仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

9 / 171
第9話 闇を纏う剣

 薄暗い地下通路の中で、一つのライトが光り輝いている。

 

 シェードの地下研究所に向かうバイクのエンジン音が、地下一帯に響き渡っていた。

 

(エチレングリコール怪人は、恐らくAPソルジャーのデータを持ち帰っているはず。このまま放っておけば、更に多くの人間がAPソルジャー……つまりシェードの兵士となってしまうだろう。なんとしても、阻止しなくては……んッ!?)

 

 その時。前方から突然、謎の液体が飛んで来た。

 

「なんだ!?」

 

 咄嗟に頭を下げ、顔面への直撃をかわす。その後ろでは、何かが焼け爛れるような音が響いていた。

 

「毒液かッ!」

 

 薄暗い地下通路であるため、あまりはっきりとは見えないが――間違いなくエチレングリコール怪人が待ち伏せしていた。

 

「俺達の洗脳が解けてるって事、お見通しってことか!」

 

 サダトはバイクから飛び降りて怪人と相対すると――腰に装備されたベルトに「AP」と刻まれたワインボトルを右手で装填する。バックルに付いているレバーが、それに応じて起き上がってきた。

 

SHERRY(シェリー)!? COCKTAIL(カクテル)! LIQUEUR(リキュール)! A(エー)! P(ピー)! SHERRY!? COCKTAIL! LIQUEUR! A! P!』

 

 その直後、ベルトからリズムを刻むように電子音声が流れ出す。その軽快な音声を他所に、サダトは左手の人差し指と中指で「a」の字を描くと――最後に、その指先を顔の正面に立てた。

 

「……変身ッ!」

 

 そして――その叫びと共に右手でレバーを倒すと、バックルのワインボトルが赤く発光を始める。

 その輝きが彼の全身を覆うと――そこには南雲サダトではない、異質な姿の戦士が立っていた。

 

『AP! DIGESTIF(ディジェスティフ) IN(イン) THE() DREAM(ドリーム)!!』

 

 APソルジャーとしての姿に変貌した彼は――意を決するように、胸から己の得物を取り出した。

 

「らああぁァッ!」

 

 サダトはAPナイフを構えると、眼前で待ち構えているエチレングリコール怪人に向かっていった。

 

「裏切り者めが――覚悟はできておるのだろうなァァァッ!」

 

 絶え間ないエチレングリコール怪人の毒液攻撃をかい潜り、サダトはAPナイフを振りかぶる。金属音と共に、彼の攻撃が命中した。

 だが――相手に効果はさほど見られない。

 

「くッ!」

「馬鹿めが! No.5を基にしているとはいえ、所詮は量産型。百戦練磨の俺に敵うものか!」

 

 あっという間に喉首を掴まれ、サダトは腕一本で投げ飛ばされてしまった。

 

「うわああッ!」

 

 壁に激しくたたき付けられ、地面に落下するサダト。

 そこへ追い打ちを掛けようとエチレングリコール怪人はじりじりと歩み寄る――が。

 

「トアァッ!」

「ぐおッ……!?」

 

 その一瞬を狙い、意表を突いて立ち上がったサダトの一閃により、すれ違いざまに脇腹を切り裂かれてしまった。エチレングリコール怪人の脇腹に、微かな傷跡が生まれる。

 

「貴様ァァァ! 消耗品の分際で、どこまで俺を愚弄するつもりだァァァァッ!」

 

 追撃の一閃を刻もうと振り下ろされた剣を片手で掴み、その剣を持っていたAPソルジャーの顔面に、毒液が滴る鉄拳が炸裂した。

 

「ぐがぁあッ!!」

 

 エチレングリコール怪人の毒液を帯びたパンチは、その衝撃力以上のダメージを齎していた。

 だが。顔面から全身に伝わる激痛にのたうちまわりながらも、サダトは立ち上がる。

 

 そして――再び剣を振りかざし、エチレングリコール怪人に踊り掛かって行った。

 

「無駄なことを。さっさと死を選んでおれば、楽になれたろうに」

「悪いが先約があるんだ。必ず生きて帰るってな!」

「……抜かせェエェッ!」

 

 だが――サダトの奮闘も虚しく、彼は再び吹っ飛ばされてしまう。今度は強烈な回し蹴りを浴び、更に激しく同じ壁に打ち付けられた。

 

「ぐはああァァァッ!」

 

 しかも、そのショックで変身が解けてしまい、彼は元の姿に戻ってしまった。

 

「しっ、しまっ……た……!」

 

 自分の目に肌色の手の平が映った事から、サダトは変身が解けてしまった事を悟る。

 

「さて。ではそろそろ、俺の毒液を心行くまで堪能して貰おうか」

「ぐっ……!」

 

 そこへ歩み寄るエチレングリコール怪人は――歪に嗤い、とどめの瞬間を迎えようとしていた。変身を解かれては、勝ち目もない。

 為す術なく、サダトが死を遂げようとした――その時。

 

「うっ――あ!?」

 

 同じ箇所に二度も、強烈な衝撃が加わったことで。今度は、その壁が音を立てて崩れ始めた。

 

「わ、ぁぁあぁああッ!?」

 

 壁にもたれかかっていたサダトは体重を乗せる先を失い――崩れた先にある奈落へと落ちていく。その闇の中へと消えていく裏切り者を、エチレングリコール怪人は冷酷に見下ろしていた……。

 




※変身ポーズと騒音ベルト
 自分が変身するライダーの意匠をポーズで描く、という部分は原作の仮面ライダーGに倣ったもの。最後に指先を顔の正面に――は、仮面ライダーゴーストの影響がバリバリだったり。
 ベルトがうるさいのは「Gの世界の最新ライダー」であることの表現として、電子音声が強調されるようになった第二期平成ライダーにあやかってのこと。ちなみに電子音声の内容は、仮面ライダーGの本編中に吾郎が発した台詞に由来している。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。