仮面ライダーAP   作:オリーブドラブ

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黎明編 仮面ライダースパルタンズ 第17話

 

 絶大な爆発に飲み込まれ、猛煙の中に消えてしまったゾルダスパルタン。その行方を探すように、消防士達は横転した消防車の車内から戦況を見つめていた。

 

「ノ、ノルトッ……!」

 

 これほどの爆風を再び浴びてしまったとなれば、今度こそ彼が立ち上がることは叶わないかも知れない。そんな不安が、消防士達の脳裏を過ぎる。

 

 先ほどグールベレー隊員が撃ち放った砲弾は、全ての敵を一撃で殲滅するために拵えられた「特別製」だったのだろう。これまでの弾頭をさらに上回る超火力は、辺り一帯が猛煙に包まれるほどの大爆発を引き起こしていた。

 

「……ふん、跡形もなく消し飛びおったか。この俺を相手に随分と持ち堪えていたが……ここまでだったようだな」

 

 爆風と猛煙を胸板で浴びながらも、仁王立ちを維持しているグールベレー隊員。彼はゾルダスパルタンを完全に見失ったまま、敵が完全に「粉砕」されたのだと判断する。

 

 直撃すれば仮面ライダーGの装甲さえ穿てると言われた「特別製」の弾頭ならば、爆風だけでも生きてはいられまい。それが、彼が下した結論だった。

 

 ――そして、次の瞬間。彼はその結論が致命的な「誤り」であることを思い知らされる。

 

「……ッ!?」

 

 暫し時が経ち、暗黒の猛煙が晴れ始めた直後。グールベレー隊員の全身を飲み込むような水流が、覆い被さるように降り掛かって来たのである。僅か一瞬、彼の身体と装備が「水没」したかのような水量であった。

 

「なんだ、この量の水はッ……!?」

「……ははっ、笑っちまうなぁ。自分が起こした爆煙で目の前が分からなくなるなんてさ」

「な、なにィッ……!?」

 

 何事かと瞠目する中、「死んだはずの男」の声が響き渡り、グールベレー隊員は戦慄の表情を浮かべる。煙が晴れた先には――「死」の半歩手前まで傷付いたゾルダスパルタンが立っていた。

 

「よう……頭は冷えたかい。今日は暑いからねぇ、涼しくて気持ちが良いだろう?」

「ノ……ノルトぉ! お前、無事だったのかぁ!」

「馬鹿野郎ッ、死んだかと思ったぜ……!」

 

 大きく両足を開き、腰を落としている射撃姿勢。その構えを見せつつ、仮面の下で薄ら笑いを浮かべているゾルダスパルタンの手には、専用のロケットランチャー……ではなく、消防車用のホースが握られていた。彼の背中を目の当たりにした消防士達は、横転した消防車の車内で歓声を上げている。

 ゾルダスパルタンは先ほどの大爆発による爆風を浴びながらも、彼は煙に紛れて消防車の近くにまで駆け寄っていたのだ。このホースによる放水での「奇襲」が彼の目的だったのだろう。

 

「貴様……まだ生きていたのか。しかし、随分と馬鹿な真似をしたものだ! 不意打ちが目的ならば、この隙に自慢のランチャーを撃ち込んでおれば良かったものをッ! 今度こそとどめを刺してやる、この『特別製』の砲弾でなぁあッ!」

 

 だが、強力な水圧程度で倒せるほど甘い相手ではない。猛烈な水流にも耐えて見せたグールベレー隊員は、ゾルダスパルタンを今度こそ消し飛ばそうと、2発目の「特別製」を込めたロケットランチャーを構える。

 

「……ッ!?」

 

 しかし――引き金を引いた直後。相棒とも言うべき砲身に起きた「異常」に、グールベレー隊員は目を剥いた。先ほどの「水没」により、彼のロケットランチャーが動作不良を起こしたのだ。

 

(弾が……出んッ!? 奴はまさか、俺のランチャーを「水没」させて故障させるために放水をッ……!?)

