提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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下ネタ含みます。


演劇発表会

 

 9月某日、昼過ぎ。

 今日は休み週間最終日。なので提督は午後からの任務、訓練等は一切免除し、艦娘や妖精の全員を鎮守府本館の地下にある集会ホール(体育館みたいなホール)に集合させた。

 提督はこの日のために陣頭指揮を執って有志の艦娘に演劇指導を続け、今日みんなの前でお披露目するのだ。

 タイトルは『シン・デ・レッラ』という提督が考えたおとぎ話のような物。

 艦娘や妖精たちはソフトドリンクや軽食を片手に今か今かとステージの幕が上がるのを待っている。

 

「よし、お前ら……そろそろ幕を開けるぞ? この緊張感を楽しめよ!」

「照明とかは阿賀野たちに任せて、みんなは思いっきり頑張ってね!」

「リラックスして、胸を張ってね」

「セリフが飛んだらみんなでフォローしてね」

「えいえいお〜!」

 

 最後に酒匂が明るくそう声をあげると、みんなして笑顔で『えいえいお〜!』と返した。

 そしてとうとう幕が開かれる。

 

 幕が上がると同時にホールには拍手の音がこだまし、ナレーションを務める秋月型駆逐艦一番艦『秋月』にスポットライトが当てられた。

 

 秋月は実直で純粋な忠犬勢。毎日のご飯へ物凄く感謝しながら食べる可愛い子。初めてステーキを食べたその日は感動で眠れなかったと言う程だ。

 

 秋月がみんなへ対して一礼すると、集まった者たちは秋月に注目。

 みんなの注目が自分に集まったことを確認した秋月は、小さく深呼吸をしてからナレーション用の台本を読み上げていく。

 

『昔々、あるところにシン・デ・レッラという可愛らしい娘がいました』

 

 ナレーションと共にステージに現れたのは陽炎型駆逐艦十三番艦『浜風』。

 真面目で提督に従順な忠犬勢。提督に褒めてもらうのが好きな艦娘。

 

『シンは貴族の娘で、父親からとても可愛がられていましたが、その父親は数年前に流行病でこの世を去ってしまいます』

 

『そんなシンは父の悲しみに暮れている暇はありません。何故なら父親の再婚相手……シンの義母とその連れ子である二人の義姉たちから酷い仕打ちをされていたからです』

 

「こらシン! 窓の縁にまだまだ埃があるわ! さっさとやり直しなさい!」

 

 そう言うのは義母役の装甲空母『大鳳』。運の無い自分をいつも笑って励ましてくれる提督のことが大好きなLOVE勢。

 

「シン! こんな食事では成長出来ないわ! 作り直して!」

 

 そして義理の長女役は潜水艦『伊十四』ことイヨ。お酒大好き祭り大好きなはっちゃけっ子。

 

「それが終わったら私のマッサージもしなさいよね!」

 

 最後に義理の次女役の陽炎型駆逐艦十四番艦『谷風』。いつもハキハキしててみんなを鼓舞する元気っ子。

 

『どうして三人がシンに酷い仕打ちをしているのかというと、それは彼女の胸が豊満であったから……』

 

 そのナレーションにホール内からはクスクスと笑い声が響き渡る。

 

『そしてその日の夜もシンは自身の胸の大きさを嘆き、悲しみ……枕を涙で濡らしていました』

 

「もうイヤ……どうして私ばっかりこんなに酷い目に遭わなくてはいけないの!? それもこれも全部この大きくなった脂肪のせいよ!」

 

「私だって好きでこんなに大きくなった訳じゃないのに! お義母様もお義姉様たちも寄ってたかって私をいじめる!」

 

 浜風のセリフに一部の艦娘たちは共感するようにうんうんと頷く。

 

『胸を叩いてもポヨンポヨンと跳ねるばかり……そんな胸を見て、シンは無言のまま大粒の涙をこぼしてしまいます』

 

『するとそこへシンの名付け親である仙女が現れました』

 

 仙女役を演じるのは妙高型重巡洋艦三番艦『足柄』。戦闘でもプライベートでも頼もしい姉御肌な艦娘だが、提督の生き様に惚れているので提督の前だと狼ではなく子犬になるLOVE勢。

 

「シン……また泣いているのね」

「仙女様……」

「泣いていても状況は変わらないわよ?」

「ですが、私はどうしたらいいのか分からないのです!」

 

