提督夫婦と愉快な鎮守府の日常《完結》   作:室賀小史郎

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それぞれの強さ

 

 日付けは8月15日。

 この日は日本人の誰もが知っている『終戦記念日』である。

 

 鎮守府は『終戦記念日』ということもあり正午の黙祷が終わるまで任務は無く、いつもよりは落ち着いた朝を迎えている。

 

 日本の各メディア、マスコミではこの日が近くなると、第二次世界大戦のことを連日取り上げた特集や特番が組まれる。

 本日はその当日とあって、朝からどのテレビ局もこの話題で持ちきりだ。

 

 鎮守府の食堂では各自が朝食を取りながら、大型テレビのとある中継に注目していた。

 

 ーーーーーー

 

『只今、総理大臣と元帥を乗せた車がそれぞれ到着しました!』

 

 テレビに映る女性キャスターは現内閣総理大臣「中村正文(なかむら まさふみ)」に駆け寄る。

 

『中村総理! 毎日欠かさずに参拝していますが、やはり今日も参拝なされるのですか!?』

『だからここに来たんですよ? これは私の日課であり、終戦記念日だから参拝するのではなく、日頃のご報告を英霊の方々にしているのです。勿論先の大戦で亡くなられた方々だけでなく、これまで国のために亡くなられ、ここに祀られておられる英霊の方々全員へね』

 

 キャスターの質問に中村総理は毅然に、そして悠然に答える。

 そしてそのキャスターは日本国防軍総司令官『鬼山日嗣(おにやま ひのつぐ)』元帥にも同じ質問をした。

 

『えぇ。中村総理が言ったように私もこれが日課でありますからね』

『その行動に国内だけでなく、海外からも批難の声がありますが、そのところはどう考えていますか?』

 

 キャスターがまた質問をすると、元帥は首を傾げる。

 

『批難の声? 国内からの批難の声ならば、よく考えて頂きたいですな。何故日本が戦争しなくてはいけなかったのかを、ね』

『と、仰られますと?』

『当時の日本はアメリカから石油依存をしていた。その中で石油を止められ、アメリカに脅しを受けた。そこで永野軍令部総長殿が御前会議でこう述べたーー』

 

政府によればこのままアメリカの要求を飲んだら日本は滅びる。

軍部から見ればアメリカと戦争して勝つ見込みは少ない。

しかし、戦わずして滅び、戦っても滅びるなら、

子孫のために戦って滅びた方が()()()()ので、日本は再興出来る。

 

『ーーとね。日本はこうして開戦に踏み切った。愛する国のため、愛する家族のためにと国民が立ち上がったのです。それがあって今の日本国がある……故にその方々へ参拝することがどうして批難されるのか。私には到底理解出来ませんな』

『なるほど……では海外の声については?』

『それはいつものことです。我が国のことに口を挟むのは間違っているし、マナー違反でしょう? 仮に我が国がその国を批難したら、彼らは必ず内政干渉だと言ってくるのですから、イチイチ付き合ってられませんよ』

 

 清々しいほどの返答にキャスターは思わず息を呑み、二人にお礼を述べるのだった。

 

 ーーーーーー

 

「相変わらずどっちもブレねぇなぁ」

 

 提督が苦笑いを浮かべてそうつぶやくと、阿賀野は「そうね〜」と同じく苦笑いを浮かべる。夫婦だけでなく、食堂全体が苦笑いといった感じだ。しかしそれは悪い意味ではない。

 

 中村総理は現与党である『国民声党』……通称"国声(こくせい)党"の党首で山口県出身の政治家。歳は五十三歳。

 穏やかな顔をしていて人当たりも良いが常に国益を第一に考える熱い政治家であり、敵に対しては徹底された冷徹性を持つ。国防軍の成立や憲法改正を成立させてしまうほどのカリスマで、総理大臣になる前から(正確には東京に来てから)靖国神社には毎日参拝している。

 

 鬼山元帥は四十八歳で国防軍のトップになったエリートの海軍軍人。

 話しかけるのを躊躇うほどの強面の持ち主であるが、情に厚く、涙もろい一面もある。話してみると面白い有名人で日本一と言われ、多くの国民に好かれている。

その一方で国内外問わず記者会見や会談、会議といった場では常に強気の姿勢であり、世界から常に視線集めている。

 

