提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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十艦十色

 

 8月某日。今年の泊地の夏は雨が多く、気温もそこまで上がらない日が多い。過ごしやすいことに越したことはないが、雨や雲の多い日が続く夏というのはなんとも情緒に欠ける……。

 

「…………朝か」

 

 そんな中でも提督はいつも通りにむくりと起きて、自分の隣へ視線を移す。

 

「すぅ……すぅ……ふへへ……」

 

 そこには生まれたままの姿でだらしない可愛い寝顔を晒す阿賀野がタオルケットに包まっていた。昨晩は大変お楽しみだったようだ。

 

 提督はそんな愛する嫁に微笑み、そのモチモチした愛らしい頬を優しく一撫でしてから身支度のため、布団から出た。

 

 提督夫婦が暮らす部屋は鎮守府本館にあり、艦娘たちが暮らす部屋よりは少しばかり広い。

 

 洗面台で顔を洗い、歯を磨き、髭を剃る。それからボサボサの髪を整える。

 

「おはよ〜……慎太郎さ〜ん……」

 

 すると阿賀野が提督のワイシャツを羽織って、眠り目を擦りながらやってきた。

 

 提督はそんな阿賀野に「おはよう」と返して、阿賀野の頬へ軽く口づける。すると阿賀野は「ん♡」と少し弾んだ声をあげ、寝惚けながらもニパァと愛くるしい笑みを浮かべた。

 

「俺はコーヒー淹れてるから、阿賀野も身支度済ませな」

「は〜い♡ 待っててね〜♡」

 

 ぽや〜んとした返事の阿賀野。提督はそんな阿賀野へまた優しく微笑みを返してから、コーヒーを淹れに向かった。

 

 ーーーーーー

 

「今日も曇りね〜。暑くないから嬉しいけど、夏の日差しがちょっと恋しいな〜」

「まぁ確かにな……でも涼しい分、任務も捗るだろ」

 

 身支度もしっかりと済ませ、夫婦仲良く腕を組んで食堂へ向かいながら雑談をする。

 

「梅雨より雨の日が多い気がする〜……最近妖精さんが『お洗濯がなかなか乾かなくてやだな〜』って顔してた」

「そうなのか……まぁそん時は乾燥機に頼るしかねぇな」

「お日様で乾かした方が気持ちいいんだけど、仕方ないよね〜」

 

 明石酒保内にはランドリー設備があり、艦娘たちの制服や非番外出用の洋服などはここで洗濯、乾燥、クリーニングを妖精たちがしている。晴れていれば物干場に干すが、雨や曇りの時は隣の工廠にある炉の熱を利用した火力発電の電気で乾かす。

 朝、食堂へ行く前にそこへ洗濯物を出し、夕飯を終えてから取りに行くという感じだ。妖精たちだけでなく、時間を持て余した艦娘たちも手伝ったりしている。

 

 酒保の前を夫婦が通ると多くの艦娘たちが洗濯物を提出しており、夫婦に気が付いた者たちは笑顔で朝の挨拶をしてきた。

 そんなみんなに夫婦も挨拶を返しつつ、食堂へ辿り着くのだった。

 

 

 ー食堂ー

 

『A豚の生姜焼き定食

 B玉子トーストセット』

 

 受付の上にある電光掲示板に本日の朝食メニューが映し出されており、メニューを決めた者から順に受付妖精へ注文をしていく。

 

「A定食で決まりだな」

「阿賀野もそうしようかな〜。朝はご飯の方がお腹空かないし……」

 

 夫婦仲良くメニューが決まったところで、最後尾に並ぶ。

 すると、

 

「おはよ〜っす、お二人さん♪」

 

 背後から挨拶と背中へポンッと軽い衝撃を受けた。

 

「お〜、お前らか。おはよう♪」

「みんなおはよ〜♪」

 

 夫婦が挨拶を返すと、その者たちもしっかりと挨拶を返す。

 

 後ろにいたのは白露型駆逐艦五番艦『春雨』、六番艦『五月雨』、七番艦『海風』、八番艦『山風』、九番艦『江風』、十番艦『涼風』だった。

 

 春雨はいつも笑顔が絶えない家庭的な娘。

 五月雨はドジっ子だが努力家。

 海風は礼儀正しく実直な娘。

 山風は内気だが提督に構ってもらうのが好きな娘。

 江風はいつも元気でやんちゃ。

 涼風は男前なところもあるが、少女漫画が好きな娘。

 

