくぐってすぐ右側の部屋は談話室で、反対に左側が共同キッチンよ……キッチンのすぐ隣が共同の洗面所。トイレは談話室の隣ね」

 

 択捉は能代の言葉に耳を傾けながら案内書を見つつ、一部屋一部屋の場所をしっかりと確認する。

 それから能代は択捉が寝泊まりする寮室へと足を進めた。

 

 ーーーーーー

 

「それでここが択捉さんの寮室よ♪」

「はい。占守先輩たち同じお部屋なんですよね? 鎮守府へ来る前に教えてもらいました♪」

 

 択捉が能代にそう言うと能代は「そうよ」と笑顔を見せる。

 

 そして中に入ると択捉は「わぁ〜」と声をあげた。

 

「見ての通り内装は和室で広さは十四畳。寮は全部この間取りよ。二段ベッドが二つ置いてある右側に収納スペースが四人分あるから、空いてるところを使うといいわ」

「了解です♪」

 

 室内には二段ベッドや収納スペースの他に、テレビやエアコン、冷蔵・冷凍庫、簡易キッチン、ちゃぶ台と必要な物はほぼ揃っている。

 

「あ、それと週に一度、寮長によるお部屋チェックがあるから散らかしておかないでね。もし寮長からバツをもらうと、1ヶ月間のトイレ、談話室清掃の刑だから」

「わ、分かりました……寮長さんはどなたなんですか?」

 

 択捉の質問に能代が答えようとしたその時、

 

「あら、新しく着任した方ですか?」

 

 背後から声をかけられた。

 

「あ、龍鳳さん。そうです、新しく着任した択捉さんです」

 

 その声の主は龍鳳型軽空母『龍鳳』だった。

 龍鳳は「あらまあ♪」と両手を叩き、択捉へにこやかに挨拶すると択捉も礼儀正しく挨拶する。

 

「龍鳳さんが特務艦寮の寮長よ」

「え、軽空母の方が寮長さんなんですか?」

 

 択捉の言葉に龍鳳は可笑しそうにクスクスと笑い、口を開く。

 

「私、ここに着任した時は潜水母艦『大鯨』だったの。今は改造したことで軽空母になったけど、寮を変えるのも大変だからって提督からそのままでいいよって言ってくださったの」

「なるほど……」

 

「潜水艦の子たちは今でも大鯨って前の名前で呼んだりしてるのよね。どっちも本人だから戸惑わないようにね」

 

 能代がそう注意すると、択捉は「了解です」と笑顔で返した。

 

「ここからは寮長の私が説明しますから、能代さんは執務室へ戻っていいですよ」

「あ、そうですか? 助かります♪ 提督と矢矧を二人きりにさせとくのはちょっと心配なので……」

 

 龍鳳の提案に能代はそう言って択捉のことをお願いして、二人に笑顔で挨拶してから小走りで執務室へ戻っていった。

 そんな能代の背中を龍鳳はふふふっと笑いながら見送る。

 すると択捉が「あの……」と龍鳳に声をかけた。

 

「矢矧さんと司令はケッコンカッコカリをされているんですか? ケンカはしてましたが、とても悪い仲には見えなかったので」

「あぁ、提督と矢矧さんは兄妹よ」

「えぇっ、どういうことですか!?」

「提督は矢矧さんのお姉さん、阿賀野さんと正式に婚約されてるの。だから矢矧さんは提督の義理の妹……勿論、能代さんと酒匂さんもね」

「艦娘とご結婚する方がいるのは存じてましたが、まさか司令が艦娘とご結婚されてるとは思いませんでした……」

「ふふっ、とても仲睦まじいわよ♪」

 

 龍鳳がそう言うと択捉は「へぇ〜」と間の抜けた声を返す。

 

「因みに提督はケッコンカッコカリなら阿賀野さんは勿論、その他にも数人としてるのよ?」

「え、それって大丈夫なんですか?」

「ケッコンカッコカリは艦娘の力を更に強化出来るの。深海棲艦に対抗するため、仲間を失うようなことを避けるため……提督はみんなに誠意を持って説明して、みんなそれを承知してケッコンカッコカリの指輪を受け取ったのよ」

 

「それにカッコカリだからジュウコンカッコカリが法的に認められ、成立するの。どこかの鎮守府には正式な結婚はしないでジュウコンカッコカリのまま過ごすって方もいるみたいだし」

「それはそれで何だか複雑そうですね……」

「でも艦娘もちゃんと人の心や人権を持ってるから、本人たちがそれでいいならいいんじゃないかしら?」

 

 そう笑顔で龍鳳が言うと択捉は「なるほど」と頷いた。

 

「……そんな中でも、うちの何人かは提督との結婚を諦めてない人がいるんだけどね

 

 最後に小声でそうつぶやいた龍鳳。聞き取れなかった択捉は聞き返すが、龍鳳は「なんでもないわ」と爽やかな笑顔で返し、能代からまだ聞かされていない寮でのルールを丁寧に教えるのだった。

 

 ーーーーーー

 

 その頃、鎮守府正面海域では出撃任務を終え、鎮守府へ帰投途中の艦隊が複縦陣で海上をかけていた。

 

「ん〜……やっと鎮守府の制海権内に入ったから、少〜し安心出来る〜♪ 提督さ〜ん、もうすぐ帰るから待っててね〜!♡」




ここで終わり?って感じになりましたがご了承を。

読んで頂き本当にありがとうございました!

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