提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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褒めることはいいことだ

 

 9月某日、昼前。本日は休み週間の折り返し日。

 艦娘たちも普段よりゆったりとした時間を過ごしており、中庭や寮内からは笑い声やはしゃぎ声が聞こえている。

 

「これでテイトクを骨抜きにシマ〜ス♡」

 

 そして戦艦寮の共同厨房内に一人の艦娘が怪しい笑みを浮かべて、鍋で何やら煮込んでいた。

 

 この艦娘は金剛型戦艦一番艦『金剛』。提督一筋のLOVE勢でありガチ勢の筆頭艦娘。提督への愛はまさにバーニングLOVE。

 

「金剛お姉さま〜、司令に招待状渡してきました〜」

「約束通りに行くとのことです」

「お姉さまの方の準備はどうですか?」

 

 そんな金剛の元へ妹である二番艦『比叡』、三番艦『榛名』、四番艦『霧島』がやってきた。

 

 比叡は金剛を心から尊敬し、慕う艦娘で金剛の恋を応援している。しかし料理を教えてくれる提督にも凄く懐いているので、金剛を応援しつつも提督夫婦にはちゃんと配慮している何とも難儀な艦娘。

 

 榛名は提督を慕うLOVE勢だが見守り勢……でもちゃっかりワンチャンを狙っている節もあるのでしたたかな艦娘だ。

 

 霧島は提督を尊敬し、提督や周りから頼りにされている存在。提督がLOVE勢やガチ勢からどう逃げ切るのか、いつも楽しんで見ている。

 

「サンキューネ♪ お昼は阿賀野がいないので絶好のアピールチャンスネ!」

 

 妹たちにウィンクを送り、闘志を剥き出しにする金剛。

 

 金剛が言うように今、阿賀野はいない。それは演習艦隊を率いて演習海域へ出向いているからだ。

 

「矢矧さんも同席するんですから、ほどほどにしてくださいね?」

「前みたいに襲い掛かるとかも無しでお願いしますよ、姉さま?」

 

 双子の妹に念を押されると、金剛は乾いた笑みを返しつつまた鍋へ視線を落とす。

 金剛は前に阿賀野がいない時を狙い、提督を食べよう(性的に)とした。しかし矢矧、能代、酒匂に阻止され、未遂だったのもありその時は『提督接近禁止令』一ヶ月で済んだ。

 

「同じ過ちは繰り返しマセーン! 今回は普通にランチをご馳走して提督のハートを掴むワ! マズは相手の胃袋を掴むことに専念しマス!」

「でも提督の方がお料理上手ですよね?」

「それは言わないでくだサ〜イ……」

 

 榛名のツッコミにトホホと返す金剛。

 提督は母子家庭で育ち、家事は完璧にこなす。それでいて一人暮らしも長かったので料理が得意なのだ。間宮や伊良湖が着任する前は提督自ら食堂の厨房に立っていた経緯もあり、それは今もたまに行われている。

 

「そもそもテイトクはズルいんデスヨ〜……家事も出来て仕事も出来て気遣いも出来るなんて……」

「ですが司令はロリコンです。本人は認めてませんが……」

「完璧な人なんていマセンヨ。ワタシは相手の悪いところより、良いところを見つける方が好きなんデス! テイトクの良いところなら100個以上あげられマス!」

「さっすが金剛お姉さま……略してサスオネです!」

 

 比叡がフンスフンスと金剛を褒め称えると、金剛はフフーンと胸を張って鼻を鳴らす。

 すると厨房に掛けてある時計から一二〇〇を知らせるチャイムが流れ出した。

 

「Oh……早くしないとテイトクを待たせちゃうネ〜。三人は先に談話室へ戻って準備をしててくだサ〜イ♪」

 

 金剛がそうお願いすると比叡たちは揃って『はい』と笑みを見せ、談話室へ向かった。

 

 ーーーーーー

 

 ー戦艦寮の談話室ー

 

「昼飯をご馳走してもらって悪ぃな」

「ご招待ありがとうございます」

 

 ランチへ招待してくれた金剛型四姉妹にそれぞれ言葉を送る提督と矢矧。そんな二人に金剛を始めとする姉妹は笑みを返す。

 

「ワタシがテイトクのために朝から準備したスペシャルなランチデスヨ♡ 心行くまで堪能してくれると嬉しいデ〜ス♡」

 

 テーブルには金剛お手製の料理がところ狭しと並んでおり、それは和食から洋食まで様々だ。中でも提督が好きな肉じゃがは鳳翔直伝の自慢の一品。

 

「提督、お飲み物は如何しますか?」

「水くれ水。氷でキンキンに冷やしたやつ」

「ピッチャーで持ってきますね♪」

 

 さり気なく提督へ心遣いをアピールする榛名。

 

「矢矧は何にするの?」

「私は……烏龍茶でお願いします」

「黒?」

「……では黒で」

「ガンガンお肉食べなきゃね♪」

 