「白露たちは一緒じゃねぇのか?」

「はい、多分姉さんたちは今起きて準備している頃かと」

 

 提督の質問に海風が若干眉尻を下げた笑みで返すと、

 

「山風の腹が鳴って仕方ねぇから先に来たンだ♪」

 

 江風が理由をストレートに暴露。その証拠に山風は少し頬を赤らめつつ、小さなお腹からキューっと音がしている。

 

「春雨ちゃんは準備間に合ったんだ」

「いえ、私は昨晩海風ちゃんたちのお部屋に泊まったので」

 

 阿賀野の言葉に春雨がそう返すと、涼風が「昨日はこの六人で映画観てたんだ♪」と笑って理由を話す。因みに白露型姉妹は五人五人の部屋割。

 

 明石酒保では映画やドラマ、アニメといった物のDVDをレンタルしている。しかし明石や夕張が独断と偏見で選んだ物で映画は妙にコメディ物が多い。

 

「みんなして昨日、何を観たの?」

「『メタボリックス』というコメディアクション映画です。お腹抱えて笑っちゃいました……ふふふ」

「プログラムによって人々がメタボリック症候群の状態で生かされている世界に生きていることを知らされた主人公の活躍を描いた作品……なんです」

 

 思い出して笑いが止まらなくなった五月雨に変わって、笑いを堪えつつ海風が続きの説明をすると他のみんなもクスクスと笑い声をもらす。

 

「俺みたいな体型のヤツが主人公なのか〜」

「そうだぜ、ンでめっちゃ銃弾とか避けるンだwww」

「でも避けきれなくて服が必ず穴開いて『この服やっと見つけたんだぞい!?』って逆ギレすんだよwww」

「お腹蹴られても『俺にお前の蹴りは通用しない……だって脂肪で痛覚が鈍いからな!』って……ふふふっ」

「その台詞のあとに『キリッ!』って口で言っちゃうのもね〜……あはは♪」

 

 江風、涼風、更には山風や春雨までケラケラと笑う。余程のスペクタクルなコメディ映画だったのだろう。

 

 そんな話をしながらいると、受付の順番が回って来た。夫婦、そして春雨たちも注文し、その流れでみんなして同じテーブルへ座ることになった。

 

「…………相変わらず朝からよく食うよな〜、海風姉貴も山風姉貴も……」

 

 座った途端、江風は左隣に座っている海風と山風のお盆を流し見る。二人のお盆にはA定食が乗っているが、ご飯の器が茶碗ではなくラーメン丼でご飯もてんこ盛りだから。

 

「これくらい当たり前だと思うのだけれど?」

「うん……本当なら()()()()とソースカツ丼の宇宙盛り食べたかった……」

「いや、山風姉貴……毎回言うが、そのメニューはさっぱりじゃなくてこってりだかンな?」

 

 江風の言葉に他の姉妹たちもうんうんと頷くが、対する二人は小首を傾げてキョトンとしている。これは各艦娘が持つ個性の一つだ。

 艦娘の補給量は艦種によって大小が分かれる。しかし陸に上がれば彼女たちは人と同じようにお腹が空くし、それでいて食べる量も個々で違う。

 そもそも燃料、弾薬を彼女たちが口にするのは海を駆け、艤装を使う際に必要なので胃袋に行っても吸収される場所が違う……彼女たちにとっては食事と補給は似ているようでいて違うのだ。

 

 そして今のこの状況では海風、山風は駆逐艦で補給量は少なく済むが、人としては大食い娘ということ。

 

「ははは、いつ見てもいい食いっぷりだな♪」

「たくさん食べて今日も頑張ろうね♪」

 

 夫婦が笑って海風と山風に声をかけると、二人共ニッコリと笑みを返した。それからみんなして『いただきます』をしてから、朝食タイムとなった。

 

 ーーーーーー

 

「お代わりしてくる……」

「海風も行くわ」

 

 二回目のお代わりに席を立つ海風と山風。姉妹はそれを苦笑いしながら見送り、夫婦は微笑ましく見送る。

 

 するとみんなが座るすぐ隣のテーブルにまた新しいグループが座った。

 

「おはようございます、提督。皆さん」

「おはよ〜、みんな♪」

 

 それは川内型軽巡洋艦二番艦『神通』と一番艦『川内』。

 

「お、おはようございま〜す……」

 