『また泣いてしまうシンを見た仙女は「そんなこともあろうかと!」とわざとらしく前振りしました。そしてシンへある言葉を送ると、仙女は闇夜へ紛れて姿を消すのでした』

 

『次の日の朝、いつも通り掃除を命令にきた義母が朝からシンのことを罵倒していると……』

 

「貧乳のくせに吐かしますね……私はまだカップアップ改造を二回残している」

 

 このセリフには元ネタが分かる者たちは勿論、知らない者たちの笑いも誘った。

 

「なん……ですって!?」

 

『シンの言葉に度肝を抜かれる義母。そう、仙女が昨晩シンへ教えたこと……それは攻めの姿勢でした』

 

「あなた、そんなハッタリがこの私に通用するとでも思ってるの!?」

 

『義母がそう言ってシンの肩を強く掴みましたが、シンはそれをパシッと解くと……』

 

「やめてよして触らないで垢が付くから♪ あんたなんか嫌いよ〜♪ 顔も見たくない♪」

 

『とてつもないセリフを満面の笑みで歌に合わせて放ちました。これこそが仙女の教えなのです』

 

『「守るだけではなく、この状況を打破するのは攻める他ない……」そうやって教えたのがこの言葉たちでした。これには義母も何も言えず、それを見たシンは……』

 

(これなら今までの復讐が出来る!)

 

『そう確信したのでした』

 

『それからシンは義姉たちにも攻めの姿勢を貫き、とうとう家内情勢は逆転……シンへ歯向かう者はいなくなり、シンの生活は一変。これまで自分が受けてきたことを憎き三人へ返す日々に変わりました』

 

『そしてとある日の夜、シンはベッドに寝転び、その日の出来事を思い返していました』

 

「はぁ〜、今日もこれまでの仕打ちを少し返すことが出来たわ……明日はどんなことをお返ししようか考えるだけで、笑いがこみ上げて来るのよね……」

 

 ……アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \

 

『そんな高笑いするシンの元へ仙女がやってきました』

 

「いい感じね♪ 教えた甲斐があるわ♪」

「あら、仙女様……あの時はありがとうございました。お陰で私、幸せです!」

「じゃあ次のステップへ行くわよ?」

「次のステップ……?」

 

『仙女は次のステップとしてこの国の王子様が婚約者を探すという名目で開催する舞踏会へ行きなさいとのことでした』

 

「次にあなたがすべきことはこの家の王政の絶対的存立。そのためにはあなたが王子との結婚を果たし、更なる上玉な女性へとなる必要があるのよ!」

「なるほど……しかし私、舞踏会に相応しい装飾品の数々を持っていません」

 

『シンがそう言うと、仙女は……』

 

「んなもん私がチョチョイっとやってあげるわよ♪」

 

『すると仙女は魔法の杖でシンへドレスやらきらびやかな装飾品を作り出しました。こうしてシンは舞踏会へ行く準備が整ったのです』

 

『舞踏会当日……シンは義母や義姉たちから綺麗に自分を着飾らせ、仙女が用意した魔法の馬車でお城へ行きました』

 

『シンの美しさに周りの人々は圧倒される中、シンは悠然と歩き、王子様へ挨拶をしました』

 

「こんばんは、王子様。今宵はお会い出来て光栄ですわ」

 

『みんながシンの一挙手一投足に見惚れる中、王子様はというと……』

 

「お前がどんなに美しくその乳房が豊満であっても、お前がご家族にしてきたことを俺は知っている……だから来てくれたことには感謝するが、俺が君を結婚相手に選ぶことはない」

 

 王子役は球磨型重雷装巡洋艦五番艦『木曾』。凛々しく提督を尊敬している艦娘で、提督のことは相棒と思っており従順。

 

『王子様の言葉にシンはとてつもないショックを受けました。どうして王子様がそれを知っているのかというと王子様が町に仕事でたまたまやってきた時にシンたちのやり取りを見ていたからです』

 

「美しく、豊満であれば他を虐げていいものではない。寧ろ、そうしていることが君の品格を下げているのだ」

 

『シンは王子様の言葉にショックのあまり何も言い返せません。それと同時に自分がいつの間にか、自分が嫌う義母や二人の義姉のような人間になってしまっていることに気付かされました』

 

『そしてまだ仲が良かった時の思い出がシンの頭に走馬灯の様に過り、その日からシンは心を入れ替える決意をして王子様へお礼の言葉を述べてから舞踏会を去るのでした』

 