 肉食の霧島にそう言われ、矢矧は「はい」と苦笑いを浮かべて返すしかなかった。

 

 そんなこんなで金剛主催『愛する彼の胃袋掴んじゃおう作戦(金剛命名)』が始まる。

 

「マズは……肉じゃがを食べて欲しいネ♡ テイトクが好きなので一番気合を入れたんだからネ♡」

「ほぉ〜、んじゃ頂きます」

 

 金剛はそう言って取皿へ肉じゃがをよそり、提督はそれを一口頬張った。

 

 提督はまぶたを閉じ、じっくりと金剛の肉じゃがの味を確かめる。対する金剛はまるで神に祈りを捧げるかのように両手を組み、緊張の面持ち。

 ゴクンと提督が口の中の物を飲み込むと同時に、金剛もまたゴクンと固唾を飲む。

 

「…………い」

「エ?」

「美味い! すっごく美味いぞ金剛!」

 

 提督からの太鼓判に金剛は渾身のガッツポーズを繰り出す。そんな金剛を見て比叡も榛名も霧島もニッコリと微笑んだ。

 しかし、

 

「いやぁ、これはいい肉じゃがだな〜♪ ()()()()()()美味い!」

 

 この言葉により金剛にピシッとヒビが入る。

 

(流石はワタシのライバル……。阿賀野、アナタとの勝負はまだまだこれからのようデスネ!)

 

 明後日の方向を見つめ、決意を新たにする逞しい金剛。

 

「お姉さま、比叡はいつまでも応援しています!」

(でも司令が阿賀野さんと別れるところは見たくないなぁ……)

 

「お料理も阿賀野さんの方がずっと提督の好みを分かってますから、大変そうですね〜」

(今度は榛名から提督に肉じゃがを差し上げましょう♡ 榛名だってお料理出来るんですから♡)

 

「お姉さまがどこまで近づけるかが勝負の鍵ね♪」

(そして司令がどうやって阿賀野さんへの愛を貫くかも見物ね……♪)

 

 金剛を思う妹たちの隣で矢矧は何とも言えない表情を浮かべ、スペアリブを頬張るしかなかった。人の恋路にとやかく言うと、飛び火した時が怖いから……。

 

 ーーそして、

 

「ふぅ〜……ごちそうさまでした」

「ごちそうさま。どの料理も美味しかったです」

 

 たくさんあった料理をみんなして食べ終え、提督と矢矧はお行儀良く両手を合わせる。比叡たちも二人と同じようにごちそうさまをし、金剛は満足そうに「おそまつサマネ♪」と返した。

 

「提督、矢矧さん、食後の紅茶をどうぞ♪」

「おぉ、サンキュー榛名、霧島♪」

「ありがとうございます」

 

「お姉さまたちもどうぞ」

「サンキュー、榛名と霧島は出来る子デスネ〜♪」

「ありがとう、二人共♪」

 

 榛名と霧島の心遣いに提督と矢矧は勿論、金剛と比叡も優雅に食後の紅茶を楽しむことが出来た……しかもご丁寧にスライスレモンやミルクもちゃんと用意されている。こうしたさり気ないアピールは榛名の真骨頂であり、榛名の強味でもあるのだ。一方の霧島はただ榛名を手伝っただけ。

 

「榛名は気立ても良くていい嫁さんになるな〜」

「そんな……榛名はそんなにいい子じゃありませんよ。金剛お姉さまの方が素敵なお嫁さんになれると思います」

「そうやって姉の顔を立てられるのは俺にとっちゃいい子さ」

 

 提督は優しい笑みでそう言って榛名の頭を優しく撫でると、榛名は恥ずかしそうにしながらもとても嬉しそうに微笑んでいた。

 

「テ〜トク〜! 榛名は確かに自慢の妹だけど、ワタシのことも褒めてほしいデ〜ス!」

「金剛もいい嫁さんになれるぞ? 勿論、比叡と霧島もな」

「ありがとうございます、司令!」

「勿体無いお言葉です」

「榛名に言った時とはあっさりしている気がしマスが……頭をナデナデしてくれたから許しちゃいマ〜ス♡」

 

 こうして食後の紅茶と雑談を終え、提督と矢矧は金剛たちにお礼を述べたあとで執務室へ戻った。

 金剛も提督を満足させることが出来たと、ルンルン気分で比叡たちと食器を片付けるのだった。

 

 ーーーーーー

 

「執務室に戻る前に酒保寄らせてくれ。煙草切らしてんだ」

「了解。私も酒保で買いたい物があるから丁度良かったわ」

 

 寮を出て少し歩いたところで二人は酒保へ向かうことにした。

 酒保には雑貨、お菓子、備品、趣向品と何でも御座れであり、非番やお使い以外で街に買い物へ行けない艦娘たちにとってはありがたい存在だ。店内に置いてない商品でも明石に頼めば大体は取り寄せてくれるので、売上は上々。

 

「うぃ〜っす」

「お邪魔します」

 

 酒保の扉を開け、それぞれ挨拶をして中に入る提督と矢矧。

 