 今日の艦娘があるのは二人の働き掛けが大変に大きく、艦娘の人権は日本が始めに認め、日本が世界に先立って深海棲艦に対抗した。

 日本社会は今から何年か前に総理大臣を陥れる報道や国会質疑が世間を賑わせ、偏向報道も拍車をかけた。

 しかしインターネットの普及で偏向報道の真実は明るみとなり、多くの国民からマスメディアやそれを擁護する政治家は多大なる批難を浴び、大打撃を喰らい、それを期に日本は大きく変わったのだ。

 

 そんな二人がこの日に靖国神社へ参拝をするのだから、やはりみんなが注目しているという訳である。

 

「ま、そこが今の日本のいいところだ。もう何でも言うことを聞く優等生じゃないってんだ」

 

 テレビを観ながら提督がそうつぶやくと、隣に座る阿賀野も「そうだね」と返しながら笑みを見せた。

 

「鬼山元帥、顔色悪いわね」

「前にテレビに出るのは好かないって言ってたものね」

「鎮守府に来た時はずっと笑顔だったのにね〜」

 

 そんな提督夫婦の側では能代、矢矧、酒匂が元帥のことを心配していた。

 元帥は各鎮守府を定期的に視察している御仁で、当然ここにも来たことがある。各提督や艦娘には気さくに話しかけるので、仕事の顔を見るとやはり違和感があるのだろう。

 

 するとまた中村総理と鬼山元帥に質問をする者がいた。今度は男性でどこかの記者だろう。

 

 ーーーーーー

 

『朝見新聞の者です。お二方が参拝されると、また世界中から批難の声が多く寄せられるはずです。どうして国際秩序を乱してまで参拝するのでしょうか? その辺の旨をお聞かせください』

 

 女性キャスターがした質問と同じ質問。しかし二人は嫌な顔ひとつ見せずに、キャスターにした答えと同じ回答をしていく。

 

 ーーーーーー

 

「英霊の方々に参拝して何が悪いのよ。毎年毎年うるさいわね……」

「毎年毎年懲りなわね〜」

 

 テレビを観て、思わずそんな声を出したのは矢矧たちと同じテーブルに座る、朝潮型駆逐艦三番艦『満潮』と四番艦『荒潮』。

 

 満潮は棘のある物言いをするが、心から姉妹、仲間を思う優しい子。

 

 荒潮はちょっとおませな不思議ちゃん。改二になっても荒潮節は健在で、みんなをいい意味でも悪い意味でも振り回している。

 

「でもでも、多分偉い人にそう訊くように言われてるんだと思う!」

「そうかもしれないけど、左巻きの人たちっていつも私たちを悪く言うから好きじゃないわ」

「日本で暮らしてるのに日本が嫌いな変な人たちだからね〜♪」

 

 そんな満潮と荒潮の言葉に反応したのは同型駆逐艦二番艦『大潮』に五番艦『朝雲』と六番艦『山雲』だ。

 

 大潮はいつでも元気一杯なムードメーカー。改二になって更に闘志を燃やす。

 

 朝雲は任務や訓練中は冷静沈着だが、普段はライオンのぬいぐるみが好きな可愛い子。

 

 山雲はふんわりのほほんとした自他共に認める朝雲大好きっ子だが、姉妹全員が大好きっ子。

 

「でもま、この二人は誰に対してもブレないから大丈夫でしょ」

「えぇ。どちらもご立派な方々だからね」

「静かに聞こうよ……聞こえない」

 

 そして霞、朝潮たちの言葉にそう返すのが同型駆逐艦九番艦『霰』で、無口だけど実直な艦娘。でも姉妹愛は姉妹で一番強い。

 

 ーーーーーー

 

 同じ回答をする中で、元帥が「では、私から質問があります」と記者に言って、こう続けた。

 

『あなたは今『世界中から批難の声』と言いましたな? 私や総理を批判する国はどこなのか教えて頂きたい。お恥ずかしいことに私は日本を守ることに精一杯で、あなたみたいに広い視野がないのですよ』

 

 元帥の質問に記者は『中国や韓国、北朝鮮……』と答えるが、元帥に「その三国だけかな?」と言われると言葉に詰まってしまう。

 

『それで世界とは……あなたの世界は随分狭いですな。そもそも批難と言うが、国のために命を落とされた方々に感謝と尊敬を示して何が悪いと言うのでしょう? それこそ他所の国が騒ぎ立てる方が異常だと私は思いますな』

