提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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清掃委員会

 

 9月某日、昼過ぎ。

 通常運営に戻った鎮守府。訓練場や埠頭では艦娘たちの声が響き、いつもの活気がそこに溢れている。

 

 ー鎮守府本館、正面玄関前ー

 

 そして玄関前では艦娘たちが整列し、矢矧と阿賀野の言葉を聞いていた。

 

「みんな今回も鎮守府の清掃、よろしく頼むわね」

 

 矢矧の言葉に『はい!』とまっぐすに返事をするこの艦娘たちは『清掃委員会』に所属する艦娘たち。

 清掃委員会はその名の通り鎮守府の清掃を行う委員会で、普段鎮守府全域の掃除をしてくれている妖精たちの代わりに週間に一度だが清掃をする委員会だ。

 妖精たちへ少しでも恩返しをするのと同時に、日頃から自分たちを第一に考えてくれる提督への恩返しでもある。

 

「今回も提督さんがみんなへのご褒美を用意してくれてるよ〜♪」

 

 阿賀野の言葉に清掃委員会の面々は嬉しそうな声をもらす。そしてみんなしてやる気を一層強め、鎮守府の清掃へとそれぞれ向かうのであった。

 

 ーーーーーー

 

 ー鎮守府、正門ー

 

「それでは正門周辺担当となった皆さん、頑張ってお掃除しましょう!」

「正門は鎮守府の顔。そこが汚れてたらいけないから、頑張ろうね」

 

 清掃委員会の委員長である大和と副委員長の名取の言葉に、正門周辺の清掃をすることになった者たちは『はい!』と返し、それぞれ掃除を開始する。

 

「この落ち葉たちってさ〜、毎回どこから飛んでくるんだろうね〜?」

「中庭の桐木の葉っぱもあるけど、他にも風でこっちまで飛んでくるのもあるからね」

「まぁ、その都度掃けばいいことじゃん♪」

 

 掃き掃除を開始した綾波型駆逐艦二番艦『敷波』の疑問に、その一番艦『綾波』と正規空母『飛龍』が落ち葉を掃きつつ返した。

 

 敷波は少しネガティブ思考があるもののいつも一生懸命な艦娘。提督のことは父のように慕っている。

 綾波は提督を心から敬愛している真面目でお淑やかな艦娘。海に出れば黒豹とまで称される戦果を誇る。

 飛龍は鎮守府が誇る二航戦で蒼龍の相方。提督をかつての第二航空戦隊司令官『山口多聞』と重なる部分(愛妻家の部分や日頃の豪快さ)があるので敬愛し、そんな提督に少し恋しているLOVE勢。

 

「飛龍さんの言う通りです。それにこの落ち葉で焚き火をするのも、一つの楽しみではありませんか」

 

 その横から微笑んで言うのは大淀型軽巡洋艦一番艦『大淀』。

 艦隊きっての頭脳派で提督からの信頼も厚い。普段は任務状況管理や電文処理を任されている。

 

「焚き火が楽しみっていうか、その焚き火で焼く海の幸が最大の楽しみだよね〜♪」

 

 落ち葉をゴミ袋にまとめながらルンルン気分で言うのは潜水艦『伊四百一』ことしおいだ。

 しおいはいつも明るく周りを和ませるムードメーカー。提督によく懐いていて、父のように思っている。

 

 しおいが言ったように集めた落ち葉は最後に燃やし、その焚き火で魚や貝を焼いてみんなで食べるのがこの清掃活動の打ち上げだ。秋が本格的になれば秋刀魚や焼き芋といったライナップも食べられる。

 

「え……ま、まぁ、それも好きだけど……」

「敷波はみんなで食べるのが好きなんだよね♪」

 

 綾波の言葉に敷波は平静を装うが、周りの者たちから温かい微笑みを受けた。こうなると敷波は「掃き掃除掃き掃除〜」と誤魔化すことしか対処法が残っていなかった。

 

 ー中庭ー

 

 ところ変わり、ここでも清掃委員会の艦娘たちが箒やチリトリ、ゴミ袋を持って清掃活動に精を出していた。

 

「空瓶発見!」

 

 そう言って空瓶を回収するのは艦隊唯一のドイツ重巡洋艦『プリンツ』。

 来日して一年以上だが、まだまだ日本文化に驚かされる日々を楽しく過ごす明るい艦娘。提督夫婦やビスマルクたちドイツ勢と映画鑑賞するのが好き。

 

「飲んで忘れちゃったのかしら?」

「おっちょこちょいよね〜、まぁ誰にでもうっかりはあるから仕方ないけど」

 

