仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

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第7話 目覚める魂

 エチレングリコール怪人は、自らがAPソルジャーと呼ぶ五人衆がやって来ると、物影に隠れていたアウラに目を向ける。

 

「……丁度いい。人類の希望たる仮面ライダーを粉砕し、その眼を絶望に染め上げてから――貴様を頂くことにしよう」

「さ……させないわ! 南雲様を返して貰うまでは……!」

「ククク。やはり、狙いは南雲サダトか。ならば、さらなる絶望に沈むがいい」

「なんですって……!」

 

 エチレングリコール怪人の真意を問い詰めようと、アウラは物陰から身を乗り出すように立ち上がる。――が、その瞬間に怪人は全身を粘液に溶かし、姿を消してしまっていた。

 

(さらなる絶望……一体何を――!?)

 

 怪人が残した言葉に言い知れぬ不安を感じて、アウラは戦いに目を移す。――その時。彼女の眼に、ある一人のAPソルジャーが留まる。

 

 他の4人と共に、Gを攻め立てるその兵士に――あの夜、自分を助けようとシェードに立ち向かった青年の、勇ましい後ろ姿が重なったのだ。

 

 そんな馬鹿な、と思えば思うほど。仕草や足運びが似通った、そのAPソルジャーは――少女の視線を捉えて離さない。

 

(ま、まさか、そんな……!)

 

「くッ!」

 

(……あっ!?)

 

 その瞬間。Gの上げた声に、アウラの意識はAPソルジャーからGの戦いへと引き戻される。

 

「……!」

 

 突如現れた五人衆の襲撃を受けて、窮地に陥るGの姿に彼女は思わず口を覆う。Gは、自分を襲う五人衆――APソルジャー達に戸惑うばかりだ。

 

 なぜなら――ボディの配色といい、顔の造形といい、どれをとってもGと瓜二つの風貌だからだ。

 だが、違う点もある。複眼を囲う部分はaの形をしており、胸のプロテクターはpの字を象っている。

 

「僕の戦闘データで、僕の模造品を作り上げたというのか……!」

 

 敵ながら、優秀な性能を発揮しているGのデータを基に量産型を生産し、それを差し向ける事でGを物理的に圧倒する、食前酒計画。APソルジャーの名も、食前酒の英訳の綴りから来ているのだろう。

 

 Gはシェードのなりふり構わぬやり方に、さらに拳を震わせる。

 ――しかし、今は彼らをなんとかすることが先決だ。

 

 いつの間にか姿を消している粘液を纏う怪人も、探し出さなくてはならない。

 

 ――すると、APソルジャー達の胸にあるP字型のプロテクターから、それと同じ形状のアイテムが現れ、各々の手に渡った。

 

(まさか……剣まで再現しているのか)

 

 最悪の展開を想定し、Gは自らの得物を構える。

 

 五人衆の手に収められたp字型のアイテムは、その先端に鋭利な刃を出現させた。

 APソルジャー専用武器「APナイフ」だ。

 

「うおおおっ!」

 

 凄まじい叫びと共に、五人の猛者は己の剣を振りかざし、孤高の裏切り者に群がっていく。

 

「ちッ……!」

 

 Gも懸命に剣で応戦する。戦闘経験においても改造人間としての性能においても、GはAPソルジャーより遥かに優れているだろう。

 

 だが、1対5という構図になると、それだけでどちらが勝つかを明瞭にすることは難しい。

 APナイフは、Gの剣よりリーチは短く、刃の硬度も劣る。しかし、5人という数は、そのスペックの差を大きくカバーしていたのだった。

 

「……食前酒でこの強さとは、恐れ入る」

 

 量産された模造品とはいえ、そのモデルは長きに渡りシェードを苦しめて来た仮面ライダーG。一体一体が、オリジナルに及ばずながらもそれなりの性能を持っている事には違いない。

 

 次から次へと襲い来るAPナイフの強襲。

 ひたすらそれを払いのけ、Gは防戦一方となっていた。

 

「……ぐッ!」

 

 そして、Gの防御をかい潜ったAPソルジャーの一撃が、裏切り者を遂に吹っ飛ばしてしまった。

 

「ああっ!」

 

 Gのやられる姿を前に、アウラは思わず声を上げてしまう。

 地面に転がるGの体。

 

「く……!」

 

 思わぬ強敵に追い詰められ、彼は短く苦悶の声を漏らす。

 

「これほど、だとはな……!」

 

 じりじりと自らのオリジナルに詰め寄ってくるAPソルジャー達。

 彼らの手にあるAPナイフの刀身が、ひび割れた天井から差し込む太陽の光で、妖しく輝く。

 

 とどめを刺してやる。その輝きが、そう叫んでいるようだった。

 

 やがて、五人衆は足元に倒れているGを包囲する。Gが見上げれば、そこには自分を見下ろす、自分とよく似た五つの顔があった。

 

 口を利かなくても解る。彼らが洗脳され、感情を閉ざされているということが。

 かつての自分自身が、そうだったように……。

 

 やがて、APソルジャー達は一斉に自らの持つ剣を振り上げる。これが、仮面ライダーGの最後。

 そう確信した悪の尖兵達が、刃を振り下ろす――瞬間。

 

「南雲……様ッ!」

 

 甲高い叫びが、廃墟一帯に響き渡る。その叫び声に、振りかざされたAPナイフを持つ手が――動きを変えた。

 

「……!?」

 

 Gはその叫びと自分の目に映る光景に、思わず言葉を失った。7年間戦ってきて、初めて見た光景だからだ。

 

 ――APソルジャーの1人が。振り下ろされた4本の剣を1人で受け止め、Gを守っているのだ。洗脳されているはずの改造人間が、少女の声一つで――自我を取り戻したというのか。

 他のAPソルジャー達も、想定外なイレギュラーの出現に驚いた様子であり、G共々硬直していた。

 

「ア、ウ……ラ……」

 

 その反逆した1人の兵士は。譫言のように少女の名を呼びながら、APナイフの刀身を震わせていた。

 他のAPソルジャー達とは明らかに違う、その個体の行動を目の当たりにしたGは――僅かな硬直を経て、再び動き出した。

 

「――ッ!」

 

 このチャンスを、逃さないために。

 

「……ハァアアッ!」

 

 4人が反逆者に気を取られている隙に剣を取り、自分を取り囲む彼らを一気に薙ぎ払ったのだ。

 

「ぐわぁあぁあッ!」

 

「ぎゃあぉぁッ!」

 

 APソルジャー達は次々に悲鳴を上げ、崩れ落ちる様に倒れていった。

 ただ一人――同胞達を裏切り、Gを救った個体を除いて。

 

「君達はカクテルかな? リキュールかな? いずれにせよ、食前酒の時間は終わりだ」

 

 しばらくすると、やがて彼らはその異形の姿から、かつて人間だった頃の姿を取り戻していくのだった。

 そして……Gは倒れ伏した4人の生存を確認したのち――自分が斬らなかった唯一のAPソルジャーを見遣る。彼もまた、無意識のうちに人間の姿に戻っていた。

 


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