仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

60 / 171
第17話 炎の忍者

「明智天峯……俺達が相手だッ!」

「今ここで、お前を確保するッ!」

「……力量差も分からない小僧共が何を囀っているのですか。あなた達如きでは、私に触れる資格すらないと知りなさい」

 

 ライダーマンGの姿を隠す盾となるように、肩を並べ並走する仮面ライダー炎とマス・ライダー。その両者を触れずして仕留めてやろうと、マティーニはボクサー達が乗っていたGチェイサーの車体を片手で掴み上げ、軽々と投げ付けていく。

 近距離から高速で飛んで来る鉄塊。少なくともこれまで相対して来たライダー達なら、回避も防御も間に合わないほどの速度であった。

 

「はぁッ!」

「でぇいッ!」

「……!」

 

 だが、2人の若獅子はこの土壇場で、己の限界を超えて見せたのである。師の仇を討つため、遥花を守るため、そして警察官としての本懐を完遂するため。炎とマス・ライダーは、Gチェイサーの投擲にも見事に反応して見せたのだ。

 両手の甲で。ワイヤーネットガンの銃身で。いなすようにGチェイサーという名の鉄塊を受け流した2人は、そのまま勢いを失うことなく突撃していく。

 

「くぅッ! こんな玩具で私が……!」

「天塚、今だ!」

「あぁ分かってる! 頼んだぞ、山口ッ!」

 

 Gチェイサーの投擲を凌がれたことへの、微かな驚き。その隙を突いてワイヤーネットガンから放たれた網が、マティーニの全身に覆い被さって行く。

 あまりの性能差故か、マス・ライダーが決死の覚悟で撃ち込んだその網も、程なくして破かれようとしていた。だがそれよりも疾く、赤い忍者が拳の届く間合いへと滑り込んで行く。

 

火炎拳(かえんけん)ッ!」

「ぐ……ぬぅあッ!?」

 

 高熱の炎を纏う鉄拳。その一撃をかわそうと、マティーニは力任せにワイヤーネットを引きちぎったのだが――そこから脱出する間もなく、胸板に「ライダーパンチ」を受けてしまう。

 激しく吹っ飛び、地を転がった彼が素早く起き上がった時には。すでに炎も地を蹴って宙を舞い、渾身の「ライダーキック」を放とうとしていた。

 

爆炎脚(ばくえんきゃく)ゥッ!」

「ぐぅお、あがぁッ……!」

 

 矢継ぎ早に炸裂する、赤熱した脚から放たれた必殺の飛び蹴り。その必殺技を浴びたマティーニは漆黒のマントを揺らし、大きく体勢を崩してしまう。

 そんな彼が炎に気を取られている隙に、ライダーマンGは背後に回り込んでいた。その右腕のハサミは、すでにマティーニの変身ベルトを捉えている。

 

「これで……決まれぇえッ!」

「が、あッ……!?」

 

 炎の全身全霊を賭けた2連撃が生んだ、絶好のチャンス。それを活かすべく振るわれたパワーアームの刃が、ついにマティーニのベルトに突き刺さるのだった。

 ベルトから飛び散る火花と噴き上がる黒煙は、確かな「手応え」を物語っている。ライダーマンG達の勝利は、目前に迫ろうとしていた。

 

「……調子に乗るなガキ共がァァアァッ!」

「きゃぁあッ!?」

「遥花さんッ!」

 

 その光明を吹き飛ばすかの如き絶叫が天を衝いたのは、ベルトから黒煙が上がった直後であった。それまでの丁寧な口調から一転して、獰猛な声を上げ始めたマティーニは、怒りのままに後ろ回し蹴りを放つ。

 咄嗟に回避しようと飛び退いたライダーマンGは、その蹴りの「余波」だけでパワーアームのハサミをへし折られてしまうのだった。怒り狂うマティーニの「本気」を目の当たりにした若者達は、その迫力に固唾を飲んでいる。

 

「……諸悪の根源たる旧シェードの技術に縋ってまで、あなた達の抹殺を決意したというのに。この忌まわしき力を借りてもなお、我々は追い詰められねばならないというのですか。何たる不条理、何たる理不尽ッ!」

「こ、こいつ何を……!?」

「もはやあなた達全員の首を並べても、私の苦しみを癒すには足りません。しかしそれすらも叶わぬようでは、我々ノバシェードの痛みも永遠に消え去らない! あなた達全員……迅速なる死罰を以て、その大罪を贖いなさいッ!」

 

 口調こそ戻りかけてはいるようだが、もはや会話が成り立つような状態ではなくなっていた。それほどまでに、仮面ライダーマティーニは――明智天峯は、自分達を追い詰める人間達の「正義」に怒り狂っているのだ。

 人道という普遍的正義の名の下に、改造人間を徹底的に差別して来た人類の業。その犠牲となった大勢の被験者達の無念と、非業の死を知るが故に。

 