 集めた落ち葉をチリトリに集めながら夕雲型駆逐艦一番艦『夕雲』がそうつぶやくと、チリトリを持つ雷が苦笑いを浮かべながら返す。

 夕雲は面倒見の良い駆逐艦たちのお姉様。提督に甘えられると至高の喜びを感じるLOVE勢。

 

「瓶が割れてのぉてえかったのぉ」

「破片が飛び散ってたら転んだりした時に危険だもんね」

 

 そんな夕雲と雷のやり取りに掃き掃除しつつ反応したのは、陽炎型駆逐艦十一番艦『浦風』と吹雪型駆逐艦二番艦『白雪』。

 浦風は駆逐艦ながら雷、夕雲に負けず劣らずの面倒見の良い駆逐艦の姉御。提督の世話を焼くのが好きなLOVE勢だが、夫婦を優しく見守る見守り勢。

 白雪も落ち着いていてしっかり者。カレーが得意料理で白雪カレーは提督も認める美味しさ……そのため『Ms.Curry』の称号を持つ。

 

「お酒の瓶じゃなかったから良かったです!」

「流石に昼間からお酒飲む人はいないでしょ……見つかったから司令官に怒られるんだから」

 

 プリンツの言葉に雷がそう返すと、他の面々も『そうだよね〜』と頷く。

 因みに駆逐艦でもアルコール類を飲むことは法律で認められている。駆逐艦のような幼い見た目でも艦娘だとアルコールを摂取しても何ら問題が無いと学術的な根拠があるからだ。ただし酔う酔わないも個人差がある。

 

「そう言えば、清霜さんが前に瓶の中に手紙を入れて海に流したら深海棲艦とお友達になれるかなって提督に訊いていたわ」

「可愛い発想するのぉ……妹に欲しいわぁ」

「清霜さんはあげませんよ〜? 私の可愛い可愛い妹の一人なんですから♪」

「知っとるよ〜♪」

 

「話が逸れちゃってるけど、結局清霜ちゃんの疑問に司令官は何て返したの?」

 

 白雪が改めて訊ねると夕雲は可愛らしく舌をペロッと見せてから、提督の言葉を復唱した。

 

「んなことしたら左派の奴らから『海汚すな!』って言われるから止めとけ。でもその考えは捨てんなよ。お前らしい優しい考えだからな……って」

「さっすが司令官ね〜!」

「清霜ちゃんの気持ちを尊重しつつ注意するのが司令官らしい」

「提督さんは相変わらずええ男じゃのぉ〜♪」

「アトミラールさんらしいですね!」

 

 夕雲が話した提督の言葉を一同絶賛。それを横で聞いて手伝っていた阿賀野は思わず頬を緩め、嫁パワーを無意識のうちに発動してあっという間に中庭全体の落ち葉を集めてしまうのだった。

 しかし雷や夕雲から『全部一人でやっちゃってズルい』と可愛い抗議を受けたそうな。

 

 ー裏門ー

 

 鎮守府の裏門にも清掃委員会の面々は掃除をしに来ていた。

 裏門は食堂や酒保に近いというのもあり、貨物トラックが出入りするため正門よりも作りは質素だが正門と同じくらいの大きさだ。

 

「裏門にも落ち葉があったね〜……」

「あと枝とかも結構落ちてたね」

「潮風があるからここまで飛んでくるんでしょうね」

 

 落ち葉を掃きながらそう話すのは古鷹型重巡洋艦一番艦『古鷹』と妙高型重巡洋艦四番艦『羽黒』、そしてお手伝い中の矢矧。

 古鷹は大天使と名高い慈愛に満ちた艦娘でみんなのお姉ちゃん。提督のことは尊敬していて、頼りにしてもえると凄く喜ぶ。

 羽黒はとても内気な艦娘だが海に上がれば雄々しく躍動する。提督のお陰で艦隊に馴染めたので、提督のことは陰ながら慕っているLOVE勢。たまに阿賀野がいない時に提督に街へ買い物に付き合ってもらうよう、お出かけ(デート)に誘う大胆さもある。

 

「でも妖精さんたちが普段から清掃してくれていて、目立った汚れがないところを見ると感服しますね」

「うん……だからこそ、私たちもしっかり清掃活動しないと、ですね♪」

「チリトリ頑張ります!」

 