 

 例えグールベレー隊員自身がどれほど頑強でも、彼の武器まで同じとは限らない。

 先ほど消防車が放水しながら突っ込んで来た時、グールベレー隊員が水を避けるように砲口を動かしていたことから、ゾルダスパルタンはその「弱点」を看破していたのだ。

 

(……湿っぽい(・・・・)のは嫌なんだよねぇ。分かるよ、俺も同じ(・・)だからさ)

 

 ――自身のランチャーにも有るその「弱点」は、こちらの「上位互換」であるというグールベレー隊員でさえも克服出来ていなかった。それはゾルダスパルタン自身が、己の武器を知り尽くしているからこその着眼点であった。

 

「……ふざけた真似をッ! この程度で俺のランチャーが使い物にならなくなるとでも思っているのかッ!」

 

 だがどちらのロケットランチャーも、この程度のアクシデントで使用不能となるような欠陥品ではない。グールベレー隊員は砲身に取り付けられたレバーを掴み、砲身内に詰まった水を取り除こうとする。

 

「思っちゃいないさ。……だが、すぐには(・・・・)撃てない。それで十分なんだよ、俺にとってはね」

「……!」

 

 しかし、黙ってその様子を見ているゾルダスパルタンではない。彼はグールベレー隊員がレバーを引くよりも速く、足元に転がっていた自身の専用ロケットランチャーを担ぎ上げる。

 

 ――ゾルダスパルタンがわざわざ不意打ちのチャンスを「水没」に使ったのは、グールベレー隊員が「反撃出来ない時間」を少しでも作るためだったのだ。

 

 1発撃ち込んだ程度では、耐久性でも上回っている彼は倒し切れない。初撃でそのカードを切って自分の居場所を明かしてしまえば、そこから先はただの撃ち合いとなる。そうなればこれまで通り、火力の差で押し切られてしまうだろう。

 

 グールベレー隊員を「下位互換」のロケットランチャーで仕留めるには、「視界外からの不意打ち」という絶好のチャンスを消費してでも、一方的に砲撃出来る猶予を捻り出さねばならなかった。

 

(稼げてほんの数秒。だが、その数秒は……俺にとっちゃ十分過ぎるくらいさ)

 

 だからこそゾルダスパルタンは、敵が自分を捕捉していない千載一遇の好機を、「ランチャーによる直接攻撃」ではなく「水没による一時的な無力化」に使ったのだ。そしてその狙い通り、グールベレー隊員は砲身内の排水作業という「一手」の遅れで、こちらに撃ち返せなくなっている。

 

「今のあんたじゃあ、もう俺のランチャーは止められない。ほんの数秒でも、そのご自慢の相棒が死んでる今なら……ね?」

「……ぬぅううッ! 味な真似をぉおッ!」

 

 数秒にも満たないその「一手」が、この勝負の明暗を分けたのだ。レバーを引き、排水作業を終えたグールベレー隊員が砲身を構え直すと同時に――ゾルダスパルタンのランチャーから、2発の弾頭が連射された。

 

(速くッ……速く「1発」をッ! 「1発」でも奴に撃てば……「1発」でも間に合えば、俺のぉおッ!)

 

 ゾルダスパルタンの執念を込めた2発の弾頭が、唸りを上げてグールベレー隊員に肉薄する。空を裂いて迫り来るその轟音に焦りを覚えながらも、グールベレー隊員は無駄のない迅速な動作で砲口を固定し、ゾルダスパルタンに照準を合わせる。そして引き金に指を掛け――

 

「くたばッ……!」

 

 ――引く、直前。彼の砲口に飛び込んで来たゾルダスパルタンの弾頭が、砲身内に込められた「特別製」の弾頭に激突する。

 

 その「邂逅」が齎す凄絶な爆炎は、これまでの爆発を遥かに超える、究極の化学反応であった。

 