『どの国も日本の隣国なんですよ!? 隣国と話し合い、仲良くしてこそ国が安定するんです!』

 

 元帥の言葉に噛み付くように返す記者。しかし、

 

『こちらがどんなに仲良くしようとしても、向こうが仲良くしてくれないのですから仕方ないでしょう。あなた方お得意の"話し合い"はもう何年も前に決裂しているんです。何せ、こちらがどんなに呼び掛けても応じなかったのは向こうなのですから』

 

 中村総理に現実を突きつけられた記者は黙り込んでしまう。

 

『歴史認識は国々で違います。日本は自らが過去にしたことへの反省をしっかりしました。しかし忘れてはいけないのが鬼山元帥殿が言うどうして日本が戦争をしたのか、どうして負けたのかということです』

 

『ここに祀られておられる多くの英霊の方々が我々に残してくれた日本を、今は深海棲艦の脅威からどうやって守るのかを考えねばいけない時代にいるのです』

 

『私の先輩、いつかの総理大臣が「人の命は地球の重さよりもずっとずっと重い」と仰られました。しかしこの言葉は欺瞞(ぎまん)に過ぎず、人は自らの命に変えても守りたいものがあり、それは国でありそこに暮らす家族なのです。それをしたのがここに祀られておられる英霊の方々なのです。あなた方が批難する国防軍の方々もまた、日本を守るために日々戦っているのです』

 

『あなた方が私たちをどう報道するのかは自由です。しかしあなた方の報道は常に国民が見ています。質が悪ければ離れるし、質が良ければ支持されます。あなた方マスメディアが日本社会を動かしているというのは単なる錯覚であり、日本社会を動かしているのは私たち政府でも軍でもなく、日本国民であるということをゆめゆめお忘れなきよう、お願い致します』

 

 記者は中村総理の言葉に弱々しく頷くと、二人はまた笑顔で報道陣に挨拶をして今度こそ参拝へ向かった。

 

 ーーーーーー

 

 キャスターがカメラをスタジオへ返すと、間宮がテレビの電源を消した。どうせこのあとを観ても特に何もないからだ。

 

「相変わらず強いね〜、中村総理も元帥さんも」

「そりゃあね。去年の参拝後に中国とかから『失望した』って言われても平然としてたものね」

 

 酒匂の言葉に能代が苦笑いを浮かべて返すと、矢矧も確かにと頷く。

 

「失望したって言われたけど、二人は『我々日本は何年も前からあなた方に失望している』って言い返したもんね。あれにはスッとしたわ」

「言いたいこと言ってくれた〜って思ったもんね♪」

 

 満潮と大潮がそんな話をしていると、他の面々も笑顔で頷いている。

 

「左巻きの人たちは二人を極右って言うけど、ちゃんと両方の意見を聞いてるから未だに高い支持率なのよね」

「うんうん。実際に徴兵もしてないし、他国も攻めてないしね〜」

 

 朝雲と山雲も中村総理と鬼山元帥を高く支持している様子で、他のみんなもうんうんと頷いているので同じような意見を持っているようだ。

 

「ま、私たちは深海棲艦から日本と国民を守ればいいのよ」

「ンチャ……シンプルに考えた方が余計なことを考えなくて済むもんね」

「霞や霰の言う通りだ。難しいのはお偉方に任せて、俺たちは自分の役割をしっかり遂行すればそれでいい」

 

 二人の声に提督がそう言って二人の頭を撫でると、二人共ちょっと照れたような笑顔を浮かべた。霞に至っては口で「撫でんな」と言っているが、いつもの勢いはない。

 その後も食堂では穏やかな時が流れた。それは国……国民が艦娘たちの背中を強く後押してくれているからだろう。

 

 そしてこの日の正午、鎮守府全体で海へ向かって一分間の黙祷を捧げるのだったーー。




今回は少し難しいお話にしました。
この投稿日は長崎市へ原爆が投下された日。
これにより亡くなられた方々に心からお祈りします。
勿論、広島市への原爆投下で亡くなられた方々にも同じく心からお祈りします。

そうした日に今回このような回にしましたのは、8月のこの時期は多くのメディア、マスコミで大東亜戦争のことや政府、政治家の靖国神社への参拝が悪い意味で報道されていると感じるからです。
もう少し冷静に歴史を見てほしいと思うばかりです。

気分を害された方々には申し訳ありません。

読んで頂き本当にありがとうございました!

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