 そして笑顔で落ち葉たちを箒で綺麗にまとめるのは香取型練習巡洋艦一番艦『香取』と二番艦『鹿島』。チリトリを担当するのが潜水艦『まるゆ』だ。

 香取は戦術理解力、訓練指揮に優れた艦娘で優しい先生みたいな存在。提督に頼られることを誇りに思い、常に提督の期待には全力で応えようとするLOVE勢であり見守り勢。

 妹の鹿島も香取と同じく優しい先生のような艦娘。その一方、他の艦娘たちとは能力が劣る自分を優しく励まし、訓練指揮官を任せてくれる提督が大好きなガチ勢。提督には『練習だけでは終わらせませんからね♡』と常に迫っているので、阿賀野との衝突も多い。

 まるゆは数少ない陸軍出身の艦娘で何事にも一生懸命な子。提督のお陰で海軍の中でもお友達が出来て、順風満帆の鎮守府ライフを送っている。

 

「枝は入れると袋が破れちゃうから二重にしようか」

「そうだね」

 

 古鷹の提案に羽黒が頷くと、他の面々もそれに同意。

 

「うんしょ……うんしょ……」

 

 一方まるゆは重くなってしまったゴミ袋を古鷹たちの側まで持っていこうとしていた。下を引きずってしまっているので少々危なかっしいが、

 

「おいおい、一人で無理すんなよ」

 

 そこへ提督が現れてゴミ袋をヒョイっと持ち上げる。

 

「あ、隊長……ごめんなさい」

「謝ることねぇって」

 

 頭を下げるまるゆに提督は笑って返すと、まるゆも笑顔で「ありがとうございます!」と返した。

 すると古鷹たちも提督の存在に気が付き、提督の元へ駆け寄る。

 

「提督さ〜ん、お疲れ様で〜す♡ 最初に鹿島のところへ来てくれて嬉しい〜♡」

 

 早速鹿島が提督へ飛び付こうとしたが、それは儚くも矢矧に「ごめんなさい、鹿島さん」と間に入られて阻止されてしまう。

 

「鹿島……貴女、もう少し考えなさい。提督が倒れでもしたらどうするの?」

 

 姉の香取はそう注意するが、鹿島は「そうしたら私が癒やすわ!」と全くへこたれない。

 

「司令官さん、お仕事の方は大丈夫なんですか?」

 

 そんな中、羽黒がさり気なく提督の隣に行って訊ねる。

 

「おう、問題ねぇぞ。だからさっきまで食堂で魚とかを選んできたとこなんだ。食材はのしろんとさかわんが中庭に運んでくれてっから、俺はそのまま裏門の様子を見に来たって訳」

 

 提督が裏門まで来た経緯まで話すとみんな『なるほど』と頷き、みんなして中庭へと向かうのだった。

 

 ー中庭ー

 

 中庭では既に能代や酒匂が中庭を掃除していた者たちと焚き火を初めていた。焚き火は焚き火台でやるのでその上に焼き網を乗せれば食材を焼くことが出来るのだ。

 阿賀野は提督に駆け寄り、提督の左腕に抱きつく鹿島を問答無用で押し退けて定位置を確保。

 

「阿賀野さん、痛いじゃないですかぁ〜」

「ごめんあそばせ。旦那のことしか目に入ってなかったもので」

 

 早速火花バチバチの両者。しかし提督の右側をバッチリと陣取っている羽黒もある意味で強い。

 

「司令官さん、足の方は大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だぞはぐはぐ。強いて言やぁ、足より胃腸が痛いかな〜」

「胃薬持ってきましょうか?」

「大丈夫大丈夫」

 

 このように火花バチバチの隣でさり気なく提督を気遣うところが羽黒である。

 そんなことをしている内に清掃委員会が全員集合。提督は阿賀野と調理し、能代たちは委員会のみんなを手洗いに行かせたり、飲み物を差し出したりした。

 

 ーーーーーー

 

「んじゃ、清掃活動お疲れさん。ささやかだが、楽しくやってくれ♪」

「ホタテはもう食べられるよ〜♪」

 

 提督と阿賀野の言葉に委員会の者たちはホタテの乗った紙皿を受け取り、ハフハフと頬張る。

 

「提督さ〜ん、熱いからフーフーってしてくださ〜い♡」

「ぴゃ〜? じゃああたしが冷ましてあげね〜♪」

 

 鹿島は相変わらず提督へモーションを掛けるが、それは虚しくも酒匂に自然な流れで阻止された。

 

 その後も楽しく食べ、楽しくお喋りをしながら清掃委員会の面々と提督たちは穏やかな昼下がりを過ごすのであったーー。




今回は清掃委員会の面々をメインとしたお話にしました!

読んで頂き本当にありがとうございました☆

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