 そして眠そうにあとから挨拶したのは三番艦の『那珂』だ。

 

 神通は物静かで物腰も柔らかい子だが、一度海に上がれば鬼神の如く海を駆ける。

 川内は軽巡洋艦で一番最初に着任した艦娘。三度の飯より夜戦が好きだが、夜間任務が無い日の夜はちゃんと大人しく就寝する規則正しい子。

 那珂は艦隊を笑顔で鼓舞するアイドル。自分を笑わずに応援してくれる提督のことが大好きなLOVE勢で、提督のダンスレッスンや舞風たちとダンスするのが好き。

 

「おはようございます、皆さん」

「おはようございます」

「おはようございます!」

 

 そして川内型三姉妹と一緒にテーブルへ着いたのが、雲龍型空母三姉妹。

 

 姉妹の中で最初に挨拶をしたのが二番艦『天城』。大和撫子で家庭的な子。

 続いて挨拶をしたのが一番艦『雲龍』で、マイペースなゆるふわガール。空母として運用してくれる提督をとても慕っているLOVE勢。

 最後は三番艦『葛城』。努力家で姉たちや先輩たちに追いつこうと日夜頑張っている。

 

「お〜、みんな。おはようさん」

「みんなおはよ〜♪」

 

 夫婦の挨拶に続き、春雨たちも挨拶をすると川内たちも挨拶を返す。

 

「那珂ちゃん、すっごく眠そうだね」

「うん……ちょっと好きなアイドルグループのライブDVD観てたら朝方になっちゃって……」

「だからクマがすげぇのか」

 

 提督はそう言って那珂の目元をフニフニと優しくマッサージしてやると、那珂は「ありがと〜♡」とご満悦の様子。一方それを見つめる阿賀野の笑顔はちょっと黒い。

 

「代わりに川内さんがとてもキラキラしてますね」

「今夜は夜間任務だからね〜♪」

「他の鎮守府の川内さんは夜騒がしいけど、あたいらの川内さんは大人しいよな♪」

「だって夜は寝るものでしょ? 普段からしっかりした生活をしてこそ夜戦で本領発揮出来るんだから」

 

 川内が胸を張って答えると、みんなそれを笑顔で眺めた。

 当初の川内はやはり夜になると夜戦夜戦と喧しかったが、提督の()()によって今に至るのだ。

 

 するとそこへお代わりをしに行っていた海風と山風が戻ってくると、互いに挨拶をして席に戻る。

 

「相変わらず二人は今日もラーメン丼なのね」

「いいじゃない。小食より全然健康的で」

「雲龍姉様もラーメン丼ですからね……」

 

 そう、雲龍もまた大食い娘でお昼寝と食事が提督の次に好き。

 

「ま、たくさん食うことはいいこった。今日もよろしく頼むぜ」

 

 提督が笑顔で大食い娘三人へそう告げると、三人は笑顔で返事をする。

 

「提督、阿賀野姉ぇ、そろそろ執務開始の時刻よ」

 

 するとそこへ矢矧が夫婦を呼びにやってきた。

 

「お〜、やはぎん。今行く」

「ごちそうさまするからちょっと待って♪」

 

 夫婦はそう言うと揃って『ごちそうさま』と手を合わせ、みんなに『またね』と言ってから片付けて食堂をあとにした。

 

「提督ともう少し一緒にいたかったわ」

「那珂ちゃんも〜……」

 

「そうしたいならば、雲龍姉様はもう少し早起きしないといけませんからね」

「那珂ちゃんもね……そもそも夜更かしなんてしちゃダメなんだから」

 

 天城、神通から注意を受ける雲龍と那珂。それはまるで保護者に叱られている子どものよう。

 

「ま、次があるっしょ。めげないめげない」

「提督は結婚しちゃってるけど、ケッコンカッコカリなら出来るからそこは応援するわ」

 

 そんな二人を励ます川内と葛城に雲龍も那珂も『早起き頑張りま〜す』と、弱々しく返すのだった。

 

 こうして天気がどうあれ、鎮守府は今日も平常通りに始動するのだーー。




個性を色々と私なりに書いてみました!
こういう性格というか個性もあるってことで。

更新が遅くなってごめんなさいです。私の書く『奥様は艦娘! 艦これSS』の更新でこちらの執筆時間が無かったのです。
ご了承ください。

読んで頂き本当にありがとうございました!

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