「ま、まずい……! 天塚さん、山口さん、下がって! そいつの前に立っちゃダメぇッ!」

「……ぬぁあぁああーッ!」

 

 もはや、なり振り構ってはいられない。そんな胸中を吐露するかの如く、マティーニは戦いの中で擦り切れた黒のマントを投げ捨て、「本気」の反撃に出ていた。

 

「ぐぁあッ!」

「天塚ッ! ……あぐッ!?」

 

 宙を漂うマントがぱさりと地に落ちた時には、すでに炎は頭を掴まれ、マス・ライダー目掛けて投げ飛ばされていたのである。両者の頭部が激突した瞬間、マス・ライダーこと梶の仮面が一瞬で砕け散っていた。

 彼らの反射神経を以てしても反応し切れなかったその速攻に、2人は数秒も経たないうちに意識を刈り取られてしまったのである。マス・ライダーにぶつけられた炎こと春幸も、気絶したことにより変身を強制解除されている。

 

「天塚さん、山口さんッ……! ……明智、天峯ぉおおぉッ!」

「……今までが異常だったのですよ。本来ならば本気になった改造人間に、生身の人間が敵うはずがないのです」

 

 その光景に激昂するライダーマンGは、恐怖も忘れてマティーニの背後に突撃していく。防御も回避も捨て、攻撃にのみ全神経を注ぐ彼女は、破壊されたままのパワーアームを振り上げていた。

 そんな彼女の姿に、仮面の下で口元を歪めながら。マティーニは、ベルトのボトル部分を捻る。そこから右足に伝播していくエネルギーが、禍々しい真紅の電光を纏ったのはその直後だった。

 

「……!」

「そうでなければ……我々が生まれて来た意味など、この世のどこにも在りはしないのですからッ!」

 

 そして、パワーアームの砕けた刃が、マティーニに届こうとした瞬間。赤と黒の怪人は、振り向きざまに右足での回し蹴りを放っていた。

 生存本能に突き動かされたライダーマンGの肢体は咄嗟に「回避」を選び、巨乳を揺らしてくの字に仰反る。だが、それだけでかわし切るには、あまりにも近付き(・・・)過ぎていた。

 

「がッ……!」

 

 真紅の電光を帯びて放たれた、必殺の回し蹴り。その蹴りは、爪先が僅かに仮面を掠めただけで――ライダーマンGのマスクを吹き飛ばしていたのである。

 

 仮面ライダーマティーニが、全身のエネルギーを右足に集中させて放つ「スワリング電光ライダーキック」。その一閃は、直撃さえすれば(・・・・・・・)確実に死を齎す文字通りの「必殺技」なのだ。

 

(……避けた、のにッ……!)

 

 ライダーマンGとしての意匠を失った番場遥花の身体が、衝撃の余波で宙にふわりと舞い上げられた。その瞬間に零した悔し涙を最後に、彼女の意識が途切れてしまう。

 そのまま力無く地面に墜落した彼女の艶かしい肉体は、失神に伴いビクビクと痙攣していた。白目を剥いて昏倒している彼女の精神は今、深い闇の底へと突き落とされている。

 

「……ほうら、ご覧なさい。どんなお題目を掲げようが、力無き正義は無力なのですよ! 正義無き力は暴力? そんなものは弱者が己を保つために捏造した戯言!」

 

 そんな彼女をはじめとする、「人間」でありながら「仮面ライダー」であろうとする者達は皆、マティーニという「正義無き暴力」の前に倒れ伏していた。彼らを冷酷に見下ろすノバシェードの首領格は、人類の奮闘を嘲笑うかのように哄笑する。

 

「力を以て己という正義を実現する我らノバシェードには、人間共の理屈など通用しないのですよ! 法も倫理も、我々をいたぶるためのものでしかないのであれば……我々の世界に、そのようなものは要らないのですッ!」

 

 誰にも救われなかったが故に、外法の世界に希望を見出すしかなかった者達。そんな闇に生きる人々を率いて来た、ノバシェードの筆頭として。マティーニは大仰に両手を広げ、高らかに叫ぶ。

 

 どのような正論を並べ立てようと、やはり最後に立っていた者こそが勝者にして正義なのだと、知らしめるかのように。

 




 ライダーパンチからのライダーキックという黄金コンボの元ネタはもちろん、仮面ライダーブラックの定番フィニッシュからでございます。いやー、一度書いてみたかったのですよ。楽しませて頂きました(о´∀`о)
 マティーニ戦もどんどこ佳境に近づいております。次回もどうぞお楽しみに!٩( 'ω' )و


Ps
 最初は仮面ライダーコーカサスこと黒崎一誠のように、何考えてるのか今ひとつわからない得体の知れない悪役……というイメージで書いていた明智天峯も、今となってはなんだか可哀想な奴になってしまいますた(´・ω・`)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。