 ゾルダスパルタンが放った1発目の弾頭が、グールベレー隊員のロケットランチャーの砲身内(・・・)に飛び込んだことによる、弾頭同士の誘爆。この激突が招いた壮絶な爆炎は、グールベレー隊員の肉体を瞬く間に焼き尽くしていた。

 

「うっ、ぐッ、ぉああぁあぁああーッ!」

 

 灼熱の業火に飲み込まれ、断末魔を上げる巨漢。しかし、これだけでは終わらない。

 

 苛烈な爆炎によって「外皮」を焼かれ、かつての耐久性が失われた彼の肉体に、2発目の弾頭が直撃したのである。さしものグールベレー隊員も、無防備な状態ではこの砲撃には耐えられない。

 

「バカ、なッ……! こんな、こんな下位互換の鉄屑風情にッ……一騎打ちの勝負でッ! この、俺がぁあッ……!」

「おぉ……! やった、あいつやりやがった! ノルトが勝ったんだ!」

「へへっ……! やるじゃねぇか、あの弁護士崩れ! 今度ばかりは1杯奢ってやらねぇとなッ!」

 

 2発目の着弾によってバラバラに砕け散り、無惨な肉片と化して行く中で。グールベレー隊員は己の死を認められぬまま、敗北者として事切れて行く。その首は壮絶な死に顔を晒したまま、ゾルダスパルタンの足元にゴロンと転がって来た。ゾルダスパルタンの勝利を確信した消防士達は、消防車の中で歓喜の声を上げている。

 

「……悪いけどさぁ。一騎打ちだと思ってんの、そっちだけなんだよね」

 

 一方。ゾルダスパルタンは独り、死力を尽くして戦った仇敵の凄惨な姿を憐んでいるようだった。彼は足元の首を一瞥した後、満身創痍の身体を引きずりながら、踵を返して背を向ける。消防車の中に取り残されている消防士達を助け出そうと、車内に手を伸ばし始めた彼はもう、振り返ることはない。

 

 戦いに勝利することだけが存在意義となっている人間兵器にとって、己の死に様を見せ物にされることは最大の屈辱となる。だからこそ、その骸を視界に入れまいと、ゾルダスパルタンは背を向けているのだ。

 

「……分かるよ。誰だって……カッコ悪いところなんて見られたくないよねぇ」

 

 今はそれだけが。彼に掛けられる、せめてもの情けなのだから――。

 





 今回はゾルダスパルタン回の後編。次回以降も読者応募キャラ達がどんどこ出て来ますので、どうぞ最後までお楽しみに!٩( 'ω' )و

 さてさて、それではここで大事なお知らせ。現在、X2愛好家先生が本作の3次創作作品「仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil(https://syosetu.org/novel/316771/)」を連載されております。本章から約10年後の物語である外伝(https://syosetu.org/novel/128200/44.html)から登場した「仮面ライダーオルバス」こと忠義・ウェルフリットが主人公を務めております!
 こちらの作品の舞台は、本章から約12年後に当たる2021年7月頃のアメリカ。悪魔の力を秘めたベルトを使う、ジャスティアライダー達の活躍に焦点を当てた物語となっております。気になる方々は是非ともご一読くださいませ〜!(*≧∀≦*)

 さらに現在は、ダス・ライヒ先生の3次創作作品「仮面ライダーAP アナザーメモリ(https://syosetu.org/novel/313018/)」も公開されております! 本章から約11年後に当たる2020年8月頃を舞台としており、こちらの作品では数多くの読者応募キャラ達が所狭しと大活躍しております。
 多種多様なオリジナルライダーやオリジナル怪人達が大暴れしている大変賑やかな作品となっており、さらには本章の主役であるジークフリート・マルコシアン大佐も登場しております。皆様も機会がありましたら是非ご一読ください〜(*^▽^*)

Ps
 劇場版ガンダムSEED、3回くらい観に行ってました。そういえばゾルダの人ってカラミティの人でもあるんですよね……。砲撃系に縁のあるお人だ……(*´꒳`*)

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