「あ、いらっしゃいませ♪ 明石の酒保へようこそ♪」

 

 入ってすぐのレジカウンターからは工作艦『明石』が眩しい笑顔と共に二人を歓迎する。

 明石は酒保を切り盛りし、艤装修理、艤装改修を一手に担う艦隊の陰のオールラウンダー。戦闘が得意でない自分のことも大切にしてくれる提督が大好きなLOVE勢であり、夫婦見守り勢。

 そんな明石に二人も笑顔で挨拶を返していると、

 

「お、提督にやはぎんじゃん♪ ち〜っす♪」

「こんにちは、二人共♪」

 

 奥の棚からひょっこりと顔を出す最上型三番艦軽空母『鈴谷』とその重巡洋艦一番艦『最上』が、二人へ挨拶する。

 

 鈴谷はお調子者でフレンドリーな艦娘。LOVE勢で提督とケッコンカッコカリをするために日夜努力をしている努力家でもあり、阿賀野から惚気話を聞くのが好き。

 最上はしっかり者で笑顔を絶やさない艦娘。提督のことは心から尊敬していて、提督に頼られることが好きな忠犬勢。

 

「お〜、すずやんにもがみんも買い物か〜」

「まぁね、化粧水とか乳液とか女の子には必要な物がたくさんあるからね〜♪」

「ボクは寮のみんなと食べるお菓子を買いに来たんだ♪」

 

 そう言って最上はカゴの中身を提督たちに見せる。

 

「軍艦マーチ? 初めて見るお菓子ね……」

 

 その中で矢矧が一つのお菓子に注目すると、レジカウンターから明石が「フッフッフ〜♪」とわざとらしく笑いながら矢矧の隣へやってきた。

 

「これはですね〜、本日から発売の新商品なんです! 今は無きコアラのなんちゃらの軍艦バージョンと思ってください!」

 

 説明しながら明石は棚から一箱開け、お菓子の中身を見せる。それは5センチ程の軍艦型ビスケットの表面に軍艦が描かれており、ビスケットの中にチョコレートが入ったお菓子だった。

 

「凄い鮮明に描かれてるのね……あ、これ大和だわ」

「ちゃんと裏には描かれている艦の名前の焼印をしています。コアラのより大きいのは軍艦だからご愛嬌ってことで!」

「しっかし良く出来てるな〜……作るの大変じゃねぇか?」

「そこは私と妖精さんで絵を描くシステムクッキングマシーンがあるので大丈夫です♪ あ、因みに絵は全部カラメルなので安心ですよ!」

「いや、食べ物に関しては信用してる……でもまた資材で作ったのか?」

「と、とんでもない! 資材じゃなくて廃品です! 100%リサイクルです!」

 

 明石が力説すると提督は「わぁったわぁった」と返して明石の頭をポンポンと軽く撫でる。すると明石は途端にご機嫌になり、それはまるで飼い主に撫でられて喜ぶ犬のよう。

 

「面白そうだし買ってこうかしら……みんなの反応も見たいし♪」

「えぇ〜、みんな買う系? なら鈴谷も買おうかな〜……最上姉もやっぱやはぎんと同じ感じで買うの?」

 

 鈴谷の質問に最上は「うん」と返す。

 因みに最上は衣笠、摩耶、加古と同室で、鈴谷は妙高、利根、那智と同室。矢矧は名取、夕張、由良。

 

「じゃあ鈴谷も買お〜♪ なんか私だけ買わないのもKYっぽいし♪」

「毎度あり〜♪」

 

「そういえば提督〜、ボクか三隈の空母への改造計画とか来てない〜?」

「またその話か……悪ぃが来てねぇよ。今改二に出来る奴らは全員改造済みだし、まだ暫くは来ねぇだろ」

「ちぇ〜、ボクや三隈も鈴谷や熊野みたいにもっと提督の役に立ちたいのに〜」

「何言ってんだ。今のままでも十分助かってるぞ? もっと胸を張れ」

 

 少しだけふてくされる最上の背中を提督がポンッと叩くと、最上は「ありがとう♪」と嬉しそうに返す。

 

「出た出た、提督のタラシ攻撃……ズルいな〜、そういうさり気ない優しさ〜」

「タラシって……俺ぁいつも通りにだな」

「はいはい、分かってるってぇ♪ んじゃ、そのついでに鈴谷のことも褒めて♪ 私は褒められて伸びるタイプなんだから♪」

「ったく、お調子者め……今やってるピンクのマニキュア、良く似合ってるぞ」

「やっぱ気付いてたんだ〜、そういうとこポイント高いよ〜?♪」

 

 こうして楽しく雑談もし、買い物も終えた提督は矢矧と執務室へ戻った。支払いは全員分提督の奢りでーー。




今回はやっと金剛型姉妹を登場させました!
そして最上と鈴谷も!
まだ出してない艦娘もいるので、しばしお待ちください♪

読んで頂き本当にありがとうございました!

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