『その次の日のこと……』

 

「お義母様、お義姉様方……今まで申し訳ありませんでした。これからは家族仲良く、手を取り合って参りましょう」

「な、急にどうしたというの?」

「そ、そうよ……突然なんだと言うの?」

「何か企んでいるの?」

 

『シンの変わり様に三人は驚いたが、シンはこれまでの行いを深く反省し、三人へ深く謝りました。すると三人の心にシンの誠意が伝わりました』

 

『三人も自分がシンへしてきたことを自分がその立場になってようやく気付き、深く反省していたのです。それからは二人の義姉たちとシンが掃除を担当。義母がお料理を担当と……普通の一家の風景に変わりました』

 

『家族間でも自然と笑顔が溢れ、それは町でもいつも仲良く笑い合う素敵な一族と評判になる程でした』

 

『それから長女は王子様の目に止まり結婚。次女は第二妃とそれぞれお城で幸せに暮らすことになりました。勿論義母も王室に入ることが出来ました』

 

『一方、シンにも第三妃のお話がありましたが、シンはそれを断り、自分のこれまでの過ちを活かして貧しい人々や恵まれない子どもたちへ対して救済活動を行う救済団体を発足し、その生涯を捧げました』

 

『生きていれば大なり小なりやり過ぎてしまうこともあるでしょう……しかしそれに気付き反省することで物事は良い方へと変わることもあります』

 

『何事も程々が一番ですね♪』

 

 こうして幕を閉じた『シン・デ・レッラ』はホールの観客たちからのスタンディングオベーションをもらい、最高のフィナーレとなった。

 

 ーーーーーー

 

「いやぁ、良かった良かった♪ 笑いあり涙ありで見てたみんなも大満足だったからな♪」

 

 出演したみんなとジュースで乾杯をし、提督は自慢気に笑う。

 

「セリフも飛ばなかったし、良かったです……」

 

 主演した浜風がホッと胸を撫で下ろしていると、大鳳や足柄が『お疲れ様』と声をかける。

 

「浜風は勿論だけど、秋月もナレーションお疲れ〜♪」

 

 その隣で谷風が秋月に労いの言葉をかけていた。

 

「ありがとうございます。台本があるとは言え、すっごく緊張しました……」

「あはは、まあ一番喋る役回りだし仕方ないね〜♪」

 

 苦笑いを浮かべる秋月に谷風はそう言って笑い飛ばすと、秋月もやっと普通の笑顔を見せる。

 

「たまにはこういうのもありだな……今度は矢矧とかが王子役でもいいんじゃないか?」

「いいかもね♪ ならその時のヒロインは姉貴で♪」

 

 木曾の言葉にイヨがそう言って笑うと、矢矧も音響担当の潜水艦『伊十三』ことヒトミも無表情のまま二人の方へ両手でバツマークを出す。

 ヒトミは少々人見知りする艦娘だが、心の優しい艦娘。イヨに振り回されているが、怒るとめっちゃ怖い。

 

「さて、そろそろ時間も頃合いだな……アルコールも解禁してこれからは食い放題パーティに移行すっぞ!」

 

 腕時計で時間を確認した提督がそう宣言すると、みんなは歓喜の声をあげる。中でもイヨはどこぞのちょび髭を生やした無敵兄弟の兄のように『イヤッフー!』と飛び跳ねて大歓喜。

 

 それから矢矧がマイクで提督が言うように食べ放題パーティの宣言をすると、ホール内に様々な食べ物がズラッと並ぶテーブルが用意された。これにホールは更なる大拍手に大喝采。

 

 演劇に出ていた者たちも衣装のままテーブルへまっしぐらで、提督はそれを楽しそうに笑って眺めていた。

 

「慎太郎さんも一緒に行きましょ♡」

「みんな提督のことを呼んでますよ♪」

「主催者が行かなきゃ始まらないでしょ?」

「司令、早く早く〜♪」

 

 阿賀野たちにそう言われ、両手を引っ張られる提督。

 

「よし! みんなで倒れるまで食うぞ!」

 

 こうして鎮守府は休み週間を終え、明日からまた平和のために尽力するための英気を養うのだったーー。




今回はネタ多めな鎮守府のとあるイベント模様を書きました!
シンデレラネタのシン・デ・レッラに関して、色々とぶっ飛んだ内容に改変したことにはご了承お願いします。

読んで頂き本当にありがとうございました!

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